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助けてっ!!

「オリヴィアっ!!」

僕はオリヴィアの活躍を知って歓喜の声を上げる。

そうなんだ。なんといってもオリヴィアにはこの回復魔法がある。

この魔法と魔力タンクのゴンちゃんがいる限り、僕らは敗れはしないっ!!

「全員で攻撃を仕掛けますよっ!!

 彼女が再生することを拒否するほどの苦痛を与えるために攻撃を与え続けるのですっ!!」

女神サー・サー・シー様はとても残酷な命令を下すが、これは生き残りをかけた戦い。

今、この場にいる誰にも彼女に対して憐憫れんびんの情をかける余裕など無いのだった。

考えてみればすごい話だ。

だって、たった一柱の女神に対して複数人の精霊貴族や女神による総攻撃なのだから。いや、バー・バー・バーン様などはそんじょそこいらの神よりもずっと強いと魔神フー・フー・ロー様のお墨付きを頂いたほどの実力者だったのだから、今、僕らの戦力がどれだけ凄いかって話だ。


誰もが何度も攻撃を仕掛け、何度も黒き神の反撃を受けた。

そのたびに彼女は再生し、そして僕達も再生した・・・・。

その条件が同じなら5:1の肉弾戦だから、僕達が個々に受けるダメージは黒き神が受けたダメージの五分の一なんだ。

条件が同じなら・・・・。


違和感に最初に気が付いたのは、僕だった。

「まってっ!! 一旦、攻撃の手を休めて下がろうっ!!

 なにかおかしいぞっ!!」

僕がそう言うと誰もが後方へジャンプして下がり、黒き神から距離を取った。これほどの高位の存在達から僕の発言力を認めてもらっているのだから、それは嬉しいことだが、できればこの感動は別の時に味わいたいものだった。


「女神サー・サー・シー様っ!!

 彼女は・・・本当に痛みを感じているのですか?

 我々と同じ感覚を持っているのですか?」

僕のその質問は女神サー・サー・シー様よりも先に黒き神が嬉しそうに笑って答えた。


「あらあらっ!! まぁまぁっ!! なんてさとしい子なんでしょうっ!!

 貴方、気に入りましたわ。

 貴方のように可愛くて賢い子。わたくしは大好きですよっ!

 貴方は特別に生かしておいてあげますわ。男の子としても女の子としても扱ってあげます。

 そうして、貴方が快楽のあまりに自殺するほど可愛がって差し上げますわっ!!」

「そして、そんな可愛い貴方にご褒美ほうびとして、教えて差し上げます。

 そうです。貴方の言う事はとても正しい。わたくしとあなた方では魂の在り方が違うのです。

 あなた方が感じる苦痛は私は感じてはいません。そもそも切り刻まれても、それはダメージにはならないのです。

 滝から流れ落ちる水を剣で斬って分割したところで、滝つぼに水が落ちれば元通りになるだけの話に似ていますね。それをダメージと受け取るのは有形の存在であるあなた達の常識であって、私には当てはまりません。

 よって、あなた方の攻撃によって私が苦痛を感じることなどありませんのよ?」


黒き神は上機嫌で歌う様に語ってくれた。

男の子としても女の子としても扱って快楽の海に沈めてくれるというのは魅力的な話ではあるものの、黒き神の話した内容は僕達にとって絶望的すぎた。

こんなものをどうやって倒せばいいんだ・・・?

僕は不安になって女神サー・サー・シー様の方を見ると、女神サー・サー・シー様は美しい顔を歪めながら、僕達に指示を出す。

「う、狼狽うろたえてはいけませんっ!!

 彼女の体は確かに有形ではありませんが、水ではなくエネルギー体なのです。

 エネルギー体であるなら、削り続ければ確実に消耗していきますっ!!

 彼女には痛みというダメージは無くても消耗というダメージを受けているのですよっ!!」

そう、言われてみればその通りだ。彼女が有形の存在ではなく、人の形をしたエネルギー体であるのなら、消費してやれば倒せる。

そうはわかっているけれども得体のしれない恐ろしさを感じざるを得ない。

ジーン・ジーン・ガード様もその事はお感じになっておられるようで、質問をする。


「女神よ。そもそも本当に彼女は太陽神の消滅の影響を受けているのですか?

 邪龍ギューカーン殿の時は狂気じみていて会話にすらなりませんでしたが、黒き神はなんだか、とても理性的な女性に思えます。

 話し合いで解決できるのではありませんか?」

その疑問は当然だった。僕もその違和感を感じていた。でも、だからこそ僕は彼女が恐ろしかったのだ・・・・。

「ジーン・ジーン・ガード。

 貴方はあの女が正気だと思うのですか? ならば、対話をして見ればいいでしょう。」

女神サー・サー・シー様はそう言うと黒き神に手招きするようなしぐさを見せてから、「この者が貴方との対話を望んでいます。受ける度量がありますか?」と挑発するように尋ねた。 

黒き神は答えた。


「それは無駄なことです。

 私との対話に必要なものはあなた達の苦痛の声のみと心得なさい。

 厄災神が恐怖を力に変えるように私は貴方たちの苦しみを快楽に感じているのですよ?

 ですから、もっと私を恐れてください。そして、苦しんでください。

 その為なら私はどんな協力も惜しみません。さぁ、力を合わせて最高の地獄を作ろうではありませんかっ!!」


黒き神は感動に身を震わせているように僕には見えた。

なるほど。これは狂ってる。

彼女は平常心のまま狂っている。そして、彼女はそれが正しい行いだと信じているようだった。だから彼女とお会話は成立するが、意思の疎通そつうは叶わないのだ。何故なら、彼女の気持ちは我々には理解できないのだから・・・。

これにはジーン・ジーン・ガード様も諦めたようにため息をつくのだった。


「交渉の時間は終わりですか?

 それでは再び戦いましょう。どうせこの戦いはもうすぐ終わります。時間をかけても仕方ないのです。」


黒き神は不敵なことを言ったのち、一瞬で姿を消した。僕如きの眼では追えない超高速移動だった。

僕に黒き神の動きは全く見えなかったけど、バー・バー・バーン様には見えていたようで高速移動する彼女の頭部に背後から剣を突き立てるのだった。

一瞬、よろめいた黒き神をバー・バー・バーン様は蹴り飛ばすと僕達に向かって「気を付けろっ!! こいつの狙いはオリヴィアだっ!!と叫ぶのだった。

バー・バー・バーン様は、黒き神の行動を読み取っていた。しかし、それは当然のことだとあとから気付く。

回復する力をオリヴィアに頼っている我々の弱点など、最初から分かり切っていることだった。

僕らの弱点はオリヴィアだ。

そして黒き神のセリフから察するに、彼女がオリヴィアに狙いを絞り始めたことも明らかだった。だから、バー・バー・バーン様は黒き神の攻撃を予見してカウンターを放つことができたのだろう。


それから黒き神の事で分かったことがもう一つある。

黒き神は今まで手加減していたのだ。その事は先ほどの超高速移動を見て僕は気が付いた。遊ばれていたことに・・・・・。

その証拠にオリヴィアの護衛のニャー・ニャー・ルンは黒き神の攻撃を感知できていなかったし、何とかカウンターを合わせることができたバー・バー・バーン様ですら、かなり追い詰められた表情をしている。

きっと、バー・バー・バーン様さえ遊ばれていたのだろう。

冷静に考えれば当たり前のことだ。黒き神は魔神フー・フー・ロー様が災いの神ドゥルゲットよりも霊位の高い神と評価したんだ。いくらバー・バー・バーン様が精霊貴族の範疇はんちゅうを大きく超えるほど強くても、太刀打ちできるはずがないのだ。

「全く見えなかった・・。

 ・・・おい・・・おいおいおい・・・、こんなのどうやって勝つんだよ?」

ジーン・ジーン・ガード様が絶望している。

それが黒き神を喜ばせてしまうということがわかっているはずなのに、どうしようもなかったのだ。

それでも女神サー・サー・シー様は希望を捨てなかった。

「彼女の動きを引きつけることくらいは私にもできますっ!

 貴方たちは私に足止めを食らった彼女を攻撃するだけでいいんですっ!!

 最後の最後まで諦めないでっ!! 」


戦いは既に始まっている。しかも、敵は交渉の余地のない強敵。

ならば、是非もない。僕らは死闘を続けるしか選択肢はないのだった。

女神サー・サー・シー様は確かに黒き神の足止めは出来た。その間に僕らは彼女を攻撃し続けたし、反撃を受けてもオリヴィアに治してもらえた・・・・・。

だけど、それはどちらの方が先にエネルギーが枯渇するかの根競べであり、先に限界が来るのはどちらなのか、それは段々と明らかになって来るのだった。

ゴンちゃんの魔力だけでなく、オリヴィアの魔力も枯渇しだしたころ、とうとうジーン・ジーン・ガード様は「これ以上、現世のために命を懸けていられるものかっ!!」と叫ぶと次元の壁を切り裂いて自分の国へ逃げかえってしまった。それはきっと卑怯でも裏切りでもないのだろう。何故なら敗北は明らかになっていたのだから・・・・。

精霊たちにとって現世の事は所詮、異界の世界の問題でしかない。いよいよとなったら自分たちの国にかえってしまうのは当然の話だった。

レーン・レーン・ルーンもジーン・ジーン・ガード様が逃げ帰ったのを見るとたまらず、自分も逃げ帰ってしまうのだった。

それが決定打となった。

僕らは彼女に負けたのではなく、自分たちの連携を失ったことで敗北が決定したのだった。

2人の精霊貴族が逃げてしまったことで空いた戦力不足の穴は、残った僕達では到底、埋めようがない。黒き神はそんな僕達を子供が昆虫を弄ぶが如くに一人一人止めを刺していく。

最初は女神サー・サー・シー様だった。黒き神の正拳突きの一撃はサー・サー・シー様の腹部を抉った。流れ落ちる血をオリヴィアはもう、止めることができなかった。

黒き神はサー・サー・シー様の悲鳴をウットリとした表情で聞きながら、続いてバー・バー・バーン様の腕を手刀で切り落とす。

最後の抵抗として残った僕の右足も彼女の蹴りで切断されてしまった。


痛いっ!

いたいっ!! いたいっ!! いたいっ!! いたいっ!! いたいっ!!

いたいっ!! いたいっ!! いたいっ!! いたいっ!! いたいっ!!


あまりの苦痛に悲鳴を上げた僕は、必死で救いを求める。

「助けてっ!!

 お父さんっ!!!!」


こんなことを叫んだのはいつ以来だろうか? 記憶にすら残ってはいない。

そして、必死になって叫んだ救援の声は異界にまで響いたようで・・・・・

僕達のいる場所に異界の門が現れたかと思うと、魔神フー・フー・ロー様が姿を見せるのだった・・・・。 


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