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二人ともよくやってくれたっ!!

一体何が起こっているのだ?

僕が召喚したギューカーン様は世界から調停者の権能を与えられた高位の存在。その魂の在り方は弱者を守り世界の平和を愛する。

これまでも魔神フー・フー・ロー様や土精霊の大貴族バー・バー・バーン様に僕が襲われた時も正義の心に従って、召喚した僕を守るために戦ってくれた。激しい気性とは裏腹に慈愛に満ちた一面をお持ちの高潔な龍のはずだった。

それが、どういうわけか今は怒りのままに暴れ狂い、僕とジーン・ジーン・ガード様との戦いに無関係な兵士をまるで群がる昆虫に嫌悪感を示して踏みつぶす子供のように殺していた・・・・。

全く、理解が追い付かない。


「お、落ち着かれよっ!! ギューカーン殿っ!!

 貴公きこうほどの高位の者が現世うつしよでこのような無体むたいを働けば、ペナルティを受けるのはむしろ貴公の方ですぞっ!!」

火精霊の貴族ジーン・ジーン・ガード様も邪龍ギューカーン様の振る舞いが何の脈絡もなく豹変ひょうへんしたことに大慌てしながら、それでもギューカーン様が無力な兵士を殺さないで済む様に必死で抵抗していた。

ギューカーン様が兵士たちに向かって大岩を投げつければ、その大岩を火炎弾ファイアーボールで迎撃し、ギューカーン様が大地を魔法で引き割って人々を沈めようとすれば魔力の防御壁を生み出して被害を最小限にとどめようと試みる。

だが、ギューカーン様とジーン・ジーン・ガード様では霊位の格が違う。ジーン・ジーン・ガード様がいくら必死になったところでギューカーン様を完全に引き留めることなど不可能なんだ。


「ジュリアンッ!! 貴様、ギューカーン殿に何をしたっ!?

 一体、これはどういう事なんだっ!?」

必死の抵抗を見せながらジーン・ジーン・ガード様は召喚主の僕を非難する。

しかし、そんなことを言われても僕にも見当がつかない事態だった。

「わかりませんっ!!

 僕はいつも通りに契約に基づいたお呼び出ししかかけていませんっ!!

 このようなことになったのは初めてのことですっ!!」

ジーン・ジーン・ガード様に説明しながら、僕はギューカーン様に「おやめくださいっ!! もうこうとなれば、お国にお戻りくださいませっ!! あとのことは自分たちで解決いたしますのでっ!!」と、説得を試みるが、ギューカーン様の耳には届いていない様子だった。

僕達の説得もむなしく100万はいると噂された連合軍が殺されていくのが見える。殺す予定の敵同士とはいえ、戦争とは全く無縁の戦いで死んでいく姿は見るにえない。僕は必死で叫んだ。


「逃げよっ!!

 もはや敵も味方もないっ!

 我らの城の背後に隠れよっ!!

 ドラゴニオンの兵士は連合軍の兵士に手を出すなっ!! 彼らが逃げることの邪魔をするなっ!!」

僕は必死で叫んだが、それが混乱する兵士たちにどこまで聞こえるのか・・・・。空しい抵抗だったかもしれない。それでも叫ばずにはいられなかった。

そうやっている間にもギューカーン様は暴れ続け、大勢を殺す。僕の魔力で現世うつしよに現界できるはずの時間はとっくに過ぎていた。理解不能な出来事に僕は冷静さを失いつつあった。

「グー、ラー、ガー、ユー、ドーっ!!

 魔法で土の壁を築いて兵士たちを守ってくれっ!!」

5人の精霊騎士は僕の命令を聞く前から一応、あれやこれやと手を尽くしてくれてはいたが、それは無駄な抵抗だった。僕の言ったことは精霊騎士の中でもさほど強いわけでもない彼らには無理な注文だったのだ。だから5人はむしろ「俺達には無理だっ!! 坊ちゃん、バー・バー・バーン様をよんでくだせぇっ!!」と提案する。

しかし・・・・。


「無理だっ!! バー・バー・バーン様の契約は未だ父上にあるっ!

 僕には召喚できないっ!!」

そう、バー・バー・バーン様は父上の護衛のためにエレーネス王国に移動されたために召喚がかなうのは父上だけだ。そして僕が召喚できるギューカーン様と対峙できるほどの霊位をお持ちなのは師匠・魔神フー・フー・ロー様だけだ。だが、本当に魔神フー・フー・ロー様をお呼びだてしていいものだろうか? 僕は今起こっている謎の現象に得体の知れない不安を抱えていて魔神フー・フー・ロー様を召喚することに対して謎の危機感を感じているのだった。

・・・・では、どうすればいいんだっ!!

だが、迷っている時間はなかった。

怒り狂うギューカーン様はついに大魔法を行使して、あたり一面を吹き飛ばす準備をしていた。

それに最初に気が付いたのはジーン・ジーン・ガード様。彼は叫んだっ!!

「もうよいっ!!

 誰も彼も今すぐこの場を去れっ!!

 ギューカーン殿の大魔法が完成したらあたり一面消失するぞっ!! 逃げろっ!!

 アレは俺にはどうすることも出来んっ!!!」

精霊騎士よりも遥かに高位な存在であるジーン・ジーン・ガード様ですらギューカーン様の大魔法はどうすることも出来ないというのだった。その事実に僕が戦慄を覚えた瞬間のことだった・・・・・。

ギューカーン様の大魔法が完成し、僕らのはるか頭上には山一つ分はあろうかという大岩が出現して、僕達のいる大地へめがけて自由落下してきたのだった・・・・。


あ・・・。死んだ・・・・。


僕がそう覚悟した時だった。僕の耳に天使の声が聞こえた。


「ジュリアン様っ!!

 その場を動かないでっ!!」

その声はオリヴィア達・・・・。僕の妻たちの可愛い声だった。

「えっ・・・・・・?」

前線に孤立した少数部隊の救出に向かったまま消息不明となっていたオリヴィア達の声がして、僕が思わず声がした方を振り返ると、オリヴィア達と共にこの世の者とは思えないほど美しい女性がいるのが見えた。一目見て、僕にはその女性が大昔に魔神を封印するために水の国の王を召喚した女神サー・サー・シー様だとわかった。

女神サー・サー・シー様は何やら魔法の杖を天に掲げると叫んだ。

「女神サー・サー・シーの名において命じます。

 異界の門よっ!! 邪龍ギューカーンを地の底の国へ引き戻し、世界の理を乱れさせるなっ!!」

その言葉を発したと同時に女神サー・サー・シー様の魔力はギューカーン様の大魔法が作り出した大岩を消し去り、そして異界の門を召喚するのだった。

そして、異界の門は扉を開くと女神サー・サー・シー様の言葉通り、邪龍ギューカーン様を飲み込む様に突進してギューカーン様もろとも現世から姿を消したのだった・・・・。


「初めまして、ジュリアン・ダー・ファスニオン。

 オリヴィア達から聞いていますよ。魔神フー・フー・ロー様のお導きにより黒き神を封印する宿命を与えられた可愛い英雄さん。」

とんでもない大偉業を成した後だというのに、女神サー・サー・シー様はなんでもないことのように気にもせず僕の方を見てニッコリと笑ってそう言うのだった。



・・・・事の始まりはこうだ。

僕は救出作戦に出発する直前、別行動するオリヴィアとローガンにこう言った。

「言い忘れていた。君たちに頼みたい仕事があるんだ。

 これは、魔神フー・フー・ロー様から言われたことでもあるんだが、君たちにしかできない仕事なんだ・・・・・。」(第165話参照)

あの時、僕が二人に頼んだことこそ、かつて水の国の王に封印されし黒き神を封印する働きをした女神サー・サー・シー様の探索だったのだ。


「ローガン。オリヴィア。聞いてくれ。

 君たち二人には救出部隊の救援と合わせて魔神フー・フー・ロー様がご教示してくれた女神サー・サー・シー様の探索を頼みたい。

 現界していない精霊の幼体を見ることができるオリヴィアと看破の眼を持つ疾風のローガン。君たちにしかできない仕事だ。」

二人は僕の言葉にビックリしたように目をまん丸にしたのだが、どうやらその役目を無事に果たしてくれたらしい。ただ、メチャクチャ文句を言われたけどね。

「全く、敵の目をかいくぐりながら、姿をくらませた女神の探索など、目が4つも6つも欲しいものでしたよ。」

「サー・サー・シー様は幻術で現世の者からは触れることさえできないお屋敷の中におられました。

 許可なく入ることができなかったので、お屋敷の前で私とローガンは4日もお名前を叫んでようやく入れてもらえたんですよ?」

二人の苦労話を聞いてすべて合点がてんがいった。風の精霊シーン・シーンさえオリヴィア達を見つけられなかったは、彼女よりもはるかに高位の存在女神サー・サー・シー様の幻術の世界の中にいたからなのだ。そして、その幻術こそが兵士たちを敵に見つかることなく帰還させる要因にもなったのだが・・・。オリヴィア達が全くの行方不明、音信不通になっていたのは、つまりそういうことなのだった。

そんな二人の苦労話をクスリと笑うと、サー・サー・シー様は僕に向かって宣言した。

「ジュリアン。魔神フー・フー・ロー様の予言が始まりました。すなわち、太陽神がお亡くなりになるのです。既にその命は風前の灯火ともしび。故に世界に陰の気が満ち、邪龍ギューカーンを狂わせたのです。」

そう・・・・・だったのか。邪龍ギューカーン様はその名の通り陰の属性をお持ちの存在。魔神すら狂わせる太陽神の消滅はギューカーン様に多大な影響を与えていたのだった。

女神サー・サー・シー様は僕にそれだけ告げると、魔法の杖を天に掲げて光を放つ。

その光は女神がどこにいるのか誰にでもわかる様に光り輝く。その光の下に混乱した戦場の兵士たちはギューカーン様の暴走から救ってくれた女神の姿を見て、大きくどよめいた。

「女神さまっ!!」「女神さまっ!!」「女神さまだっ!!」

「そうだっ!! あのお方は俺達を救ってくれた女神さまだっ!!」

戦場の誰もがそう声を上げながら一斉いっせいひざまずいていく。数十万の人間が一斉にひざまずいていく姿は、圧巻されるほど美しいものだった。

そうして全ての者が跪き、両手を合わせてこうべを垂れたことを確認した女神サー・サー・シー様は全員に神託を始めた。


「この場にいるすべての者に命じますっ!!

 魔神フー・フー・ロー様が予言されたように太陽神が消滅します。

 それにより世界は混沌に飲まれ、太古に封印された黒き神が復活します。

 世界は死に包まれるでしょう。

 しかし、案ずることはありません。ここにいる転生者が予言に従って世界を救います。

 黒き神は転生者ジュリアンとオリヴィアの御業みわざによって封印されて世界を救うでしょう。

 ですから、女神サー・サー・シーの名において皆に命じます。

 今すぐ、戦闘をやめてジュリアンに従いなさい。彼はこの世界を救う救世主となるのですっ!!」


ギューカーン様の暴走から命を救われた兵士たちにとって女神サー・サー・シー様の言葉は絶対であり、誰一人として異論をはさむことなく僕に恭順きょうじゅんの意を示すのだった。

 

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