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急がないと負けるぞっ!!

「ああっ!!

 あれは火精霊の貴族ジーン・ジーン・ガード様ではないかっ!!

 ちくしょうッ!!

 またとんでもないところに召喚してくれたな、このクソ坊ちゃんめっ!」


召喚されてすぐに目の前に立つ精霊貴族のジーン・ジーン・ガード様に気が付いた5人兄弟の精霊騎士の長男であるグーは声を上げた。

「魔神フー・フー・ローの相手をさせたり、ジーン・ジーン・ガード様の相手をさせたりっ!!

 俺たちは便利屋でも、自殺志願者でもないぞっ!!」

「俺たちの事を消耗品とでも考えているのかっ!!」

5人兄弟はそろって非難の声をぶつけてくる。

そうやって僕に文句を言う5人とは正反対に邪龍ギューカーン様は、ジーン・ジーン・ガード様を見据えると、激しい咆哮ほうこうを上げて威嚇いかくするのだった。

その声の大きさは大地を揺るがす天地鳴動てんちめいどうというに相応ふさわしい迫力があり、その咆哮一つでまだ若い精霊騎士達は震え上がらんばかりに立ちすくむ。



しかし、威嚇された当の本人であるジーン・ジーン・ガード様は不動であった。

「やられたな・・・。」

そう口にしても火精霊の貴族ジーン・ジーン・ガード様は余裕に満ちた顔をしていた。

その余裕の理由を僕も知っている。

知っているからこそ、短期決戦が重要なのだった。


「グー、ラー、ガー、ユー、ドーっ!!

 ジーン・ジーン・ガード様の相手はギューカーン様に任せろっ!!

 調停者であるギューカーン様はジーン・ジーン・ガード様を制圧対象として認識している。

 君達は僕と一緒にこっちの若い方の相手をしてくれっ!!」

僕は5人兄弟にそう告げると、16人の精霊騎士に向かっていく。

「ああっ!!

 またそんな無茶ぶりをっ!!」

「そうだ、そうだっ!!

 相手はガキとはいえ16人もいるんだぞっ!!」

「こっちは6人。2.5倍以上の数だってわかっているのかっ!?」

5人は口々に抗議しながらも僕を一人で特攻させたりはしない。

長男のグーが「円陣防御を築き、坊ちゃんを守りながら敵を攻撃するんだっ!!」と指示すると、他の4人は兄の言葉に従って、僕を完璧にサポートできる防御陣形を素早く築く。

その甲斐あって16名の精霊騎士は僕達を取り囲もうとしても、逆にその突進力に巻き込まれて各個撃破される形になってしまう。今の僕達の戦いぶりはまるで木の葉を散らすつむじ風のようだ。突進は彼らの連携を分断し、孤立した精霊騎士は複数の攻撃に晒されて、なすすべもなく倒されていく。

そして、そうやって突撃する僕達を追いかけて包囲網を完成させようとあらがえばあらがうほど、彼らは自分たちの陣形を切り崩されて倒されてしまうことに気が付いたのは、5人も失ってからの事だった。


「全員、集中っ!!

 敵の円陣防御陣形を突破陣形にて打ち破るぞっ!!」

リーダー格らしい少年騎士が大剣を天にかざして自分の位置を指し示し、そこへ全員を集めようと声を上げた。

中々、切り替えの早い男だ。精悍せいかんな顔つきをしたその少年騎士は一目見ても今いる精霊騎士の中で最も肝が据わっている上に決断力があるようだ。

そして、精霊騎士達も彼の事を信頼しているのだろう。彼の冷静な言葉を聞いて、パッと顔が明るくなった。混乱していた彼らがたった一言で明るい顔になるんだから、彼がこのチームのリーダーに相応しい人物であることがわかる。

だが、・・・・浅はかすぎる。

彼が自分の位置をどこであるか大剣をかざして伝えたことは大将の位置がどこか敵兵に教えるようなもので、常に狙撃の機会を相手に与えてしまうということを失念している。


「氷に閉ざされた氷と泥の国に住まわれし狩人ルー・バー・バーよっ!! 我が怨敵おんてきを氷の矢にて、その命を貫き通すご助力をっ!!

 ジュリアンがかしこみ畏み願いたてまつそうろう

僕が舞い踊り、呪文を詠唱すると次元の壁を切り裂いて、氷と泥の国の狩人にして名射手のルー・バー・バーが現れる。

突然現れた氷精霊の狩人の姿にリーダーらしき少年の精悍な顔つきが一瞬で恐怖に歪むのが見えた。

きっと彼は自分がこの先どうなるのか理解できているのだろう。

「ルー・バー・バー様っ!!

 あの大剣を掲げた少年が敵のリーダーです。」

ルー・バー・バーは頷くと弓に矢をつがえる。

それと同時に精霊騎士の少年たちが自分たちのリーダーを守る様に声を上げた。

しかし、それも実践不足の悲しさ。彼らは誰しもが忠実にリーダーの周りに集結しようとしていた。

それがルー・バー・バーにとって的の位置を絞りやすいことになることとも考えずに・・・。

こういった場合、カモフラージュするように何人かがデコイの役割を果たしてあたかも自分がリーダーと錯覚させるようにふるまわなければいけなかった。なのに全員でリーダーの位置に集まってしまったのだ。

「やれやれ・・・。子供を傷つけるのは忍びないものだ。

 ジュリアン。私にあまり罪な真似をさせてくれるな・・・。」

ルー・バー・バーは悲しい声でそう呟きながら矢を放つ。

するとルー・バー・バーが放った魔法の矢は、少年騎士達が自らの体を使ったバリケードのわずかな隙間に吸い込まれるようにして飛んでいき、リーダーの首筋に命中してしまうのだった。・・・。

リーダーの少年は仲間の体が死角となっていたので、身じろぎして矢を避けることも出来ぬまま急所にまともに矢を食らってしまったのだ。

「ああっ!?」

信頼するリーダー。彼らの希望の星であったリーダーが矢に射抜かれて倒れていく姿を見て、精霊騎士達は悲鳴を上げる。

彼らは氷と泥の国の狩人ルー・バー・バーの放つ矢の恐ろしさを知らなかったのだろう。

それが彼らの敗因だった。

僕は彼らの動揺をさらにあおる様に叫んだ。


「いくぞっ!!

 このまま彼らを殲滅するっ!! 

 戦場で指揮官を失った部隊がどれほど惨めに死んでいくか教えてやろうぞっ!!」


僕の叫びに5人の精霊騎士とルー・バー・バーは答えるように雄たけびを上げる。

その勢いに飲まれた少年騎士達は、戦う事も出来ずに僕らに背を向けて四方へチリジリになりながら逃げ去っていった。

ルー・バー・バーはそのうちの何人かの両足を弓矢で貫いた。仲間があっさりと射抜かれていく姿を見て少年騎士達はすっかり怯えてしまい、自分たちの国へと帰って行ってしまうのだった。

それを確認してからルー・バー・バーは「仕事は済んだ。」と一言いい残し次元の壁を切り裂いて、その場を去ってしまうのだった。

その去り行く背中に「ありがとうございました。」と礼を告げたのだが、きっと彼は聞いていないのだろう。どこまでもクールな男だった。


こうして16名の精霊騎士は、圧倒的有利な立場にあったにもかかわらず、僅かなミスのために大敗北を喫したのだ。予想以上の大勝利に僕は踊りの一つも踊っていたいがそういうわけにもいかない。

「さて5人とも。傷ついた精霊騎士達に降伏勧告と、降伏する者への傷の手当てを大至急頼む。

 僕はギューカーン様の援護に行かねば。」

グーは、その言葉に同意した。

「ああ。早く行きな。

 我々と違ってギューカーン様を坊ちゃんは長く引き留めてはいられないはずだ・・・。」

グーは事情を察していた。

そうなのだ。これだけの数の精霊騎士を呼び出して、さらにギューカーン様まで召喚するとなると流石に長時間ギューカーン様を現世に引き留めることは出来ないのだ。

このわずかな時間のうちに僕はジーン・ジーン・ガード様を倒さねばならないのだった。

それこそが戦闘開始前のジーン・ジーン・ガード様が追い詰められているように見えて余裕のある姿を見せていた理由だった。

いくら精霊貴族とはいえ、ギューカーン様を相手にするのは厳しい。それこそバー・バー・バーン様くらい強烈な精霊貴族でもない限り調停者であるギューカーン様とは戦っていられない。

ただし、時間を稼ぐことくらいならできる。ジーン・ジーン・ガード様はギューカーン様が現世に現界していられない時間まで逃げ続ければ勝利できることを知っていた。ギューカーン様が去った後にジーン・ジーン・ガード様が健在なら、僕達の敗北は決定しているのだから。

だからこそ、僕はギューカーン様と連携を上手く取りジーン・ジーン・ガード様を倒さなくてはいけなかったんだ。


だが・・・・


ギューカーン様のもとへ駆けつけた僕は驚いた。

ジーン・ジーン・ガード様がギューカーン様と戦闘しながら、大いに戸惑とまどっていたからだ。

「おちつきなされっ!!

 ギューカーン殿っ!!

 一体、如何いかがなされたっ!!」


僕が目にしたのは、怒りに我を忘れたかのように大暴れするギューカーン様の御姿おすがただった・・・・。


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