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してやったりっ!!

火の精霊貴族のジーン・ジーン・ガード様は僕を見て完全に失望しつぼうしたといいながら姿を見せる。

そして、彼の支配する15人の少年精霊騎士になかば囲まれる形で僕はいる。

普通で考えれば単身で突撃した僕がこういう状況におちいるのは、誰が考えても明らかだ。だからジーン・ジーン・ガード様も姿を隠すことなく僕の前に現れたのだろう。

ここまで来ると彼も精霊騎士達も失望したと言いながらも、もう逆に僕に興味への興味を隠しきれなくなっていると思う。


それこそがノコノコと敵の前に姿を現した僕の狙いだった。

興味が出たものに対していきなり殺しに来る者はいないからだ。彼らは必ず僕に対話を求めてくる。

” お前は一体、何を考えているんだい? ”

” お前の狙いはなんなんだ? ”

そういった僕への好奇心が彼らの行動に如実にょじつと現れているのだった。

その好奇心がある限り、彼らの注目は僕の兵団ではなくて僕に集中するのだった。あとは、この大人数を相手にどれだけ公平な戦いに持っていけるかだが・・・


貴公きこう!

 ジーン・ジーン・ガード卿と心得るが、よもや精霊騎士ともあろう者が、この人数で僕と戦おうとは思うまい。

 それに人間の戦争にこれほどの数の精霊騎士を引き入れるとは何事か?

 貴公からは、異界の者としての尊厳と自覚が足りぬのではあるまいか?

 先程、ジーン・ジーン・ガード卿は私に向かって短慮たんりょと申されたが、私に言わせれば、ご自身のお立場をわきまえぬ貴公の振る舞いは浅慮せんりょである。

 如何いかがか?」

僕はできるだけ尊大そんだいに振る舞ってジーン・ジーン・ガード様を挑発する。彼らの戦争責任を問うことで僕は交渉を優位に進めんと試みる。

だが、ジーン・ジーン・ガードはそんな僕の挑発には乗らなかった。


「ジュリアンよ。

 多数に無勢が卑怯ひきょうと申すか?

 しかし、それは戦争の本質ではないのかね?

 そして余のような貴族が戦争に参加するのが浅慮と申すなら、神を戦争に引き込んだドラゴニオン王国はどうだと言うのかね?」

ジーン・ジーン・ガード様は流石さすがの切り替えしである。

だが、この返答も含めて僕の策中である。一晩中頭を抱えて考えに考えた策だった。

今はその流れの通りに来ている。だから僕は同じように自信満々に言葉を続けるのだった。

「はて、これは妙なことを申されますな。

 貴公。災いの神ドゥルゲットがそもそも戦争の発端であり、ドラゴニオン王国は脅されて彼奴きゃつの始めた戦争の巻き添えになった事は御存知ごぞんじのはず。

 それを言わば被害者側のドラゴニオン王国の弱みに付け込んで精霊貴族が人間の戦争に関与するなどあってはならぬ事、

 ジーン・ジーン・ガード卿。これは知らぬ存ぜぬでは済まぬ問題ですぞ。高貴な家の貴公が異界の王から現世うつしよの危機を知らされておらぬわけがない。いかが?」


ジーン・ジーン・ガード様は僕の言葉を聞いて首をひねる。

「はて、これは面妖なことをもうす。

 悪神に脅されて戦争に関与したと申すなら情状酌量じょうじょうしゃくりょう余地よちこそあれ、被害者側とは言えぬ。責任逃れを言い訳の材料に使うとは前代未聞ぜんだいみもんのことであるな。

 しかも、災いの神が本当に黒幕であったという証拠を余は知らぬ。もしかするならばドゥルゲットに同意の上で慮外りょがいを働いたとも考えられるではないか?

 で、あるからして余と配下の面々は危険なドラゴニオン王国を成敗しに参ったのだ。」


ジーン・ジーン・ガード様は自信をもって答えられた。

それは僕の予想とは少し外れた答えであったけれども、僕の策を成功に導く言い分であった。

僕はジーン・ジーン・ガード様を指差してこう言った。


「神と共に戦った我らを成敗しに参ったと申されるか。

 なればこの戦に我が主神、魔神フー・フー・ロー様を召喚してもそなたらは逃げずに戦うと誓えるのかね?」

僕の言葉にジーン・ジーン・ガード様は「うっ!」と声を上げる。

僕の言葉にしてやられたことをジーン・ジーン・ガード様は認めたかのように「・・・・では、何が望みだね?」と交渉する意思を明白にしてきた。

僕は心の中でガッツポーズをとる。

それはこの交渉において勝利したことを意味する言葉であったからだ。

ここでジーン・ジーン・ガード様は僕が魔神フー・フー・ロー様を召喚することを認めることは出来ない。彼にとっても魔神フー・フー・ロー様は恐怖するべき対象。だからといって対抗馬に自分が仕える異界の王を人間の戦場に呼び寄せる真似は出来ないのだ。ジーン・ジーン・ガード様は否定も肯定も出来ない立場に立ってしまったのだった。

だからこそ、彼は交渉の意思を提示してしまったのだ。それは僕はこの交渉に勝利したことを意味する。

こうなれば僕は、精神的に優位に立ったまま、続いて勝負の条件についても交渉を始める。


「このままお互いの正義を語り合うのは堂々巡りである。

 どうであろうか?

 我ら高位の存在は高位の存在同士、人間は人間同士で戦わせる。神は召喚しない。

 そういった互いの霊位に不可侵の戦いで決着をつけるというのは?」


僕の提示した条件はあくまで正々堂々とした戦いだった。てっきりもっと自分たちにとってだけ不利な条件を要求してくると思っていたジーン・ジーン・ガード様は拍子抜けしたような顔を一瞬したが、それでも僕がどんな策略を持っているか測りかねていて即答はしなかった。

あごに手を当ててしばらくの間、考え込んでいたが、ここで条件を飲まねば僕が魔神フー・フー・ロー様を召喚するということに気が付いたようで渋々しぶしぶ「了承した。」と答えた。


これで僕と彼らの決闘の契約が成立した。

僕はもう安心して人間同士の戦争を見守ることができる。これほどの数の高位の存在が人間の戦場で暴れたらこの先どんな作戦も罠も意味をなさなかったのだから・・・・。

「では、我らは我らの戦場に移動しましょう・・・ここは人間同士の戦場ですからな・・・・。」

僕はそう告げると、戦場から離れていった。ジーン・ジーン・ガード様と配下の者たちもそれに従って移動せざるを得ない。これこそが僕の狙いだった。そして彼らはまだ僕がどんな手段を隠し持っているのか見当もついていなかった。

戦場から離れることおよそ300キロ。精霊騎士ならばすぐに移動できる距離だ。

だが、彼らは僕とかわした契約があるので人間同士の戦争にこれ以上関与は出来ないのだった。

それに彼らにとって残念なことに僕と彼らの戦闘の契約の落とし穴にも彼らは未だ気が付いていなかった。だから1対16という絶対的に有利なはずの条件が覆されることにも気がついてはいなかったのだ。

彼らがその事に気が付いたのは、僕が5人の土精霊騎士と邪龍ギューカーン様を召喚した時だった。


僕は移動中に密かに自分の掌を傷つけて王家と契約している5人兄弟の土精霊騎士と地の底の国の王の重臣にして調停者であるギューカーン様をいつでも召喚できるようにしておいた。

そして、人間同士の戦場を300キロ離れたところで、僕は「では、行為の存在同士、いざ尋常に勝負を始めよう!!」と宣言したと同時にこれらの異界の存在を召喚したのだった。



「やられたな・・・。」

僕の召喚に応じて出現した高貴な存在、邪龍ギューカーン様の御姿を見て幼い精霊騎士達は震えあがり、ジーン・ジーン・ガード様は自分があざむかれたことを悔やんだ。

そう、僕は神を召喚しないことを宣言したが、行為の存在を召喚しないとは一言も言っていなかったのだ。だから、僕は彼らに対して呼べるだけの戦力を用意できるし、彼らは契約に応じてしまった以上、人間を攻撃することは出来なくなってしまったのだった。


「そちらは16人もいるんだ。よもや卑怯とは言うまいねっ!!」

勝利宣言でもするかのように僕は声高に叫ぶのだった。

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