青春してるねっ!!
僕をつけてくる精霊騎士の数は恐らく5人。彼らは気配を消す素振りも見せずに僕を追いかけてきている。
彼らが自分の存在を隠そうとしない理由は簡単だ。威嚇だ。
大声を上げて獲物を追い詰める猟犬の如く、僕を威嚇する目的で気配を消さずに追ってきているのだ。
” こちらは5名もいるんだぞっ ”
” お前に勝ち目があると思うなっ ”
まるでそう言っているかのような態度だった。
そして、それはある程度の効果はある。僕にしても5名もの精霊騎士を正面切って一人で相手をするのは、自殺行為に等しい。奴らと戦うためには有利な条件を引きださなければいけない。
しかし、相手も自分も音速で動く存在。僕の体感時間はともかく、僕には現実時間においては逃げ回る時間はないのだ。
それに、下手をすれば僕が逃げ回ることで敵が業を煮やして標的を僕からスワンの部隊に変えられては大問題だ。人質になりかねないからだ。
そうとなれば・・・・。
僕は逃げ回るのを諦めて、引き返して彼らを迎え撃つ。
共に音速で動く者同士、引き返して迎え撃つ僕と追いかけてくる彼らは一瞬で遭遇した。
僕らはお互いを視認する距離に来るとどちらの方からと言わずに足を止めて、睨みあう。
値踏みだ。
敵も僕もお互いの力量を推し量ろうとしていたのだ。
敵は圧倒的に有利なはずなのにそういうことをする理由は、彼らの眼から見て僕は想像以上の強敵と感じたからだろう。そう思っていなければ、問答無用で僕に切りかかっていた事だろう。
そして、敵が僕を値踏みする間に僕も彼らをの実力を見抜こうとした。
敵の数は予想通り、5名だった。そして、5人が5人ともまだ幼い容姿をしていた。
これも想定内の事だった。グー・グー・ドーが契約していた精霊騎士達が幼かった点を鑑みても人間同士の戦争に関与できる存在はそこまで高位な存在ではないと僕は予想できていたからだ。
そうして、そんな幼い彼らだからこそ、実戦経験が豊富そうな僕を脅威に感じているのだろう。
しかし、逆に言えば彼らは僕を一目見て戦闘経験が豊富そうな敵だと見抜く程度の眼を持っているという事だった・・・・。
そうやってお互いを睨みあう事、5分は経ったと思う。
彼らは一向に仕掛けてこない。しかし、僕としてはいつまでもこのまま睨み合うつもりはない。
そこで彼らに揺さぶりをかけることにした。
「やぁ、童貞臭そうなやつらが集まって、この僕に何か用かい?」
僕は連中に一言挨拶をしてあげたのだが、彼らは僕の態度が気に入らなかったのかいきり立つのだった。
「だ、っだだだだだ、誰が童貞だっ!!」
「お、俺は童貞じゃねーよっ!!
筆おろしなんか100年は前に済ませているわっ!!」
想像以上に初々しい反応に思わず笑みさえこぼれてしまう。
こいつら、チョロいかもって思ってしまったが、しかし、その中から予想外の抗議が返って来るのだった。
「誰が童貞だっ!!
俺は女だっ!! バカヤローっ!!」
と、そばかすがよく似合うボーイッシュ系美少女は薄い胸を張って声を荒げる。
きっと、彼女は自分の胸をアピールして僕に自分の性別をわからせたいのだろう。
ふふふ。甘いね。
僕にはとびきり美乳の薄い胸の妻がいる。君の薄い胸に僕はたじろいたりはしないのだ。
そして、僕は彼女の女性アピールを逆手に取って挑発する。
「これはすまない。女性もいたのかね。
レディに対して失礼なことを言ってしまったね。騎士として心の底から謝罪しよう。
全く、そのつつましい胸の魅力に気が付かなかったお詫びにこの戦いが終わったら、女に生まれてきたことを後悔するほど可愛がってあげるから覚悟したまえ。」
僕の挑発にあっさりかかった彼女は悔し涙を浮かべながら、顔を真っ赤にしてリーダらしき少年に向かって話しかける。
「ねぇっ! ファーン・ファーン・フーっ! こいつぶっ殺していいよね?
いいよねっ?」
美しい長い髪を三つ編みに束ねたリーダーらしき少年は、少女の言葉に苦笑しながらも僕を睨みつけながら啖呵を切る。
「私の幼馴染に向かって無礼な口をきいたその罪、万死に値する。
シー・シー・スーンの名誉にかけて、貴様をこの場で殺して見せよう!!」
そう言ってファーン・ファーン・フーと呼ばれたリーダーらしき少年が槍を構えると、残りの3名の少年たちも一斉に得物を構える。
「よくも俺たちの紅一点を侮辱してくれたなっ!!」
「殺してやるっ!!
お前がいくら強くても僕達5人を一度に相手にして勝てると思うなっ!!」
「やってやるぞっ!!」
男の子4人からモテモテの様子のシー・シー・スーンは、両掌を組み合わせて「やだ・・・みんなカッコいいっ!!」と、感動の御様子。
・・・・・全く、いい気なもんだ。こっちは5人相手に命を狙われているというのに、そっちは青春ごっこですかい。
しかし、これはこちらにとって都合がよかった。彼女の態度を見れば、どうやら彼女は4人にとってはマドンナ的存在らしい。男勝りな俺っ子アピールしているが、その実、その発言には男の気を引こうとする女性の匂いがする。
と、くれば・・・。男の子たちは、意中の女の子にいいところを見せようと功を焦って攻撃をしてくるだろう。ならば、初手で彼らの隙をついてできるだけ戦力を削らせてもらうだけだ。精々、彼女にいいところを見せようと頑張ってくれたまえ、色男くんたち・・・・。
僕は彼らに応じるように槍を構えると
「さぁっ!! 僕と戦う覚悟のできた一番の英雄は誰だ?
男らしくかかって来いっ!!」
と、挑発すると、少年たちは我先にと一斉に僕に向かって突撃してくる。
なんと愚かなことか。集団対個ならば集団の方が圧倒的に有利である。それは、相手を囲めるからだ。
四方八方から攻撃されれば、どのような達人であっても防ぎきれるものではない。
しかし、逆に一点に向かって大勢が同時に突撃すれば、お互いの体が邪魔になって戦えるものではない。まず中心の二人は両サイドから挟まれて身動きがとりにくい。両サイドの者は仲間がいる方向には反転できないうえに槍のような長物を武器にした場合となると、外方向に対しても仲間の体が邪魔になって広角がとれない。彼らは一点に集結せずに陣形を保ったまま突撃するべきだったのだ。
彼らがまるで矢印のように突撃したことを悔やむのは、右方向に回る様に飛び移りながら、右端にいる少年騎士の胸を槍で貫いた瞬間だった。
「うわあああああー----っ!!
や、灼けるっ!!
奴の槍には火の呪いが掛けられているっ!! あああああっ!! 痛いっ!! 痛いよっ!!」
刺された少年が地面を転がる様にして苦しがる姿は、他の少年たちの恐怖を誘い、一瞬のスキを生んだ。その隙こそが最悪の反応であることに彼らが気が付いたのは、もう一人の少年が太ももを刺されて身動きを封じられた時だった。
悲鳴を上げて戦闘不能になった少年が二人になったところで、リーダー格のファーン・ファーン・フーはようやく自分たちのミスに気が付いて「散れっ!! 密集すれば奴の思うつぼだっ!! 奴を取り囲んで仕留めるんだっ!!」と指示を出した。
残った1人の少年と美少女は、自分たちのミスに気が付いてファーン・ファーン・フーの指示通りに僕を取り囲もうと左右に広がる。
そんな彼らに僕はなおも動揺を誘う。
「女に気を取られて戦いをおろそかにするとは笑止千万っ!!
特にそこの女っ!! お前が少年たちを弄ぶような罪な真似をするから、このような事態になったのだぞっ!?」
僕にそう一喝されたシー・シー・スーンの心の動揺はすさまじく、「違うっ! 俺はそんなことをしていないっ!!」と、戦いの最中だというのに否定することに必死だ。
次に突き崩すのは彼女であることは明白だった。正確に言うと彼女を攻撃することで、さらに少年たちの動きを操ることだ。
「そうかな?
でも、君は仲間の少年たちが君のために戦うことに高揚していたではないか?
気持ちよかっただろう? ああ・・・私・・・今、物語のお姫様みたい。男たちが私のために戦ってくれてるって、思っただろう?」
それは彼女にとって図星だったらしく、「ああああああああ!」と、発狂したかのような叫び声を上げながら僕に突進してくる。その無防備な姿に少年たちは慌てふためき、彼女を守ろうと必死に彼女の前に立とうとする。
なんと愚かなことだ。それはつまり、先ほどと同じ行為だということに何故気が付かないのか・・・・。恋は盲目と言うが、自制を失った少年少女たちを手玉に取るのは僕にとっては、難しい事ではなかった。
女性を戦場に連れてくるとこういう色恋沙汰が原因で男性の死者が増えることは統計上実証されている。彼らは青すぎたゆえにその危険を自覚、自制できなかったのだった。
・・・・・そして、精霊騎士とはいえ統制の取れない経験不足の少年たちとの戦いはあっという間に僕の勝利で終わった。5名は手傷を負い、その手傷は呪いによって焼かれて、痛みにのたうち回り戦いどころではなくなった。
「苦しいだろう? この槍は魔神フー・フー・ロー様より下賜された呪いの槍。
君たち程度の精霊には、この呪いを解くことは出来ない。
それぞれの国へ帰り、親に傷を治してもらうんだね。」
だが・・・だが、その前に彼らには情報をはいてもらわないといけない。
僕はシー・シー・スーンの衣服を剥ぎ取る仕草を見せながら、
「君たちが国に帰られるようにみのがしてやってもいいのたが、それには条件がある。
それは敵の情報を僕に伝えることだ。精霊騎士は何人いる?
白状するなら何もしないが、言わないなら彼女には僕の子供を産んでもらうことになるぞ。」と、彼らに自白を要求した。
あっさりと口を割ったのは、女性ゆえに特別な恐怖を感じたシー・シー・スーンだった。
そして、僕は彼女の口から聞きたくない事実を知らされる。
「せ、精霊騎士は残り15名ですっ!!
それを束ねているのは火と水の奥の国の王ダー・ダー・ルーン配下の火の精霊貴族のジーン・ジーン・ガード様ですっ!!」
敵には精霊貴族がいるっ!! その告白に僕は全身から冷や汗が噴き出てくるのが分かった・・・・。




