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どこに行っちゃったの!!

僕達の防衛準備がそろう頃、各国の戦争準備も整ったようで諸外国が既に進軍を始めたという情報が僕の耳にも届いた。

その数、ドラゴニオン王国の総数10万に対して70万から100万はいると聞く。混乱する状況下で確かな情報は手に入りにくいが、おおよそ僕の想像通りの数ではあった。

大軍をもって攻め込む敵に有効なのは撤退戦てったいせんだ。

できるだけ後退して複数いる部隊に目標を絞らせる。そうやって一つの目標に向けて進撃してきた敵が一まとめになったところで別同部隊による挟み撃ちにて敵に大損害を与えるものだ。

この時に敵を罠に誘い込む強固な城・拠点が必要となる。

攻城戦は長引けば長引くほど攻め手も疲弊ひへいする。大部隊にもなると食料だけでも大変な量がいるのだ。

そうやって人死になどの実質的なダメージを与える為だけでなく、物質的なダメージを負わせることが戦争を勝利へと導く。出費がかさめばかさむほど、戦争を続けるのは困難になるのだ。

加えて僕達の国は元来、えた土地ではない。食料の現地調達は難しいのだ。

僕は作戦を後退戦に決めると、籠城ろうじょうに相応しい立地条件の拠点に土精霊たちを派遣させて、強固な城壁を築かせる。大軍に当たる場合、難攻不落なんこうふらくの城は必要不可欠だからだ。

さらに僕は徹底てっていした。

農民を国の中心に避難ひなんさせ、拠点近くで収穫できるものは、野菜はおろか果実、野草やそうに至るまでかき集めさせた。それは敵をえさせるためであり、長期間の籠城を可能にする食料調達の為でもあった。

僕達の籠城戦の準備は着々と進み、それと同時に諸外国からの連合軍もじわりじわりと近づいてくるのだった。


ここで心配なのは一度目の遠征で回収できなかった小規模部隊の救援に向かったオリヴィア達のことだ。疾風のローガンがついているから、恐らくは無事だと思うが、戦場では何が起こるかわからない。

決して安心はできないのだ。

にも拘らず、僕はオリヴィア達の足取りを掴めないでいた。

理由は一つ。疾風のローガンの看破かんぱの眼のせいだ。

彼の持つ看破の眼は全てを見抜く。敵が自分たちを発見する前に彼は敵を発見している。だから、ローガンがいれば敵に見つかることなく包囲網を潜り抜けられるだろう。

しかし、今はそれが裏目に出ている。

彼の眼は僕の仲間たちさえ発見できないのだった。

シーン・シーンさえ疾風のローガンを発見できないでいた。彼女の眼をもってしてもローガンは見つからないほど巧みに姿をくらませているらしい。

それほどの腕なら早々敵にも見つかるまいが、安否あんぴ確認ができないのはやはり心配だ。

とくにもうすぐ諸外国の連合軍による包囲網ほういもうが完成する。そうなれば彼らは敵陣営の中に十分な物資もないまま孤立してしまう。

僕は焦っていた。

ただ、救援によこしたニャー・ニャー・ルンとセーラ・セーラも戻ってこないところを見ると、恐らくは彼らと合流はしているのだと思う。とくにニャー・ニャー・ルンのあのアホみたいな性格なら、オリヴィアが見つからなかったら、泣きべそをかきながら帰ってくるはずだ。それが無いという事は無事に合流できた証と見るべきだろう。

しかし、そうであるならば、何故にシーン・シーンほどのスパイに適した精霊がローガンを見つけられないのだろうか?

謎は深まるばかりであった・・・。


そうして、連合軍が進撃を開始したという情報を受けてから15日目の事だった。

いよいよ、我が国に連合軍が侵入して陣をいた。

場所はドラゴニオン王国の東。大陸を縦断じゅうだんする川を越えたところでの交戦だった。敵は船団を持って南下してきた。そうやって川沿いに拠点を確保すると、川の東側に来ている別の国の部隊をまねき入れて、これと合流する。

見事なまでの進軍速度だった。それは勿論もちろん、拠点を築くまでの間に僕らが攻撃を仕掛けなかったことも理由だが、見事すぎる連携れんけいだった。

いや、見事どころか不自然すぎると言っても良いくらいだ。

あの大河の向こう岸とここまでの連携を可能にするのは人間技とは思えない。恐らくは精霊騎士がこれに関与しているのだろう。

そして、その精霊騎士こそがこの戦争を決定づけるのだ。

彼らは周辺諸国の連合国。それぞれの国が精霊騎士をようしているのは周知の事実。

本来ならば精霊騎士は戦争に干渉かんしょうしすぎないが、この度の戦はそうも言ってはいられまい。

そして問題は、その数だ。音速で動く高位の存在を前に人間の兵団は無力だ。

あのニャー・ニャー・ルンでさえ、グー・グー・ドーの部下を一人で何人殺してみせたのかわからない。それが大勢いるとなると、僕の作戦をもってしても勝ち目はかなり低くなるのだった。

敵の総数はこちらの7倍~10倍。加えてどれほどの数の精霊騎士がいるかわからないとなると、かなり厳しい戦闘になるだろう・・・・。

精霊騎士の数がこの戦争の勝敗を握るのであれば、その情報収集はけて通れない問題だった。

しかし、シーン・シーンは彼らを恐れて索敵することを拒んだ。当然と言えば当然の行動だ。僕にシーン・シーンを恨む資格はない。


と、なれば・・・・。

先手必勝で精霊騎士をあぶりだし、その戦力を確かめる必要があった。

それには死を恐れない勇敢で機動力がある兵士が必要だった・・・・。

つまり、片道切符を覚悟の兵士を集い、先手必勝で敵陣を攻撃してすぐさま退却する。その退却の時に精霊騎士に襲われる覚悟のある兵士を集めた精鋭部隊で攻撃しなくてはいけない。

危険極まりない作戦を僕は考えている。そして、味方を殺さなくてはいけないその作戦を避けるためにあれこれ考えをめぐらすのだけれども、いくら考えても精霊騎士をあぶりだすには奇襲作戦しかないという結論しかない。

それがより、僕を悩ますのだった。

できるだけ被害を最小に抑え込みたいと地図を睨みながら考え込む僕にグレイ男爵とガルシア伯爵が声をかけてくるのだった。

「陛下。何をお悩みか存じておりますぞ。

 その作戦。何をいとう事がございましょうか?

 死をいとわぬ兵士は大勢おります。

 戦の先陣を切るは騎士のほまれ。特攻の栄誉を私の部隊にお任せください。」

ガルシア伯爵は僕が地図を睨んでいるその姿を見て、僕が何に悩んでいるのか察したのだ。

そう、特攻ともいえるこの攻撃に部下を向かわせることに躊躇ちゅうちょする僕の心を見抜き、自ら志願してくれたのだ。

そして、ガルシア伯爵の言葉をさえぎる様にグレイ男爵が割って入って来る。

「いいえ、お言葉ですが伯爵。

 先陣の栄誉えいよは私の部隊にお任せください。」

「しかし、グレイ男爵。

 貴公の部隊は先月の籠城戦で疲弊しているだろう?

 まだ、疲れの取り切れていない貴公の部隊に任せるわけにはいかん、」

「そんなことはありません。

 我が部隊は士気も旺盛。とくに陛下に命を救われたご恩に報いるためなら、どんな傷を負っていても戦えます。この奇襲攻撃にはそういう連中が必要なのです。」

「死を覚悟しているのは全ての兵士が同じこと。

 遅かれ早かれ戦士には死が訪れる。それを恐れていては戦争にならぬ。」


両者一歩も引かぬ意気込みだった。

この気持ちにむくいるべきか、それとも彼らのような勇敢な指揮官こそ今後の戦いのために温存おんぞんすべきか。

非常に悩ましいところではあった。

ふと、作戦室にいる別の指揮官を見た。

誰もが死の覚悟が決まった目で僕を見つめていた。彼らは誰もが歴戦の勇士たちだ。

いま、この戦争で一番の脅威となりえる精霊騎士の存在をあぶりだす方法がこれしかないことを誰もが知っていた。

本来、人間同士の戦争に精霊騎士は長期間は関与しない。この世界に干渉しすぎるからだ。

パッと現れて、パッと攻撃して帰る。それが通常の精霊騎士のり方だ。もっとも、王族が守り本尊としているような精霊貴族は強い契約で常時待機することもあるにはあるが、彼らとて戦争には関与しない。

それでもグー・グー・ドーと契約した精霊騎士の例や僕の精霊騎士達の例をかんがみれば、今の戦争がこれまでの過去の戦争とおおよそ違う様相ようそうていしていることは明らかだ。だから、誰もが危険を察知して、それと立ち向かう覚悟が決まっているのだろう・・・。

僕は父上が育て上げた歴戦の勇士たちを見て、彼らの存在に誇りを感じていた。


・・・・・・・・

・・・・・が、何処にも例外はいるもので、僕の顔を見ずに下を向いた男がいることに気が付いた。

誰もが仲間のために先陣を切り、死をいとわぬ覚悟をしているというのに彼だけは死を恐れて指名されないように目を伏せているのだった。

ならば・・・・。

ならば、先陣の栄誉を誰に与えるか。その答えは決まってしまったのだった。


「スワン男爵。

 貴公に先陣の栄誉を与える。

 私と共に特攻をかけて頂くぞ。」


僕のまさかの発言にアダム・ベン・スワン男爵は「ひっ!!」と息を飲むのだった・・・・。

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