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お前は狂っているっ!!

グー・グー・ドーは言った。

「こいつらの死は必然だっ!!

 何故なら、こいつらがここで死ぬように仕向けたのは俺だからだっ!!」

その衝撃的な発言に敵味方ともに戦う手を止めてしまった。

池に落ちた石が起こした波紋が池全体に広がっていくように戦場がシーンと静まり返り、ただ、頭の悪い精霊騎士二人が泣きながら戦っている音だけが響いていた。


「み、味方が死ぬように仕向けたって、言ったのか?」

僕達ドラコニオンの人間でさえ驚いて呆然としてしまうのに、グー・グー・ドーを神のようにしたって付いてきた兵士たちはより驚かずにはいられない。

「な、なにを言ってるんだ?

 グー・グー・ドーは・・・・。」

「よ、揺動ようどうだっ!!

 敵を混乱させるためのウソさっ!! ぐ、グー・グー・ドーが俺達を殺すように仕向けただなんて・・・・そんなことが‥‥そんなことがあるわけがねぇっ!!」


連合軍の兵士たちにこそ、動揺どうようが起きていた。

その様子をグー・グー・ドーは愉快ゆかいそうに見ながら笑った。


「ジュリアン。

 わかるか? これが人の上に立つという事だ。

 これが王という事だ。圧倒的なカリスマ性によって人々を導き、死なせもする。

 古今東西、おおよそ王というものは多かれ少なかれそういうことをしなくてはいけない職業だ。」


言わんとしていることはわからんでもない。

王はカリスマとして君臨くんりんし、時には戦場に民を駆りだす。そうして戦争の性格上、民を見捨てることも選択しないといけない場合もある辛い職業だ。

だが・・・・・。

「グー・グー・ドー。そなたの言わんとすること、わからぬ事ばかりというわけではない。

 確かに王はカリスマによって人を導き、失策により人を死なせてしまう事もある。

 だが、そなたはこういったぞ。 

 ”こいつらがここで死ぬように仕向けたのは俺だからだっ!!”

 その真意が分からぬ。

 なぜ、この場でそのようなことを話す必要があるのだっ!!?」


僕の質問に同意する連合軍の兵士は食い入るようにグー・グー・ドーに集中し、彼の言葉を待っていた。グー・グー・ドーにしてもそんな彼らを見るのがつらいのか、視線を一度落とし、悲しそうな目を一瞬だけして、自分の真意を語りだした。

そして、それはとんでもない内容だった。


「なぜ、この場でそのような話をした・・・・・か。

 それはな。流石さすがの俺も心苦しかったからだ。

 俺を神のように慕って戦場を駆けずり回ったこいつらに対して、俺も何の感情も持ってないわけではない。

 ただ、お前を殺すためにはこうするしかなかった。これをやらずにはいられなかった。

 ・・・・・それが原因よ。

 そうしなくてはいけなかったとはいえ、何も知らずにこいつらが死んでいくのは哀れと思ったまでのことだ。

 どうせ死ぬ命だが、何故死ななくてはいけないのかくらい知っておきたいだろうからな・・・。」

グー・グー・ドーの言い分には具体的でない部分があり、僕は要領を得ない。


「何を言っているんだ? グー・グー・ドー。

 ”こうするしかなかった。これをやらずにはいられなかった。” だと?

 これとはいったい何のことだ?」

僕の問いかけにグー・グー・ドーは額に冷や汗をかいた引きつり笑いを浮かべながら、懐から二枚の手鏡を取り出した。

「それはなんだ?」

僕がそう尋ねたと同時に精霊騎士と戦っているニャー・ニャー・ルンが悲鳴を上げる。


「ああああああっ!! ジュ、ジュリアン様っ!!

 助けてっ!! 無理です無理ですぅっ!!」

「やかましいっ!!

 今、大事なところだっ!! すっこんでろっ!」

反射的に怒鳴ってしまったが、ニャー・ニャー・ルンはなおも声を上げる。

「逃げてくださいっ!!

 全員、逃げてくださいっ!!

 敵も味方も、あなたもあなたもあなたもっ!!

 みんな、みんな死んでしまいますっ!!」

ニャー・ニャー・ルンは狂ったように叫んだ。

最初はニャー・ニャー・ルンの発作かと思ったが、ニャー・ニャー・ルンの慌てようから、どうやらただ事ではないことがわかった。

そして、グー・グー・ドーはその様子を見て、ニヤリと笑う。


「流石精霊騎士だ。アホのくせにこれが何かわかるらしい・・・。

 この鏡はお前の父親とドゥルゲットの手によって滅ぼされた国の最終兵器。

 他の国々が精霊貴族を国家の守護精霊と据えるのとは亡国はこの鏡を守り本尊とした。

 因果いんがなものだ。

 この鏡はな、お前の国の始祖が戦いの切り札として用いていた合わせ鏡・・・。その残骸ざんがいだ。」

グー・グー・ドーはそう言うと二枚の鏡を使って合わせ鏡を作ると、その二枚の鏡に魔力を込める。

・・・・すると戦場に異変が起こった。

合わせ鏡からおおよそグー・グー・ドーの物とは思えぬ異常な量の魔力があふれ出して、その場を異界へと変えていく・・・。

その異様な光景に僕はハッと気が付いた。グー・グー・ドーが話した僕の始祖の切り札が何か今頃になって気が付いたからだ。


「に、にげろっ!!

 全員逃げろーーーっ!!

 敵味方共に戦っている場合ではないっ!! 逃げろーーーーっ!!」

僕の声に連合軍もドラゴニオンの兵士も異変を察知して、その場からワラワラと逃げ出し始める。

でも、それじゃ間に合わないんだ。

「早く逃げろーーーっ!!

 あれは、冥界と現世の間の国の王、ルー・ラー・ドーン様を召喚する合わせ鏡だっ!!!」

冥界と現世の間の国の王ルー・ラー・ドーン様。

この名を聞いた者たちは、ようやく事態の恐ろしさに気が付いて半狂乱になって逃げだし始めた。

これだけの人数が一度に無統制に逃げだしたら、事故が起きる。でも、それでもかまわない。

悠長にしている時間はない。この神はそれほど危険な神なのだから。

非常に高位な存在である異界の王の中でもトップクラスに位置するルー・ラー・ドーン様は非常に慈悲深い一面もあるにもかかわらず、その内面は非常にご気性激しく、その怒りにふれたものは、永遠に生きたまま氷漬けにされてしまう。そればかりか、怒りが重ければ重いほどその怒りは無差別に振り向かれる。

この神の怒りを買えば、僕達はおろか近隣の国々も被害を受けて永久に命通わぬ不毛の大地に変えられかねない。それほど恐ろしい神だったのだ。

その恐ろしさはあの魔神フー・フー・ロー様もお認めになられていた。

グー・グー・ドーはそれほど恐ろしい神を召喚しようとしているのだ。


正気しょうきかっ!! 貴様っ!!

 正しい手順を踏まずにルー・ラー・ドーン様を召喚したら、本当に大惨事だいさんじが起きるぞっ!!」

僕の怒鳴り声にグー・グー・ドーは笑って応える。

「そう思うよなぁ?

 だが、これを手にして守り本尊にしていた国もお前の始祖もこの鏡を戦いの切り札にしていた。

 わかるか? ジュリアン。

 戦争に理性などない。お前が如何に俺を説得しようとしても、もはや手おくれだ。儀式は始まってしまった。もう誰にも止めることは出来ぬ。俺にも、お前にもな。

 せいぜいお前にできることは、あのいかれた神が降臨こうりんする瞬間まで祈りをささげることだけだ。」

狂気だ。

何が彼をそうさせるのか、理由はハッキリしている。彼は狂っているんだ。

だから、こんな恐ろしいことができるんだ・・・・。

僕は改めて人の恨みの恐ろしさを実感した・・・。

そう言えば魔神フー・フー・ロー様がオリヴィアに復讐ふくしゅうという生きる目標をお与えになられた時に、僕にはそっと「復讐は人を変える。活きる力を与え、そして、破壊もする。」と言われた。

その言葉の意味の大きさを僕は今頃気が付いてしまったのだ。

グー・グー・ドーは壊れてしまったのだ。だから、このように恐ろしい真似ができる。


そうして、もはや逃れられぬ死が近づいてきたときのことだった。

何の前触れもなく一瞬でグー・グー・ドーの首が吹き飛んだ。宙を舞うグー・グー・ドーの首は事態を全く把握していない表情をしていた・・・・。

彼の首は突如姿を見せた存在によってねられたのだと気が付いたときには、グー・グー・ドーの首は既に地面を転がっていた。


「全員っ!! 今すぐ平伏へいふくし、口を閉じよっ!! 目をつぶれっ! 両手で耳をふさぎ、我が王の姿を見るなっ!! 声もくなっ!!

 さすれば、この場にいる者の命は余が我が王に進言して救ってみせようっ!!

 我が名は闇精霊貴族のズー・ズー・バ―っ!! 

 魔神フー・フー・ロー様との密約に従い、そなたらを救って見せるっ!!

 繰り返すっ!! 今すぐに平伏し口を閉じて目をつむり、両手で耳を塞げっ!!

 決して我が王の姿を見ても、声も聞いてはならぬっ!!!」


戦場に響き渡るほどの大声で命令したのは、エレーネス王国の守り本尊である闇精霊貴族ズー・ズー・バーだった。


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