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狙ってない事態で大逆転っ!!

ホーン・ホーン・クーは、(あせっていた。

自分の目の前にいる僕が想像以上に手ごわかったからだ。

実際に、魔力量で言えばホーン・ホーン・クーの方がほんの少し上だろうと思う。

しかし、戦闘経験が僕の方が上なのだと、ほんの数合すうごう、手合わせしただけでわかる。

しかも彼の持つ武器と僕の武器では優位性が違う。


剣道三段倍。という言葉に代表されるように一般的に槍や薙刀といった長柄物ながえものと剣では、剣術者は槍術者に対して3段は上の実力を持っていないと勝てないと言われているくらいに武器としては相性が悪い。

ホーン・ホーン・クーの剣は片手剣を両手に持つ二刀流。二刀流とはいえ本来、これも槍に対しては不利な武器だ。

しかし、彼はそれを得手えてとしている以上、何かしらの対策を持っているはずだが、どうやら彼の技量では僕のドラゴニオン流槍術の相手をするのは荷が重いらしい。彼の技術の全てを僕の技術は上回っていた。

彼はすでに防戦一方となっている。

槍は剣よりも貫通力が強い武器で、剣による突きなら片手で払い流すことも出来ようが、槍は早々うまくはいかないものだ。ホーン・ホーン・クーは自分の体の芯に向けて狙い放たれる僕の突きを必死でさばかなければいけないのだ。

しかも、ステップワークで逃れながら僕が突きをいれにくい場所に体を位置取ろうとしても、逃げる場所逃げる場所へと僕は追ってくる。

「貴様っ・・・・

 なんて目を持ってるんだっ!!」

ホーン・ホーン・クーは、僕の未来視の眼をそう評した。

彼は気が付いている。僕が彼より有利に立っていられる理由に鎗術の技術以外にこの未来視の眼があることを。魔神フー・フー・ロー様の館で精霊騎士たちを相手に戦い鍛え上げられた僕の未来視の眼の力はどうやらホーン・ホーン・クーの未来視を上回っているようだ。

僕の実戦経験、そして単純な鎗術の完成度とこの未来視の眼がホーン・ホーン・クーを今、圧倒して追い詰めていてる。


・・・・・良かった。この程度の若い精霊騎士が相手で・・・・

僕はホーン・ホーン・クーを追い詰めながら、安堵する。

これほど長い時間、束縛そくばくするにはそれなりの契約が必要となる。王家が守り本尊ほんぞんの精霊貴族のように強い契約が・・・・。

だが、一介の騎士団にこれほど長時間、精霊騎士を拘束させることなど早々できやしないんだ。

そもそも精霊騎士はマリア・ガーンや僕のような天才でもない限り単独で召喚することも出来ない。

大抵が大人数で一人の精霊騎士を召喚するのがやっとだ。それも用件が済めばそそくさと帰ってしまう。

これほど長時間、仕事をしてくれるのは相当強い契約か、もしくは呼び出した存在の霊位の低さが必要となってくる。そして、ここまでの手合わせで確信したが、ホーン・ホーン・クーは間違いなく後者の方だ。音速で動ける精霊騎士は人間相手なら脅威きょういだが、彼のようにまだ若く弱い精霊騎士は、同じ精霊騎士相手には荷が重い・・・・。

だから、今までもニャー・ニャー・ルンから姿を隠していたのだろう・・・・。


僕は勝利を確信して攻撃を続ける。

やがて僕の呪いの槍がホーン・ホーン・クーのむき出しの太ももを捕える。

「あああああっ!!」

ホーン・ホーン・クーは槍の刺し傷を受けたのみならず、その傷を炎で焼かれる呪いを負って悲鳴を上げた・・・・。

「いたっ・・・・・いたぁ~いっ!!

 ・・・・ううっ、チクショーっ!!」

ホーン・ホーン・クーは、そのまま足を押さえてのたうち回った。

どうやら彼程度ではフー・フー・ロー様から授かりしこの槍の呪いを解くことは出来ないらしい。


「勝負ありだな。ホーン・ホーン・クー。

 私に仕えるというのなら、命までは見逃してやるぞ?」

「いやだっ!!

 殺せっ!!」

ホーン・ホーン・クーは僕の降伏勧告こうふくかんこくに従わなかった。

だから、僕はえて止めを刺さなかった。

傷口はさらに呪いの炎に焼かれて、ホーン・ホーン・クーを苦しめる時間が過ぎる。

「・・・・ううっ・・・・いたいよぉ~~~。」

やがてホーン・ホーン・クーは涙を流して痛がり、敗北を認める。

「ぼ、僕の負けだ・・・・。

 でも、お前の従者になるのは嫌だっ!!

 国に帰るから見逃してくれっ!! 父上に傷を治してもらう・・・・。

 それでお前たちの国に害を加えないことをちかうっ!!」

それでも僕はホーン・ホーン・クーを簡単には許しはしなかった。


「お前は口の利き方がなってないぞ。小僧。

 この戦いの勝者は私だ。で、あるならば、口の利き方というものがあろう。

 よく考えて言葉を選べ、そうしなければ、更に炎はお前の足を焼くぞ。」


敗者に徹底的てっていてきに敗北を認めさせる恥辱ちじょくを与える。

これは本人だけでなく、彼の味方に対するアピールでもある。

ホーン・ホーン・クーにみじめな姿をさらさせることで、この戦場にいるジュリアンは自分たちの精霊騎士よりもはるかに高位の存在だと知らしめて、彼らの戦意を喪失そうしつさせるのだ。そのためには、ホーン・ホーン・クーにはもっとみじめになってもらわねばならない。

「いやだっ!!

 人間のお前なんかに、敬語を使ってたまるものか・・・っ!!

 僕は精霊騎士なんだぞっ!! 

 いやだっ!!

 いやだっ!! 絶対に嫌だもんっ!!」

ホーン・ホーン・クーは、駄々だだのように強情だったが、僕がダメ押しとばかりに呪いの槍を肩口にほんの少し刺し入れると、あっさりと敗北を認めた。

「い、いたあああいっ!! わ、わかりましたっ!!やめてください~~~。

 うううう・・・・。ゆ、許してください~~~。ジュリアン様ぁ~~

 もう絶対に貴方様に逆らいませんから・・・。」


まだ幼い容姿ようしをした美少年は精神的にもまだまだ幼かった。

僕はここでようやく彼を一騎打ちの契約から解き放ってやるのだった。


「その敗北宣言を受け入れようっ!

 貴公きこうのその殊勝しゅしょうな態度にめんじて、この場は命までは奪わん。

 貴公がこの場を立ち去ることを許してつかわすっ!!

 ただし、先ほどの宣言を契約とし、貴公が二度と僕に逆らわないことを条件としてだっ!!」


ホーン・ホーン・クーは、涙をこぼしながら何度も頷くと、次元の壁を引き裂いて自分の国に帰っていった。


そうして、シ~ンとその場が一瞬、静まり返ったかと思うと、城壁の上から波打つような歓喜かんきの声が起こる。


「勝ったのは、我らが王!!

 ジュリアン陛下だっ!!」


口々に味方が声を上げる。

それを見ていた敵兵は苦々しい顔でえ返す。

「おのれっ!!

 子供相手になんと無慈悲むじひ真似まねをっ!!

 やはりドラゴニオン王国の民は残らず殺さねばならんっ!!」


敵の勢いが増し、一気に前線が進撃を始めたのだった。

これは予想外だった。てっきり彼らの戦意が消沈するものと思っていたのに・・・・・だが、これは逆に有難い。

僕は敵の進撃から逃れるような素振りをして城壁まで下がると壁を登って城内に戻る。僕が逃げ去る姿を見た大勢の敵兵が追いかけてきた。

「グレイっ!!

 はからずとも狙い通りになったな!!」

「陛下っ!!

 お見事であります!」


グレイは挨拶あいさつそこそこに間を置かずに声を上げる。

「開門せよっ!! 

 ジュリアン陛下がお作りになられた勢いに乗って敵を追い返すぞっ!!」


その声を合図に東門が開けられる。そこには僕を狙って連合軍の兵士が集結しようとしていた。

城内から百名ほどの兵を一旦突撃させると、ドラゴニオン王国の兵士たちは鬼気迫る勢いで進撃してくる大軍彼らの姿に恐れおののき逃げるように城に戻るのだった。

「退却! たいきゃーく!!」

「敵の勢いが強すぎるっ!! 逃げろー!」


慌てふためいて逃げるドラゴニオンの兵を見て、連合軍の殺意が増す。誰も彼もが猪突猛進ちょとくもうしんに東門に向けて突っ込んでくる。

「追えっ!! 追えっ!!

 命乞いのちごいしようが逃げ出そうがドラゴニオン王国の兵士は皆殺しだっ!! 追えっ!!」

連合軍の兵士の勢いはなおも活気づき、その勢いは一層増していた。

その流れに危険を察知した彼らの中のかんの良い誰かが「罠だっ!! 止まれーっ!!」と叫んだが、最早もはや誰もが止まることができなかった。

開門された東門に向けて一目散いちもくさんに逃げる兵士を追って突撃した彼らは、そこで地獄を見ることも知らずに進撃した。


そして・・・・・・

多くの兵士達が悲鳴を上げて東門に入ってすぐの位置にある土精霊騎士が開けた大穴に落ちていく。

猪突猛進に突っ込んできた彼らはドラゴニオンの兵士が東門に入るとすぐに左右に分かれて退避たいひした意味も考えずに東門を制圧するために最短距離である直線方向に進んでしまう。

そして、ドラゴニオンの兵士が全員退避したのちにその大穴をふさぐ戸板が外されたのを呆然ぼうぜんと見つめながら突っ込んでしまったのだ。彼らは深さ4メートル以上ある大穴に落下していき、即死したり、重傷を負ったりしたが、助かった者もあとから落ちてくる兵士たちに押しつぶされて死んでいった。

落ちた兵士たちが大声で悲鳴を上げているが前方で何かあっても後方の兵にはすぐに異常は伝わらない。後ろから押され押されして多くの兵が大穴に押し出されて無駄に死ぬ。

そのうちグレイの掛け声とともに東門に侵入した兵士達に向けて矢が射かけられる。そうなったときにはじめて敵兵は異変に気がついた。

しかし、壁に張り付くように集中した兵士達もすぐさま撤退する事が出来なかった。彼らの後方にはもっと事情を知らぬ兵士たちが押し寄せていたのだから・・・。

多くの兵が投石と矢によって死んでいく。

誰も個人的に憎い人達ではなかった。僕らは彼らを憎む動機も見つけられないまま、彼らを殺す。

理由はただ一つ。

生き残るためだった・・・・・

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