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化物じゃないかっ!!

父上の作戦は決行されて、僕達は少年少女保護庁しょうねんしょうじょほごちょうの建物にやってきた。

護衛は最低限の数のみ。

僕、クリス、ミレーヌ、マリア・ガーン、騎士団長ギャレンタイン・バレッドの4名のみ。

さらに言うならば、スティールとユリアも少年少女保護庁には、いる。

僕達がわずか7名だけになった理由は一つ。王都へ潜伏せんぷくして僕達転生者を奪い去ろうとたくらむ敵の兵士たちをおびき出すのだ。

勿論、実際に行動するメンバーはこれだけではない。

王家護衛の任につく精鋭部隊が総勢30名が選抜されて、近隣の住宅や少年少女保護庁の入っている建物に潜伏して敵が奇襲を仕掛けてくるのを待っている。

僕達は、わざわざ自分たちの存在をアピールするために大芝居)おおしばい)を打った。

その芝居とは、道化を雇い大声で僕達の存在をアピールさせたのだ。

「敵国の脅威にさらされて怯えている哀れな国民よ!! 恐れることはないっ!!

 あの大震災から我々を救いたもうた奇跡の子、転生者にて我が国の第一王子ジュリアン様が

 同じく転生者の神童ナザレ村のクリスティーナを連れ従えて、城下へ激励げきれいおとずれられたぞっ!!

 安心せよっ!! ご覧あれっ!! 奇跡の子が城下へ来られたぞっ!!」

これで目立つなというのが不可能なほどの宣伝をしながら、僕らは城下を練り歩いた後に少年少女保護庁の中へ入っていったのだ。

恐らく潜伏している敵兵は必ず、僕達の存在を狙ってくる。狙ってこないわけがない。

あの保護区画の中にいたら、永久に手を出せないのだから・・・・・。

今こそ、彼らにとって千載一遇せんざいいちぐうのチャンスの時であり、同時に最後の時を迎える罠なんだ。


父上には敵が潜伏して襲ってくることに対する確信があった。

それは災いの神ドゥルゲットが言ったのだ。

「気を付けろ? マヌケな転生者ども。お前たちはすでに狙われているぞ。

 せいぜい、気を付けることだ。」と。

だから、絶対に敵が動く時が来るはずだ。

僕達は少女保護庁の中に入ると、防御態ぼうぎょたいせい勢を整えて、敵を待ち受ける。

ここで敵を撃退すれば、僕達の領土を不法に占拠している敵軍の士気はガタリと落ちて、戦況に大きな影響を与える。士気の落ちた軍が空腹に耐えられるわけがない。戦場で兵站へいたんが満ち足りているわけがない。少しでも長期の戦争に耐えられるように指揮官はたくわえを少しずつ切り崩す。結果として兵士は常に飢え、空腹の日常を過ごしながら補給が来るのを待つのだ。戦争とはそういうものだ。

だからこそ、士気が落ちれば、もう兵士たちは空腹に耐えられなくなる。撤退てったい余儀よぎなくされるのだ。

この作戦は、僕達を守るという後ろ向きな作戦ではない。僕らが敵を撃退し、敵の士気を衰えさせて敵を後退せしめる攻撃的な作戦なのだ。


そして、僕達が少年少女保護庁と王城を出入りするようになって、3日目のこと。

遂に敵が動いた。

近くの民家に潜伏していた兵士が日光をガラスで反射させた信号で伝えてきたんだ。

「テキ、ウゴケリ」。

騎士団長ギャレンタインは、わざと建物を解放して民衆が建物に入りやすいように仕向けていた。

端眼はために見れば、役場を訪れる民衆にしか見えない。実際には、そのほとんどが騎士だった。

そんなことも知らぬ敵兵は民衆を装って建物に侵入すると、一気に抜剣ばっけんして、一挙に僕達がいる建物の3階に突撃してきた。

たちまち起こる悲鳴と怒号どごうっ!!

「きゃああああっ!!」と、女性職員の声が上がると同時に職員にふんする騎士が「全員、退避っ!! にげろっ! 巻き込まれるぞっ!!」と怒鳴る。

敵の進む道に敵はいない。一気呵成いっきかせいに攻め込んできた敵は無人の野を行くように駆け抜ける・・・・・・。

そして、気が付く。

「そんなわけがないっ!!」ということに。

仮にも第一王子が出入りする建物に武装勢力が突撃をしてきたというのに、猫も杓子しゃくしも抵抗せずに逃げ出すだろうか? いや、一般職員はともかく、一切の護衛兵士がいないわけがないのだっ!!

その事に気がついて立ち止まった敵兵士たちが振り向くと、後退路こうたいろは、騎士団に封鎖されていた。

敵兵士のリーダーは叫ぶっ!!

「もはや、これまでっ!! 命に代えても第一王子を捕獲するために前進あるのみっ!!」

自分たちが罠にはめられたと悟った後のリーダーの決断の速さも素晴らしいが、それに付き従う部下たちの覚悟も凄い。きっと、総員そういん。あのリーダーと共に死ぬ覚悟があるのだろう・・・・・。

僕達は、その敵兵たちの覚悟を称賛しょうさんする気持ちで待ち構える。


そして、ドカッ!! 、と扉を蹴破る音と共に敵兵たちが僕達のいる少年少女保護庁の有る広間に突撃してきた。

僕は、勇敢な彼らを拍手で迎える。

「既に罠に嵌められたと知りながら、よくぞ来たっ!!

 勇敢な騎士おとこたちよっ!!

 我が名は、ジュリアン。ドラゴニオン国王ミカエラ王の第一王子ジュリアン・ダー・ファスニオンであるっ!!

 名を名乗れ、勇敢な騎士よっ!!

 今日、この場で君の命潰いのちついえるともっ!! 君の勇気は我が名誉とならんっ!! 君の高潔こうせつな精神は、我が魂の誇りとならんっ!!

 終生しゅうせい、君の名を忘れはしない。さぁ、男ならば堂々と名乗りを上げたまえっ!!

 勇敢な騎士達よっ!!」

僕は、精鋭騎士団に囲まれたまま、両腕を敵兵に差し伸ばして最大限の称賛を与える。

その姿に圧倒されたように敵兵たちは固まっていたが、やがて剣を納刀のうとうすると、騎士の作法にのっとり床に剣先けんさきを打ち付けながら、一人づつ名乗りを上げる。

「我が名は、ホドリゴ・ベン・ラー!!」「我が名は、クリス・ベン・オニールっ!!」

「我が名は、サドリ・ベン・ハンっ!!」・・・・・一人一人が名乗りを上げた最後に、敵兵のリーダーと思しき男が名乗るのだった。

「我が名は、水狂すいきょうの魔剣士グー・グー・ドーっ!!

 ジュリアン王子っ!! 勝ったと思うなっ!! 

 私の部下全てが命絶えようともっ!! 私一人でもお前をつかまええて見せようっ!!」

水狂の魔剣士グー・グー・ドー。

その名を聞いた騎士団長ギャレンタインは、僕の指示も待たずに大声で命令を出したっ!!


「殺せっ!! たとえどんなことをしてもあの男を殺せっ!! 決して殿下に近づけるなぁっ!!!!」

ギャレンタインの怒号に合わせて騎士団たちもたけびを上げて、グー・グー・ドーに突撃する。

この場にいた僕の家臣たちの誰もが彼の脅威きょういを知っていたのだ。

水狂の魔剣士グー・グー・ドー。

戦場において彼と出会うことは死を意味した。敵国ランゲルで最強の騎士。

水の精霊ラー・グー・ドーの生き血を与えられし魔剣士のことを知らぬ者はいない。

ラー・グー・ドーの寵愛を受け、強烈な水魔法を授けられし、この魔剣士は正に最強だったのだ。

単独で多くの兵士を殺し、その遺体を水底に沈め、勝利の美酒に酔いしれる・・・・・・。

そんな騎士を送り込んできたのだから、敵国ランゲルがこの作戦に賭ける思いの強さを知る。

僕達は見抜けなかった。こんな敵勢力の中心にグー・グー・ドーを送り込めば、如何いかに最強剣士と言えど、命を落とす確率が高い。そんな危険をおかしてでも、敵国が転生者を連れ去るために最強騎士を送り込んでくるほどの覚悟を決めていたことを僕達は見抜けなかったのだ!!


僕の精鋭騎士団は、敵を前後左右から抜け目なく襲い掛かり、次々と殺していく。

にもかかわらず、一人、その包囲網を突破して突撃してくる男がいた。

「水流よっ!! 巻きつらぬく水流よっ、我が敵を滅ぼせっ!!」

水狂の魔剣士グー・グー・ドーが吠えると、何もないところから水の槍が出現し、回転しながら僕の家臣の体を貫く。

水狂の魔剣士グー・グー・ドーがその大剣を振るうと、僕の家臣の腕が吹き飛んだ。

最小の呪文詠唱しかしていないのに高い殺傷力を誇る水魔法を操り、人並外れた膂力りょりょくで人をほふるっ!!

信じられないほどの攻撃力を秘めた水狂の魔剣士グー・グー・ドー。

僕は、戦慄せんりつしたっ!!

「化物かっ!! 奴はっ!!」

5枚の壁で守るかのように僕を守っていた騎士団の半分があっという間に引き裂かれるように蹴散けちらされてしまった。信じられないほどの戦闘力だった。

「おのれっ!! 調子に乗るんじゃないわよっ!!!」

魔法騎士マジックナイトのマリア・ガーンが吠えた。

その声に合わせてギャレンタインも声を上げる。

「マリアの詠唱まで援護しろっ!! 防御にてっして身を低くして迎え撃つぞっ!!」

「おおおおー---っ!!」

ギャレンタインの合図に合わせて騎士団はひるむことなく、僕の家臣たちは水狂の魔剣士グー・グー・ドーを迎え撃つのだった。

「火の国の王の家臣にしてうるわしの女騎士ダー・ラー・ダーよっ!!我が怨敵を焼き滅ぼす為、焔弾ほむらだま龍檄りゅうげきの助力を魔法騎士マジックナイトマリア・ガーンがかしこみ畏み願いたてまつそうろう!」

マリア・ガーンが詠唱えいしょうすると次元の壁を切り裂いて火の国の王の騎士団に所属する女騎士ダー・ラー・ダーが現れた。炎を身にまとった美しい女騎士が両腕を上げるとその背後に大量の炎弾が現れる。そして、ダー・ラー・ダーが両腕を振りぬくと、炎弾が敵軍に降り注ぐ。敵兵は悲鳴を上げながら炎に撃ち抜かれて死に絶えていく。

その姿を確認するとダー・ラー・ダーは再び次元の壁を切り開いて火の国へ帰っていった。

水狂の魔剣士グー・グー・ドーだけが、その強烈な水魔法で炎弾から身を守ることが出来た。

マリアの魔法は正に高位魔法だった。

にも、関わらず水狂の魔剣士グー・グー・ドーには傷一つ付けられなかったのだ。

「ち、畜生・・・・。私の魔法じゃ・・・・届かないのか・・・。」  

高位魔法に魔力の全てを注いだマリアが意識を失って倒れた。無理もない・・・・・。マリア・ガーンの魔法はそれほど強烈な魔法だったのだ。それこそ、水狂の魔剣士グー・グー・ドー以外を全滅させるほど強烈な魔法だった。

これほどの魔法を使っても倒せない。それが大国ランゲル最強の騎士なのだ。

だが・・・・・マリア・ガーンの魔法は無駄ではない。

なによりも水狂の魔剣士グー・グー・ドー以外を倒してせしめたのだから・・・・・。

そして・・・・・


「見事だ。水狂の魔剣士グー・グー・ドー。

 よくぞ我が騎士団最強の魔法騎士マリア・ガーンの魔法を防いだっ!!

 だが、お前の負けだよ・・・・・。」

僕がそう言うと、水狂の魔剣士グー・グー・ドーは怪訝けげんな顔をした。

「ジュリアン殿下。私の部下は敗れたが、私はまだ健在けんざいだ。しかも、殿下は部下の多くをすでに失っている。

 残された兵力だけで私を止められるおつもりか? これ以上、無益に部下の命を失いたくなければ、私についてこられよ。我が王は殿下に危害を加えません。好待遇こうたいぐうで殿下をお迎えする準備がございます。

 さぁ、無駄な意地を張らずに、もうあきらめなされっ!」

水狂の魔剣士グー・グー・ドーは、剣を僕に向けながら降伏勧告こうふくかんこくをするのだった。

「ははははははっ!!」

僕は大笑たいしょうする。こんな茶番があるか。

こんな出鱈目でたらめがあるのか・・・・・。全く、恐れ入るよ・・・・・。


「水狂の魔剣士グー・グー・ドーよ。君は今、なんといった?

 一体、どう見れば、僕が多くの家臣を失ったように見えるのかね?」

全く、恐れ入るよ。クリス。

僕の可愛いクリスティーナ・・・・

まさか、一瞬であの数の負傷兵を・・・・・致命傷を負った負傷兵を治癒ちゆせしめるなんて・・・・・

僕の言葉を怪訝な顔で聞いていた水狂の魔剣士グー・グー・ドーは、周囲を見て目をむいた。

立ち上がっていた。

確かに水狂の魔剣士グー・グー・ドーの魔法で体を貫かれたはずの兵士が。

確かに水狂の魔剣士グー・グー・ドーの剣で薙ぎ払われたはずの兵士たちが・・・・・


まるでゾンビのように立ち上がっていたのだっ!!

「こ・・・これはっ!!・・・・・・まさか、回復魔法なのかっ!!?」

「まさか、・・・・・まさか、そこの少女が・・・・・一人の魔法で?」

水狂の魔剣士グー・グー・ドーは戦慄したっ!!目を疑うほどの高位の回復魔法で致命傷を負った兵士たちを復活せしめる少女がどこにいるというのか?

水狂の魔剣士グー・グー・ドーは、やがて、納得したように呟いた。

「そうか・・・・・彼女がうわさに聞く、神童しんどう。ナザレ村のクリスティーナか・・・・。」

がっくりとうなだれる水狂の魔剣士グー・グー・ドー。

「グー・グー・ドー。再び、彼らを倒して僕に歯向かえるかね?

 さすがの君も既に疲弊ひへいし、もう一度彼らと戦えるほど魔力が続きはしまい。

 降伏こうふくしたまえ。悪いようにはしない。」

今度は僕が降伏勧告をする。

水狂の魔剣士グー・グー・ドーは、抵抗することはなく、剣を捨てて、ばくに付く。

手足を縛られ、呪文を唱えられないように猿轡さるぐつわをはめられた哀れな魔剣士は、恨めしそうにクリスを見た。

「君たちは一つ勘違いしていた。転生者で恐ろしいのは第一王子ジュリアンではない。

 僕のクリスティーナなのだ。」

魔剣士は、納得するように目を閉じて連行されていった。

それを見送ってから、クリスも魔力を失って気を失った。

僕は、彼女が床に体を打ち付けないように抱き寄せると「全く、僕は立場がないよ」と苦笑いするしかなかった。

クリス。恐るべきチート・・・・・・。

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