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おびき出すぞっ!!

ドラゴニオン王国は、遠い昔、バー・バー・バーン様と共に世界を救った僕の先祖を始祖しそとする。

始祖は元は人間であったが火龍となり、その力で精神の悪い神々と戦って世界を救ったとされる。

僕達ドラゴニオン王国の王族がバー・バー・バーン様という規格外きかくがいに高位の存在の恩恵おんけいを得られるのも、始祖とバー・バー・バーン様が親子同然の間柄あいだがらであったことに由来ゆらいする。

王家に権威を持たせるための、にわかには信じがたい伝説だと、僕はずっと思っていた。

だが、実際にバー・バー・バーン様が僕達の守り本尊ほんぞんだろ知った時、それが夢物語や権威けんい付けのホラ話でもないと知った。

それ故に名乗りを上げるときに「世界を救いし火龍の末裔まつえいにして、転生者である。」と堂々と名乗ったのだ。

しかし、その名乗りを受けて敵兵からは反発があった。皆、口々に文句を言ってきた。

「おいっ!! あいつが転生者でドラゴニオン王国の国王だとよっ!! あいつを殺せっ!!」

「転生者の国が世界を滅亡に導こうなどととんでもない話だっ!! 殺せっ!!」

「火龍が人間を救うなんてそんなバカな話があるかっ!!」

爬虫類はちゅうるいが転生者の子孫をもったとは大笑いだなっ!!」

誰も彼もが、僕を侮辱ぶじょくする声を上げた。

怒りに満ちた兵士たちが叫ぶ姿は正直、ちょっとゾッとするものがあった。今、目の前にいる3万の人間が僕一人にめがけて怒り狂って罵声を浴びせてくるのだから、当然ではある。今、この人たちの怒りは僕だけのものなのだ。僕一人で受け止めなくてはいけないのだ。そう思うと、改めて覚悟決まってくる。


だが、肝心かんじんの精霊騎士は一向に名乗り出なかった。

このまま罵声ばせいびせているだけのまま戦争が止まり続けるわけもなく、いずれ、彼らは突撃してくる。

それまでに僕は精霊騎士をおびき出さねばならない。

僕は再び叫んだ。


「さぁ、どうなされた!? そなたらのようする精霊騎士様は本物の腰抜けさまか?

 ならば、そなたらの精霊騎士の国の王へ同情してやれっ!!

 ”決闘を申し込む相手からコソコソ逃げ隠れる腰抜けが配下では王はさぞかしご心労でござろう” となっ!!」


すると連合軍の中にわずかな戸惑いが生まれた。

それはそうだろう。騎士の一騎打ちを逃げようとする精霊騎士が自分たちを守っているのかと、不安にもなる。そして、不安は軍の士気を大いに下げる要因となる。

ずっと姿を見せなかったが、この戦場の空気の変わり方をさすがに危険に思ったのか一人の精霊騎士が最前列の軍勢を割って単身、姿を見せる。


「見事な口上こうじょうであるっ!!

 こちらとしても王の恥となる行為は控えねばならんっ!!

 その安い挑発に乗ってしんぜようっ!! 」


背の低い美しい長髪の美少年の精霊騎士だった。

長い金髪はポニーテイルにくくり、まばゆいほどはっきりした緑の瞳にプルプルに潤んだピンク色の唇に褐色かっしょくの肌をした、それはそれは美しい少年だった。

比較的軽装備の鎧の両腰に片手剣を2本差した接近戦に向いた装備をしている。

軽装のためにその露になった細い太ももからは確かな瞬発力を感じさせる肉付きをしていた。

肩も腰も細く薄い。にもかかわらず戦士としての確かな強さがにじみ出ている。この世の者とは思えないほど美しいのにその立ち姿から強者であることを感じさせる少年だった。


「我が名はホーン・ホーン・クー。風と海の底の国の王に仕えし者なりっ!!

 さぁ、戦士ジュリアンっ!!

 降りて来て我と一騎打ちせんっ!!」


風精霊騎士か。

彼の出自から僕は彼の属性を読み取る。

だが、ここで彼の申し出を受諾して今すぐに決闘を始めるわけにもいかない。

「応っ!! 

 だが、ホーン・ホーン・クーよっ!!

 精霊騎士はお前一人ではあるまいっ!! 残る一人の精霊騎士とグー・グー・ドーもいつまでも怯えていずに姿を見せよっ!!

 特にグー・グー・ドーっ!! そなたは当国で私に敗れた恥辱をもう忘れたか?

 名誉挽回のチャンスを与えてやると言うのだっ!! 早々に姿を見せられいっ!!」

今度はもう一人の精霊騎士だけでなく連合軍の希望の光であるグー・グー・ドーまでおびき出そうとする。



ホーン・ホーン・クーは、僕の挑発には乗らなかった。

「そなたの相手は私一人で充分である。

 どうしてもというのなら私を殺してから申せっ!!」

どうやら、徹底的にグー・グー・ドーの存在を隠したいらしい。だが、兵士が騒ぎ出すまで精霊騎士も姿を見せなかったことといい、その頑なに存在を隠したい姿勢が逆に僕に彼らの狙いを悟らせてしまうのだった。余程の作戦を持っているのだと想像する。恐らくは城内に入るまで普通の人間のフリをして、僕らの陣営の精霊騎士が応戦するために城の外へ出た時に城内を攻撃、皆殺しにしようという計画だろう。

僕は、ニャー・ニャー・ルンに小声で「もう一人の精霊騎士かグー・グー・ドーが混乱にじょうじて入って来ぬように警戒しろ」と命ずると、城壁を飛び降りてホーン・ホーン・クーの前に立った。

そこで今度はホーン・ホーン・クーが逆襲ぎゃくしゅうとばかりに挑発する。


「見よ、者共っ!!

 ここの王子はろくな教育を受けていないらしい。

 大将がノコノコ前線に出るとは笑止千万しょうしせんばんっ!!

 それに比べて我らが将の慎重しんちょうさを見よっ!!

 将を見比べれば、すでにどちらの勝利か決定したようなものではないかっ!!」


ホーン・ホーン・クーは、その口上だけで混乱していた自軍の兵たちを鼓舞こぶせしめた。

「グー・グー・ドーっ!!」「グー・グー・ドーっ!!」「グー・グー・ドーっ!!」

彼らは自分たちにとっての希望の光であり軍神扱いし始めているグー・グー・ドーの偉大さをたたえるためにその名を叫ぶ。僕はその引き立て役にされたわけだ。

見事な手腕だ。僕よりも幼い見た目をしているが、相当な曲者だ。精霊騎士はその寿命の長さから見た目で年齢は把握はあくできない。きっと、僕よりも何百年も生きていて経験も豊富なのだろう・・・。

ならば、これ以上の口論は得策とくさくではない。


僕は魔神フー・フー・ロー様より下賜された魔法の槍を手に取ると、ホーン・ホーン・クーに穂先を向けて告げる。

「この期に及んでは、これ以上の口上は無用であると存ずる。

 私とそなたの一騎打ち、いざ、尋常じんじょうに始められませいっ!!」

ホーン・ホーン・クーは、僕に槍の穂先で指差すように指示されると、美しいその顔を怒りでゆがめながら両腰の片手剣を諸手に抜刀ばっとうしながら「承知しょうちっ!!」と吠える。

それが一騎打ちの契約が成された瞬間だった。


精霊騎士は現世の世界で行動するときに場合によっては契約に縛られる。一騎打ちの場合に於いていえば、つまりそれは他者の手助けを貰わないということだ。

これで、僕は他の兵士、他の精霊騎士とグー・グー・ドーの事を気にせずに戦いに集中できる。

敵の軍勢も城内の仲間も僕とホーン・ホーン・クーの一騎打ちに集中して声も上げずに見つめている。

そうやって、静まり返った城壁の外で僕の集中力はホーン・ホーン・クーへと向けられていった。


静まり返った中で、ザクッザクッと小さな足音を立ててホーン・ホーン・クーがゆっくりと近づいてくる。彼の顔からは余裕と自信が感じられる。

それもそのはず、彼は歩いているというのに体の芯が全くぶれない。おかげで彼の第一挙動きょどうの攻撃が左右どちらから来るのか想像できない。見事な体捌たいさばきだ。・・・だが・・・

っ!!!」

彼が攻撃の間合いに入る直前に、僕は短く強く息を吐くと同時に深く踏み込んで槍の一刺しをお見舞いする。ホーン・ホーン・クーは、必死の形相で両手に持った剣で僕の槍を受け止める。

槍を受け止められた後もその肉体をつらぬかんと圧力をかける僕の槍を両手の剣で押し固める。二人の力がぶつかりギリギリと金属と金属がこすれる音がする。

「・・・貴様っ!!」

ホーン・ホーン・クーは、悪態あくたいをつきながら力の限りを使って僕の槍を右足で蹴り払うと同時に横走りに飛んで移動する。

接近戦は一言でいえば、距離と良い位置ぽじしょんの取り合いになる。このポジション取りを優位に進めるためにホーン・ホーン・クーは、移動するのだった。その速度は先ほどまでのゆっくりとした歩みとは違い、音速を超えていた。だが、僕はその動きを完全に追いかけて・・・いや、彼の動きを捕えていた。

「貴様っ・・・・・貴様っ!!」

ホーン・ホーン・クーは、狼狽うろたえながら両手に持った剣を振るって僕の追撃ついげきを振り払おうと必死だ。

彼はその時、気が付いていた。僕が精霊騎士との戦いに慣れていることを・・・・。

魔神フー・フー・ロー様の館で多くの精霊騎士と稽古を積んできた僕にとってホーン・ホーン・クーは、精霊騎士であっても射程圏内しゃていけんないの男だったのだ・・・・・。

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