どこに行ったっ!!
僕が魔神フー・フー・ロー様と初めて会った時に時間稼ぎに戦ってくれた5人の土精霊騎士が召喚術に応じて地面からすーっと登場する。
この精霊騎士達にはそれぞれ個性があり、それぞれが得意魔法が異なり、お互いを補助しあうようにして存在する5つ子の精霊騎士だ。
5つ子は僕を見て驚きの声を上げた。
「あっ!! 坊ちゃん、お久しぶりでさぁっ!!」
「おい、兄ちゃん。こいつはもう坊ちゃんじゃねぇ。ドラゴニオン王国の王様になったってよっ!!」
「そうだ、そう聞いたぞ」
「俺も聞いたぞ聞いたぞ。兄ちゃん、こいつはもう殿下じゃねぇ。陛下って呼ばねば・・・・。」
「へぇ、坊ちゃんがねぇ・・・・。ちょっと見ねぇうちに立派になったもんだ。」
五人の精霊騎士は、にぎやかに語りだした。長男がグー、2男がラー、3男はガー、4男がユー、5男がドーという親の愛情が感じられない名前をしていた。ちょっと抜けた感じもするが、でも意外と頼れる5人だ。僕は彼らに命令する。
「さっそくだが、諸君に頼みたいことがあるっ!!」
このボロボロの城壁を君たちの魔法で補修してほしい。
城壁の高さをあと人間3人分は高くしてくれ、厚みは倍に。
それから、それぞれの門には鉄の門扉を。
半日以内でやってくれ。わかったな?」
その言葉を聞いて長男のグーが「ああっ!? 坊ちゃん、またそんなご無理をっ!?」と悲鳴を上げたが・・・「まぁ、半日あるなら全然、終わるか・・・。」と言って仕事を始める。
働く働く、五人の土精霊騎士たちは黙々と働き続け、あっという間に城壁を直して行くのだった。
城壁の外からグー・グー・ドー率いる連合国軍があっという間に修復されていく城壁に戸惑う声がしていた。
「おいっ!! あの城壁を直しているのは精霊騎士ではないかっ!?」
「さっき、城壁へ登っていった奴を含めたら、これで精霊騎士は7名になるっ!!」
「7名だと? さ、作戦を立てなおさねば、無駄死にすることになるぞっ!!」
敵兵は冷静になって一旦、城から一定の距離を保ったところまで引いていき、待機している。こちらの出方と攻め方を考え直したいんだろう。
しかし、それは僕達にとっては好都合と言うもの。今のうちに作戦を立てなおさなくてはいけない。
ニャー・ニャー・ルンにこの拠点にいる指揮官クラスの貴族たちを集めさせると作戦会議をする。
「食料と水は足りているか?
何日分、持つ?」
僕の問いにまだ若い貴族が答えた。まぁ、若いと言っても僕よりも大分、年上なんだけどね・・・・。
その貴族の名はオースティン・ベン・グレイ男爵。伯爵家の跡取り息子だが、いまだ伯爵位は継承していない。24~5歳といったところか。
とにかく、グレイ男爵は事細かに状況を説明してくれた。
「陛下。
食料は一日1食にしても5日分全員に行きわたるかどうかであります。
水はもうすぐ底を突きます。
それから、今は籠城中ですので主力になる武器は城壁の上から敵を討つ矢になりますが、そろそろそれも尽きます。矢の代わりに投石をうまく組み合わせて使ったとしても良く持ちこたえられてもあと2回の攻撃を持たせるのがやっとではないでしょうか?
それが今の現状です・・・・。」
事細かな状況説明に僕は感心する。
「この絶望的な状況でよく詳細に物事を把握しているな。感心する。」
すると彼ははにかみながら「ニャー・ニャー・ルン様がずっと泣きながら戦っておられただけでしたので、私が細かなことを把握しなくてはいけなかっただけです。必死でした。」と答えた。
「君は必ず生き残れ。頼りになる指揮官は一人でも多い方が良いからな。」
僕はグレイ男爵の肩をポンッと叩いて彼の功績をたたえた。
「しかし・・・・。君の話だと状況は最悪だな。この物資だと合流地点までたどり着けたかどうかというところ。本当にカツカツの所だったんだな。
・・・・ここまで何人死んだ?」
グレイ男爵は僕をじっと見ながら「・・・・240人です。陛下・・・・。」と答えたのだった。
240人!!
一言で使者の人数を語るには大きすぎる数字だ。僕はその報告に言葉を失った。
そんな僕にグレイ男爵は事の成り行きを説明してくれた。
「4日前のことでした。谷あいを我々が通っているときにニャー・ニャー・ルン様が異変に気が付かれました。そこは、敵が崖の上で待ち伏せをしていたのです。
どういう理屈かわかりませんが彼らは私達がどこを通るのかわかっているようでした。それで先回りして待ち伏せされたのです。連中は我々に向けて矢の雨を降らせました。ニャー・ニャー・ルン様がそれを打ち落としつつ、崖を駆け上り、谷の上の敵兵を殺しました。
敵は驚いたことに誰一人逃げ出さず。またニャー・ニャー・ルン様に目もくれず最後まで我々を殺すために弓矢を射り続けました。ゾッとしました。彼らは戦争に来ているのではない。我我を殺しにきているんだと、その時に悟りました・・・。
敵は大勢でしたので流れ矢を受けて死んだ者もたくさんいましたが、なんとか谷あいを一気に抜けて平原に出ました。
・・・ですが、そこでもう一度、敵勢力と合戦になりました。
谷あいを超えたとき、もう我々を包囲せんと敵勢力が大軍で忍び寄ってきていたところに遭遇してしまったのです。ニャー・ニャー・ルン様を筆頭に我々も戦いました。平原で大軍との正面衝突でしたから百名を超える味方が亡くなりましたが、何とか勝ちを得ることができたのです。
ところが・・・・。勝利に安堵する我々にニャー・ニャー・ルン様が叫びました。
”気を抜くなっ!! 大軍が来るぞっ!! ”と・・・・。
ニャー・ニャー・ルン様が指さす方向の崖を見ると大勢の兵士の黒い影が押し寄せてくるのが見えました。恐ろしい程の数の兵士が近寄って来るのが、それでわかりました。
そうやって遠くから近づいてくる大軍を察知したニャー・ニャー・ルン様は取り乱しながらも進路をこの古城跡に変えたのです。
”ここに息を殺して隠れよう。敵が襲って来るにしてもここなら戦える。”と、仰ってね。
それで私たちはニャー・ニャー・ルン様のお導きに従って、ここに来ました。
しかし、”息をひそめて隠れよう” などとニャー・ニャー・ルン様は仰いましたが、我々は3000を超える数です。その足跡をたどればどこに行ったかを探ることなど容易なはずです。
きっとニャー・ニャー・ルン様は少人数同士の戦いの経験は多くても戦争をご存じなかったのでしょう。我我も疲労からか冷静に判断できずに精霊騎士様の言うことなのだからと鵜呑みにしてしまったのです。本来なら、戦争に慣れた私達こそニャー・ニャー・ルン様にご助言申し上げて籠城などせずにあのまま逃げ切る方法を選んでいれば、こんなことにはならなかったかもしれません。
そして敵は果たして我々を見つけて襲撃してきました。精霊騎士のニャー・ニャー・ルン様の奮闘の甲斐あって五度の猛攻を受けてもどうにかここまで持ちこたえられましたが、今までに随分と多くの兵を失いました。
それに出発当初は十分な蓄えがありましたが、それがいまにも底をつきかけています。
陛下が来て下さらなかったら、今頃は城壁を崩されて我々はには先がなかったでしょう・・・・。」
僕はかける言葉が見つからないほど、彼らが過ごしてきた地獄を知った。
だが・・・。そのおかげで多くの敵の情報を知ることができた。
「グレイ・・・。君は一つ誤解をしている。
それは君たちが籠城しようがどうしようが逃げ場などなかったという事実を君は知らない。」
僕の言葉にグレイは驚きの表情を見せた。
「逃げ場がなかった・・・・・? どういうことですか?
陛下にはどうしてそれがお分かりになるのですか?」
グレイの問いかけに応えよう。
「グレイ。彼らが最初に君たちを待ち伏せしていたのは絶対に偶然じゃない。
恐らくは、敵軍の中に疾風のローガンのような看破の眼をもった者か、密偵となることができる精霊騎士がいるのだ。
私にはわかる。何故なら、私にも同じ能力の仲間がいるからね。タイミングを考えれば偶然が過ぎる。これは必然だろう。きっと君たちはどこへ逃げても、いずれ先回りされていた事だろうね・・・。」
「そ、そんな・・・・・。」
グレイは何処へ逃げても結果は同じだったという絶望的な状況だったことを聞かされて、取り乱した。無理もないが・・・。
だが、問題はそれだけではない。
いないのだ・・・。
グレイの話の中にはいなくてはいけない男の存在が。
それがこの戦をさらに難しくしていることを伝えていた・・・・・。




