大河ドラマは重厚でないと燃えないっ!!
「ローガン、君はチェラーミの戦いや上田の合戦を知らない。
戦争が数だけではないことをせいぜい敵に思い知らせてやるさ。」
僕が自信満々にそう言うとローガンは首をかしげて「チェラーミの戦い? ウェーダの合戦? 聞いたことがありませんな。それも前世の記憶ですか?」と尋ねて来た。
その様子は当然の反応とはいえ、僕にとっては可笑しい事だった・・・。
「詳しいことは道中、オリヴィアに聞いてくれ。
日本人だった彼女なら真田昌幸が徳川家康の軍勢を二度も敗走せしめた上田の合戦は知っているはずさっ!!」
そう言ってローガンにオリヴィアを紹介するかのように手を差し伸べると・・・オリヴィアは下手くそな口笛を吹きながら、聞いていないふりをしていた・・・・。
「オリヴィア・・・・もしかして・・・・。」
「・・・・・・・。」
オリヴィアは、そっぽを向いて答えなかった。
「オリヴィア、知らないのっ!?
海道一の弓取りとうたわれた徳川家康が大軍をもって上田城を包囲したにもかかわらず、2度も手痛い敗戦をしたあの戦いをっ!!」
「そっ・・・・そんなの知りませんわよっ!!
大体、壇ノ浦の戦いとか関ケ原の合戦ならわかりますけど、そんなマイナーな戦争を知っているジュリアン様がマニアックなだけですわっ!!」
・・・
・・・・ま、マニアック・・・だと?
いやいやいやいや・・・。すっかり口調までお姫様になっちゃった今はともかく前世では男の子だったんだから、前世で色んな武将の逸話を調べたり、大河ドラマ見て胸を熱くしたりしたでしょっ!?
・・・・あ、大河ドラマは最近、なまっチョロい現代ドラマ化してて胸は熱くならないけど・・・・。
でもっ!! 男の子なら調べるよねっ!? 普通っ!!!
・・・違うかな? 僕、マニアックなのかな?
ちょっと、悩む。
・・・・。
・・・・・・・。
いや、今はそれどころじゃないでしょーうがっ!!!
僕は急がないといけないんだった!!
「と、ともかく。僕には勝利する策があるっ!!
特に僕には異能の力もあるし、大丈夫さっ!!
それよりも君たちも気を付けてくれよっ!! では、僕は戦場に向かうっ!!」
僕は自分がおかれた状況を再確認して、慌てて出かけようとした。
しかし、その手はオリヴィアによって止められてしまった。
「あんっ!! もう、ジュリアン様ったら!!
急に出て行かないでくださいっ!! お出かけの前にお仕事がもう一つ残っていることをお忘れですか?」
両腕で必死に僕を掴み止めたオリヴィアは恨みがましい目で僕を見る。ふと気が付くとミレーヌとシズールもそういう目で僕を見ていた・・・。
・・・?
・・・・・・・最初は何を言われているのかわからなかったが、気まずそうに僕から目を背けるローガンを見て自分が何をすべきか思い出した。
「全く、無粋な男で済まない。
それでは行ってくるよ、僕の可愛いお姫様たち・・・・。」
一人一人と熱い抱擁を交わし、行ってきますのキスをする。
その熱いキスに3人とも頬を赤く染め、瞳を潤ませて喜んだ。・・・・そこには僕が敗北することなど心配する様子は欠片も見えなかった。完全に僕を信じてくれている証拠だった。
その期待に応えなくてはいけないね。王として、彼女らの夫として・・・・。僕は良いところを見せないと・・・・。
そうやって覚悟を決めて、今度こそ僕が出発しようと思った時、ふと、あることに気が付いて足を止めた。
そうだ・・・・。どうして、わすれていたんだろう・・・・。こんな大事なことを・・・。
僕は天幕の出口で振り向くと、オリヴィアとローガンに声をかけた。
「言い忘れていた。君たちに頼みたい仕事があるんだ。
これは、魔神フー・フー・ロー様から言われたことでもあるんだが、君たちにしかできない仕事なんだ・・・・・。」
僕の頼みごとを聞いたローガンとオリヴィアは目をまん丸にして驚いていた・・・。
二人に頼みごとを済ませた僕は、走った。走る走る。走ってニャー・ニャー・ルンが籠城する古城跡まで一気に駈けていった。あまりに速く走ったので、さすがに息が切れたがそれでも10分もかけずに僕はニャー・ニャー・ルンが守る城まで駆け抜けることができた。
距離にしておよそ400キロと言ったところか・・・・。
城は3万の軍勢に隙間なく包囲されていたが、音速で駆ける僕を彼らは視認することができずに、ただ過ぎ去った後に消えゆく僕の姿を見て驚きの声を上げたのだった。
「何者かかが、城に向かっているぞっ!!」「早すぎるっ!! あれは人間じゃないっ!!」
彼らが声を上げた時はすでに遅し。僕は城壁を駆け上りニャー・ニャー・ルンと合流した。
ところで・・・。隙間なく包囲した軍勢をどうやって乗り越えて前に進んだかと言うと、文字通り彼らを乗り越えて僕は進んだ。つまり僕は高く飛び上がってから彼らの体を踏み台にして前に進んだんだ。
多くの兵士を蹴り殺してしまったが、いずれ殺さねばならん兵士たちだったので、罪悪感は全くなかった・・・・。そう、今の僕は完全に女の子になったオリヴィア同様に完全にこの世界の戦士としての性根になっていたのだった・・・・。そこに善悪はない。ただ、そのようにしか生きられない世界なのだと心のどこかで思っている自分が怖かったのは事実だ・・・。
しかし、今はまず、自分の部下たちの命が優先された。
僕はニャー・ニャー・ルンと合流すると彼女に感謝の言葉を述べた。
「はぁはぁっ・・・・。あー、しんどかった。
それからニャー・ニャー・ルン・・・。ありがとう・・・。
よくぞ・・・僕の部下たちを見捨てずに守ってくれたね・・・。
おめでとうニャー・ニャー・ルン。君の戦士としての誇りは挽回されたことを僕が保証するよ。」
息も絶え絶えだったが、最大の賛辞で彼女に感謝を告げると意外なことにニャー・ニャー・ルンは大粒の涙を流して僕に抱きついてきた。
「あああああっ!! もう、どうしようかとおもいましたぁ~~~。
来てくれてありがとうございます~~~・・・・。」
ニャー・ニャー・ルンは、精悍な見た目とは相反する性格の女の子のようだった・・・・・。
「私、私・・・。父上と母上が騎士だったから私も精霊騎士にされてしまっただけで、本当はヘタレの腰抜けのゴミクズ女なんですぅ~~・・・・。」
「おいおい・・・。自分のこととはいえ、言い過ぎだろう。」
「本当なんですぅ~・・・・。
私も騎士に憧れて一丁前にカッコつけて頭も刈りこんでるけど、本当は戦う前からフー・フー・ロー様に降伏したチキンのメス犬なんですぅ~・・・・
今もどうしていいかわからずに、ただ籠城して敵を殺していただけなんですぅ~~・・・。」
ころしていた・・・だけ・・・。
ボロ泣きしながらすっごい物騒なことを言うなぁと思ったけど、城壁の上から冷静に下を覗き見ると、僕が入ってきた方の東隣は死屍累々だった。一体、一人で何人殺したんだ、この女は・・・・。それで「どうしていいかわからないから殺した」って泣かれちゃ、いくら戦争とは言え殺された方はたまったもんじゃないぞ。
僕はニャー・ニャー・ルンの肩に手を置くと説教した。
「いいか、ニャー・ニャー・ルン。戦場では戦った敵の死は己の誉としろ。
そうでないと死んだ相手に申し訳ないと思え。」
「ふぁいい~~~。ぐすぐす・・・・」
ニャー・ニャー・ルンは、僕に説教されてやっと泣き止んだ。
しかし、こうしている暇はない。とにかく城壁が残る古城跡を籠城先に選んだのは間違いではないが、いくら何でもボロボロすぎる城壁だ。今は早急にこれを直さなくてはいけない。
僕は剣で右掌を切り裂いて大地に血を降らせると、王家と契約している5人の土精霊たちを呼び出す。
「大地に降り注ぐ王家の血をもって聞き給えっ!!我が名はジュリアン・ダー・ファスニオン!!
5人の精霊騎士よ! 契約による求めに応じて助力願い給うこと、畏み畏み願い奉り候!!」




