覚悟を決めよっ!!
僕は深呼吸の間に詐欺師になる覚悟を決める。
なるんだ・・・・。彼らを奮起させて気持ちよく死なせられる詐欺師にならなくてはいけない・・・・。
僕が詐欺師になるための時間は深呼吸の一瞬だけ・・・。それも兵士たちに僕が躊躇っている故の深呼吸と思わせてはいけない。大きな声を出すための深呼吸と思わせないといけない。
王は絶対にして不動。いかなる時も狼狽えずにして自信に満ち溢れていないといけない。そうでないものに誰が付いていくというのだ・・・・。
そんな覚悟を深呼吸の一瞬で僕は決めると、全兵士に届けとばかりに大声を上げる。
「諸君っ!!
死の覚悟はできたかっ!?
我々は、災いの神ドゥルゲットに使役されていたとはいえ、世界に混乱と災いの種をまいたっ!!
世界は我々を許さないだろうっ!!
我々を殺すその瞬間まで、恨み続けることであろうっ!!
ならば、我々の仕事は罪を受け入れて彼らに大人しく殺されることであろうか?
否であるっ!!
断じて否であるっ!!
何故なら、贖罪とはそういうものではないからだっ!!
罪を償うということは何か?
謝ることか? 反省することか?
賠償金を支払うことか?
そうではないはずだ。そんなものであってはいけないはずだ。
人間が罪を償うということは、その犯した罪以上の貢献をお返しすることではないか?
なれば、諸君らの犯した罪はその命でもってしても償うことは出来ない。
我々はやらねばならない。これまで犯した罪を償うことができるような社会貢献をっ!!
では、我々に何ができるっ!? それを答えることができる者など諸君らの中には、いないっ!!
そうであろうっ!?
だが、私にはできるっ!! 私にはそれを答えることができるっ!!
それは、私が転生者だからだっ!!
この世を救う宿命を背負った転生者だからだっ!!
諸君、これから私の言うことを恐れずに聞けっ!!
近く来る日、太陽神がお隠れになるっ!! その時に世界中の荒神が活発にお成りにられるっ!!。
その中には諸君らもチラとくらいは伝え聞いたことがあるであろう水の国の王に封印されし黒き神もおられる。
その黒き神が水の国の王の封印からお目覚めになり、世界に破滅をもたらすっ!!
だが、恐れることはない、諸君っ!!
私は預言を授かっている。我が神にして我が父、魔神フー・フー・ロー様より、黒き神に勝つ手段を授かっている。その方法でもって私は黒き神を再び封印し、世界を救う。私とオリヴィアはそのために生まれた。転生したっ!
ここまで話せば諸君らにもわかるだろうっ!! 我々が成すべき道をっ!!
我々には贖罪としてなさねばならぬ宿命があるっ!!
そのためには力が必要だっ!! すなわち、前線に広がった兵士を回収し、この地に帰還して黒き神と戦う力を蓄えなければいけないのだっ!!
ここまで聞いてもこの度の遠征に意味があるのか? と悩む者もいるだろうっ!!
世界を敵に回して戦火を広めた犯罪者の我々に何の正義があるのだろうか? と。
前線の仲間を回収するために出る被害の方が大きいのではないか? と。
我々に勝算があるのだろうか? と。
愚問であるっ!!
全ては諸君らの王である私を知らぬがゆえに起きる愚問であるっ!!
私は転生者であり、世界を救う者であり、諸君らの王であり、諸君らの心の闇を照らす光であり、諸君らの希望であり、諸君らがこの先を生きていくための道標であるっ!!
この世界に生きる理由も正義も称賛も全て私が与えようっ!!
誇りも、贖罪に値する功績も私が諸君らに与えるっ!!
だから、私を信じよっ!!
諸君らの王を信じよっ!!
転生者を信じよっ!!
私は立ち向かうっ!! この世を破滅に導くすべてのものにっ!!
そして、その全てに勝利せしめて見せようっ!!
だから、兵士諸君。もう惑うなっ!! 躊躇うなっ!! 心から希望の明かりを絶やすなっ!!
この戦いの後に諸君らには許される未来が来るっ!!
私がそれを諸君らに与えるのだっ!!
魔神フー・フー・ロー様の預言に従って我々は世界を救い、世界の人から感謝されなくてはいかないのだっ!!
それこそが私達の贖罪であり、生きる正義の理由であると知れっ!!
ただし、これは戦争だっ!!
戦場の苛烈さは諸君らも重々承知のことであろうっ!
これまで多くの友を戦争で失ってきただろうっ!!
親を失ったもの、兄を失ったもの、弟を失ったもの、叔父を失ったもの、甥を失ったもの、従弟を失ったもの、恋人を失った経験をした者もいるだろうっ!!
此度の戦もそれが起こることは覚悟せよっ!!
だが、死を恐れることはないっ!!
もし武運拙く、戦場で命を落とす頃があっても無念を残す必要はないっ!!
何故なら、我々は世界を救うからだっ!!
その戦いの最中に命を落としてしまったものがいたとして、その者の死をあざ笑うものが世界のどこにいようかっ!?
諸君らの死は、世界の犠牲となった英雄として、誰もが称賛するはずだっ!!
そうであろうがっ!!!
わかるか? 諸君っ!!
我々は死を恐れることなく戦い、そして、この破滅から勝利せねばならんっ!!
そのためには死を恐れるなっ!! 諸君らの死は名誉と語られることを私が保証しようっ!!
それを保証できるのは、私が世界を救う宿命の転生者だからだっ!!
命を懸けるのに、これ以上の担保があるか?
だから、安心して私の背について来いっ!!
私の背中には、闘神であらせられる魔神フー・フー・ロー様が付いているっ!!
武運長久は約束されたものと心得よっ!!
話はここまでだっ!!
諸君らの死の栄誉も生きる正義も事を成し遂げた後の称賛も皆々(みなみな)、了知した事と思うっ!!
あとは戦って事をなすだけだっ!!
では、諸君っ!! 行くぞっ!!
世界を救いにっ!!」
長々と大演説をかました後の城下は静まり返っていた。
演説にシラケているわけではない。それは、兵士たちの目に宿る希望の光がアレを待っていることを僕は知っている。
だから、それを実行して出立の儀式の終わりとする。
僕は右拳を高々と上げると宣言する。
「諸君っ!! 共に死のうっ!!」
僕の掛け声を合図に城下の者ども、兵士から小間使いに至るまで心を同じくして共に天も割れんばかりに叫んだ。
「共に死のうっ!!」と・・・・。
儀式は終わった。
僕は兵士たちに背を向けると、ニャー・ニャー・ルンとセーラ・セーラに向かって作戦開始の合図として小さく頷くと、風よりも早く颯爽と城から姿を消す。
姿の消えた僕の後を追ってニャー・ニャー・ルンとセーラ・セーラが走ってくる足音がけたたましく鳴り響くのだった・・・。
こうして僕は、立派な詐欺師になった。
戦場に向かう前の絶望に目が曇った兵士たちの瞳が僕の演説を聞いて光り輝くのを僕は確認した。
僕がそうした。彼らが気持ちよく死ねるように、死を恐れずに自分から戦争へ向かえるように僕が彼らを洗脳したんだ・・・・。
だが、僕は知っている。
僕は彼らと違うことを・・・・。彼らよりも遥かに超越した存在の僕と彼らの死の遭遇率の違いを。
共に死のうっ! などと言っておきながら、ほぼ、彼らだけに死を強要するようなものだ。
ああ・・・師匠も父上も常にこんなお気持ちだったのかと思うと、出立前の演説を行う姿を見て、ただただ憧れていた自分を恥ずかしく思う・・・・。
僕にとって、お二人は超越した存在だった。それ故に気が付かなかったのだ。
お二人にもきっと詐欺師になった苦しみをお持ちだったであろうことを・・・・。今、自分がこの立場に立って愚かな僕にも初めて分かった。
だが・・・・・。
だが、それでも兵士たちにも生き残る道はある。
いや、一人でも多くの兵を無事に帰還させて家族の下へ返してあげないといけないのだ。
その最大限の努力を僕は怠ってはいけない。
それが詐欺師となり果てた僕が彼らにできる唯一の贖罪なのだから・・・・・・。




