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僕、上手だったろっ!!

翌朝。出立しゅったつの時である。

僕は師匠・魔神フー・フー・ロー様から授かった魔法の装備品に身を包み、出立の準備をしていた。

そんな僕にオリヴィアはすり寄ってきた。


「・・・・・・行かないで・・・・。」


オリヴィアのその発言には驚かされたが、これが女になるということか・・・・。

そして、僕は男なのだから

「行かなくちゃいけないんだ・・・。」と答えるしかない。

オリヴィアも僕のそういう返事を覚悟していたようで何も言わずに頭を僕の胸にうずめるようにして抱きついたいた。

改めて明るい場所で抱きつかれると、オリヴィアの体の小ささを実感する。

その事に気が付いたら、僕は昨夜の出来事が気になってたずねた。

「昨日は、大丈夫だったかい?

 つらいところはないかい?」

オリヴィアは、耳まで真っ赤にして、いなと言う。

「・・・・だって、ジュリアン様があんなに激しくするから・・・・」

「ごめんね。

 でも、僕、上手だったろ? 君も何度も僕を求めて声を上げてたじゃないか・・・・。」

「うう~~・・・・。

 ジュ、ジュリアン様のバカっ!!」


顔を紅潮こうちょうさせながらうらみがましいような言葉を言う割に、その眼はうれしそうに見えた。

・・・・・良かった。オリヴィアを満足させたらしい。

これも全て、アーリーとの経験があってのことだ。前世では「童貞を守る。」なんて言う人たちがいたけれども、やっぱり女性の体の扱い方を知っているのと知らないのとでは全然違う。きっと女性も安心して体を任せられるだろう・・・・。昨夜のことを思い出して正直、自信が持てた。


そんなことを考えていると、僕の胸に顔をうずめていたオリヴィアが「・・・・・他の女の子のこと考えてたでしょ?」なんて鋭いことを聞いてきた。これが女のかんってやつか・・・・・。

全然、そういう意味では考えてないよ!! と、答えるものの、オリヴィアは若干じゃっかんの疑いを抱いたままのようだった。


ずっと、このまま今日はオリヴィアとイチャイチャしていたいけど、そういうわけにもいかない。

僕はオリヴィアの唇に ” 行ってきます ” の口づけをして戦場に出る部下たちの前に行かねばならないんだ。

名残惜なごりおしい唇が離れると、オリヴィアは、「あっ・・・。」と寂しそうな声を上げたが、覚悟を決めたように一歩下がるとうやうやしく僕に頭を下げて「いってらっしゃいませ。旦那様だんなさま。」と、答えた。


旦那様。

前世で僕が生きていた時代では夫婦間では絶対に使わないような古臭い男女感から生まれる言葉だったが、オリヴィアは少しほこらしげにその言葉を使う。

きっと、ずっと使って見たかったんだろう・・・・・。

僕がこの世界の王子として教育を受け、価値観が大きく変わったように、オリヴィアもミュー・ミュー・レイなどが師匠に対して呼ぶ「旦那様」という言葉にあこがれていたのだろう。それがきっとこの世界に生きる女性の価値観・・・。オリヴィアもこの世界の女性として例外なく結婚相手に「旦那様」と呼ぶことを夢見ていたに違いない。彼女がまだクリスの中にいた時、クリスもオリヴィアも村娘として教育され、女の子の体で生きてきたのだから当然のことだろう。きっと僕のいないところでは女の子同士で恋バナとかもして、恋愛話に花を咲かせていた事だろう。これまでそう言ったことを話してくれたことはなかったけど、きっと恋する少女はそういうものなのだろうとオリヴィアの様子から分かる。

僕にしても前世の自分は絶対に二股ふたまたなど考えるような人間ではなかった。それが、この世界の人間として本当の意味で生きる覚悟ができた時、シズールやミレーヌ。アーリーを室に入れる決断をした。

僕は王なのだから・・・・。

僕らは改めてこの世界を受け入れて、この世界の生き方の価値観に順応したのだと。魂ごとこの世界の住民になったんだなとしみじみと実感してた。


何時までもこの幸せな時間を二人で過ごしたかったけれど、ノックがその時間の終わりを告げた。

「陛下。ご準備は済みましたでしょうか?

 者どもが陛下をお待ちしております。」

「わかった。」

返事を返すと、僕の顔は戦士の顔になっていくのが自分でも分かった。

覚悟の時だ。


王宮の外へ出ると、城下には、本来のドラゴニオン王国と比べたらなけなしの数と言っていいほどの数しかいない騎士団がニャー・ニャー・ルンとセーラ・セーラたちと一緒に僕を待っていた。

出立の前に大臣が僕達3人に書状を渡す。

「陛下。これは私が書いた撤退てったい命令の指令書しれいしょです。

 陛下は前線の拠点の騎士団にとっては、いまだおたず者扱ものあつかいです。きっと正体を明かしても襲われるだけでしょう。

 こちらの精霊騎士様と合わせて陛下もこれをお持ちください。さいわい陛下は幻術で変装が出来ます。

 前線の兵士から信用していただけるでしょう。

 それから、お三方は書上の中ではバー・バー・バーン様の使いの精霊騎士と言う扱いになっておりますので、どうぞお戻りになられるまではそのおつもりでお願いします。」

大臣の説明は簡潔かんけつで分かりやすく、僕達3人は軽くうなずくだけで了知りょうちした合図とした。


続いて援護えんご部隊の指揮を執る疾風しっぷうのローガンが作戦の確認を行う。

「では、陛下。出立前に最後の確認です。

 まず、お三方が前線に走られ、散らばった兵団をまとめつつ3ルートを使って合流地点までお戻りください。ちょうど半分の位置です。

 合流地点には陛下の御出立ごしゅったつされたのち、私が指揮をる援護部隊が拠点を防衛してお待ちしております。

 ただし、2兵団が合流したのち1か月たっても最後の一兵団が戻らぬ場合は、そのままその兵団を残して一次撤退とします。そして、本国に戻り次第、再度の出撃をするかどうかは会議の後に決める。

 以上でよろしいかな?」

僕は頷くと2人の精霊騎士に告げる。


「戦争は個人戦ではない。君達だけなら生き残れる戦いも兵団を連れていれば、そう簡単な話で済むわけにもいかないときがある。

 できるだけ多くの兵士を生きて帰したいが、どうしてもままならぬ場合は、諸君らだけの戦線離脱せんせんりだつ帰還きかんも認める。精霊騎士の手に負えないような戦況だった場合、どうやっても助けることなどできないと私達もあきらめる。

 君達も無駄死にはするな。」

僕の言葉に二人は「お心遣こころづかい、誠にありがとうございます。陛下。」と、深々と頭を下げた。

1カ月の長きに渡って拠点を防衛する援護部隊もかなり厳しい戦いになるだろう。ここにはローガンだけでなく、オリヴィア、ミレーヌ、シズール、ゴンちゃんを置いていく。とにかく拠点を守らないことには作戦は成功しない。ここにこそ最大戦力を置いておくべきだ。

僕は昨晩の事もあって未だ身支度みじたくに時間がかかっているオリヴィア以外の3人にも告げる。


「拠点防衛は君たちの手にかかっている。

 僕の可愛い人たちよ。僕が戻るまでの間、頼んだよ。」

「んっ・・・。」と軽く返事をするゴンちゃんとは対照的にミレーヌとシズールはうやうやしく頭を下げると

「かしこまりました。旦那様。

 お早いお戻りをお待ち申し上げております。」と、声をそろえて言うのだった。

その姿はとても従順じゅうじゅんで健気な感じがするが、僕はついつい前かがみになった巨乳二人の胸元に目が行ってしまう。とくにシズールはアーリーに負けず劣らず犯罪的なサイズの胸をしている。プニ乳ロリータのオリヴィアとは真逆の魅力があった。そして、シズールと違って元暗殺者の均整のとれたプロポーションをしているミレーヌのきゅっと絞った腰元は思わず抱き寄せてしまいたくなる。

そんな僕のことを目ざとく気が付いた二人は、少しうれしそうに

「陛下。それはお戻りの時に・・・。」

と、催促さいそくするように言う。ああ・・・。気が付かれていたか。

本当に世の女性が言う様に女は男のスケベな目線に敏感びんかんにできているのね。

ちょっと、恥ずかしい思いをするものの、「僕、王様になってよかったかも・・・。」と思わずにはいられない瞬間だった・・・・・。


しかし、いつまでもよこしまなことなど考えているわけにもいかない僕は、咳払い一つすると、整列する兵士たちに大演説するべく彼らの前に進み出た。

彼らの前に立って、改めて彼らの姿を注意深く見て僕は眉をひそめた。

彼らを見て感じることは一言で言うと。

絶望。

彼らはこの戦争に疲れ切っていて、希望を見いだせない状態なのが見て取れた・・・・・。

ならば、僕が今、やらねばいけない仕事は一つだけ・・・・・・。


深呼吸一つ・・・・。

気を付けろ。今日のこの一言で兵士たちが奮起ふんきできるかかかっている。

そして悲しいことだが、もし戦場で戦って運拙うんつたなく死ぬときも気持ちよく死ねるような誇りと使命を彼らに与えてあげないといけない。

ならば、この大演説に必要なことは彼らに使命感と誇りを与えてあげること。絶望や後悔を与えてはいけないのだ。

やるんだ、ジュリアン。彼らに何時いつ、死がおとずれようとも無念の思いをさせないためにお前は詐欺師さぎしにならなくていけないんだ。

幼いころから見て来た父上がそうしたように・・・・。

もう一人の父上である魔神フー・フー・ロー様がそうしたように・・・・。

お前も王としてやらなくっちゃいけないんだ・・・・。

やらなくちゃいけないんだ・・・。

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