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王になったんだよっ!!

レーン・レーン・ルーンが「行かないでっ! 私の旦那様っ!!」と泣きわめこうが時間が来て師匠は慌てるガーン・ガーン・ラーに急かされて、自分の国に帰ってしまわれた。最後に言い残した言葉が「オリヴィアっ!! お前、いい加減にしろよぉおおお!!」なのは御愛嬌ごあいきょうというもの。これもいい思い出になる。それにもう二度とお会いできないわけではない。少なくとも僕の人生で3回はお会いできる。だから、僕はやれる。いや、やらねばならない。転生者として、オリヴィアと共にこの国を救わねばならない。


魔神フー・フー・ロー様が去ったことにより、謁見えっけんには静寂せいじゃくが訪れた。僕は、それを打ち破るかのようにオリヴィアの手を取り「僕達、やるよ。オリヴィア」と囁いてから、皆に聞こえるように大声で宣言する。


「ミカエラ王からの継承の儀式ここに成された。

 今より、このジュリアン・ダー・ファスニオンがこの国の王であるっ!!」


僕がそう宣言すると謁見の間から喝采かっさいが起きた。そして、同時に僕は告げる。

「これより我が国は、世界中から狙われる。そのために戦力の充実が急務きゅうむとなる。

 近隣諸国が盟約を破棄せぬうちに戦地に散った味方の撤退てったい急げっ!!

 本来ならば、王位継承の宴をしたいところだが、それもかなわぬ。ゆえに合わせてここに宣言する。

 私は、私と同じ転生者のナザレ村のオリヴィアをきさきとしてめとり、同時にそこな3名。ミレーヌ。シズール。アーリーを室とする。この宣言をもって結婚のを終えるっ!!」


謁見の間に更に大きな祝福の喝采が起こる。ミレーヌもシズールもアーリーも感極まって泣き崩れたし、オリヴィアも涙を流す。僕はそんなオリヴィアの涙をぬぐうことなくその唇を奪う。

「~~んっ・・・・!!!」

「・・・やぁ・・・んっ・・・ジュリアン様っ・・・・皆が見てるのっ・・・・」

なんて、キスの途切れ途切れにつぶやく彼女だったが、やがて小さく抵抗していた腕の力もなくなり、僕に全てを預けるように大人しくなってしまった。できれば、このままオリヴィアの全てをほっしたいところだが、先にも言ったように僕にはやることがある。


「それでは、これより作戦会議をり行うっ!!

 騎士団100人長以上の者、貴族を会議の間に招集しょうしゅうせよっ!! 1刻後に会議を始めるっ!!

 それ以下のものは軍備を整えて、味方の撤退援護てったいえんごに出られる準備を済ませておけっ!! 

 準備ができたものは家族に一度、会いに行って来いっ!!

 わかったなっ!?

 では、行動に移せっ!! 急げっ!!」

僕は全員を急かせるように両手を叩いて「急げっ!! 急げっ!! 行動に移れっ!!」と激を飛ばす。ドラゴニオン王国騎士団は、慌てて謁見の間から出ていった。

ドラゴニオン王国の言葉が分からぬエレーネス王国の精鋭部隊は、その様子を呆然ぼうぜんと見ていた。

僕は精鋭部隊を率いるラグーン伯爵はくしゃくり礼を言う。

「ラグーン伯爵!!

 これで此度こたびの事、万事ばんじうまくいった。礼を言わせてくれたまえっ!!」

ラグーン伯爵は唖然あぜんとしていたが、すぐに僕にひざまずき、立膝たてひざついた騎士の礼法にのっとってかしこまって答える。

「ジュリアン陛下へいか。王位継承、おめでとうございます。

 しかし、我々は急ぎエレーネス王国に戻り、今後のことに備えねばなりません。贈り物も何もございませぬが、せめて今は、この気持ちだけをお受け取り下さい。」

・・・・陛下。そう、僕はもう陛下なのだ。

「伯爵。その気持ちがた頂戴ちょうだいしよう。

 もちろん、我々も諸君の力添えの恩義を決して忘れはしない。事情は察している。

 すぐに諸君が無事に母国に戻れるように護衛と旅に必要な資金や身支度みじたくを用意させてもらう。」

ラグーン伯爵は、王として答える僕の姿に満足したようにニヤリと笑うと「今後ともエレーネス王国との友好関係をよろしくお願いします」と、有難いことを言ってくれる。四面楚歌しめんそかの今、例え世界の反対に位置するエレーネス王国であっても、友好国があるのはありがたい。僕はラグーン伯爵の手を取って握り締めると確かな契りを交わしたと確信した。

「ラグーン伯爵。一つ頼みがあります。」

「なんですか? 陛下。」

僕は父上の方を見ながらラグーン伯爵に尋ねた。

「僕の御家人領ごけにんりょう安泰あんたいでしょうか? 我が父とその家族を亡命ぼうめいさせたいのですが?」

ラグーン伯爵はビックリしたような目を一瞬だけしたが、すぐにうなる。

「うう~む。奇想天外きそうてんがいにして大胆不敵だいたんふてき。驚きの提案ですな。ですが、陛下と先王の状況をかんがみれば当然の提案ですな。

 ・・・・わかりました。この事は我が胸一つにとどめておきましょう。我が王にも秘密裏ひみつりにお預かりいたしましょう。」

「・・・・何から何まで助かります。伯爵・・・・。」

拒否されるかと思った・・・・。僕が思わず深々ふかぶかと頭を下げて謝意しゃいを告げると、ラグーン伯爵は僕に耳打ちする。

「ジュリアン。頭を上げよ。お前はもう、ジュリーではないのだ。

 この国の王としての威厳いげんしめせ。私とお前はもはや対等ではない。つねに王としてふるまうのだ。先ほどまでの態度を忘れるな。」

・・・っ!!

そうだった。僕はこの国の王。たかが他国の一伯爵いちはくしゃくに頭を下げてよい立場ではなかった。

自分の立場を心得こころえてから、頭を上げると伯爵と目が合った。お互いに照れ笑い。

そんな僕らの下へ父上が歩み寄ってきた。

「伯爵・・・。我が息子が世話になったようで・・・・・。」

今度は父上に謝意を述べられて伯爵は困ったような笑顔を浮かべるのだった。


それから父上をラグーン伯爵に預け、僕の御家人領の自治じちを任せるむねを伝えた。

バー・バー・バーン様は自らエレーネス王国兵士と父上たちの撤退が無事に済むように護衛に着くと言われた。

が護衛につけば、この国から兵を出す必要はない。今後、ミカエラの事は余に任せ、お前は自分の使命に集中しなさい。」

バー・バー・バーン様は、父上たちがエレーネス王国に着くまでとは言わずに、えて ”今後 ” という言葉を使われた。それは、エレーネス王国に父上と僕の家族、弟たちが人質として不当な扱いをさせぬと釘をさす意味もあった。

バー・バー・バーン様はかつて僕の先祖と共に世界を救った精霊大貴族。僕の先祖とは親子関係に等しい間柄あいだがらだったそうで、その後も子孫の僕達を御守おまもり下さるありがたい存在。ドゥルゲットが現れるまでは、ご本人様を見たことが無かったので、どこか他人事のように思っていたが、今はその伝説が現実であったことを実感していた。

本当にありがたいことだった。

それからはあわただしく時間は過ぎ去る。一刻も早くエレーネス王国に伯爵たちをお返しすべく、馬の準備や食料、僕の家族の面倒を見てもらうための支度金したくきんを準備させるとともに、家族とのお別れを済ませた。

久しぶりに見た母上は、心労から痩せこけていたが、僕を見て顔を輝かせて涙した。僕達は涙を流しつついつまでも抱き締めあっていたかったけれども、そういうわけにもいかず、名残惜しそうに僕に手を伸ばす母を馬車に乗せて、見送るのだった・・・・。そう言えば、マリア・ガーンと僕の弟に会った。まだ赤ちゃんの僕の弟の幸せを守れるのは僕の働きに架かっている。そして、新たに父上がしつに迎えた別の愛妾あいしょうも僕の弟を身ごもっている。二人の弟のためにも僕は頑張らなければいけない。遠く去り行く一向に手を振り見送りつつ、僕は自分の使命に燃えていた・・・。


それから暫くして会議の間にて、今後の作戦会議が始まった。

空前絶後くうぜんぜつごの事態に重臣たちも動揺どうようが隠せない様子で、僕が入室にゅうしつしたときには、ザワついていた。

そのため、衛兵が「陛下のおなりであらせられますっ!!」との声にも気が付かない様子で、ただちに反応は出来ない有様ありさまだった。

仕方なく僕が声をあらげて「何を取り乱しているっ!! つねに冷静であれっ!!」と一喝し、室内を静まらせなければいけなかったのだ。

しかし、無理もない話だ。災いの神ドゥルゲットの陰謀に巻き込まれ、世界中で戦を起こした上に、ドゥルゲットは死に、先王はクーデターにより国外へ亡命。さらに守り本尊である魔神フー・フー・ロー様と土精霊の大貴族バー・バー・バーン様まで国から消えてしまったのだ。あわてるなというのが無理な話かもしれない。

・・・う~ん。この状況。絶体絶命ってやつじゃないか?・・・・

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