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だ~か~ら~っ、オリヴィアっ!!

どうもセーラ・セーラは信用に足る人物のようだった。忠義(ちゅうぎ深く、礼節れいせつを心得ている。ガーン・ガーン・ラーもそんなセーラ・セーラの存在をうれしく思ったらしく、涙を目にいっぱいためて礼を言った。

「すまぬ。礼を申すぞ、セーラ・セーラ・・・・・・。

 必ず、この時の恩義おんぎむくいることを俺は誓うぞ。」

そう言って抱きしめあう二人の姿は、謁見えっけんに集まった騎士団の面々めんめんの心にひびくのだった・・・・・。


こうして僕は新たな戦力としてニャー・ニャー・ルンとセーラ・セーラ。そして可愛いアーリーを迎え入れることができた。

バー・バー・バーン様は少し不満そうに「俺がいるのだから、大丈夫だというのに・・・・。」と抗議したが、師匠はそれを「無理はするな」とお止めになった。

「無理をするなバー・バー・バーン。

 お前も制約をかえりみずにこのたびの事で随分ずいぶんとこの世界に干渉かんしょうしすぎている。

 これ以上、無理をすれば、それなりの罰則ペナルティを背負うことになるぞ。

 お前はいずれ異界の王になる器だ。このような些末さまつなことで未来を棒に振るな。」

師匠にそう言われて、「ぐぅううっ」と無念のうなり声を上げてバー・バー・バーン様は納得する。

制約とか干渉とか、異界の高貴な存在には現世に手を貸すのには、それなりのルールがあるようだ。しかも師匠の口ぶりから察するにバー・バー・バーン様は随分とルールれの行為をして僕の家族を守ってくれたらしい。本当に感謝してもしきれない存在だ。


ちなみに師匠がバー・バー・バーン様の無念な姿を見せたのには意味があると言った。

「ジュリアンよ、よく見て覚えておくがいい。異界の高貴な存在は現世に干渉するにはそれなりにルールがある。それを守らねば、それなりのペナルティが課せられる。

 お前が異界から召喚する精霊騎士にもある程度それがある。だから、今回もルー・バー・バーは用件が済めば帰ってしまっただろう? そういう一時的な存在にすぎない。(※ルー・バー・バーは拠点防衛のためにジュリアンに召喚された氷と泥の国の狩人。)

 セーラ・セーラとニャー・ニャー・ルンはもっと重い契約を結んでいるので長期間の束縛そくばくが可能となっているが、これも霊位の低さの賜物たまものでもある。逆に言えば、敵国の守り本尊ほんぞんが出て来た時、ジュリアン。お前は手立てを用意しておかねばならんということだ。」

「・・・かさがさね貴重なご助言をありがとうございます。」

僕は師匠の的確なアドバイスを心に刻む。

師匠はハッキリと真実を言った。ニャー・ニャー・ルンとセーラ・セーラは霊位が低いという事実はしっかりと認識しておかねばならない。何故なら精霊騎士が相手ならば、多少相手が強くても僕を含めて3人で事に当たれば勝てる見込みはある。だが、精霊貴族は精霊騎士とは格が違う。中でも水の大貴族スー・スー・シュンさえ倒してしまった過去がある土精霊の大貴族バー・バー・バーン様は別格だった。だから、バー・バー・バーン様さえいれば、とりあえずは安泰あんたいだったのだけれども、師匠の口ぶりでは、今後、バー・バー・バーン様は頼ることが難しいようだ。これは非常に危険な状態を意味する。

エレーネス王国にしても守り本尊ほんぞんは風精霊貴族のレーン・レーン・ルーン。精霊貴族のご加護をようしている。つまり、他の国が精霊貴族を持ち出してくる可能性は十分にあるのだ。

対抗できる切り札としては邪龍ギューカーン様だけれども、それはあくまで一時的な召喚。現世に長時間顕現けんげんできる契約ではない。僕達の戦力はあまりにも不安定要素を抱えているのだった。

しかし、それでも・・・・。


「では、そろそろお別れだ。我が子よ。」

師匠の口から一番聞きたくない言葉が出てきた・・・。嗚呼ああ・・・・なんてことだ。こんなにも深い関係になったというのに、お別れしなくてはいけないなんて・・・。

「・・・っ!!・・・・フー・フー・ロー様っ!!」

つらくて思わず涙がこぼれ、師匠の御名みなを呼ぶ声がふるえた・・・・。そんな情けない僕に師匠は深いため息をついた。


「参った・・・・。本当に、ジュリアン。・・・お前ときたら・・・・・。

 全く、参ったよ・・・・。」


師匠は目を閉じて下を向くと、何度も考えを振り払うかのように首を振ってから、やがてご自身の右掌に、ふう~っと息を吹き替えた。すると不思議なことにいつの間にか右掌の中に指輪が現れた。

僕にはその指輪が何なのかわからなかったが、バー・バー・バーン様には、わかるようで

「・・・全く。なんという人たらしの一族だ。・・・この子も、あ奴と同じように周囲のものに愛される・・・・。これも血か・・・・。」

あきれるように言うのだった。何の話か僕には分からないが、それが特別な意味を持つ指輪であることを意味していることは明らかだった。

師匠はバー・バー・バーン様をジロリと睨みつけてから、ご自身の出した指輪を親指と人差し指で挟みんで僕に良く見えるようにかざすと、それが何なのかご説明なさった。


「ジュリアン。我が子よ。

 これは契約の指輪。これを左手の指にはめておけ。

 いつ、いかなる場合でもお前がどうしようもない窮地きゅうちに立った時はこの指輪を天にかざして私の名を呼べば良い。お前の人生の中で3度だけ、私が救いに現れるちかいの指輪である。」

・・・!!!

「ええっ!! いつでも来てくれるんですかっ!! じゃあ、いつでも会えるじゃないですかっ!!」

「ボケっ!! お前の人生の中で3度だけだと言ったであろうっ!!」

瞬殺しゅんさつ

これからも師匠に会えると聞いて、ヤッターと声を上げたくなってしまうほど嬉しくなった僕は師匠の言葉を正確に理解できないほど興奮していた。それでつい、こんなことになってしまったんだけど・・・。だからって、そんな瞬殺するみたいに速攻で突っ込まなくても・・・・。おまけにボケって・・・・・・。

それに、人生の中でって、なにそれ?

「でも、師匠。お姿をお隠しになるのはしばらくの間でしょう?

 僕の人生の間に3度だけなんて縛りの指輪が要りますか?」

思わず問い返した僕の言葉に師匠は残念そうな、それでいて悲しい目をした。そしておとずれる沈黙。

・・・え?・・・なにこれ。

そんな空気にたまりかねたバー・バー・バーン様が僕の方を見もせずに「おい。こいつら神の時間感覚タイムスケールで言うと、今回の暫くとは数百年ということだ・・・・。」と教えてくれた。


「・・・・・数百年・・・・。」

僕は言葉を失った。だって、それって・・・・。僕の人生で本当に師匠と会えるのは、あと3度だけってことじゃないかっ!!

・・・・何かの間違いかな? ね? 間違いだよね?

「ねぇ・・・。オリヴィア。

 数百年ってインスタントラーメンを何個分待つ時間に相当するんだっけ?」

「ジュリアン様っ!! しっかりしてっ!!!」

オリヴィアに肩を揺らされて正気に戻った僕は、改めて、師匠の言葉の重さを実感するのだった・・・。


「我が子よ。そう悲しい顔をするな。どうか、笑顔で別れようではないか。

 お前が苦難を乗り越えんとするその時。その時は私も苦難を自分にしている事であろう。

 それはつまり、もう一つ上の神格に成長するための試練をおのれに課すということだ。

 ジュリアン。オリヴィア。わかるな?

 我らは離れていようともともに同じ道を歩む。試練の道だ。お前たちはこの現世を精一杯生き、私は自分の国の中で試練を乗り越えて新たな力を手にするのだ。」

その言葉と同時に大雷鳴が鳴り響き次元の扉が現れた。いよいよ、本当にお別れの時が来たのだった・・・。

師匠は指輪を手放し、地面に落とすと僕達に背中を向けて手を振りながら「あばよ。」っと、キザッたらしく声をかけてくれる。・・・ああ、カッコいいなぁ・・・・・。

その御背中が僕達転生者に向けてくれる期待に僕は答えなくちゃいけないんだ。別れを悲しんでいてはいけない。ミレーヌやアーリーが感極まってすすり泣く中、僕とオリヴィアは胸を張って魔神フー・フー・ロー様に声をかけた。


「師匠! ありがとうございますっ!!

 次にお会いするときにはもっと立派な僕達になってみせますよっ!!」

僕に続いてオリヴィアも応える。

「ん。わかってる!! 

 師匠、引きこもりに希望を与える引きこもりの神様。私が神殿を建てておまつりしますっ!」


・・・・・・一瞬の間が空き、オリヴィアの言葉に周囲が凍り付く。なのに、オリヴィアは良い事を言ったみたいに胸を張っているのだった。



「頼むから、私に訳の分からんご利益を付け加えるなっ!!!」



師匠のこんな必死な悲痛の叫び声は初めて聴いた・・・・・。

師匠は僕達と出会う前は、異界の王の命を狙う禁忌きんきの神として恐れられていたのに、僕達との冒険を通じて随分と多くの人間から信仰されるようになられた。生来の闘神としての御利益ごりやくだけでなく、航海の神と天文学の神と旅行の安全を見守る神としての信仰を集めるようになられたが、今日この日、引きこもりの神様としての御利益も付与されてしまったのだった・・・・。

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