アーリーっ!!
誰もが、その予言に震えあがった。
水の国の王に封印されしその黒き神は、性格残虐で悪性強いその神は、7日7晩で3つの古代都市と三つの港を毒の海に沈めたと伝え聞く。
この世界の女神は自身では手に負えず、水の国の王に助けを求めたほど凶悪で強い魔神だったからだ。
そんな・・・そんな・・・・
どうすればいいんだっ!!
動揺する僕に追い打ちをかけるように師匠は止めのように言うのだった。
「その時、私はいない。」
これほどの災厄があるだろうか? 僕もオリヴィアもまだまだ泣きくれているわけにはいかないのだった・・・・。
「わかるか? ジュリアン。
水の国の王に頼まねばならんような黒い神が復活する。
だが、私はそれを救ってやることができない。転生者であるお前がやるのだ。」
師匠は真っすぐに言う。それが脅しでないことはその態度で伝わってくる。
これまでの僕には師匠がいてくれた。師匠に助けてもらってきたし、助けないと言いながら精霊騎士を監視役につけていてくれた。ずっと支えてくれていたんだ。
その保護が無くなった僕達だけで、ドゥルゲット以上の魔神と戦う?
「そ、そんなことは不可能ですっ!!」
僕は全力で否定すると魔神フー・フー・ロー様は僕を制するように右掌を見せる。
「そんなことを自信たっぷりに言うな。
私と初めて会ったことを覚えているか? あの時、私はこう言ったのだ。
” 貴様らにこの世界は救えぬ。災いの神ドゥルゲットの予言の後に何が来るのかもわからないまま殺してやろう・・・・” とな。
アレは私の慈悲だった。お前たちはあの時、殺しておけば、このような世界を知らぬまま転生した事であろう。だが、お前たちは抗った。ならば転生者としてお前たちは奴と立ち向かわなくてはならない。
これよりお前たちは、世界の人間の力を終結させて大昔に水の国の王を召喚した女神サー・サー・シーを探し出せ。どこにいるのかわからないが見つけ出せ。そして、救いを求めて封印の助力を願え。あとはサー・サー・シーが何とかしてくれる。
わかったな?」
師匠は僕達にこれから世界を救うために進むべき道を指し示してくれている。そして、なおも最後の予言をしてくれた。
「それから最後の予言だ。
これから数日のうちに盟約は破棄され、この世界はこの国の敵に回るだろう。
理由は言わずと知れたこと。盟約破棄の抑止力となっていた私が異界に消えたことで彼らに対するこの国の脅威がなくなるからだ。
ジュリアン。お前も知っているはずだ。戦争で死んだ仲間に対する恨みが早々消えないことを。
世界はドゥルゲットが死んだあともドラコニオン王国を許しはしない。この混乱に乗じて戦争を起こす国も現れて世界は再び麻のように乱れる。だから転生者よ。お前たちはまず、国を守れ。世界と和平を結ぶためには先ず、戦争に勝つことだ。力があるところを見せなければ和平もないと心得よ。」
最後の予言はこの国の王となった僕にとって成さねばならぬ仕事だった。国防こそ王の最大の責務だからだ。
オリヴィアは最後まで師匠の話を聞いた後、僕を励ますように僕の手を握ってくれた。その時の彼女の眼は力に満ちていた。もう、悲しみにくれて泣いているだけの少女ではなかった。
僕は彼女の手を取って、二人で立ち上がる。そして師匠の前で誓う。
「ありがとうございます。師匠・魔神フー・フー・ロー様。僕達は師匠の予言を必ず無駄には致しません。」
「師匠。私もう負けませんよっ!!」
師匠は僕達の言葉に満足したかのように頷くと、師匠が異界から伴ってきた連れの女性達を紹介してくれた。
「私と私の愛妾達は異界に引き篭もる。如何なる召喚魔法にも応じることはできぬ。その間にお前たちの支えとなる戦士が必要だろう。」
師匠がそう言うと一人目の女性アーリーが前に出てきた。
アーリー。美しきホムンクルスにして両性具有のセクサロイド。僕の初めての女性。
アーリーは僕の前に立つとハラハラと涙をこぼしながら、
「・・・・・お久しぶりでございます。
本当に・・・・ご立派になられて」
と言うのが、精一杯だった。そんな彼女を抱き締めて「会いたかったよ、アーリー。」とだけ伝えた。話したいことはいくらでもあるが、師匠はお急ぎだ。時間はかけられない。
僕が師匠の目を見ると師匠はそれを了承と判断し、もう一人の女性を紹介してくれた。
青い髪をベリーショートに刈り上げたボーイッシュな顔立ちに鎧姿の異界の女性だった・・・・
「この者の名はニャー・ニャー・ルン。ドゥルゲットと契約した者でな。元は水の国の王に仕える水精霊騎士であったが、戦う前に俺に降伏した腰抜けよ。そのために既に水の国の王にも見放されてしまったようだ。己の国に帰ることも許されなくなった哀れな放浪者だ。
ジュリアンよ。お前は既に精霊騎士の霊位の者。この者と隷属契約を結べるだろう。好きなように使役するが良い。」
師匠はそう説明しながら空中に神紋を描く。神紋は完成するとまるでそう躾けられた鳥が籠へ帰る様にニャー・ニャー・ルンの額の前に張り付くように移動した。
「さぁ、ジュリアンよ。血でもって契約の印を押せ。
戦う前に降伏した腰抜けだが、腐っても精霊騎士。お前の力となるであろう。」
女性と隷属契約を結ぶ事に抵抗がないわけでもなかったが、これも神の言葉。逆らうわけにもいかず、僕は右手薬指をナイフで傷つけると滴り落ちる血で女性の額の神紋に印を押す。すると、同時に氷で出来た鎖が神紋から吹き出して女性の胸に吸い込まれるように消えていった。
「きゃあああ~~~~~~っ!!!!」
ニャー・ニャー・ルンは悲鳴を上げて苦しがる。僕は慌てて悶える彼女の体が地面に倒れ落ちないように抱きかかえ、師匠の方を見ると、師匠は
「慌てるな。大丈夫だ。
ただ、魔法の鎖で彼女の心臓を縛り付けただけだ。お前に逆らえば、一瞬で心臓は引き裂かれるだろう。」
と、こともなげに言うのだった。
え、ええ~~? そんなことして大丈夫なんですかっ!?
「問題ない。と、いうか。お前自分の神をもう少し信用しろ。
暫く失神しているが、その内、目を覚ます。痛みはない。」
見るとニャー・ニャー・ルンは、本当に失神してしまっていた。
・・・・いや。これ、全然大丈夫じゃないよね?
「それからもう一人。月と雨の国の王に仕えていた土の精霊騎士セーラ・セーラだ。」
そう言われて前に進み出てきたのが、少し背丈の低い30才前後の見た目をしたとてもグラマーな女性だった。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。少し陰りのある顔がまた色気を増している感じがする大人の淑女と言った雰囲気の女性だった。
「こいつはガーン・ガーン・ラーと交換だ。ガーン・ガーン・ラーは神格を失ったが、彼女の父である月と雨の国の王との交渉に使えるから俺のそばに置いておく。まぁ、ガーン・ガーン・ラーは、ここに残っていてもお前たちの力にはならんから、構わんだろう。」
師匠の言葉を聞いたガーン・ガーン・ラーは嬉しそうにフー・フー・ロー様の下へ走っていく。
「本当ですかっ!? 俺はフー・フー・ロー様のおそばでいいんですか?」
と、いってピョンピョン跳ねている。彼女に似つかわしくないこの反応は奴隷にされてしまっていることもあるが、本心は力を失ったただの少女になってしまった元魔神の彼女にとって、これから危険な状況になる僕よりも師匠といる方が安全だと悟っているからの行動なのだと思う。彼女は心底安堵したのだろう。まるで父親に甘える娘のようにフー・フー・ロー様に接していた。ただの交渉材料だと言われているのに・・・・先が見えてないんだな。
セーラ・セーラはそんなガーン・ガーン・ラーに向かって跪くと畏まって忠義を示した。
「おいたわしや、ガーン・ガーン・ラー様。私は元はガーン・ガーン・ラー様の御父上・月と雨の国の王に仕えた身です。それ故にガーン・ガーン・ラー様の身代わりを申し出た次第です。
暫くの間、ご苦労をおかけいたしますが、この命に代えてもガーン・ガーン・ラー様を御父上の下へお返しすることを騎士の誇りにかけて誓います。」
どうもセーラ・セーラは信用に足る人物のようだった。忠義深く、礼節を心得ている。ガーン・ガーン・ラーもそんなセーラ・セーラの存在を嬉しく思ったらしく、涙を目にいっぱいためて礼を言った。
「すまぬ。礼を申すぞ、セーラ・セーラ・・・・・・。
必ず、この時の恩義に報いることを俺は誓うぞ。」
そう言って抱きしめあう二人の姿は、謁見の間に集まった騎士団の面々の心に響くのだった・・・・・。
こんなにも書いていて楽しく、そして苦痛な作品はない。
自分の書きたいように書けて満足なのに、しかしそれが世間の評価には繋がらない。下がり続けるPV数に増えないブクマ。自分は面白いと思っている作品なのに、世間から見てこの作品はそんなに面白くないのかと心折れることもありますが、それでもそれなりの人数の人が毎日アクセスしてくれていることを本当に有り難いと思っています。
いつもありがとうございます。皆様のおかげで書き続けられます。
本作品、まだまだ続きますが、最後までお付き合いいただけましたら幸いです。




