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こんなの悲しいよっ!!

「だから、お前は俺と戦うことで俺の鎗術そうじゅつを学べ。そして、気が向いたら俺の鎗術も使って見るがいいさ。」

師匠の動きを何度も見て、その動きが体にみついていた僕の体は自然と師匠の鎗術をくりだしていた・・・・・。

そして、僕の意表いひょうをつくという言葉を大きく超えるレベルの技術で背後をとられた父上は振り返る余裕もないまま、背中に強烈な突きを食らって前方へ吹っ飛んでしまった。

「ああっ!!」

驚きとも苦痛ともとれる声を上げて父上が地面に膝を着いたところでローガンが試合終了を告げる。

「それまでっ!! 勝者ジュリアン殿下でんかっ!!」

それと同時に謁見えっけん歓声かんせいき上がる。

「ああっ!! 敗れたっ!! ミカエラ王がっ!!」「勝ったぞっ!! ジュリアン殿下がっ!!」

僕は歓声と共にローガンに右手を高々と上げられ祝福されるのだが・・・・。父上はそれを良しとしなかった。

「ま、まだまだっ!! この程度の一撃で勝敗は決まらぬっ!!」

と叫びながら僕に向かってもう一番の勝負を挑もうとする。だが、それはバー・バー・バーン様によって止められてしまう。

「見苦しいぞ、ミカエラ。

 先ほどの一撃。木槍もくやりでなく本物の槍であれば、今頃お前の体は槍で貫通されておる。

 お前の負けである。」

さしもの父上もバー・バー・バーン様のお言葉には逆らえずに無念にも敗北を受け入れて、地面に座り込んでしまわれた。

「父上っ!!」

あわてて父上に駆けり、その右手をとって「大丈夫ですか?」と、お声がけをすると父上は戸惑とまどっておられたが、やがて僕の右手を握り返し「強くなったな・・・・。」と返事をなされた。


「しかし、あの技は?

 あのような動きは何処どこで身につけたのだ・・・・」

父上の問いかけに「ああ・・・あれは・・・・。」と僕が答えようとした瞬間に謁見の間に大雷鳴が鳴り響き、次元の扉が姿を見せる。

「これは・・・・・」

高位の存在が降臨するその予兆であったが、バー・バー・バーン様は誰が来るのか察しておられた。

「フー・フー・ロー・・か? ばかな・・・。」

そう言ったと同時に次元の扉が開き、中から炎に包まれた魔神フー・フー・ロー様がアーリーと女性を二人連れて現れたっ!!


「見事だったな。よくやったぞジュリアン。」

「いや、師匠っ!! メチャクチャ燃えてますやんっ!! 

 ど、どうしたんですか、それっ!!」

再会した師匠は火だるま状態だった・・・・え~? な、なにがあったんですか?

「うむ。ちょっと火と水の奥の国の王と護衛の鬼神きじんと一戦交えることになってな。

 あのやろう・・・。この場は見逃すとか言いながら、キッチリ俺に呪いをぶっかけていきやがった。」

その言葉にバー・バー・バーン様が唖然あぜんとする。

「き、鬼神とやりあっただと? それで・・・・よく無事で・・・・生き残れたな。

 というか、フー・フー・ロー。お前、格段に神格が・・・・。」

鬼神? 火と水の奥の国の王?

事実がよく理解できない僕であったが、師匠は何事もない様に笑い飛ばす。

「この炎は火と水の奥の国の王の呪いだが、氷の属性を持つ俺にとっては何でもない。体表たいひょうを氷の魔法で守っているから大丈夫だ。

 これでも火力は9割以下に押さえた。数刻もせぬうちに消火して見せる。心配するな。」

・・・・いや、これで9割抑えたんですか?

なんかキャンプファイアーみたいに燃え盛っておられますけど・・・。いや。まぁ、確かに師匠は氷属性のお方。火に対抗するお力は持っておられるんでしょうけど・・・・・。

「い、異界の王の呪いを打ち消しているんですか? 信じられませんわ・・・・

 さすが私の旦那様だんなさまっ!」

レーン・レーン・ルーンはフー・フー・ロー様の御業みわざに感動してあいらしくもその場でピョンピョン跳ねているけど、流石さすがに呪いで燃え盛る体に抱きつく気はないらしく、距離をたもっている。

そしてガーン・ガーン・ラーはドン引きの表情で「いつの間にそんなに強く・・・・。」とつぶやくばかりだった。・・え? そんなに凄いの? 精霊貴族や元魔神の眼から見ても、今の師匠の状態って・・・・。

・・・・それって・・・・・それって、凄すぎない?

事態の大きさを把握はあくできないものの、僕は呆然ぼうぜんとしてしまうのだった。

師匠は一同の反応を少しほこらしげに思っておられるのか、少しうれしそうに綺麗なお顔をほころばせて笑顔をお見せになると、僕の勝利をたたえてくれた。


「それよりもかさがさね、よくやった。

 アレは我が鎗術。よくぞ独自で身につけたものよ。

 ジュリアン。可愛い我が子よ。今、抱きしめてあげられぬ我が身を許せ。」

こんな上機嫌な師匠は初めて見た。でも、そんなキャンプファイアーみたいになってる人に抱き着かれたら僕も困るので、それでいいです。

「それから、我が子が世話になったな。

 ミカエラ。礼を申すぞ。」

「・・・・はははは。御冗談ごじょうだんを。

 ジュリアンは我が子にございますので、神からお礼を言われる筋はありませんよ。」

そしてなぜか、ここでも火祭りが始まっている予感がする。

と、いうか・・・・。

「師匠こそ。ドゥルゲットの討伐、お疲れさまでした。バー・バー・バーン様が察知さっちしておられましたよ。」

僕にそう言われると師匠は、思い出したように神妙しんみょうな顔を見せてから、引き連れて来ていた見知らぬ女性に「おい!」と声をかけると、女性は師匠の陣羽織じんばおりを丸めた包みを大事そうに抱きかかえたまま僕の所へ歩み寄ると、つつみをほどいて中にしまってあった少女の遺体いたいを見せた・・・・。


「ああああああああああっ!!!!」

悲痛な声を上げて泣き叫び、その少女の遺体に抱きすがる僕を見て、オリヴィアとミレーヌは、その少女が誰なのか察して、同じように悲痛な声を上げながら駆け寄り、僕とともに声を上げて泣いた・・・・。

「クリスっ!! クリスティーナっ!!!」

3人とも涙がとめどなくあふれ出て来た。嗚咽おえつし、狂ったように泣く僕らにフー・フー・ロー様は優しく語り掛けた。

「許せ。ドゥルゲットとの戦いでいささか傷つけはした。それでも傷はあとかた無く治しておいた。

 この体はオリヴィアが戻る器だからな・・・・。」

クリスの体は、確かに傷一つなかった。そう、まるで出会った頃の愛らしい姿のまま安らかに眠っているように死んでいたのだ・・・・。これも魔神フー・フー・ロー様の慈悲のお力というわけだ。だが、こんなにありがたい奇跡だというのに一つだけ納得できないことがオリヴィアにはあった。


「いやよっ!! この体はクリスの魂が入るところだもんっ!!

 私のクリスの・・・・帰る場所だもんっ!!」

泣き叫び、声をあらげて師匠に逆らった。だが、師匠はそんな甘えを許すようなことをなされないことは、これまでの生活で僕らは重々承知じゅうじゅうしょうちしている事だった。

「オリヴィア、お前の気持ちはわかるがな。

 お前の体にクリスの魂が入ってきた瞬間にお前はさとったはずだ。クリスはすでに死んでいる。彼女がこの体に戻ることはないんだ。」

「ちがうもんっ!! フー・フー・ロー様、神様でしょっ!!

 何とかしてよ・・・私の魂の中に入っちゃたクリスを生き返らせてよ・・・・

 クリスを助けてよぉ・・・・生き返らせてこの体に入れてあげて・・・。」

「ダメだ。元々、お前の方がクリスに吸収されて死ぬ運命さだめだったはずだ。それが、今は逆になっただけだ。クリスは、お前の中でお前の魂を燃やす力となって共に生きていると考えろ。

 そして、クリスが生きた証の為にも、お前がこの体を引き継いでやるのだ・・・・。」

師匠はそれだけ言うと駄々だだをこねるオリヴィアの許しもわずに奇跡を起こす。

空中に神文しんもんを書くとそれは輝きを放ち、その輝きに同期するようにオリヴィアの体からも何かの光が噴出ふんしゅつしたかと思うと、一瞬のうちにクリスの遺体に吸い込まれるように入っていった。

信じられないようなものを見た。魂が引きだされるのもそうだけど、オリヴィアの魂をクリスの体からホムンクルスの素体に移すときにあれだけ苦労したというのに、師匠はご自身にかけられた異界の王の呪いを解きながらという片手間でやってしまわれたのだから・・・・。


強引に魂を引きだされて強制的にクリスの体に定着させられたオリヴィアの魂が目を覚ましたのは、ほんの数分後の事であった・・・・。

意識を取り戻したオリヴィアは泣きじゃくった。

ひきつけを起こしながら、大きな声を上げて泣いた。


「いやあああ~っ!!

 死んじゃってるっ!! クリスが本当に死んじゃってるっ!!

 ・・・・わかるっ・・・・やだ・・・この体に入ったらわかっちゃうのっ・・・・。

 クリスを戻す方法は無いって・・・この体がクリスの生存を拒否していることが・・・私にわかっちゃうの・・・・・やだぁ・・・。

 助けてっ!! ジュリアン様・・・・こんなの、こんなのやだぁ・・・。」


クリスの死を魂と体で再確認してしまったオリヴィアは、声を上げて泣きじゃくる。

仕方がない・・・・こんなの仕方がない。

だって。だって・・・・僕だって涙を止められないんだから・・・・・。

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