ペースを掴ませないぞっ!!
「転生者。予言の子よ。
この程度の試練を乗り越えられなくていかがする。お前はこの先もっと大きな困難を乗り越えねばならんのだぞ。
それが出来ることをこの父に見せてくれ。それも出来ない男に私は国の命運を明け渡す気は毛頭ないのだ。そしてこれは国民の総意だと思っても良い。
ここは傭兵王国ドラコニオンなのだからなっ!!」
父上の言葉は僕だけでなくバー・バー・バーン様の心にも届いた。
「あい分かったっ!! ジュリアンの力を父として確認したいという気持ちもあるのだろう。
では。これ以上の問答は不要にて、時を戻すっ!!」
バー・バー・バーン様は、そう言うと両手を打ち鳴らして時を再開させるのだった。
僕達にとっては数分間の出来事だったが、時間が止まっていた皆にとっては一瞬にも満たない時間。その間にどういうわけか、あれほどズレていた僕達の話し合いが何だか知らないけれどまとまっているという不可解な状況を見せられることになる。
バー・バー・バーン様は大きく手を広げてその場にいる者たち全てに話しかけた。
「これより、ドラゴニオン王国国王の正統な継承試験を行うっ!!
代々、ドラゴニオン流の武術は王家が伝承してきたっ!! 新たな王になるためにはその試験を合格せねばならんっ!!」
その言葉にドラゴニオン王国の城兵たちは、にわかにざわつきだした。
「王位継承のために試合?」「そんな話は聞いたことが無いぞ。」「い、いや。確かにこの国の王は強くあってもらわねば困る・・・。」
そんなことが口々に囁かれ、その動揺はエレーネス王国の騎士団にも伝わる。オリヴィアとミレーヌ、シズールはそれぞれが騎士団にエレーネスの母国語で説明をしてあげていた。その話を聞いた皆が国それぞれに事情があるのだなと、納得してくれているのがありがたい。
皆がざわめきからやがて落ち着いていく様子をバー・バー・バーン様は確認したのち、更に告げる。
「双方、木槍に防具を付けたのち、試合を開始することとする。
なお、ジュリアンには異能の力を封じたうえ、正々堂々の勝負をすることを課すものとする。
見届け人は、この場にいる全員っ!!
立会人はっ・・・・・・」
そこまで言ってからバー・バー・バーン様は口ごもってしまった。
立会人には、通常、中立な人間が望ましい。だが、今、この場に中立の者がいるだろうか?
僕らは双方に戦争を行った者同士。どちらかの勢力から立会人の立候補を立てれば、どちらかの方に対して中立が保て無くのは必然。それだけにここは難しいところだった。
「ふむ。
それならば、不肖・疾風のローガンがお勤めいたしましょう。
わずかな期間ではございますが、私はお二人の武術指導をさせていただきました。
二人の武術師範というのであれば、問題はありますまい。
それに私の看破の眼はいかなる誤審もせず、不正も見逃しません。」
そう言ってローガンが名乗り出てくれた。確かにローガンなら中立の存在になりえた。それはローガンが父上の師匠でもあったからだ。
バー・バー・バーン様はローガンの申し出を聞いた後、ちらりとわき目で父上にアイコンタクトをとると父上は黙って頷いた。ローガンが立会人に了承されたということだ。となると後は戦うだけとなった。
これは殺し合いではなく王位継承のための資格試験という名目なので、得物は木製の槍。だが、木製とはいえ素肌を強く攻撃すれば骨は簡単に砕け散る。僕も父上も一流の武術家。場合によっては一撃で死に至らしめることだってあるんだ。そのために僕達は安全のために鎧の装着が義務付けられた。それも不正の無い魔法加護のかかっていないものが良いため、城にある訓練用の鎧が両者に与えられて、それを装着する運びとなった。
僕の鎧はミレーヌとオリヴィアが装着を手伝ってくれる。
二人はこのわずかな時間も無駄にしないように作戦を話しかけてくる。
「ジュリアン様。お父上は気合充分のように見えます。
ジュリアン様は?」
僕の精神面が仕上がっているのか心配したミレーヌに確認される。だが、こちらとしては確認されるまでもない。
「大丈夫。これまでのことで僕も強くなってるさ。」
僕は自信を見せて心配してくれる二人に胸を張った。
しかし、ミレーヌは寂しそうにこういうのだった。
「ああ。やはり・・・・・。やはりお気づきになっておられないのですね。
ジュリアン様。私が言っているのは、あなたにお父上をやっつける覚悟がお有りですか? ということです。」
その言葉に僕はギョッとした。その言葉の意味するところを実は先程の戦いにも見せていなかったと認識させられる部分が確かにあったのだ。ミレーヌは、そんな僕の甘さを僕よりも理解してくれていた。何年も付き添ってくれた相手でもないのに、本当にこの数カ月の間に僕に尽くしてくれた女。これまで時には僕のために命さへ投げ出してくれた。ルーザ・デ・コスタリオの砦には危険を冒して僕についてきてくれた。龍退治の時は命を捨てて自分の体を盾にして僕とオリヴィアを守ってくれた。そんな彼女だからこそ、僕を知ってくれているのだ。僕は、今すぐミレーヌを抱きしめてあげたくなったが、戦いの前にすることではない。ただ、その右手を取って優しく口づけして「ありがとう」と伝えるだけだ。
「あーっ!! こ、この浮気者ーっ!!」
オリヴィアに肩パンチを貰いながらも、僕は、今はミレーヌに感謝を伝えることに専念した。
そうやって二人と過ごしているうちに父上の支度が整う。僕はローガンの「では、双方部屋の中央へっ!!」という言葉を聞くと、2人の肩をポンッと叩いてから「行ってくるよ。」と言うのだった。
決まった。今の僕。メチャクチャ、カッコ良かったはずだっ!!
そうやってちょっと気をよくして謁見の間の中央に来た僕の気持ちを父上は察していた。そして少し腹ただしそうに僕を見ていた。その姿からは殺気が満ち溢れ、父上を大きく見せる。しかも、脅しをかけて来た。
「いいご身分だな。
女の子にチヤホヤされて、ご機嫌で私の前に立つとは・・・・。死ぬ覚悟は出来たか?」
いやっ!! 殺す気ですかっ!!
しかし・・・やはり、これだ。僕にとって父上のココが一番恐ろしい。僕のことをある意味僕以上に知っている。気を付けねばならぬ部分だ。
そして、このまま父上のペースに持って行かれるわけにはいかない。
僕は父上に向かって言い返す。
「父上に女の事でとやかく言われる筋合いはありませんね。
マリアの子。僕の弟は元気にしていますか?」
マリア・ガーン。世界でも珍しい僕以外に個人の力で精霊騎士を召喚することができるほどの魔法騎士だったが、父上の手籠めにされてその後に愛妾として室に加わった。そのマリアのお腹には僕の弟がいた。もう生まれている頃だろう。心の端でずっと気になっていたことだ。
僕の・・・・弟。僕が王国にいた頃はまだマリアのお腹の中だったから、本当に会ってみたいな。
そんな僕の気持ちをはぐらかすように父上は言う。
「お前の弟ならもう一人で来たぞ
別の女の子供だがな。」
・・・・。どの口で僕の女癖を非難したのかな?
駄目だ。父上とは口では勝てない。父上のペースに乗せられないためにはこれ以上の口論はシャットダウンしないと。
「・・・・・ローガン。無駄話は不要だ。
さぁ、試合を始めてくれ。」
僕に促されてローガンは頷くと「両者、準備よろしいか?」と確認をとり、僕らが無言で頷くとローガンは右手を上げて「両者、十分につき・・・・・。」と音頭をとると試合開始を宣言する。
「いざ、尋常に勝負っ!!」
ローガンの掛け声に合わせて僕らは声を上げる。
「いざっ!!」「いざあああっ!!」
両者下段に構えて睨みあう。その眼光鋭く、一切の迷いが無い。
さぁっ!! この大一番で僕は父上を超えて、この国を手に入れるのだっ!!




