そんな話聞いたことが無いよっ!!
・・・・・・・え?・・・・・・
予想外の言葉に僕は固まる。一瞬、父上が何を言っているのかわからなくて、助け舟を求めるようにバー・バー・バーン様の方を見たら、バー・バー・バーン様も青い目をまん丸にして口をポカンと開けていた。
あ・・・・これ、絶対にアカンやつやん
バー・バー・バーン様のご様子から察するに、これは父上の独断が過ぎるのだろう。ともにタッグを組んでいたバー・バー・バーン様の狼狽えようからもそれを察することは容易かった。なによりも、少し間を置いてからバー・バー・バーン様が説得しだしたんだから、それは間違いない。
「お・・・・お前は何を言い出すのかね? ミカエラ。
ドゥルゲットの企みとはいえ、各地で戦争を起こし死者も多く出ている。その恨みが早々消えることが無いことはお前も理解できるであろう?
ここでジュリアンに王位を移譲する以外、お前とお前の家族とこの国が生き残る道はないのだぞ・・・・
それを今になって・・・・ええ?・・・・お前、マジで何喋ってんだ?」
口調からして、バー・バー・バーン様の動揺ぶりがわかる。
マジで狼狽えていた。それはそうだろう。王位継承が速やかになされていれば助命の方法はいくらでもある。なのにここで駄々をこねたことが周辺諸国に知れ渡ってしまいかねない。そうなったら、僕は同盟国の心情を考慮して王位継承の後に父上を殺さざるを得ない状況になってしまう。
それを望まないのは僕だけでなく、バー・バー・バーン様も同じことで必死に事態を改善しようと父上を説得するのだった。
しかも、大分、感情的になっておられるようで右手人差し指で父上の額をグリグリ押しながら説得し始めるのだった。身長はセンチにすると恐らくは160センチ程度のバー・バー・バーン様は下から膣絵を睨みつけながら言うのだった。
「おい、お前。いい加減にしろよ。
俺がどんな思いをして長年に渡りこの国を守ってきたかわかっているのか? おう、コラ!?
それを台無しにするのがオンドレの恩義の返し方かい? 舐めとったら殺すぞ、ワレ?」
い、いかん。バー・バー・バーン様の勢いが凄すぎて脳内で勝手にバー・バー・バーン様のセリフを関西弁に口調を変換してしまっている。後半ただのヤバいオッサンになってしまっているじゃないかっ!!
・・・・これはマズい。すぐに仲裁しないと、僕がおかしくなりそうだっ!!
「あのですね。・・・・お二人とも、落ち着いてくださ・・・・。」
「「お前は黙ってろっ!! ボケっ!!」」
一瞬やん。僕の言葉最後まで待たんと一瞬で潰すやん。こわいわ~。何してくれはりますのん?
僕、お二人のこと考えて言うてますやんか? しかも、丁寧語で「落ち着いてください。」ですやんか?
なんで、そこでケンカ口調で僕を攻めはるんですか?
意味わかりませんわ・・・・・。
・・・・・
・・・・・・・などと心の中で関西人ごっこをしている場合ではない。
「ともかく。バー・バー・バーン様。とりあえず時間を止めてください。皆が見ています。」
僕がそうお願いすると、二人は咳払いをして落ち着く。それからバー・バー・バーン様は時間を止めて話し合いの時間を作る。
「時間を止めたぞ。」
バー・バー・バーン様はバツが悪そうにそっぽを向きながら言う。
「ええと・・。じゃあ、この場で動けるのは、父上とバー・バー・バーン様。レーン・レーン・ルーンとその加護を受けている僕だけですね?」
止まった時間の中で謁見の間を見渡しながら確認してから、話を始める。
「お話を整理しましょう。
まず、ドゥルゲットの企みに乗って戦争に加担したこの国は、バー・バー・バーン様の仰る通り再生しなければ滅びの末路をたどります。いえ、この国は私が守ることができます。
父上が邪魔をしなければ・・・・・。そのことは御理解いただけていますか?」
僕が父上の顔を見ながら話すと、父上は死ぬほど鬱陶しいという感情を僕に向けながら不貞腐れていた。
「いやいや。どうしたっていうのよ。ミカエラ王。
この子は貴方の可愛い可愛い第一子でしょ? 王位を継承して何の不満があるというの?」
レーン・レーン・ルーンも父上の様子にいらだった様子を見せた。
時間を止めた世界の中で父上の見方は一人もおらず孤立無援の状況だった。
だが、父上は強情だった。
「よろしいですか? これは我が一族の問題です。
我が一族が代々王家を継承するのにしてきた権威をないがしろにして、王位継承は成されません。
私の命など覚悟は十にできております。それもジュリアンが正式に権威ある王位を継承させるためならば、私は命もいとわぬのですっ!!」
父上は憮然とした態度を崩さず、強情にも意見を変えなかった。しかし、バー・バー・バーン様はその様子から何かを察して態度を軟化させるのだった。
「ふむ。ミカエラ。お前はつまり、本当に王位継承を正式にやりたいだけというのだな?
それならば、そのような態度で臨む必要はあるまい。そのせいで話がややこしくなっておるのだ。さっさと王位継承の条件を言うがいい。話してみよ。」
僕もレーン・レーン・ルーンもバー・バー・バーン様の言葉にハッとなって父上を見た。
「それはドラゴニオン流の武術継承です。
この国の王は強者でなくてはなりません。王として王位を継承させる相手と立ち会わねばなりませんっ!!」
その言葉を聞いて僕もバー・バー・バーン様もハッとなった。
そしてレーン・レーン・ルーンも僕達のその様子に驚いたようで、僕を見ながら「そうだったの? 王位継承にはそんな手順が必要だったの?」と尋ねるのだった。
だが、
「「そんな話、聞いたことが無い。」」
僕とバー・バー・バーン様の声がハモった。
レーン・レーン・ルーンの「はい?」というマヌケな声がこの事態の意味不明さを物語っている。
いや、でも実際にそうなのだ。僕もそんな話は聞いたことが無い。親子が決闘して王位継承だなんて・・・・。そんな話僕は聞いたことが無いし、代々、我が王家を御守り下さっていたバー・バー・バーン様も知らないというのだから、間違いなく・・・・・。
「聞いたことが無いのは当然です。
今、私が作ったのですから・・・・・。」
・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・はい?
「お前、殺すぞっ!! ゴラァっ!!」
あ・・・。バー・バー・バーン様、切れちゃった。胸倉掴んで怒鳴ってるしっ!! 今のは僕、脳内変換してないよ。ガチで怒ってる。
そりゃ、怒るよ。
一体、どういうつもりなんですかっ!! 父上っ!!
僕もちょっと怒って睨みつけてしまった。多分、人生初の事。
父上はそんな僕らに対して、ふーっと、呆れたようにため息をつくと
「ですから、そういうことにしておこうということなのですよ。
いいですか? 我が国の王は強くあらねばなりません。
今のままの勝利では、それは魔神フー・フー・ロー様がドゥルゲットを倒したから手に入れた勝利でしかなく、ジュリアンの強さを誇示できるものではありません。
なれば・・・・・。」
そこまで説明を受けたバー・バー・バーン様は合点が言ったように頷き、「なればこその決闘というわけか・・・・。」と仰った。
なるほど・・・そういうことか。
「つまり、もう一度なれ合いの戦闘ですか。まぁ、仕方ありませんね。それならば家臣団も納得して僕に臣従を誓うでしょ・・・・・」
「なれ合いなどするつもりはない。真剣勝負だ。
私は本気でお前をつぶしにかかる。お前も精霊騎士から得た力に頼らず、人間として私を倒して見せよ。」
・・・・はい?
なんですと?
父上の意図がわからずにバー・バー・バーン様も呆れて天を仰いでしまった。だが、父上は言葉を続ける。
「転生者。予言の子よ。
この程度の試練を乗り越えられなくていかがする。お前はこの先もっと大きな困難を乗り越えねばならんのだぞ。
それが出来ることをこの父に見せてくれ。それも出来ない男に私は国の命運を明け渡す気は毛頭ないのだ。そしてこれは国民の総意だと思っても良い。
ここは傭兵王国ドラコニオンなのだからなっ!!」
覇気に満ち溢れる父上の迫力から、その言葉が本気のものだと伝わってくる。
僕は父上のその姿に背筋が寒くなるのだった。




