これ、絶対にアカン奴やんっ!!
戦闘が開始した時から戦闘が終了するまで時間が止まった世界にいたオリヴィアとミレーヌとゴンちゃんは、時間が解放された時、目の前の光景が一瞬にして様変わりしたので、大いに動揺した。
そんな3人には事情説明が必要だ。
僕とレーン・レーン・ルーンが3人に話を聞かせている間にバー・バー・バーン様は「では、余は外で戦闘をしている者共に戦闘終了を告げてくるか・・・・。」と言って地面に沈んでいくように消えていった。きっとシズールたちが頑張ってくれているところへ向かってくれたのだろう。
そして、一部始終を聞き終えたミレーヌが不思議そうに尋ねた。
「・・・・それで結局、ジュリアン様の時間稼ぎの話はどうなったのですか?」
そう。僕はレーン・レーン・ルーンに時間稼ぎをしろと言われていた。父上もバー・バー・バーン様もその意図を感じ取っていたようだけれど、戦闘中の僕は皆の殺気に押されて皆の思惑を察することが出来なかった。
「それは・・・つまり。父上もバー・バー・バーン様も契約のために戦っていただけで、実際には僕達は戦闘などせずに上手く和平交渉を長引かせればよかったんだ・・・・・・・。」
そういうことだよね? と、いう思いのこもった瞳でレーン・レーン・ルーンは呆れたようにジト目で僕を睨みながら小さく頷いた。
「なによ、それぇ~~~・・・・・。」
オリヴィアはそう言ってヘナヘナとその場に座り込んでしまった。続けてミレーヌも腰を抜かしたように座り込んでしまう。
「4人とも気が付かなかったの?
本当に!?」
レーン・レーン・ルーンは全員がわかっていなかったことに驚きを隠せずにいた。
「だって、仕方ないじゃないかっ!!
あんなに殺気立ってたら・・・。それに時間まで止めたりする必要ある?
レーン・レーン・ルーン。君だって戦闘に本気だったんじゃないのかいっ!?」
僕は反論する。交渉を長引かせればよかったも何も、そもそも和平交渉を持ち掛けたのに強引に戦いを始めたのは向こうの方だ!! それもあんなに激しく。あんな戦争並みの殺気だった戦闘を見せられたら、誰だってそんなつもりがあるだなんて思わないし・・・・。
しかし、その反論は父上によってあっさりと却下されてしまう。
「言ったであろう。我らはドゥルゲットとの契約のために戦わねばならんと。
それ故にバー・バー・バーン様もなれ合いの戦いのつもりで始めたのだ。
それを我らの思惑を察せずにお前が先に戦闘を本格化させたのだ。
お前、覚えておるか? バー・バー・バーン様が「浅はかよな。ジュリアン。余を怒らせるような真似をせず、前世の業で余を楽しませておれば、時間を潰せたものを・・・・。」と言ったのを。
お前は本気の戦闘だと言ったがな、最初のお前とバー・バー・バーン様の戦闘の時に大人しくお前があそこで徒手格闘に徹していれば、あのようなことにならなかったのだぞ? それにあの時の戦闘だって、バー・バー・バーン様が全く本気ではなかったことは、レーン・レーン・ルーン様との戦闘を見れば理解できよう。
お前との一騎打ちの時。バー・バー・バーン様が使った奇跡など、レーン・レーン・ルーン様に対して使ったそれとは遠すぎる。それだけ見てもバー・バー・バーン様が本気の戦闘を仕掛けておらなんだことくらいわかりそうなもの。」
・・・・え~~~? いや、だって。バー・バー・バーン様が僕に対して使った床が海原のように波打つ魔法なんか相当なものですよ? アレはどうやったら成立する魔法なのか見当もつきません。凄い魔法でしたよ?
僕が若干不満そうな顔を見せながら心の中で反論していると、父上は「だから言ったであろう。お前に寝物語に話して聞かせたバー・バー・バーン様の奇跡の大きさをお前は忘れてしまったのか?・・・とな。」
・・・・・うううううっ・・・・た、確かに。バー・バー・バーン様が本気だったら、あんなことしなくても僕を圧倒できましたね。
・・・確かに、あれが本気の戦闘でなかったことを僕は気が付くべきだった。結局、先ほどの戦闘はプロレスを仕掛けて来ていた相手に対して筋書きを破って真剣勝負を仕掛けるという行為をした僕が戦闘を激化させたと言える。
しかし・・・・・そうであったとしても、もう一つ気になることがある。僕はレーン・レーン・ルーンの耳元で小声で尋ねる。
「でも、師匠なんか ”場合によっては、殺しても構わん ”まで言ったんだよ? 師匠は本気の戦闘になると思ってたんじゃないの?」
僕の問いかけにレーン・レーン・ルーンは残念そうな苦笑いを浮かべて言う。
「ああ・・・。それは・・・そうなれば・・・・・ほら、なんて言うか・・その・・・・・
貴方の父親はフー・フー・ロー様だけに・・・なるじゃない?
まぁ、つまりはそういう・・・ことと言うか・・・。
だから・・・・・そこは本気だったのかも・・・・。」
何それ、こっわ・・・・。
レーン・レーン・ルーンの歯切れの悪さを思うと、マジなのか・・・・こっわ。
「何を馬鹿な話をしておるんだ。お前たちは・・・・・。」
僕がレーン・レーン・ルーンの話に呆れていると、バー・バー・バーン様に連れられてシズールや僕の家臣たち、そしてドラゴニオン王国の城兵たちがぞろぞろと入ってきた。
「ジュリアン様っ!!」
シズールは僕を見るなり走り寄ってきて抱きついたかと思うと、肩を震わせて泣いた・・・・。
「シズール・・・・。ごめんね、心配かけたかな?
君も無事で嬉しいよ・・・・。」
「・・うん。ジュリアン様が無事で私も嬉しい・・・・。」
どうやら随分と心配をかけたようだ。僕はシズールの頭を撫でてやりながら、ローガンや伯爵、そしてともに城に乗り込んできてくれた精鋭部隊を見つめた。防衛拠点まで生きてたどり着けた者は全員、多少の傷は負いつつも、無事のようだった。そして、ドラゴニオン王国の城兵たちも、無事のようだった。
僕は家臣たちを見ながら、改めて謝意を述べ、その苦労をねぎらった。
「皆、共に戦ってくれてありがとう。命を落とした兵士もいたが、皆が無事で嬉しい。
よくやってくれた。」
僕はそう言ってから一拍おくと、勝利宣言をする。
「皆、本当によくやってくれた。
ここにミカエラ王の降伏を受諾した我々の勝利を宣言するっ!!」
僕は槍の石突を3度地面に叩き鳴らしてから、槍の穂先を天に掲げて勝鬨の声を上げる。
「我らの勝利を我らの神に捧げる!! 散っていった仲間に勝利を捧げるっ!! ともに戦った戦友に勝利を捧げるっ!!」
その勝鬨に続いて精鋭たちは長剣を天にかざして「おー----っ!!」と割れんばかりの雄たけびを上げるのだった。
謁見の間は勝者の歓びと敗者の失望に包まれる異様な空間となった。
興奮冷めやらぬ謁見の間であったが、父上が僕に大きな声で問いかけることで再び静かになる。
「エレーネス王国の御家人ジュリアンに物申すっ!」
エレーネス国民にとってドラゴニオン王国の言語は理解できないが、父上が何かしら語り掛けていて、それが重要な内容であろうことを雰囲気で察して、黙って僕達の方へ傾注する。また同じようにドラゴニオン王国の城兵たちも父上の話す内容に興味を持って傾注する。(※傾注とは一つの事に心や力を集中すること。)
そうして訪れた静寂の中、父上は僕に尋ねた。
「この戦争に勝利したジュリアン殿。貴殿は今後、この国をいかようにするおつもりかっ!!」
父上の口ぶりは、対外的なものだった。これは、父上のために僕へ問いかけているのではない。この会話を兵士たちに聞かせるものなのだ。僕はそう悟ると、家族の会話ではない口ぶりに変えて話す。
「ミカエラ王よ。
私はこの国の第一王子。勝利した暁には当然、王位継承する権利があり、そなたには退位を命ずる。
そして転生者の私がこの国を統べ、この国を導き、窮地から世界を救うのだ!!!」
勝者として退位を命じる当然の権利を行使した。ドラゴニオン王国の臣民に至るまで反論あろうともこれを拒否する正当性はない。父上の狙い通り家臣の前で彼らに聞こえるように宣言した。証人には事欠かない。バー・バー・バーン様もご納得の様子で僕の眼を見つめてコクリと頷いた。王家の守り本尊の許可を得た今、ここに僕の王位継承は成されたのだった・・・・。
「言葉を返すようであるが、お前の実の父として言おう。如何に勝者であっても王位継承には資格というものがある。その資格を持たぬものが王位を継承しても何の正統性もない。それは王としての権威を持たぬ事を意味するのだ。正当な手続きを済まさぬ限り、父として王位は譲れんな。」
・・・・
・・・・・・・え?・・・・・・
予想外の言葉に僕は固まる。一瞬、父上が何を言っているのかわからなくて、助け舟を求めるようにバー・バー・バーン様の方を見たら、バー・バー・バーン様も青い目をまん丸にして口をポカンと開けていた。
あ・・・・これ、絶対にアカンやつやん




