あれっ!? まだ、続くのっ!?
「ははははははははっ!! なんと愚かな男だっ!!
たった、それだけの人数の木偶の坊でこの私と戦えると思ったのかね?
見せてやろうっ!! 凡俗どもよっ!! 我が、神としての権能をっ!!」
そう言って魔神フー・フー・ローは手にした槍を地面に差すと両手を打ち合わせてから、その両手を開いた。するとその両手の間から次元が歪んでその場にいた者たち全員が氷の世界に閉じ込められるのだった。
自分たちがいる世界を見て、ドゥルゲットは目をむいて驚き、力無く呟いた。
「なんだ・・・・ここは・・・?」と。
そこは、氷に閉ざされた世界だった。彼らが立っている場所から50メートル向こうは猛吹雪であり、完全に孤立している世界に思えた。
そして魔神フー・フー・ローの背後には比較的小さめだが荘厳な造りの城があった。
それはとても美しい氷でできた城だった。
四方には氷の城壁が高く張り巡らされ、容易には攻め込めない。外堀の幅は20メートルはありそうで、堀の中には、大蛇を思わせるサイズの魚影がゆらゆら泳いでいるのが確認できる。きっと、この外堀の近くに入ってきた外敵を撃退するための番犬的な何かだろう。
城門は、巨大で高さ8メートル、幅6メートルはありそうな氷の結晶で出来た門扉がはまっている。そしてその氷の門扉には美しい2体の女騎士が剣と槍を構えている彫刻が施されているのが目を引く。
フー・フー・ローは自慢気に言うのだった。
「ようこそ、我が城へ。
そなたらの死をもって歓迎しようっ!!」
フー・フー・ローがそう叫ぶと門扉に刻まれていた2体の女騎士が動き出し、城の中からは数えきれないような精霊女騎士、精霊女貴族が姿を見せる。
「おかえりなさいませ。お館様。」
「御戻りを歓迎いたしますわ。若君。」
大勢の高位の存在が恭しく魔神フー・フー・ローに頭を下げると口を揃えてそう言った。
一人一人の声の大きさは普通なのに、その人数で同時に話すと大きな波となって、その場にいたドゥルゲット一味を恐怖させた。
その様にフー・フー・ローの氷の城にいた一同は声を上げて笑った。
そして、同じように呆気にとられるドゥルゲットに魔神フー・フー・ローは、勝ち誇る。
「見たか? ドゥルゲットよ。
お前は俺が何の考えもなしに、酔狂や色欲のために女どもを手籠めにしてきたと思うのかね?
この者たちは我が愛妾にして我が国の兵士たち。
そして、お前たちにとっての死神なのだよ。
この人数で襲い掛かられてはひとたまりもあるまい。ドゥルゲット・・・・。
お前は先ほど何と言った? 切り裂き、切り刻み、苦痛の限りを与えてから私を殺すと言ったのか?
それがお前たちに今から降り注ぐと覚悟せよっ!!」
その言葉を聞いて、震えあがって悲鳴を上げてから、泣きを入れたのは水精霊の女騎士ニャー・ニャー・ルンだった。手に持った槍を捨てて、その場を飛び出すとフー・フー・ローの前に土下座して命乞いをする。
「嫌ぁあああああー---っ!!! 神よっ!!
お慈悲をっ! 何でもしますっ!! 貴方の女になりますっ!!
だから、お慈悲をっ!! だから酷いことしないでっ!! お願いしますっ!!」
涙をこぼして地面に頭をこすりつけて懇願するその姿には精霊騎士としての誇り高さは見る影もなかった・・・・。髪の毛をベリーショートに刈り上げ、精悍な騎士のようにふるまっていたはずなのに、恐怖に駆られてプライドを投げ捨ててしまったのだ。
魔神フー・フー・ローは、そんなニャー・ニャー・ルンの頭を踏みつけると、手にした槍で衣服を切り裂きながら言った。
「身の程をわきまえたその態度。まことに殊勝である。
お前には、この戦いの後に特別に慈悲を与えてやろう。」
ニャー・ニャー・ルンは衣服が引き裂かれるたびに「ひいいいいっ!」と悲鳴を上げて震えあがった。槍の刃先が肌に触れるたびに怯えて失禁さえするその様子に、裏切られたはずの精霊騎士から非難の声が飛んだ。
「神よっ!! 降伏し、命乞いをするものに対して慈悲はないのかっ!!」
だが、フー・フー・ローはそれを退ける。
「この者は私が降伏勧告をする前にそなたらを裏切り、命乞いをしたのだ。その罪、万死に値する所だが、私は慈悲深い神だ。恥辱という罰を与えるのみでそれを許す。それが闘神である私の最大の慈悲と知れっ!!」
反論の余地はなかった。ニャー・ニャー・ルンの行動は騎士にあるまじき振る舞いであった。それ故の神罰と言われれば、返す言葉などなかった。
そうして、黙りこくる精霊騎士達にフー・フー・ローが問う。
「納得したかね?
ならば、今より正式に降伏勧告をしようっ!!
今からならば罪には問わぬ。ドゥルゲット以外の者で命が惜しいものは我が軍門に下り、私の国の兵となれ!!」
だが、その勧告を受け入れる者はなかった。
「いかに神とはいえ、侮辱は許さぬっ!!
私は、見事この場に戦って果てて見せようっ!!」
土精霊騎士のドー・ドー・ハーダがそう吠えると、その場にいた精霊騎士たちは男女問わずに同調した。特に同じ女精霊騎士が屈服する姿を苦々しく思っていた火精霊の女騎士クープ・クープは、その美しい赤い髪をバサッとなびかせてから、氷の大地に唾を吐く。
「私は自分の男は私が選ぶっ!!
男に強要などさせないわっ!! この肌に触れていい男は私が許した男だけ。私を抱ける男は幸福よ。この体は男に世界一の快楽を与える至宝なのだから。でも、残念ね。お前にその恩恵を与えるつもりはないわよ。
お前のような仮初の神に抱かれるぐらいなら、騎士の誇りにかけて血の一滴が枯れるまで戦い続けて見せるわっ!!」
見事な啖呵を切るその姿に共に戦う精霊騎士たちは、槍を掲げて称賛の雄たけびを上げる。
「我が名は、クープ・クープ!!! お前に屈服しない女騎士と覚えておけっ!!」
まるで勝ち名乗りのような雄々しいその姿からは女騎士としての誇りを感じさせ、フー・フー・ローも称賛の拍手を送る。
そして・・・・・。
「では、交渉決裂ということだな。
その方らの覚悟見事である。始めにそなたらを木偶の坊と呼んだ非礼をここに心から詫びよう。
すまなかった。
これより俺の女たちがそなたらの命を奪うが、その前に、クープ・クープ同様に他の者共も名乗りを上げよ。最後まで騎士の誇りを失わなかったその誇り高き名。覚えておこう。」
その言葉に一同頷き、左から順に名乗りを上げる。その名を全て聞き終えたフー・フー・ローは感動した様な目のままで右手を高く上げると
「誉れ高き良き名だ。・・・・覚えておこう・・・・。」
と、口にしてからその右手を振り下ろす。
それを合図に城から大勢の女騎士、貴族が彼らに向けて突撃してきた。ドゥルゲットと契約した精霊騎士たちは、最後まで勇敢に戦ったのだが、多勢に無勢。荒波に巻かれる難破船のようにあっという間にフー・フー・ローの女たちに飲み込まれて死んでいった。だが・・・・誰一人として最後まで闘志を失わなかった・・・・。槍が折れ、刀傷を負うとも、命尽きるその最後の最後まで戦い続けたのだった。
彼らのその誇り高い姿をニャー・ニャー・ルンは恥辱に満ちた姿で最後まで見届けた。そして、誇り高い彼らの死を見届けてから、「ああああああー----っ!!!」と、悲哀に満ちた声を上げて泣き叫ぶのだった。
フー・フー・ローは、そんなニャー・ニャー・ルンの頭を無言で優しく撫でてやり、その体に自分の陣羽織を羽織ってやると、最後に残った神。ドゥルゲットの前に歩み寄る。
「さて、残ったのはお前一人だ。
お前の部下は勇敢に戦って死んだぞ。さぁ、構えるがいいっ!!」
だが、構えるどころか狼狽えるドゥルゲットはそれどころではない様子で叫ぶっ!!
「なんだっ!! なんだ、この世界はっ!!
なぜ、俺は転移して脱することが出来ないっ!!
一体、ここは何処なんだっ!!
魔神フー・フー・ローっ!! 貴様は・・・・貴様は一体何者なんだっ!!?」
精霊騎士達の屍が転がる氷の大地に災いの神ドゥルゲットの叫び声が空しく響いた・・・・。




