ああ、今回そういう事ねっ!!
―――――――――――――――――あの時ー--------------
「おのれっ!! おのれっ!!
どこまでも俺の邪魔をするというのかっ!!
よくも・・・・貴様っ!! フー・フー・ローぉぉぉおおおおおおおおおー-----っ!!」
自分が転移してきたときにはジュリアンたちが飛ばされた時と知った災いの神ドゥルゲットは対峙する魔神フー・フー・ローを見て怒りに震えて絶叫する。
対する魔神フー・フー・ローは、まんまと罠にかかった災いの神ドゥルゲットを小バカにするようにフッと笑い飛ばすと、指先で空中に神文を描いて魔性の槍を展開する。
「吠えるな。下郎ドゥルゲットよ・・・・。
貴様はここで死ぬのだ。
俺のジュリアンの命を狙った罪を・・・・罪なき人間たちを殺した罪に対して、俺が神罰を与えてくれようっ!!」
殺気みなぎる両雄は既に戦闘状態に入っていた・・・・・・。
殺気みなぎるドゥルゲットであったが、戦いの立ち上がりは静かであった。魔神フー・フー・ローの構える槍の間合いから一間以上離れた間合いを保ったままジリジリと円を描くようにステップを踏んでフー・フー・ローの出方をうかがっている。(※一間=約1.8メートル)
格闘技界でよく言われる「格下の方が格上の方を回る」というのは、現実によく起こることである。ただし、格上が勝つとは限らない。格下の者は知っているのだ。相手が自分よりもパワフルでタフネスでスピーディでテクニカルであることを・・・。それ故に一切の油断が無い。神経が研ぎ澄まされているのだ。反対に、格上の者には格上としての油断が生じる。それ故に戦いの最中、意外なワンミスを犯して敗北してしまった事例が過去何度も起きている。そう言った事例を鑑みると、今のドゥルゲットはベストの状態ということになる。前回向かい合った時には、明らかに自分の方が格上だった。闘神フー・フー・ローと疫病神ドゥルゲットという不利はあったが、それでも精神的な余裕はあった。あの時のドゥルゲットには、「戦えば、それでも自分が勝つ」という確信があったのだ・・・・・。
だが、しかし。今こうして向かい合った時、魔神フー・フー・ローがとてつもなく大きな存在になっていることを確認してしまったのだ。慎重にもなろう。
反対に冷ややかな目でジッとドゥルゲットを睥睨する魔神フー・フー・ローからは強者としての絶対の自信が感じられる。(※睥睨とは威圧するように睨むこと、横目でにらむこと)
しかし、絶対に油断することが無い。フー・フー・ローには油断が無い。
仮初の神でありながら神界のお尋ね者である彼の人生は苦難と戦いの連続であった。常に強者に追われ生き延びてきたこれまでの人生と戦闘経験から油断こそが一番危険だと彼は確信しているのだ。そしてその人生の教訓の中には、油断からジュリアンの策略にハマり痛い目に合った過去も含まれる。圧倒的弱者が相手でも闘争において気を緩めることは許されないことを学んだのだ。だから、たとえ相手が既に格下となったドゥルゲットであっても、一切、注意を怠ることが無かった。獅子捕兎。獅子はウサギを捕えるにも全力を尽くす、引いては物事当たるときには万事全力を尽くしなさいと言う意味の熟語だが、この場合、文字通りフー・フー・ローは兎が相手でも全力を尽くす。フー・フー・ローもまた、この戦闘において研ぎ澄まされているのだった。
ドゥルゲットは間合いを測る動きの中で高まっていく緊張感から、フー・フー・ローには自分が付け入る隙が無いことを敏感に感じ取り、己の不利を自覚した。
ーこのままではいけないっ!!ー
ドゥルゲットは危険を察知すると、瘴気を凝縮した瘴気溜まりを作り出すと煙幕代わりとばかりに爆発させて身をくらます。(※瘴気とは熱病を起こさせるという山川の毒の気のこと。)
しかし、その煙幕が効果を示すことはない。爆発と同時にフー・フー・ローが息を一息フッと吐きかけるだけで突風が吹いて瘴気の全てを吹き飛ばす。ドルゲットは一瞬も姿を消すことが出来ず、その場は視界明瞭なままであった。
そして、フー・フー・ローは相変わらずジリジリと距離を詰めていく。狙うものと狙われるものでは圧倒的に狙う者の方が強い。その距離を嫌って逃げ場所を求めるドゥルゲットであったが、やがて距離は詰まっていく。どんなステップワークの持ち主であっても闘争の最中に常に離れ続けることは出来ない。絶対に距離が縮まり打ち合いの間合いに場面が何度か訪れることになる。相手が格上の場合はもっとそうなる。ドゥルゲットには逃げ場がなかった。
「ふんっ!! 忌々しいっ!!」
ドルゲットは恨み言を言うと、歩みを止めた。
「魔神フー・フー・ロー。勝ったと思うな?
いいか、お前がガーン・ガーン・ラーの神核を奪って強くなっているのは先刻承知のことよ。
お前がどれほどのものになったか、確かめようと思って転移もせずにこの場に残ったが・・・・
忌々しいが、どうやらお前は本当に強くなったらしい。だが、それでもお前は俺に敗北する。」
追い詰められているはずのドゥルゲットによる突然の勝利宣言。
だが、フー・フー・ローはそれに動じることはなく、その挑発など歯牙にもかけないと言った様子で問い返す。(※歯牙にもかけないは、問題にせず無視すること)
「それがお前の遺言か?」
美しい顔をわずかに歪めた含み笑いは、異様な色気に包まれており、それが逆にドゥルゲットの心を逆なでした。
「おのれっ!! 笑っていられるのも今の内だ!!
お前は忘れているぞっ!! 私が一人ではないということをなっ!」
ドゥルゲットはそうタンカを切ると大きく飛び下がりながら指をスナップさせてパチンッと音を鳴らす。すると次元の壁を切り裂いて異界の者たちが出現してきた。
燃え盛るような赤い長髪をなびかせた美しい火精霊の女騎士クープ・クープと、屈強な肉体を誇る土精霊騎士ドー・ドー・ハーダ。
青い髪を短く刈り込んだ精悍な顔つきの水の国の王に仕える水精霊の女騎士ニャー・ニャー・ルン。
火と泥の奥の国の王に仕える土精霊騎士のヒャー・グーと同じく火精霊騎士のイーク・イーク・フー。ヒャー・グーは小柄だが筋骨隆々としており、イーク・イーク・フーはまだ少年のように幼い。
そして最後に闇と暴風の国の王に仕える騎士ターク・タークが現れた。
だが、ターク・タークは息も絶え絶えになった瀕死の重症であった。
「えっ!? お前、死にかけてるじゃねぇかっ!!
なにやってんのっ!?」
ドゥルゲットは、その姿に困惑し、フー・フー・ローはクックックッと喉を鳴らして笑った。
「その噛み傷と引きつり傷はファー・ダーか? お前、ジュリアンに敗れたのだな。クックックッ・・・・・。」
ジュリアンの成長を確かめたフー・フー・ローは、満足そうに笑うのだった。そして、その侮蔑の笑いを聞きながら、哀れターク・タークは息絶えるのだった。
忠臣ターク・タークの死はドゥルゲットの心に大きな傷をつけた。その亡骸を抱きしめて声を上げて泣く。
「おおおおおっ!!
許さぬっ!! この呪われし俺を蔑むことなく、偽ることなく支えてくれた唯一無二の忠臣をっ!!」
部下の死に涙するその姿に契約した精霊騎士たちも思うところがあるのだろう。全員、気を引き締めた顔をしてフー・フー・ローと向かい合い各々の武器を構えるのだった。
そして、フー・フー・ローと戦う決意を固めた彼らのその覇気に同調するようにドゥルゲットは泣き止み、彼らと同じように戦闘態勢を整える。
「確かに俺一人の力ではお前は手に余る。だがっ!! 俺一人でもお前の動きを封じることは出来る。
俺を相手にしながら、この人数の騎士に四方から襲い掛かられて命があると思うなよ!?
お前はただでは殺さぬ。
引き裂き。切り刻み。お前の意識がある限り苦痛を与え続けてから殺してやるっ!!」
怒りに震えて咆哮するかの叫び声を上げるドゥルゲットに対して、魔神フー・フー・ローは嘲笑にて答えるのだった。
「ははははははははっ!! なんと愚かな男だっ!!
たった、それだけの人数の木偶の坊でこの私と戦えると思ったのかね?
見せてやろうっ!! 凡俗どもよっ!! 我が、神としての権能をっ!!」
そう言って魔神フー・フー・ローは手にした槍を地面に差すと両手を打ち合わせてから、その両手を開いた。するとその両手の間から次元が歪んでその場にいた者たち全員が氷の世界に閉じ込められるのだった。




