悩んでいる時間はないんだっ!!
僕はその一言と同時に僕は再び氷のコンテナを作り出して身を隠す。
そして、その数十秒後に次元の壁を切り裂いて、地の底の国の王の重臣にして防衛隊の隊長と言える高位の龍族、邪龍ギューカーン様が現界されるのだった。
僕は一つ大事なことを忘れていた。これまでずっと禁止事項だったから、すっかり頭から抜け落ちていた。
土魔法を禁じられていた理由を・・・・。
そう。僕らはこれまでバー・バー・バーン様にその存在を気取られぬようにずっと土魔法の召喚が出来なかった。だが、それが今となってはどうだというのだ?
だって、気取られるも何も僕の眼の前にその人、バー・バー・バーン様がおられるじゃないかっ!!
今更何を気にするというのか?
それに邪龍ギューカーン様は土属性の存在と雖も、そもそもギューカーン様は地の底の国の王に仕えるお方。土の国の王に仕えるバー・バー・バーン様とは違う異界の王の家臣なのだからバー・バー・バーン様も早々、ギューカーン様に影響を与えることも出来ないし神聖の高さも相当な存在なので、もしバー・バー・バーン様と戦うことになっても負けることはないだろう。それは魔神フー・フー・ロー様との戦いぶりから見てもわかる。(第22話「よしっ!! もう一回、転生しよっかっ!!」参照)
それにギューカーン様は調停者としての役割をお持ちだ。僕が魔神フー・フー・ロー様に命を狙われた時に全力で戦ってくださったのも、調停者ゆえの事。あの時は、神界のお尋ね者であった魔神フー・フー・ロー様が現世の少年を殺そうとしていたのでそれを実力で食い止めるためにと戦ってくださったのだ。事実、あの時、師匠はギューカーン様に対して「調停者、ギューカーンよ。お前ほどの者がこのような子供の指図にのるのか!?」と発言していた。ギューカーン様はあの時、間違いなく調停者の権能を発揮しておられた。(※権能とは行うことが認められている能力、資格の事。)
そんなギューカーン様は僕が召喚できる高位の存在の中で間違いなく最強の存在。このお方を堂々と召喚できるようになったのは助かる。それに今の僕はあの頃の僕ではない。魔力の量が桁外れに高い。相当長時間の召喚が可能だろう。そうはいっても、これほどの高位の存在。おいそれと召喚などできない。それ故に足を止めて父上の関心を引いた。その隙に魔力を溜めた。溜めた魔力を悟られないように会話でごまかし、右手を切るという不可思議な行為まで行った。それが出来た理由は父上は戦いながらも僕の成長を確認しておられたからだ。喜んでおられたからだ。王として転生者と戦う覚悟はあったが、その覚悟の中に決定的に足りない部分があるのだと僕は悟った。
それは、今でも父親として息子への関心を失うことは出来なかったということだ。
父上は何処までも父親だった。それ故に僕を見過ぎた。足を止めた僕に対する関心を持たずにはいられなかった。本来、僕の足が止まったのなら問答無用に魔法を撃ち続けるべきだった。それが出来なかったのは、僕が何をするか知りたかったから。自覚があったのか深層心理かどうか知らないが、父上は僕の成長を・・・・喜んでくださっていたに違いない・・・・・。
「ジュリアンよ。よくぞ私の意識を逆手に取ってこの大魔法を成立させたな。
やられたよ・・・・。だが・・・ジュリアンよ。」
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
「だが、ジュリアンよ。何故泣く?」
僕は、いつの間にか号泣していた。父上に勝ったからというわけでもなく、褒めてもらえたからというわけでもない。
ただ、父上に命を狙われて国を追われることになった僕に師匠は仰った。
「しっかりしろっ!! 民草と国家を守らねばならぬ王として当然の仕事をしたまでだっ!!」この言葉が正しかった。僕は今でも・・・この戦いの最中であっても、父上は最後の最後の所で僕の父親であったことが嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて・・・・・嬉しくて涙が止められなくなったのです・・・・・・・。
そうやって涙を止められぬ僕だったが、すぐに異変に気が付く。
ギューカーン様は動かなかったのだ。
ただ、一点を凝視していた。そして、それに気が付いた父上もつられてそちらを見て固まっている。
何が起こったのだろうと僕も目をやると・・・・・・。
激戦の末に、レーン・レーン・ルーンがバー・バー・バーン様に倒されていたのだった。
バー・バー・バーン様は気絶するレーン・レーン・ルーンをお姫様抱っこしながらこちらに向かって歩いてくる途中だった。二人が争った場所は瓦礫の山になっているし、バー・バー・バーン様もそれなりの傷を負っていて、あちこちから出血している。レーン・レーン・ルーンもその激闘でボロボロの衣服の下から出血が見られる。ぐったりと落ちた頭部を見ると口から血が流れ落ちていた。相当な深手を負っているようだった。
邪龍ギューカーン様はバー・バー・バーン様が、この次にどう出るか注意深く見ている。もし、レーン・レーン・ルーンを殺すというような調停者の仕事に関わるような事態が起きようものなら、すぐにバー・バー・バーン様にとびかかるだろう。
父上もそれが気がかりなのか、バー・バー・バーン様を注視している。
皆が固唾をのむ中、バー・バー・バーン様は「殺しはしない。」といって、土魔法で岩のテーブルを作り出すとその上にレーン・レーン・ルーン寝かせた。そしてバー・バー・バーン様がパンッと両手を打ち鳴らすと、テーブルの上を滑らせるグラスのようにレーン・レーン・ルーンを乗せた岩のテーブルは僕のところまで滑ってきた。
「その小娘は小娘の割によく頑張った。
手当をしてやれ。しかし、戦闘可能な状態まで回復させるなよ。再び戦わせても余に勝てるわけがない。」
バー・バー・バーン様が想像もしていないような寛容な対応をするので、思わずキョトンとバー・バー・バーン様を見つめてしまった。
「この娘は余のターゲットではない。無益な殺生は好まぬ。
余が災いの神ドゥルゲットと契約したのは、転生者の命と魔神フー・フー・ローの命。
さぁ、それがわかったのなら、早く回復を施してやると良い。
お前が今、この空間で動けるのはギューカーン殿のお力添えがあっての事。それもお前の召喚能力が無くなれば・・・・。故に急げよ。我らと違ってお前の時間は有限である。」
それを聞いて僕は慌てて、レーン・レーン・ルーンに回復魔法を施す。オリヴィアのような神がかった回復魔法は僕にはない。せいぜい止血が精一杯だが、それにしても深手だ。
なんとか安全が確保できるまでにはしないといけない。
それと同時に、僕はこの時間を利用して作戦を立てなおさなければいけない。さっきまでの状況なら僕達の方が有利だった。なのに、レーン・レーン・ルーンが倒されてしまえば、戦力的には互角であっても、戦況は圧倒的に不利だ。
どうする? どうする?
ああっ!! 初手で僕がザー・ダー・ザーではなくギューカーン様を召喚していれば、なんとかなったものを・・・・・・。
そう思いながらレーン・レーン・ルーンの傷を塞いでいると、彼女のこの傷も自分の責任であることに気が付き、申し訳ない気持ちで一杯になる。
そして後悔がグルグルと頭をよぎる。罪悪感と自分に対する失望で自己嫌悪の塊になりそうだ。
でも、僕には時間が無い。悩んでいる時間はないのだ。時間は僕の敵だ。悩めば悩むほど、僕は不利になって行く。ならばやるしかない。戦いながら作戦を考えるしかに。やるんだ、ジュリアン!! 決断力こそ僕の最大の武器だったじゃないかっ!!
そうやって、僕が悩んでいた時間はどれくらいの時間だろうか? 10秒? 1分? 3分か?
いや、それはもう問題ではない。今はすぐに行動に移ることだ。
僕が傷の手当てを終えたのを察したバー・バー・バーン様と父上は僕の対面に移動して集まった。
気が付くと、それを納得したかのように邪龍ギューカーン様が僕のそばに来てくれていた・・・・。
こうして、第2ラウンドとも呼べる戦いが始まるのだった・・・・・。
だが、向かい合うギューカーン様とバー・バー・バーン様の緊張感が高まって、二人が放つ殺気による毒気に障って僕と父上がまるで地獄に落ちたのかと思うほどの恐怖を感じた瞬間のことだった。
突然、バー・バー・バーン様が右手を出して
「あ・・・・待て。」
「たった今、災いの神ドゥルゲットが死んだ・・・・。」
と言ったのだった・・・・・。




