今でも脅威だったよ!!
「ああ、もう、仕方のない子ですねっ!!
とにかくお姉さんに言われた通りに頑張りなさいっ!! 貴方、やればできる子でしょっ!?」
レーン・レーン・ルーンは心底、面倒くさそうに僕を叱りつけると、バー・バー・バーン様に向かって行った。
「お前の相手は私と言うことか・・・・・。」
父上は、僕を見ながらニッコリと笑うと右手人差し指を真っすぐ僕に向ける。
次の瞬間、地面からドリルのように尖った岩が床からせり出してきて僕を刺し貫こうとする。
その魔法は発動から顕現するまで時間にして僅か0.3秒と言うところか・・・・。
だが、その魔法攻撃は僕には通用しない。その魔法が顕現するのとほぼ同時に氷の壁が僕の四方に張り巡らされて土魔法の攻撃を完全にブロックする。
ガラガラと崩れ落ちるドリルのような形をした岩と氷の壁・・・・。
「父上・・・・。この程度の攻撃は僕には通りませんよ。」
そう・・・。未来視の眼を使いこなせている僕にこの程度の攻撃は通じない。ただし・・・・。
ただし、父上の土魔法は僕の氷魔法の壁を破壊せしめた。これがバー・バー・バーン様の聖域の加護と言うことか・・・・・。
僕は、できるだけ冷静さを保って父上を見据えるが、本心では父上の底が知れぬ土魔法をうすら寒く感じていた。
・・・・いくら聖域内とはいえ、僕の氷を破壊するとは・・・・。魔神フー・フー・ロー様が僕の背骨に刻み込んだ神文由来の氷魔法はこれまで精霊騎士との戦いでさえ通用してきた。それと肉薄する土魔法を父上は身につけているというわけだ。
どうやら僕の父上は魔神フー・フー・ロー様からの修行を乗り越えた今もってしても、大きな壁であるようだ。
そして、それはバー・バー・バーン様の加護を受けていることに加えて、僕のことを僕以上に知っている父親としての強みを持っていることも加味されているのだった。
ご自分の奇襲を完全に防がれたというのに、父上は余裕のある笑みを浮かべるのだった。
「さて、うまく隠し通せていると思っているのかも知らないが、お前のその表情から察するに焦っておるな?
私の魔法がお前の想像を超えていたか? 自分の氷を破壊されるとは思って見なかったか?
どうだ? 図星であろう?
私をなめるなよ。お前が生まれたその瞬間から私はお前の父親をやっておるのだぞ?
どれだけ取繕うとしたところで、お前の癖から思考の特徴はお前以上に知っておるわ。」
・・・・っ!! 見透かされている。
これだっ!! やはり、父上を敵に回すということは、ある意味、僕にとってはバー・バー・バーン様以上に相性が悪い敵と戦うということなのかもしれない・・・・。
「お前は、幼いころから危険な状況を誤魔化すのがうまい子だった。
ただな。
お前、その時にわずかに右唇が引きつるのを知っていたか?
私の魔法が通じないとタンカを切ったな? それはこちらのセリフだ。
お前のトリックは私には通じない。」
・・・・参ったな。僕はこんな時だというのに、自分の全てを見透かす敵を相手に時間を稼がなければいけないというのか・・・・。
・・・・参った。これは本当に参った。だって・・・・。
だって、僕はこんな状況だというのに、父上が僕のことをよく知ってくれていることが、そして、今でも僕にとって脅威的な存在であり続けていることが嬉しい・・・・・・。
精霊騎士とも渡り合える実力まで手に入れた僕を相手取って未だ脅威である父上を誇りに思ってしまう・・・・・。
「ふふふっ・・・・。」
嬉しくって、槍を構えた臨戦態勢だというのに、つい笑いがこぼれてしまう。そんな僕をまぶしそうに父上は見つめながら、
「そうか・・・・。まぁ、かつての私もそうであったよ。そういう時期は私にもあったのだ。」と呟く。
次の瞬間、再び父上の土魔法が発動する。
今度は針のように細い石の棘が僕の足元から吹き出してきた。その場にいたら、体中串刺しだ。槍を使って棒高跳びのように素早く跳ね上がると、空中に氷の板を何枚も浮かび上がらせる。そしてその氷の板を足場に素早く飛び移りながら、地面から襲ってくる父上の魔法の脅威から逃れつつ距離を詰める。
だが、僕の神速をもってしても父上に近づくことは出来ない。既に僕と父上との間の僅か十数メートルの距離の間で8キロは走っていると思う。それほど父上は巧みに僕の進む前に進む前に罠を仕掛けてくるのだ。
「お前は良い子だ。幼いころのまままっすぐに育ってくれた。
だからこそフェイントをかけながらでも私には読める。お前の動きが・・・。そう易々と近づけると思うなよ。」
先が読める・・・。それだけではない。僕の速度は人間には視認できないはずだ。バー・バー・バーン様の聖域が父上を精霊騎士と戦えるほどの戦士たらしめている。これはマズい。僕が父上に有利をとれるのはこの身体能力の高さと言えるが、それがこの聖域内ではさほど影響しない。
父上の魔法は僕の魔法で対抗できるが、僕の思考の癖や戦い方の質を知り尽くしている父上相手では、それもどちらかと言えば不利なんだろう。
先手先手を取る父上にゴテゴテに戦うことを余儀なくされている状態は非常にまずい。この状況が続けば、いずれ僕は父上の罠に知らず知らずのうちに追い込まれ行くだろう。僕が父上ならば、そうする。
父上の攻撃を氷の板を使ってかわしているが、ここらあたりで反撃に転じなければ、いい様にされてしまう。
僕は注意深く謁見の間を観察しながら父上の周りを駆け回っていたが、やがて、バー・バー・バーン様が拳で打ち砕いた岩の欠片を見て妙案が思いつく。(※妙案とは、素晴らしい思いつきのこと)
決断力は僕の武器だ。迷うことなく実行に移す。
僕は地面から3メートルほどもそびえたつ氷柱を地面に打ち立てると、その柱にツリーハウスを建てるようにして、自分の周囲全方位に氷の板を張り巡らせて箱状の建造物を構築して、自分の姿を全方位から見えなくなるようにして姿を隠す。
いや・・・姿を隠すと言っても、僕がそこにある氷のコンテナの中にいるのは、明白なんだけどね。
その4歳児のかくれんぼレベルにバレバレな隠遁に父上も流石に戸惑っておられた。
「なんのつもりかね?
そんなことしても私はお前の氷を打ち砕いて倒すだけだ。それが分からぬお前ではないだろう。」
僕は父上の質問には何も答えない。恐らく生まれて初めてのことだと思う。父上を無視するなんて心が痛むけど、それは仕方がない。これは闘争なのだ。心を鬼にして、私情を殺して勝利を掴むことを優先する。
父上は僕の返答を待ったが、「それは何かの罠かね? まぁ、よい。罠を噛み砕くのもまた、戦場の習い。お前の罠をここで潰してやろう・・・。」と、宣言した後で土魔法でこれを壊しにかかる。
激しい衝撃音と共に僕の氷を父上が破壊しようとする音が聞こえてきた。
そして、土魔法の攻撃の恐らくは第三波で僕の氷のコンテナは破壊されてしまった。
そして氷のコンテナの中から姿を見せる僕をみて、父上は驚いたように目を見開いた。なかにいた僕が何もせずにただ立っていただけだったから・・・・・。
「・・・・・お前が無策にその中に隠れるわけがない・・・・
一体・・・・・何を考えて・・・・・?。」
父上がそう、口にした瞬間、次元の壁を切り裂いて火の国の王に仕える重臣にして火の精霊貴族ドー・ダー・ザーの34人の愛娘の一人戦乙女ザー・ダー・ザーが父上の背後に現れた。この世の者とは思えぬほど美しい戦乙女のザー・ダー・ザーが手にした槍を父上に向かって構えると槍の穂先から眩い青い光を放つ炎弾が射出される。
「なんだとっ!? 」
父上は急に出現したザー・ダー・ザーに驚愕の声を上げながら、土魔法で岩の壁を作って青い炎の炎弾から必死に身を守る。それこそが僕の狙い。
僕は自分の氷のコンテナを破壊される衝撃音をカモフラージュにその中で召喚術を唱えていた。そして、父上の背後にザー・ダー・ザーを出現させて攻撃させる。不意を突かれた父上は背後の壁を作るまでの余裕はなかろうと判断しての作戦。
まぁ、正直、ザー・ダー・ザーがバー・バー・バーン様が時間を止めたこの空間内で動けるかどうかは微妙だった。だが、次元の壁を切り裂いて出現するだけでも父上の動揺は誘える。結果オーライだけど、ザー・ダー・ザーがこの空間でも問題なく動いてくれて助かった。これも火精霊貴族の愛娘という血筋の恩恵か。ザー・ダー・ザーの霊位の高さに影響しているのだろう。
ともあれ、これでこの作戦が成功する可能性は格段に上がった。
そして、この隙を見逃すことなく、僕が新たに出現させた氷の槍が父上の足に向けて射出された・・・・。




