僕、バカじゃないもんっ!!
僕の未来視の眼はバー・バー・バーン様が繰り出す必殺の拳が僕の顔面を襲う未来しか見ることしかできなかった。
しかし、それはバー・バー・バーン様のあまりの強さに圧倒されて正しく未来を見ることが出来なかったことが原因だ。そのことは次にレーン・レーン・ルーンが証明してくれた。
バー・バー・バーン様の拳が僕の顔に接触する寸前にレーン・レーン・ルーンが巻き起こした突風がバー・バー・バーン様を直撃して、その御体を吹き飛ばしてくれたのだ。その突風の威力たるや凄まじく、バー・バー・バーン様を何メートルも吹き飛ばしながら謁見の間の床石や壁がズタズタに引き裂かれてしまうのだった。僕は呆然とそれを見つめることしかできなかった。
「・・・・あれ?」
そう呟くのが精一杯だった。
僕はバー・バー・バーン様の攻撃を貰って死ぬかもしれないという絶望と恐怖から解き放たれたことと、突如起こった突風がバー・バー・バーン様を吹き飛ばすという想像を超えることに理解が追い付かず、すぐに次の攻撃に身構えることができなかった。
そんな僕をレーン・レーン・ルーンが叱咤する。
「何を惚けているの?
バー・バー・バーン殿がこの程度の攻撃でどうにかなるわけないでしょっ!!」
レーン・レーン・ルーンの声に僕は我に返って拳を握って構えをとって警戒する。
「オリヴィア!! ミレーヌ!!
連携をとるぞっ!! オリヴィアは僕に強化の加護をっ!! ミレーヌはザー・ダー・ザーを召喚してくれっ!!」
ザー・ダー・ザーは火精霊の貴族ダー・ダー・ザーの34人の愛娘の一人。戦乙女で強力な火魔法を使う。僕もこれまで何度も助けてもらった精霊騎士だ。バー・バー・バーン様にどれだけ通用するかわからないが、基本的に土精霊と火精霊の相性は良い。バー・バー・バーン様にとって厄介な相手くらいにはなってくれるかもしれない。
そう思ってミレーヌに召喚を頼んだのだが、一向に召喚魔法の言上が聞こえてこないし、オリヴィアの強化の加護の恩恵も僕には感じ取れなかった。
僕はバー・バー・バーン様と父上の方から目を離せないので背中越しにちょっとイラついた声で叱責する。
「二人とも何をやっているんだっ!
速やかに行動せよっ!!」
ところが、いっこうに二人からの返答も反応もない・・・・。
怪訝に思う僕の様子を、僕がそうなるのを待っていたかのようにバー・バー・バーン様がせせら笑いながら吹き飛ばされた体を起こして立ち上がる。
「重ね重ね、愚かだなジュリアン。
許す。よくよく周りを見てみると良い!!
お前は自分の周りに何が起きているのかわからなかったのかね?」
随分と不思議なことを言う。仮にも対戦している相手に余所見をすることを許すなどと・・・・。ただし、相手はバー・バー・バーン様。僕など問題にも思ってないのだろうから、この程度のことで戦況が変わるわけでもないといったところか。
僕は、バー・バー・バーン様の言葉に従って周囲を確認する。
固まっていた。オリヴィアもミレーヌもゴンちゃんも・・・ガーン・ガーン・ラーさへ石像のように身動き一つしていない。呼吸する揺らめきすらしていないようだった。
「これは、・・・・・束縛の魔法か?」
僕が漏らした憶測をレーン・レーン・ルーンが即座に否定する。
「違うわ。
これはそんなに生易しいものじゃないわ。
これは時を止めているのよ。」
レーン・レーン・ルーンは僕を落ち着かせるように背中をポンッと叩きながら、それでもバー・バー・バーン様に一切の油断を見せずに睨みつけながら教えてくれた。
「時、時間をっ!!?
そ、そんなことが可能なのか?」
敵に自分の心の動揺を知らせる行為が如何に愚かしいかは理解しているし、既にその失態をもう犯してしまった直後だというのに、再び思わず驚きの声を上げる僕。しかし、今回の驚愕の声には意味がない。僕の動揺ぶりは僕よりもバー・バー・バーン様の方こそ冷静に理解していることなのだろうから・・・・・。
「バー・バー・バーン殿が時を操る話は聞いていた。こうして目にするまでは俄には信じられなかったけど・・・・・。
明らかに精霊の領域を超えている信じがたい奇跡。しかし、事実だわ。」
僕はバー・バー・バーン様の能力に恐ろしくなる。時間を止めるなんて、そんなの・・・・・そんなの・・・・・完全に神の領域なんじゃないのか・・・・。
僕は今頃になって、あの魔神フー・フー・ロー様が「化物」と称したバー・バー・バーン様の実力を体感したというわけだ。
その恐ろしさを知ってから改めてバー・バー・バーン様のお姿を見つめてしまった。柔らかな優しい笑みを湛えた美しい青い瞳なのに、その優しさと青さがこの状況では逆に恐ろしく感じる。
情けないことに僕は、圧倒的な実力差に膝が震えだした。
すると、そんな僕を慰めるようにレーン・レーン・ルーンが僕の背中をさすりながら優しく教えれくれる。
「恐れないで、ジュリアン。どうして私達が動けると思う?
バー・バー・バーン殿には時を止める対象に限界があるようね。どうやら同程度の霊位を束縛するのは難しいことのようだわ。
私は精霊貴族だから、この時を止める能力に抗う事も出来たし、貴方の事を救う事も出来た。他の子も救おうとしたけれど、貴方が限界だったわ。」
そう言う事だったのか・・・。確かにレーン・レーン・ルーンも風精霊の貴族と言うバー・バー・バーン様と並ぶ超高位の存在だ。それならば・・・・戦えるっ!!
僕の闘志が再燃したことを確認したレーン・レーン・ルーンは僕が足関節技をかけるために手放した槍を手渡しながら言った。
「さぁ、貴方の槍よ。
バー・バー・バーン殿は私が食い止める。貴方は貴方の父親と対決なさい。」
頷いて槍を受け取ると僕は父上の方を向かって槍を構える。
「気を付けて。この王宮内はバー・バー・バーン殿の聖域。この状況の貴方の父親はそんじょそこらの精霊騎士よりも手ごわいと思いなさい。
決して無理に攻め込まないように。頑張って時間を稼がねばなりませんよっ!」
レーン・レーン・ルーンは不可解なことを言い出した。
時間を稼ぐ? 何の時間を稼ぐというんだ?
「しかし、レーン・レーン・ルーン。時間を稼ぐって・・・時間を稼いだら何になるというんですか?
時は我々の敵です。遅くなればなるほど、この謁見の間の外で拠点を防衛している僕の部下たちがそれだけ危険になるということですっ!! ここは短期決戦で臨むべきですっ!!」
・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・一拍。いや、たっぷり1分近くその場の空気が凍り付いた。
僕の一言で・・・・。それが僕の一言で起きたことはその場の空気が凍り付いたことは僕以外の者たちの行動で分かる。
「・・・・・はぁっ? 貴方、それ本気で言っているの?
貴方、真正のバカじゃないのっ!?」
レーン・レーン・ルーンは心底呆れたような声で僕を侮辱する。僕、バカじゃないよっ!!
なのに、バー・バー・バーン様も父上も動揺に心底僕を馬鹿にするかのように「はっ!!」と、声を出して嘲笑った。
すいません。そう言うの止めてもらっていいですか? まるで本当に僕がバカな子みたいじゃないですかっ!!
「ああ、もう、仕方のない子ですねっ!!
とにかくお姉さんに言われた通りに頑張りなさいっ!! 貴方、やればできる子でしょっ!?」
レーン・レーン・ルーンは心底、面倒くさそうに僕を叱りつけると、バー・バー・バーン様に向かって行った。
お、お姉さん・・・って、貴女見た目は完全にプニ乳のロリータじゃないですかっ!!
あー----っ!! もうっ!!
だーかーらー--っ!! そう言って僕を馬鹿キャラに仕立て上げようとするのやーめーて―っ!!




