お久しぶりですっ!!父上っ!!
僕に全てを託して謁見の間へと続く前室の拠点を防衛する仲間たちの温かい励ましの言葉を背中に僕は謁見の間を目指す。
謁見の間には今、ガーン・ガーン・ラーとレーン・レーン・ルーン。そして父上とバー・バー・バーン様と護衛の騎士達がいるはずだ。僕、オリヴィア、ミレーヌ、ゴンちゃんという最強メンバーがこれと相対する。ミレーヌも僕も召喚魔法が使える。オリヴィアの治癒魔法は最強だし、そこにゴンちゃんという魔力タンクがいれば、とにかく僕達が早々、死ぬようなことはない。たとえ敵が多勢であろうとも、このメンバーならば持ちこたえられる。ここにシズールがいれば完璧だと作戦を立てていたけれど、ドラゴニオン王国騎士団があそこまで練度の高い騎士団を保有していたとなれば、背後をエレーネス王国の精鋭騎士達だけに任せるのは心もとない。シズールがあそこで僕達の背後を守ってくれる決断をしてくれたので助かった部分もある。つくづく英断だと感心する。後ろでシズールが守ってくれている。それだけで僕達は父上たちに集中できる・・・・。
ありがとう、シズール。
謁見の間の扉の前に立つ僕は、心底シズールに感謝していた。そして、当然。オリヴィアとミレーヌにも感謝している・・・・あとゴンちゃんも。
「ついて来てくれてありがとう・・・。心強いよ。」
扉を開ける前にそう感謝の気持ちを伝えると、オリヴィアとミレーヌは無言で頷く。言葉は不要。
二人の覚悟を確かめてから、僕は扉を強く押し叩いて開けた・・・・・。
そして、謁見の間の奥に位置する高い場所にバー・バー・バーン様と共に立つ父上の姿を目にした。
「ああ・・・・っ・・・父上っ!!」
僕はこんな時だというのに、再会した父上を見ると幼いころからの思い出が走馬灯のように頭をよぎった。そして、感極まって父上の名を呼んで涙がこぼれた・・・・。
そんな僕に対して、父上は少し困ったような顔をしながら、「随分と遅かったな、息子よ。遅刻するとはお前らしくない。」と、嫌味を言う。
しかし・・・・。
「父上。遅かったとは、どういう意味なのでしょうか?
まさか、ここまで私が来るのを待っておられたということですか?」
父上はコクリと頷いてから、ガーン・ガーン・ラーとレーン・レーン・ルーンが届けた親書を片手に両手を広げると、謁見の間の全体を示す。
「見ての通りだ。これまでの経緯や我が国の現在の有様を踏まえたうえで、この親書を見ればお前がここに来て私と対決することは避けられまいと思い、この場の防衛に当たるはずの城兵は全て下げさせた。お前たちと戦えば、無駄死にするだけだからな。我が国の者でここにいるのは私とバー・バー・バーン様のみだ。」
そう言われて、僕は今、この謁見の間には僕達4人とガーン・ガーン・ラーとレーン・レーン・ルーン。そして父上とバー・バー・バーン様のみがいることに気が付いた。
父上との再会に感動して周りがまるで見えていなかったんだ。もし、この扉を開けた瞬間に父上との再会に惚けた僕を狙って刺客が攻撃してきていたら、僕はやられていたかもしれない。僕は父上の言葉を聞いて、自分の甘さを心の中で呪う。
ー くそっ!! この甘ちゃんめっ!! ー
― 父上は、僕との対決を覚悟していたというのに、情にほだされるなんて、なんてザマだっ! ー
師匠が今の僕を見たら、何と言っただろうか? それは想像したくはなかった・・・・・。
しかし、父上は、そんな僕の心の動揺など気にも留めないご様子で左手に持った親書を垂らすと右手でバンバン叩きながら言う。
「”魔神フー・フー・ローの息子がお前を訪ねる”
ここに書かれているのは、それが全てだ。それだけでお前が来ることも対決になることも想像できる。」
父上は更に不機嫌そうに言葉を続ける。
「これが親書かっ!? ふざけるなっ!!
大体、なんでお前がフー・フー・ロー様の息子になっているんだっ!?
お前の父親はおれだろうがぁああっ!!」
父上は我を忘れるほどご立腹の様子。バー・バー・バーン様もちょっと引きながら「ちょっ・・・落ち着けって・・・・。」って言ってるし・・・・。
肩でハー、ハ―っと息をするほど、父上はご立腹だ。その様子に僕達もちょっと引いてしまって、何が何だかわからない。
僕はガーン・ガーン・ラーを見ながら「僕がここに来るまで何が起こったの?」と、尋ねてみた。
ガーン・ガーン・ラーは呆れたように答えた。
「知るか。
その男はな、俺やレーン・レーン・ルーンに危害を加えるつもりはないと言いながら、親書を受け取った途端に怒り出したのだ。
そして、お前たちが転移してきた一報を聞くと、この部屋の城兵を下がらせてバー・バー・バーンと一緒にお前を待つと言ったんだ。それ以外のことは俺にはわからんっ!!。」
と、ガーン・ガーン・ラーも困り顔だった。
「と、とりあえず・・・。フー・フー・ロー様とのご関係についての経緯をお話してみてはいかがでしょうか?」
ミレーヌが恐る恐るそう提案する声を聞いた父上は興味深そうにミレーヌを見てから頷く。
「話せ。ジュリアンよ。なにがあった?」
なるほど。物には順序と言うものがある。僕は、父上にこれまであったことを話した。
ここで父上に命を狙われて、逃亡してから魔神フー・フー・ロー様と契約を交わし臣従した事。それから商業国家ルーザ・デ・コスタリオの戦争の事。少数民族とのかかわりの事。精霊騎士と戦ったこと。龍を退治してエレーネス王国の御家人になった事、等々を話した。父上はそれを黙って聞いていたが、フー・フー・ロー様との関係について納得できたと答えた。
「そうか。お前は魔神フー・フー・ロー様と契約を交わして臣従したのか。それで魔神フー・フー・ロー様はお前を自分の息子と書いたのか。」
父上が納得したところで、今度は僕が父上に物申す。
「父上。私はこの国の現状をよく知っております。
ドゥルゲットはこの国を操り、無益な戦争を起こして世界中の人たちを苦しめています。
この国を守るためにドゥルゲットに従わざるを得なかったことは理解できますが、このままではこの国は世界中を敵に回して滅びてしまいます。
そうなれば、この国の民草は地獄を見るでしょう。そうなる前に私に王位を移譲して引退なさいませ。転生者の私が王位を継げば未来はまだありますっ!!」
しかし、僕の言葉をバー・バー・バーン様は承知しない。
「ジュリアンよ。一度は王位継承権を無くしたお前が王位を継ぐのは構わぬがな、それでドゥルゲットの脅威がなくなるわけではないのだぞ?
余がこの国を守るためにどれだけの苦労をしてきたかわかるか? あの疫病神は余の力をもってしても歯が立たぬほど神格が高い。今こうして王権を維持できているのは、全て余の政治力をもってしてのことだ。我が王、土の国の王の介入が無ければ、とうにお前の父は殺されておった。お前たち人間にはわからぬかもしれぬが、我々、異界の者たちには異界の者たちのルールがある。現世への介入自体が罰則になりうるのだ。その無理を我が王に通していただいてまで、お前の父と家族を守ってきたのだ。
このうえでドゥルゲットを裏切り、お前たちに力を貸すような真似をするようなことがあれば、流石の我が王もこれ以上の介入は出来ぬ。つまり、ドゥルゲットからこの国を守る手段がなくなるのだ。」
バー・バー・バーン様は、僕が国を去ってからこれまでこの国がどのような窮地に立たされていたのかを語り、そして、ドゥルゲットの脅威を改めて話してくれた。
よく考えてみれば、こうなるのは当然のことなのだろう。ドゥルゲットがクリスの体を乗っ取った時点のフー・フー・ロー様では、僕をかばいながらでは満足に戦えないほどバー・バー・バーン様は強かった。けれども、別にあの時点のフー・フー・ロー様でもバー・バー・バーン様に負けることはない。
そして、その時のフー・フー・ロー様よりもドゥルゲットは神格が上だったのだ。バー・バー・バーン様個人のお力ではドゥルゲットから国を守れなかっただろう。しかし・・・・。
「しかし、バー・バー・バーン様。我が師匠。我が神、我が父なる魔神フー・フー・ロー様は既に災いの神ドゥルゲットよりも神格が上になられておいでです。加えてドゥルゲットは疫病神。フー・フー・ロー様は闘神。今、お二人がこうしている間にも戦っておられますが、フー・フー・ロー様が必ず勝利します。ですからっ・・・。」
ですから、王位をわたくしに・・・・と、言おうとしたところで父上が高々と笑う。
「なんと愚かな息子だっ!!
お前は歴史から何を学んだのかね? この旅で何を学んできたのだ? そして、今まで何をしてきたのか、よく思い出してみるがいいっ!!
戦いが常に格上が勝つと思うのか? ならば、お前はとうの昔に死んでいなければいけない。なのに生き残ったのは何故だ?
それは闘争において絶対はないということだっ!!
フー・フー・ロー様の神格が上がったことはガーン・ガーン・ラーが神格をなくしていることから察するに間違いはないのだろう。だが、それがどうしたというのだ?
それを安堵状のように思ってお前たちに臣従するような危険な賭けを誰がする?
私達は、二柱の御神の戦いの結果が確定するまでは敵同士と言うことに変わりがないということに何故気が付かないっ!!
お前には失望を通り越して、あきれ果てたぞ、ジュリアンッ!!」
父上の立場を考えれば、この返答は当然のことで・・・・・。
そして、この言葉は、僕達の戦いが決して避けられぬものだということを宣言していたのだった。




