いよいよ、明日だよっ!!
魔神フー・フー・ロー様は、パンッと手を叩き鳴らしてから
「話は以上だっ!!
速やかに行動を始めよっ!!」
と、指令を出すのだった・・・・。
師匠が僕達に指示を出してすぐに僕は記憶している王宮の内部構造を図面に起こす。生まれ育った我が家の地図を僕が引けないわけがない。なんだったら隠し通路の図面も引ける。少々、入り組んだ図面になってしまうが、師匠が100名の精鋭をどこに分散させるか見当もつかないので、全て図面を書かねばならない。
そうやって大変な量の作業を進めながら、ふとあることが気になって手が止まる。
それにしても・・・・。そもそも100名をドゥルゲットが出現すると同時に転移させるなんて出来るのだろうか? それも別々の場所に・・・・。
以前の師匠は転移魔法を成すのにずいぶん時間がかかっていた。だから僕は転移魔法が成立するまで魔神だったころのガーン・ガーン・ラーと決闘して時間稼ぎをしなくてはいけなかったんだ。なのに、本当にこんなことができるのだろうか?
僕は少し不安になる。それでも師匠の事を信用して作戦を実行するしかないことに気が付いて諦めるようにして図面を作成する。
作る図面は各階を真上から見た平面図をかなり簡略化して書くしかない。それでも王宮の事。僕は書きあがるまでに4時間以上はかかっていたと思う。書きあがった時に背伸びしたら背骨がボキッってなったもん。そうとう集中して張り付いていたのだろう。
書きあがった図面を一応師匠に目を通してもらおうと提出したら、師匠は十数ヶ所に赤丸を付けて「俺が座標を知る地点はここだ。ここに転移させるから、謁見の間までの最短ルートを書いて各々に渡せ」と、言ってきた。
ひ~~~っ!!
思わず悲鳴が出た。そしたら間髪を入れずに頭をはたかれる。
「やれっ!! オリヴィア達にも手伝わせて時間を短縮せよっ!
ガーバン王が各国に使者を送り、俺達が作戦を開始したら手を出さなという通達が行き渡るのに10日はかかるだろう。それまでに騎士たちに周知徹底させるのだ。今日中にやれっ!!
各場所への兵士の配分もお前が決めよっ!!」
師匠はいつも無茶苦茶を言う・・・・。
そして、最後の言葉も気になる。僕が兵士をどこにどれだけ転移させるか決めるの?
「・・・・あの・・・。
でも、師匠。僕が適当に決めた配分、配置を師匠も把握しなくてはいけません。
それならば、師匠が配置配分をお決めになった方が師匠のご面倒が減ると思うのですが?」
僕の質問に師匠は「は~っ」と、深いため息をついてから話し出す。
「お前、神である俺の指示に問いかけ直すのか? 相変わらず身の程を知らん小僧だ。
ジュリアン、お前でなければ、とっくの昔に殺しておるぞ。
いいか? よく見ておけ?」
師匠はそう言って指にチョーク代わりの白い粉を付けるとテーブルに図を描いて説明する。
「作戦決行当日は、このように数名にわけて陣を組み、その各陣にいる者共を一纏めにして転移させる。俺が誰を転移させるか覚える必要はない。ただ、陣形を乱して転移領域からはみ出ると、切断されるから兵士たちには陣形を崩すなと説明しておけ。わかったな。」
なるほど・・・・。つまり、師匠は各陣形をどこに飛ばすかだけ把握していればいいということか。
しかし、質問ついでに気になっていたことも質問したくなってくる。
「・・・・わかりました・・・。けど、師匠。
この人数と配置を一瞬で転移させられるものなのですか?」
師匠は、僕を睨みつけるようにして口元をゆがませて笑うと「話はここまでだ、俺はこれから戦いの前に女たちを可愛がってやらねばならんので忙しい。」と言って、僕を部屋から出ていくよう言う。
・・・・ああ。またですか。全く、師匠ったら・・・。
呆れたようにため息をついて扉を開けて部屋を出ていこうとする僕と見知らぬ見た目が14,5歳くらいの少女がすれ違った。薄衣一枚羽織っただけの彼女の体は衣服の下が全てが透けて見える全裸姿だった・・・。
って・・・・えええええええ~~~~っ!!
も、もしかして。彼女は魔神フー・フー・ロー様の訪問と聞いて恐れて身を隠したというこの国「オビエド・デ・コスタ国」の守り本尊である風精霊の貴族「レーン・レーン・ルーン」ではないのか?
僕が体に取り込んだ土精霊騎士のガークの精霊球が彼女は精霊貴族だと伝えている・・・。恐らく間違いはあるまい。師匠は一体、いつの間に手籠めにしたんだ?
もう、僕は更にあきれ返ってしまって何も言う気にはなれずにトボトボ部屋を後にする。が、歩きながら、ふと気が付いたことがある。
あ・・・。
でも、オリヴィアだけでなく、シズールやミレーヌ、アーリーも自分の后や側室にすることを宣言した僕が呆れる筋合いもないもんだ。
こんなときだというのに、僕は少し、笑ってしまった。
アーリー。元気にしているかなぁ・・・・。
この戦場にはとても連れていけない、か弱いホムンクルスにして僕の初めての人。僕は思わず彼女の可愛い顔と色気に満ちた体と、あの燃えるような夜のことを思い出して体が火照るのを感じる。
いやいやいやっ!! ダメだぞ、こんな時に何を思い出しているんだっ!!
全く、男の子って駄目だなぁ・・・。こんな時だってのに、何を思い出しているんだっ!!
過去の思い出を振り切る様に僕は作業場へ駆けて行き、謁見の間までの最短ルートが書かれた図面を急いで作る。王宮の事を知るオリヴィア達にも手伝ってもらうのだけど、彼女たちの女の子の香りを嗅ぐたびに、あの夜のアーリーの甘ったるい声が何度も頭の中をリフレインするのを僕は止められなかった・・・。
数日かけて、僕達の作った王宮の見取り図を騎士たちに覚えさせた。彼らは元々、ラグーン伯爵が引き立てた精鋭部隊の騎士集団。教養レベルは高いので最短ルートの把握は勿論、屋内戦闘における作戦立案も各々で行い、必要であれば、僕に質問して疑問点をなくす。彼らに戦士としての隙は無い。本当に頼もしい精鋭部隊だった。
だが、対するドラゴニオン王国の王宮を守る騎士たちも精鋭ぞろいだ。前線に多くの兵士が派遣されているとはいえ、王宮を丸裸にすることはないだろう。最低でも500名は城詰で働いているはずだ。100名VS,500名。突破作戦が手間取れば、全滅は避けられないだろう。全員が一糸乱れぬ連携をとって活動できるように何度も入念な模擬訓練が行われた。それは当然、師匠の転移魔法で体を切断されないように陣形を乱さないためでもあった・・・・。
そうやって訓練をしているうちにあっという間に他国に通達が行き届くであろう10日の日時は過ぎ去った。師匠は10日の晩にオビエド・デ・コスタの晩餐会会場に作戦に参加する全員を集めて、祝宴を行う。その両側に僕とオリヴィア、そしてガーバン王を立たせて演説を行う。
「諸君、いよいよ作戦決行の時である。
まず最初にドラゴニオン王国のミカエラ王を謁見の間に引きだすために使者を送る。ガーン・ガーン・ラーとレーン・レーン・ルーンだ。ミカエラ王は災いの神ドゥルゲットが仲間に引き込んだ魔神ガーン・ガーン・ラーを見知っている。そして、オビエド・デ・コスタ国王のガーバン王の親書を携えた風精霊の貴族レーン・レーン・ルーンがともにいるとなれば、謁見せぬわけにもいくまい。
同時期に我我はドルゲットが配置した拠点の一つを叩く。この近くで最も少数部隊が配置されている拠点だ。兵は60名ほど。我我の圧勝は約束されている。そして、ここにいる転生者のジュリアンが声高に名乗り上げれば、ドゥルゲットは必ず姿を見せる。その時、作戦本番だ。
何人か死ぬことになるだろう危険な作戦だ。だから、今夜は思う存分、飲み食いせよっ!!」
それを乾杯の音頭として晩餐が始まった・・・。誰もが明日、死ぬかもしれない恐怖を抱えていたが、それを払拭するかのように皆、食事をして、己の武勇伝をうそぶく。そうやって恐怖を乗り越えているのだ・・・・・。
そして・・・・。いよいよ明日。僕らは決戦の舞台に立つのだった。




