地震が来たっ!!
災いの神ドゥルゲットの予言通り戦争は始まった。
そして、ドゥルゲットの予言には、この三月の間に起こることが、もう二つ「三つの大異変」「転生者を手にしたものだけが救われる」ある。
この「転生者を手にしたものだけが救われる」という内容が原因で現在、僕とクリス。そして、僕達の付き添いのミレーヌは、保護区画に閉じ込められている。
この間、僕達は、3人だけの特別授業を受けながら、成長もしなくてはいけない。
今は、僕が騎士団を相手に武術の稽古をしている。
父上に習ったドラゴニオン流の武術は、並の兵士にならば、遅れをとったことがない。
常に、僕は戦いに勝利してきた。
しかし、流石は王族の護衛任務にあたる精鋭騎士団。流石に、強い。
強すぎる。
「ほらほらっ!! どうしたんだいっ!? 王子様っ!!」
マリアの手槍は容赦なく僕に襲い掛かる。
マリアは女性という事もあり、僕が剣。マリアが槍という完全に僕が不利な条件での稽古とはいえ、ここまで手こずるとは、正直、想定外だった。
強いと言っても、所詮は女の槍。そう侮っていたのも事実だが、僕は精鋭騎士団に選ばれる人材の能力を見誤っていた。
マリアの槍は、勝つための槍ではない。女性にその必要はない。相手を足止め、釘付けにさえすれば、あとは男どもがどうにかする。そのため、マリアの槍は、攻撃に重点を置いた守りの槍だ。つまり、先手を常にとり、手数で敵の足を封ずる。倒すことは出来ないが、倒される可能性も低い。機動性が高く、尚且つ、鋭い一撃を持っている。
俗に槍と剣では、圧倒的に槍が有利で、剣を扱う者は槍を。扱う者の3倍の実力がないと槍には勝てないという。
今のマリアの槍は、勝つことすら想定していない守りの槍。そして、その槍に僕は完全に封じ込まれてしまっている。これが戦場ならば、足の止まった僕は、他の敵の的になる。1対1の戦い方とは違う戦場の技術に僕は舌を巻いていた。
「なるほど。これならば10人長に選ばれるのも納得だ。」
僕は剣を引いて、マリアに敬意を表する。
マリアは息切れした肩を揺らしながら「あんたもやるね。ボンボンってわけじゃないよ。これが、稽古用の木製の槍ではなく、本身の槍だったら、アタシは、息が続かなかったかもね。」と、惜しみない称賛をくれた。
「それでも、ここが戦場なら、君の勝ちだ。マリア・ガーン。また稽古相手を頼むよ。」
僕は正直に負けを認めると、マリアは恥ずかしそうに真っ赤に染まる顔を背けて「やなこった。女に無茶な稽古をさせるんじゃないよ。」と、照れていた。
・・・・・この人、結構可愛いかも。
僕達が学院で学ぶのは、武術だけではない。
魔法、そして兵法や礼儀作法も習う。だから、ここでも勉学に励むのだが、礼儀作法に関して言えば、村娘のクリスが手こずるのは勿論、暗殺者のミレーヌまでも手こずっていた。
「わ、私・・・・・幻術で姿は変えられるのですが、こういった作法は苦手で・・・・それでいつも実行部隊にばかり・・・。」
と言って恥ずかしそうにミレーヌは言う。
道理で、武術の腕はからっきしのミレーヌが、暗殺実行部隊にいたわけだ。
どう考えてもあの幻術は、情報収集に向いている。
暗殺で一番難しいのは、逃走することだ。それには緻密な準備といかなる困難にも打ち勝てる戦力が必要だ。
ミレーヌには、それがない。
つまり「最初から、使い捨て」にされる存在だったわけだ。
僕とクリスがこの世界でやるべき仕事と決めた「いじめられる子が逃げ出せる場所を作る」という理想に、こういった廃棄される子供の存在も逃げだせる場所にしなくてはならないと強く思った。
そして、僕はミレーヌから暗殺者のような、世界から見下される職業の子たちの実情を聞いて知識を高めた。
どうすれば、理想に近づけるのか考えた。
それには、やはり実行力、権力が必要だ。
僕は未だ、王子に過ぎない。政治決定権は父上にある。
その父上から、この仕事をする権利を得るには「実績」が必要だ。僕達は何か偉業をなして、その褒美にこの事業を行う権利を獲得しなければいけなかった。
僕達はチートキャラとはいえ、まだまだ子供だ。強さも本当に強い大人には、歯が立たない。
それでも、諦めずにチャンスを待ち構えていれば、必ず、チャンスは訪れるはずだ。
それまで僕達は力を身につけなければいけない。今は、この訓練をする時間を大切にしよう・・・・・。
勿論、僕はこの時間を利用してミレーヌの幻術を教えてもらった。
ミレーヌの幻術は、これまで見たことがないものだった。完成度が高く、それでいて魔力の低いミレーヌにでも使える傑作だ。
ただし、使い手を選ぶ。
精鋭騎士団の中でもこの魔法を会得できたものはいなかった。
唯一、僕だけが、この幻術をミレーヌからマスターした。
この幻術は、「冥界と現世の間の国の王ルー・ラー・ドーン」様の臣下「ゴー・ラー・ドー」により授けられた秘術だという。なんという恐ろしいことだ。冥界と現世の間の国の王ルー・ラー・ドーンみたいな気性の激しい神の臣下と交信して得た魔法など、おいそれと使う物ではないというのに・・・・・。
僕は、この幻術の仕組みを紐解いた。
幻術は闇魔法の属性で陰の気。つまりD-。それらに陰の気と陽の気を示す掌の裏表を交互に切り替えて発生させる交流ACの動作。そして、冥界と現世の間の国の王の臣下「ゴー・ラー・ドー」に助力を願う言上。
「いと恐ろしき冥界と現世の間の国の騎士ゴー・ラー・ドーよ。闇と光と汚辱と栄光の虚実を練り合わせて我に異形の姿を与え給うこと、ドラゴニオンの第一王子ジュリアンが畏み、畏み願い奉り候。」
この呪文の言上も交流の意味を持つ。「闇と光」「汚辱と栄光」+(ぷらす)と-(-)の因子を練り合わせて作られている。そもそも母体が闇属性のⅮ-なのだから、陽の気を吸収して中性化し安定しようとしがちなところを交流にしてあえて不安定にしているのだから、狂気の沙汰だ。僕は、これほど不安定で不可思議な魔法術式を見たことがない。流石、神々の中でも高位の存在に位置するルー・ラー・ドーン様の配下の騎士が伝えた魔法だ。へそ曲がり過ぎて、これに手を加えて新しい魔法を作り出せるとは到底思えない。少なくとも僕の手に余る魔法だ。
恐らく、相当高位の魔法なのだろう。それも、交流の魔法属性を自由に扱える器用さがないと使えないんだ。
それでも、この幻術を僕が使うことが出来たのは、大きな収穫だ。いろんなことに仕えるだろう。
僕達は、色々と考えて、色々と体験して、成長していく。
そして、いつか来る「大きなチャンス」を必ず手にしなくてはいけない。
僕はクリスティーナを抱きしめながら、毎日、その夢を語った。
僕とクリスは、あれから何度もキスをした。毎日、毎日ね。
クリスの唇は僕に勇気をくれる。安らぎをくれる。だから、僕はこの先、どんな困難なことがあっても耐えて見せるんだ。
そして、クリスも言ってくれる。
「ジュリアン様がそばにいて。私にキスをしてくれるから、私は無限に羽ばたけるの。だって、もし永遠が終わっても愛は尽きずに満ちるのだから・・・・。」
そうさ、僕達には愛があるから、どんな困難にも打ち勝てるのさ!
そして、ビッグチャンスはついに訪れた!!!
災いの神ドゥルゲットの予言通り「大異変」が訪れたのだ。
すなわち、地震だ。
大陸の中央で発生した地震は、僕達の王城にも振動を伝えた。
地震などめったに起きないこの国の民は慌てた。騎士さえも狼狽えていた。
なのに、僕達は落ち着き払っていた。
だって、僕達は前世で地震大国で生まれ育ったんだからっ!!
「クリス!!来たよ!!僕達が手柄を上げるビッグチャンスが!!」
「ええっ!!やりましょう!ジュリアン様!震災経験のある私たちなら、必ずやれますともっ!!」
僕達は手を取り合って、この試練に挑むのだった。




