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急がないとだめだよっ!!

ドイル王は大声で命令する。

「ここは闇精霊の貴族ズー・ズー・バー様の領域であるっ!!

 騎士達よっ!! おそれるなっ!!

 神様とて構わぬっ!! きれっ!! 切り捨ていっ!!」

ドイル王の命令が謁見えっけんの間に鳴り響いたのだった。


だが・・・。僕の師匠・魔神フー・フー・ロー様を前にしたとき、誰もが恐怖に身がすくみ動き出せなかった。

闇精霊の貴族ズー・ズー・バーどころか、弟子の僕達ですら恐ろしくて身動き一つできない。

師匠は腕組したまま立っているだけだというのに、王の命令で僕達を騎士たちが取り囲んだと同時に普段ふだん隠している魔力をその身からあふれ出させた。ただ、それだけで、誰もが身動き一つできなくなるほど威圧いあつされてしまったのだ。

これが魔神ガーン・ガーン・ラーの神核しんかくを吸収して神格しんかくが上がった今の魔神フー・フー・ロー様の力なのだと、今さらながら僕達は思い知らされるのだった・・・・。

そして、その神格の高さは、あの冥界めいかい現世うつしよはざまの国の王ルー・ラー・ドーン様につかえる闇精霊の貴族ズー・ズー・バーさえも威圧しているようで、ズー・ズー・バーさえ魔神フー・フー・ロー様と戦おうとはしない。

エネーレス国王のドイル王はそんなズー・ズー・バーの姿に狼狽うろたえながら「なにをなさっておられますっ!! ズー・ズー・バー様っ! 貴方あなたは我が国の切り札っ!! 貴方が攻撃を仕掛けてくだされば、我らもそれに続きまするぞっ!!」と言って、ズー・ズー・バーを魔神フー・フー・ロー様にけしかけようとするのだが、ズー・ズー・バーはそれを逆に制止する。

「だまれ、ドイル。

 この若造がっ!! 今仕掛ければこの場にいるもの全員が殺されるのが()()だっ!!」

「そ・・・そんな・・・・。

 それでは・・・・我が国は魔神フー・フー・ロー様の手先となった罪で、世界を敵に回すことになります。結局・・・・つぶされてしまうではないですか・・・。」

ドイル王は情けない声を上げてヘナヘナとその場にへたり込んでしまった。

だが、ズー・ズー・バーはそれでも師匠に対して問答もんどうを仕掛ける。


「これは魔神フー・フー・ロー様。ご挨拶あいさつが遅れました。

 さきほど紹介を受けましたように、私は冥界めいかい現世うつしよはざまの国の王ルー・ラー・ドーン様の家臣かしん・ズー・ズー・バーと申します。」

そう言って深々と頭を下げるズー・ズー・バーに魔神フー・フー・ロー様はすずしいお顔で「挨拶はよい。手短てみじかに用件だけを申せ」とお答えなされた。

ズー・ズー・バー、かしこまって返答す。

「神よ。私はこの者と契約がありますゆえに、早々簡単に御身おんみに屈服するわけにはまいりませぬ。

 しかし、御身もご存じのように私はルー・ラー・ドーン様の配下。

 我を殺すとなれば、御身もただではおみになりますまい。魔神フー・フー・ロー様も相当お強くなられてようですが、異界いかいの王の中でも上位に君臨くんりんされる我が王の御気性ごきしょうの激しさは御身もごぞんじのはず。

 どうか、ここは戦うことなく交渉で解決するべきではございませぬか?」

ズー・ズー・バー。下手したでに出た口ぶりとは裏腹うらはらに自分の後ろ盾を武器に魔神フー・フー・ロー様と対等な関係をせまるものであった。

「無論だ。

 私も無駄に事を荒立あらだてるつもりはない。そもそも貴様の契約者が戦いを望んだからこうなったのだ。

 その無礼をお前は如何いかつぐなうつもりかね?」

「こ、これは御無体ごむたいな・・・。

 私は存じておりまするぞ。神よ、貴方様が突然、王宮に押しかけてきて無理難題むりなんだいを突き付けたこと。

 事情をまえれば、私の契約者が働いたのは無礼ではなく、自衛でございます。

 そして、この国を滅ぼさせぬように全力を尽くす王の責務ともいえまする。

 神よ、どうぞお慈悲じひをもってお考えをおあらためてくださいませ。」

師匠の言葉に引き下がらずにズー・ズー・バーはそう言った。

次の瞬間、ズー・ズー・バーはその体を突然現れた氷のくさりによって拘束こうそくされる。

「ぐっ!・・・これは、神よっ!!

 お忘れかっ!! 私はルー・ラー・ドーン様の臣下でございますぞっ!!」

魔神フー・フー・ロー様は、それを鼻で笑い飛ばす。

「だから何だっ!?

 私がお前を殺さぬと何故決めつけておるっ!」

魔神フー・フー・ロー様の言葉にズー・ズー・バーは青ざめる。

「神よ、氷と泥の国の王の命を狙う凶行きょうこうに出るというだけでなく、我が主まで敵に回すおつもりかっ!?

 お考え直しください。我が主がひとたび怒りだせば、貴方はおろか貴方の周り一国分はとばっちりを受けて1000年不毛の土地に変えられてしまいますっ!!。」

ズー・ズー・バーは必死になって魔神フー・フー・ロー様を説得する。

だが、たった一言、魔神フー・フー・ロー様に耳元で何かをささやかれただけで目を見開いて抵抗をやめる。師匠もその変化に気が付いたようで、ズー・ズー・バーの氷の拘束を解いた。氷の束縛から解放されたズー・ズー・バーは恭しく頭を下げてその場にひざまずくと師匠に恭順きょうじゅんを示した。

「神よ。その真意、確かに承りました。

 そうであるならば、このズー・ズー・バーは御身に従いましょう。我が主はルー・ラー・ドーン様なれど、そのに反せぬ限り貴方様のお力になることをここに誓いましょう。」

エネーレス王国の最大戦力にして奥の手でもあった闇精霊の貴族ズー・ズー・バの恭順。これをもってエネーレス王国が魔神フー・フー・ロー様の支配下に置かれることが実質的に決まってしまったのだった。

ドイル王は何度となく不満の声をらしたが、誰にも聞き入れられることはなかった。ズー・ズー・バーの恭順はこの国の騎士にとってそれほど衝撃的な事柄ことがらだったのだ。


エネーレス王国を手中に収めた師匠のその後の行動は早かった。まず、ラグーン伯爵に先に伝えた内容である、僕の領地の開拓の続行と精鋭せいえい100名をご自分の配下に置いて、僕の部下として行動を共にするように指示する。それからズー・ズー・バーには、国境付近の強化をお命じになり、僕達がこの国を去ってからの国防を任せるのだった。

そして、僕達にもすぐさま命令を下す。

「ジュリアン、オリヴィア、ミレーヌ。シズールよ。

 反撃の時は来た。これから我らは精鋭100名を率いてドラゴニオン王国に侵入してから、王宮へ奇襲きしゅうを仕掛けて災いの神ドゥルゲットを討伐して、ドラゴニオン王国を救済する。

 明日には出発する。全員、装備一式整えて決戦に迎えるようにしておけ。」

その言葉にオリヴィアが質問をする。

「師匠。しかし、ドラゴニオン王国へ侵入すると言ってもこれだけの人数を連れてどのようにドラゴニオン王国に侵入するのですか? あまりにも目立ちすぎますし、移動に時間がかかりすぎます。」

オリヴィアにしてはもっともな質問だった。師匠の行動はあまりにも急展開だった。これまでドゥルゲットの監視の目から逃れるように目立たぬようにふるまってきたというのに、ここに来て急に表舞台に飛び出してきたかと思うと、王に無理難題を突き付けて強制的にエネーレス王国を事実上乗っ取って、このような作戦を立てた。しかし、態度を急変させたその割にはこの作戦実行には相当な時間がかかる。しかも僕らは師匠のお考えを全く聞かされていないので、この急変に理解が追い付かずに、この国の騎士達と同じように、ただ師匠に操られるままに動かされているだけと言う感じだった。

師匠もそんな僕らの気持ちを奥底おくそこから察してくださっているようで、改めて今回の騒動そうどうの真意を語ってくれたのだった。


「いきなりのことで、皆、混乱していることと思う。

 事態急変は我々だけではない。ドラゴニオン王国も同じことだ。

 ドラゴニオン王国は周辺諸国への侵略戦争の主戦力としてドゥルゲットがえられている。

 すでに疫病で一国滅んでしまった。

 かの国で何が起きているのかは理解できぬが、このまま見捨てるわけにもいかぬ事態となったのだ。」


僕らは、祖国の危機に息を飲んで驚くのだった。


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