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急に何言いだすんですかっ!!

「お前は領地を得て、800の配下を持つ一勢力となった。

 俺も神として昇華しょうかしてすでにドゥルゲット以上の神格を得た神となった。

 これは、我々があの災いの神と戦えるだけの戦力をたことを意味しているのだ・・・。

師匠は、僕達がいつでもドゥルゲットと戦える状態だというのだった。


ただ、僕はいま仲間になった冒険者やリューさんたちの生活の安定をはかるべきと思ったりもしていた。

それにはそれなりの時間が必要であり、何をしでかすかわからない災いの神ドゥルゲットをその間、放置ほうちするのも問題があった。理想を言えば僕の領地と領民の生活基盤せいかつきばんをしっかりと整えてリューさんたちの生活が完全になるまで待ってから、災いの神ドゥルゲットを討伐とうばつするべきなのたろうが、物事は何事も完璧とは行かない。理想通りに事は運ばないのだった。


その後、数日間、僕はこの課題を抱えながら、領地の開拓かいたくを始める。ラグーン伯爵はご自身の領地を割譲かつじょうしてくださったが、ラグーン伯爵にもラグーン伯爵の領民の安定を守らなければならないので、僕たちに与える領地は、開墾かいこんのすんだ豊かな田畑の土地と言うわけにも行かない。自然の原野げんやに近い平原や山々を切り開いて田畑や道路、水路に住宅の建設をしなくてはならなかった。

自然のまま育ってきた原野は、そう簡単に開墾できるものではない。石が多くて硬い大地に力強く生える木々は屋敷の材料にもなるが、障害にもなる。

山からは湧き水も出る。しかし原野を農地に変えるには農業用水としてこの湧き水を貯めるための貯水池が必要になるし、全ての田畑へ水を行き渡らせるための水路も必要になる。

課題は山積みだった。

もちろん、僕達一行は人間離れした腕力や魔力をもっているので通常の何倍もの速度で開拓工事を進められるが、それでもこれだけ広大な土地を開拓するのには骨が折れた。師匠がミュー・ミュー・レイを貸してくれたおかげで開墾事業は随分と順調に進んだとはいえ、毎日が大忙しだった。冒険者たちやリューさんの一族も積極的に行動してくれたおかげで、最初の3か月で僕達の拠点となる陣屋じんやや周辺の住居が建設できた。もちろん、水路や道路も配備した。この陣屋周辺を拠点として、田畑を切り開いて町の形にしていくのに更に4カ月の時を要した。誰もが苦しい思いをしたが、冒険者もリューさんの一族も自分たちの楽園を築くために全力を尽くした。そうやってできたものを少しずつ少しずつまた大きくしていき、僕達の領地はひとまずの形が出来上がっていくのだった。

過行すぎゆく日々の中で僕は本来の姿を取り戻していた。精霊球が僕の体になじんだのか、それとも僕の体が精霊球の扱い方を覚えたのかはわからないけど僕はいつの間にか自分の体を取り戻していたのだ。でも、そんなことさえ気にならないほど、僕の心は祖国に向けられているのだった。遠く海や空の向こうにいる両親や級友、部下たちをはじめ多くの領民の事を思うと胸が苦しくなる。

それでも今すぐに僕はそこへ駆けつけてはいけない気がしていた。それは今、僕が背負っている領民を置いて災いの神ドゥルゲットとの戦いに向かう事を僕は正しい行いと思わなかったからだ。


また、今一つ踏み出せない理由としてオリヴィアの存在があった。もし、今、彼女が災いの神ドゥルゲットと僕達が戦える立場にあると知った時、復讐に取り憑かれた彼女の怒れる心が再燃さいねんしないかという心配があったんだ。だから、僕は師匠に言われたことをずっと心に秘めていた・・・。

誰にも相談せずにずっと心の中にため込んで、そして、一人悩みながら領地開墾に力をそそいでいた。

精神がむと肉体にもいずれ影響が出てくる。だんだんと寝付けない夜が僕を悩ますようになっていた。

寝付けないから夜、散歩して自分の気持ちを落ち着かせようと思った。しかし、歩いていても心の中は、祖国の事で一杯だった。その日々は本当に地獄のようだった。その思いを振り切るかのように仕事に没頭ぼっとうする姿は狂気じみていたのだろうか? 見かねたオリヴィア達がキャミ―中隊長に頼みラグーン伯爵の下へ手紙を届けさせた。果たして、心配したラグーン伯爵が僕の所を訪ねて来きてくれたのだった。


陣屋の応接間に通されたラグーン伯爵は、突然の来訪らいほうを聞いて慌てて陣屋に戻って来た僕を抱擁ほうようで迎えてくれた。開拓事業に従事して泥だらけの僕をだ。いかに僕を大切に思ってくれているかの証であり、胸が熱くなった。

そして抱擁がすむと、伯爵は僕を心配する。

「久しぶりだな。ジュリー・・・・。初めてあった頃の姿を取り戻したようだが、とても元気そうには見えないありさまだが、一体どうしたというのだ?

 お前の女たちが心配しておったぞ。開墾は問題なく進んでおるし、水路や道路と言ったような整備も順調に進んでいるように見えるが、何をそんなに焦っておるのだ?

 夜は寝れておるか? 食事は十分にとっておるか?

 お前はここにいる者たちの領主なのだから、自分の体を大事にしなくてはならん。それがわからぬお前ではあるまい。

 訳があるのなら、申してみよ。」

ラグーン伯爵は、一目見て僕が疲弊ひへいしていることに気が付いた。僕はそれほど追い詰められていたらしい。

それでも僕は話せない。話せば、災いの神ドゥルゲットとの戦いに大恩たいおんある伯爵を巻き込んでしまいかねないからだった。

伯爵の前で黙り込む僕を見て、ラグーン伯爵は「これではどうしようもない。」とため息をついて、天井を見上げるのだった。

事情を話せない僕は申し訳ない気持ちで一杯になる。そんな僕をオリヴィアやミレーヌ、シズールが励ましながら、「悩みがあるなら話した方が良いよ。」とラグーン伯爵に相談することをすすめてくれるのだが、僕にはそれが出来なかった。


僕には・・・・・。


「そいつには、果たさねばならん復讐があるのだ!」

僕達の様子をどこで見ていたのか、師匠・魔神フー・フー・ロー様が窓を蹴り破って外から応接室に飛び込んできた。

「し、師匠っ!?」

突然の師匠の登場に狼狽える僕達と、突然神々しい霊気をまとった男の登場に狼狽えるラグーン伯爵の眼は、ハトが豆鉄砲を食らったみたいにまん丸になっていた。

「そこの貴族。私は見ての通り神だ。

 お前たちがジュリーと呼ぶ少年の師匠でもある。」

魔神フー・フー・ロー様はここに来て突然、今まで隠してきた素性すじょうを明らかにする。町にいたときは変装して霊気を押さえていたので、目立つことがなかったが、その神気をさらけ出した姿は、誰であっても神と気付く。ラグーン伯爵は、突然現れた神の自己紹介にあわててひざまずいて挨拶あいさつをする。


「これは、神よ。突然の来訪に付き、とんだご無礼を働きましたことをお許しください。

 して、この度はどのような用事で参られましたでしょうか?」

伯爵は身を低くして挨拶し、それ以外の者たちは地べたに平伏へいふくしてブルブルとふるえていた。無理もない。だって、おそれ多くも神様がいきなり現れたんだから、こうならぬわけがなかった。それは礼儀正しく冷静さをたもったようにふるまうラグーン伯爵さえ、混乱しているほどだったのだから・・・・。

「ふふふ。先ほど私が言ったことを理解しているか?

 お前たちが心配する、このジュリーと言う少年には果たさねばならん復讐があるゆえに今、こうして悩んでいると言ったのだ。」

師匠はラグーン伯爵の混乱を責めることなく、優しくさとした。そしてそれを聞いたラグーン伯爵は「ジュリーが復讐ですと?・・・・いったい、誰に?」と、怪訝けげんな顔で尋ねるのだった。


「お前たちがジュリーと呼ぶこの少年の真の名は、ドラゴニオン国王ミカエラ王の第一王子ジュリアン・ダー・ファスニオンである。

 なれば、こ奴が果たさねばならぬ復讐の内容もわかるであろう?」

衝撃の告白っ!!

師匠は、何の相談も前ぶれもなく僕達の前に現れて、最大の秘密を暴露ばくろしてしまうのだった・・・・。 



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