責任を果たすよっ!!
「ジュリーよ。わかるか?
お前は今、これだけのものの頂点に立っておるのだ。
既にお前は一勢力を手にしているのだぞ。
その上、お前は我々の後押しを受けてそれ相応の地位が約束されていると覚えておくがいい・・・。」
僕は確実にこの国で地位を獲得しようとしていた・・・・・。
ゴンちゃんの両親との死闘の末、多くの冒険者が亡くなった。今、ここに来ている人たちはあの作戦に参加した冒険者の縁者や遺族だ。現役の冒険者もいれば冒険者の妻や子供、または引退した冒険者たちもいる。
その内に一人が僕に詰め寄ってきた。30歳半ばと言ったところの女性だった。
彼女は僕の眼を真っすぐ見つめて「夫の死に様を教えてほしい・・・・。」と涙をこらえて見つめた。
僕は彼女の言葉に狼狽えて他の冒険者たちを見ると、その中の一人が「ビクターの妻だ・・・。」と教えてくれた。
僕は一瞬で顔が強張ってしまった・・・・。言葉が出なかったからだ。
僕がビクター達をあの戦いに誘った。そして、彼らは僕を首領と定めて僕の命令に従って勇敢に戦い、そして死んでいった・・・・。
僕達は、生き残っているのに・・・・。
生き残ってしまったというのに・・・・・。
どうやっても償えない。前世の僕と違って、幼いころから人に戦死に慣れているとはいえ、やはり遺族との会話は辛いものだ。王子だったころ、暗殺されそうに何度もなった。その時、護衛の者たちが何人も死んだ。生き残った僕は、遺族に感謝を伝えてきた。そういう経験は多かった。
ただ、それでも・・・辛いんだ。
でも、そうやって僕が固まってしまうことをラグーン伯爵は許さなかった。
「ジュリー・・・。聞かせてやれ。
ビクターがどれほど勇敢に戦って死んでいったか。そして彼以外の者たちもどれほど勇敢だったのかをな。
誰一人としてお前を裏切らず、最後まで戦って死んだ話をお前は聞かせてやらねばならん。
やるんだ。ジュリー。それが将の仕事だ。」
ラグーン伯爵の言葉を聞いた冒険者の一人が、それに同意した。
「そうだ。ジュリー・・・。
俺たちも彼女もお前を責めたいんじゃない。
ただ、知りたいんだ。俺たちの家族がどうやって死んだのか・・・・・。」
必死で涙をこらえながらビクターの奥さんも無言でうなずいた・・・・。
ああ・・・・。
ああ・・・・。僕は話さなくてはいけないんだ。ジュリアン、お前は話さなくてはいけない。
話したところで彼らを死なせてしまった贖罪にはならない。それがわかっていても、お前は話さないといけないんだよ・・・・。
僕は自分に言い聞かせながら、ビクター達の死に様を、散り様を話す。
それは彼らの英雄譚であり、僕の罪の告白でもあった・・・・。
「ビクター達は僕に従って、メス龍の危機を悟って現れたオス龍と戦うために戦線の立て直しを図る騎士団の撤退を補助するための殿を務めました。
騎士団も数名、ビクター達と志を共にして残りました。誰もが勇敢でした。
彼らは手槍を投げ、腰の剣を抜いて勇敢に戦い、オス龍をすんでのところまで追い詰めました。
オス龍は自らの危機を悟ると、火の国の貴族ギー・ギー・ドーザを召喚して、自分の体もろとも周囲の者たちを焼き殺させました。
僕達は氷魔法でそれを守ろうとしましたが・・・・・。火精霊の貴族の業火の前には、僕達は無力でした。結果として、その業火で全員、やられました。
どうにか生き残った僕は一か八かの賭けに出て、危険な宝物の力を得て一段階霊位を上げて見事に龍を倒すことに成功しました。おかげで今、この有様です。
僕は、生きるか死ぬかの賭けに出て龍を倒しましたが、ビクター達は命を捨てて戦いました。
この度の戦いに英雄がいるとしたら、それは彼らであることを、ここで話をお聞きになられた皆さんこそ、よくご存じだと思います・・・・。」
僕の話を聞き終わったビクターの奥さんは、涙をこらえきれずに声を上げて泣いた。僕もオリヴィアもミレーヌもそんな彼女の肩を抱きしめながら、静かに泣くのだった・・・・。
ビクター達の最後を語り終えた後、年配の冒険者が僕の前に歩み寄り、「一緒に来てほしい。話したいことがあるんだ。」と言ってきた。僕にはそれを断る理由も断る権利もない。黙って頷いて彼らについていった。
冒険者たちは僕を伴って王都の外へ出ると、以前に伯爵たちと交渉するために隠れ潜んでいた廃城跡を訪れた。
そして、廃城の広場に置いてあるテーブル席に僕達は着座すると会議を始めた。まず、僕に話しかけていた年配の冒険者が自己紹介と会議の内容を説明してくれた。
「俺の名は、アルフレッド。ビクターの前任者だ。年老いて引退した冒険者だが、ビクターが亡くなったことで一時的に冒険者を代表としてお前に頼みたいことがあるんだ。」
「頼みたいこと・・・・? それは何ですか?
どうぞ、何なりと仰ってください。僕にできることならば、何でも致しましょう。」
僕が誠心誠意込めて返事を返すと、アルフレッドは安心したように語りだした。
「ジュリー。ビクター達は、お前を首領と認めた。それはお前に強制されたわけではない。あいつらから、お前を首領と認めて従った。違うか?
ならば、お前は俺達、冒険者やその縁者と家族の首領だ。
多くが龍との戦いで犠牲となったが、その一族郎党全て死したわけではない。残った家族を含めて800人余りが生き残っている。我ら生き残りし冒険者の一族郎党は、ジュリー。お前についていく。」
「だから、頼む。ジュリー。
俺たちを導いてほしい。俺達冒険者に明日を示してくれ。
お前は勇敢に。そして賢く。王都の貴族たちと交渉の末に冒険者の地位向上を果たしてくれた。
そんなお前にしか俺たちを導けない。俺たちは、これまで何十年、何百年とこれまで賤民として生きてきた。地べたを這って生きていくことを当たり前とし、蔑まれながらもズル賢く生きる道だけを選んで生きてきた。
そんな俺達には、未来が無い。だから、ジュリーよ。俺たちに未来を指し示してくれ。
俺たちは、お前のいう事に従う。俺達冒険者とあの時死んだ仲間の遺族を導いてくれ。」
アルフレッドの言葉に誰もが頷き、期待に満ちた目で僕を熱く見つめる。
僕の答えは決まっている。先ほども言ったように僕には断る権利などないのだから・・・。
「ありがとう。
君たちの命を預からせていただこう。
浅学菲才の身で頑張らせていただきますとは言わない。
決してあなた方の期待を裏切らない。僕は全力でアナタたちを導く。絶対に後悔はさせない。」
その場にいた誰もが大声を上げて、拍手をして感激の言葉を上げる。
僕はその姿をまぶしいと思ったし、この場にビクター達もいて欲しかったと、強く思った。
あの時、僕は彼らに逃げるように言ったんだ。
「ここにいれば死ぬぞっ!!」
その脅し文句にこの場に居合わせた男たち全員が言葉を同じにして返答した。
「へっ! 殺してみろっ!!」
その言葉通り、僕は彼らを殺してしまった。死なせてしまった。
彼らを死なせてしまった責任は果たす。彼らの遺族、子々孫々まで安泰をなる未来の礎を僕は築いて見せるのさっ!!
心にそう強く誓うのだった。




