表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/192

騎士の絆って最高さっ!!

「ジュリアン様。怖い・・・・。

 やっぱり、外の人、嫌。怖いよ~・・・・・。」

そういってブルブル震えながら僕にすがり付くシズールのフードがはだけ、涙をぬぐう動作で仮面が外れて、その姿があらわになってしまうのだった・・・・・。

「ジュリー――っ!! そ、その娘はっ!!」

その場にいた王都守備隊の誰もがおどろきの声を上げるのだった。


そして、特別、驚愕きょうがくしたのは貴族。ラグーン伯爵はくしゃく以外の貴族たちがおどろあわてたのだった。

ひたいから生えたつの。長い牙・・・。シズールの姿はマンイーターで知られる鬼族の姿をしていたからだ。

「そ、そそそ、それは鬼族じゃないかっ!」

「貴様っ!! そんなものまで連れていたのかっ!!」

貴族たちは、驚いて僕に向かって怒鳴どなりつける。

そして、その内にシズールを殺せとまで言い出した。想定内の事だったけれども、根性の座っていない奴らだ。

そんな中、僕と少し付き合いのできたラグーン伯爵だけはほんの少しだけ冷静さをたもっていて、周りの貴族に静まる様に注意してくれた。

「お静かにっ!!

 狼狽うろたえるのはみっともないですぞ。

 そこな少年、ジュリーは荒くれ者どもの冒険者をまとめて私と交渉したり、龍の子供を奴隷化どれいかして手懐てなずけるような天晴あっぱれな奴です。恐らくは、そこの鬼族の娘も無害なのでしょう。

 ・・・・・そうであるな? ジュリー。」

ラグーン伯爵は、いささか動揺どうようの色を隠しきれていない表情で・・・それでいて心の中は冷静さを守っているようで、正確に事態を理解して説明してくれる。流石だ。まだお若いだろうに戦場でのあの活躍ぶりを見る限り、ただ者ではないと思ってはいたが、ここまで頼りになる人物だとは・・・・。

ラグーン伯爵に感謝の気持ちを込めて深々と頭を下げると、僕は、役場やくばに集まる皆に向かって話し出した。


「ここにいるシズールめは、鬼族ではございません。

 正確に言うと、鬼族の血が混じってしまったエルフの少女なのです。身内の者が方々ほうぼうに手をまわして鬼族の毒気どくけ解呪かいじゅして一命をとりとめたものです。しかし、あわれなことに姿かたちは、鬼族の特徴が残ってしまったのです。

 ただし、その魂は御覧ごらんの通り、清純無垢せいじゅんむくな少女にすぎません。そのあたりがこの龍の子供・・・ゴンちゃんとの一番の違いです。シズールは束縛そくばくしなくても人に危害を加えるような子ではありません。人に害悪がいあくを与えるどころか、先ほどの龍討伐のおりも我々に補助魔法をかけて支えてくれた貴重な戦力なのです。」

僕はシズールが無害なことを話して聞かせるのだが、貴族たちは承諾しょうだくしなかった。

「鬼族の毒気を解呪したというのなら、何故その娘は鬼族の容姿をしているのだ?」

「その者が鬼族の姿をしている以上、解呪できた無害な存在だと証明は出来まい。」

という疑問に始まり、そこから冒険者たちの地位向上の取引に話を繋げようとしだした。

「そもそも貴様は冒険者ではあるまいし、冒険者と国との契約になんの権利があって口をはさむ。

 冒険者たちはお前がその娘を連れておることを知るまい? そんな得体えたいの知らない奴だと知っていれば自分たちの仲間に引き入れたりはすまいよ。

 要するにお前は身の上を隠して、冒険者をだましてラグーン伯爵と交渉したのだ。

 正式な冒険者でもないお前とな。それではこの度の契約、考え直さねばならんな?」

貴族の一人が、いやしい笑みを浮かべていった。

大体、予想通りの展開だった。宮中内の権謀術数けんぼうじゅっすうけた貴族たちが他人の弱みを見つけて、そのままにしておくはずがない。少しでも有利に契約けいやくを進めるようにつとめるのがつねだ。

もしくは、これを見逃すことを恩に売り、相手よりも有利な立場を勝ち取る。そうやって自分の政治的立場を守るのが彼らだ。

別にそれを必ずしも悪いこととは思わない。思慮しりょなく善意のままに生きるものは、他人に利用されてしまうからだ。一個人いちこじんでも他人にあやつられてしまうのは良くないことなのに権力者がそうなると民衆まで傷つく。そのための防衛意識は為政者いせいしゃならば当然身につけておかねばならんことなのだ。だから、僕は彼らの卑劣ひれつを許すことができる。これは卑劣ではなくて、「生きていくための知恵」なのだと理解しているからだ。

そして、理解しているからこそ、彼らと交渉する能力が僕にはあるんだ。


「そのお話をされるのでありましたら、まず確認しておかねばならないことがございますな。

 私の武勇ぶゆうと龍の子供の安全が保証出来ているのに、私の従者じゅうしゃたるこのシズールめの安全が何故、保証出来ないとお考えですか?」

僕の質問を受けた貴族たちの顔が一変する。その立ち振る舞い、たたずまいから僕が只者ただものではないとさっしたようだ。

「・・・・小僧。貴様何者だ?

 とてもいやしい身分の者とは思えぬがな?」

貴族の一人がそう訪ねたとき、ラグーン伯爵が手でその質問をさえぎるように差し出し、無言で首を左右に降る。「問うな。」というジェスチュアだ。それを受けて、貴族たちの顔つきがまた一段と引き締まる。ラグーン伯爵の態度から僕が強敵であると認識した証拠だった。

そして、その認識を元に頭を回転させて素早く次の質問をする高齢こうれいの貴族が前に出てきた。

「ジュリーと、申したな?

 その少女の安全が保障されない理由は明確だ。

 先ほども申した通り、お前は正体知れぬ者だ。

 お前は身の上を隠していた。そのお前が信用できぬのに、一体どうしてその少女が信用できようか?」

高齢の貴族の言い分はもっともだ。しかもこの男は、僕がラグーン伯爵と取り決めた冒険者の地位向上の約束を果たさないように策略するだけでなく、それをしちに僕の正体を探ろうというのだ。

小賢こざかしい・・・・・。

そのような策略は、僕にも、そして僕の同胞はらからたちにも通用しはしないのだ。

「ふふふ・・・。」と失笑してしまってから、咳払せきばらい一つ。それから僕はぐるっと一周見渡しながら大声で問うた。


「このお方は、僕が信頼に足らぬという。

 では問おう。

 一体、どの御仁ごじんが僕を信用できぬというのかっ!?」

この一言を聞いた瞬間、高齢の貴族は眉間みけんに深いしわを作りながら「・・・・・貴様っ。」とうなった。

彼は、その時、自分が敗北したことを知ったから唸るしかなかったのだ。その証拠に僕達を取り囲む騎士たちが腰に下げた剣を手に取って地面に立てて、そのさやでドンドンと床を叩き鳴らす。

「ジュリーっ!!

 ジュリーっ!!

 ジュリーっ!!」

これが戦場のきずなだった。ともに戦い、撤退てったい殿しんがりという名誉ほまれつとめたうえに御首級みしるしをあげた僕を誰も見捨てない。それが騎士であり、この鼓舞こぶは騎士のほこりを守り、僕を見捨てるつもりはないという意思表示だった。先ほど高齢の貴族は言った。「お前は身の上を隠していた。そのお前が信用できぬ」と。

だが・・・・。

今、ここにつどいし騎士たちの誰もが僕を信用してくれていた。それはお互い口にしなくてもわかることだ。だからこそ、僕はここで交渉できるのだ。

高齢の貴族をはじめ、ここにいる貴族たちは、そこを勘違かんちがいしていた。僕は賤民せんみんである冒険者たちの地位向上のために、それをはばむ王国側の人間が集まる敵地に乗り込んで交渉しているのではない。ここは僕の味方ばかりだ。むしろ、不利な境遇きょうぐうにいるのは貴族たちだという事を、彼らは今頃気が付いたのだ。ラグーン伯爵が手で制止したことの意味を彼らは今になってやっと気が付いたのだ。あれは、僕の正体を問うなと言う意味ではない。ここではやめておいた方が良いというアドバイスだったのだ。まぁ、そんなことに気が付くわけがないし、ラグーン伯爵も本気でアドバイスのための制止をしたわけではない。ただ、単純に義理事ぎりごととして形式的にやっただけの事。

そう。ラグーン伯爵の勝ち誇ったような表情を見て、彼らはその事にも今更いまさら気が付いたのだった・・・・。

しかし、僕の目的は、ただ単に貴族をいじめて冒険者たちの地位向上の約束を果たさせるためだけではない。そう、僕にはこの第二の人生で成しげないといけない使命があるのだった。

僕は、なおまだおびえるシズールの手を取って抱きしめてやりながら、その場にいる全員に問うのだった。


「僕の信用は証明されました。

 次はこの少女の信用を証明しましょう・・・・・・。

 まず、あなた方に問います。

 誰がこの少女の素性を知っておられるのか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ