名前が決まったよっ!!
師匠・魔神・フー・フー・ロー様はとんでもないことを言い出してしまった。
それは、助命を条件に僕とこの度、奴隷契約を交わした龍の子供の名前を付けるという提案だった。
名前は大事だよ? 名前を呼ぶという事はその人の魂を呼ぶという事だと、昔の日本人は考えた。
名前とはそれぐらい大事なもので、キラキラネームとかつけたバカ親どもには鉄拳制裁してやるに十分値することだと思う。
人間の名前は、それぐらい大事にしないといけないのだ。
そして、だからこそ人は、名前を付けるときにはこだわりを見せたくなるのだ。その思いは真面目な人ほど熱心であり、美しくて意味のある名前を付けるものだ。
不真面目な人は、愛情の欠片もないゴミみたいな名前を平気でつける。
この両者の一番の違いは、熱量の差だ。人の名前を付けるという重大な責任を背負えるだけの思いが、その熱量となるのだ。
当然、真面目な人が集まった家庭の場合、それは熾烈な争いとなる。
そう。・・・・・それはもう、家庭内内戦状態と言っても過言ではない状況になるんだ。
「絶対、私が考えた方が可愛い名前を付けられもんっ!!
私が名前つけてあげるっ!!」
ガーン・ガーン・ラーの粗相の後始末をし終えたオリヴィアは、状況を聞くとアニメのツンデレキャラがするかのような両腕組みした仁王立ちの姿で声高らかにそう宣言する。
・・・・・ズルいぞっ!! そんなのメチャクチャ可愛いじゃないかっ!!
銀髪で少し儚げなイメージを持つ美少女のそんな姿が男がメロメロになっちゃうくらい可愛いってことを最近のオリヴィアは学習しだしたんじゃないのか?
そう言えば、最近、甘え上手になった気がする・・・・。
いや、駄目駄目駄目っ!! 騙されませんからねっ!!
「名前は、皆で決めますっ!!
異論、反論は認めませんっ!!」
僕はオリヴィアの可愛さに負けそうになる自分を奮い立たせて、自分の意思を曲げずにそう宣言する。
オリヴィアはむくれて僕の肩にパンチするけど、もう効きませんよ。
いくらホムンクルスのボディの君のパンチでも、精霊騎士と同格の霊位になった僕の体には肩たたきくらいのものですよ。肩こりがほぐれるくらいです。
「はっはっはっは。
きかないよっ!! さぁ、もっと殴ってごらんなさい。むしろ心地よいぐらいだよ。わははははっ!!!」
僕に挑発されてオリヴィアはガンガン叩くんだけど、全く効かない僕に腹を立てて悔し涙を溢す。
「はぁ・・・・。変なところでフー・フー・ロー様に似てしまわれましたね。ジュリアン。
良い子だったのに・・・・・。」
ミュー・ミュー・レイは、悔し涙を流しながら師匠に酒を注ぐガーン・ガーン・ラーとオリヴィアを交互に見ながら、ため息をつくのだった。
さて、厄介なのはオリヴィアだけではない。
龍の子供に名前を付けると聞いて喜んだのは、ミレーヌとシズールも同じこと。
「いい名前。私、つける!!
自信あるっ!!」
僕達が戻ったことを知ったローガンの手によって宿屋に連れ戻されたシズールが嬉しそうに宣言し、ミレーヌもそれに乗っかる。
「ジュリアン様っ!! ここは先ほどの戦闘で功績のある私へのご褒美と思って、命名権を私にっ!!」
二人はそう言いってキャイキャイ騒ぎながら龍の子供の髪を撫でまわしては、可愛がるのだった。
まぁ、見た目は可愛いんだわ。この子。
どっからどうみても美少女にしか見えないし、体も華奢だし、声も高音だ。
動物の子供が可愛らしいのは、可愛いと思わせて保護してもらうためのものだと聞いたことがあるが、この龍の子供の場合もその例外にならず、とても愛らしい姿をしている。
でも・・・その本性は邪悪だ。とても野放しにはできない。僕がちゃんと監視してないといけない。
今だって、甘えるようなそぶりを見せながら、さり気なくシズールの爆乳に顔をうずめているしっ!!
「この野郎・・・・。セクハラだぞっ!!!」
と、言って僕が引き剥がすと、シズールもミレーヌも
「いやらしい目で見ているからそうなるんですっ!! この子はまだ生まれたばかりなのですよっ!!」
「ジュリアン様。見る目がエッチ。
この子は愛情に飢えてるだけ。」
などと僕を抗議してきた。しかも、その様子を勝ち誇った笑みで見ている龍の子供。
おお・・・。上等だよ。
お前、生まれてきたことを後悔させてやるからな。
僕は、そう誓いながらも、龍の子供の名前を考えてやるのだった。
そして、夕食の時間になって、各々が考えた名前を発表する。
まずは、僕だ。
「この子の名前は、ヴァンダムとするっ!! どうだいっ!? 強そうだろ?」
僕が自信満々に発表したのに、テーブルは静まり返り、師匠は「くっくっく・・・。」と失笑する始末。
何でっ!? 滅茶苦茶強そうじゃないっ!? 絶対、龍に相応しいと思うぞっ!!
僕は心の中でそう抗議するが、女の子たちの意見は違った。
「なんだよ、そのロボットアニメを作りそうな制作会社みたいな名前は・・・・。」
オリヴィアは、あきれ返るかの声で僕に耳打ちする。
ち、ちがうっ!! そういうつもりでつけたんじゃないよっ!!
僕の付けた名前は、全ての女の子から「そんなの可愛くないっ!!」という不可解な理由で却下された。
続いて、ミレーヌが発表する。
「シルフィンと言うのはいかがでしょうか? いずれ大空を飛ぶこの子にはふさわしい名前だと思いますっ!!」
・・・・・ちょっといいかもしれない。ミレーヌはセンスの良さを見せつけて、この案は有効とされた。後に有効とされた他の名前と選挙で決めることになるだろう。
そして、続いてシズールが発表する。
「ラー・ランがいい。立派に成長したときに長音の方がカッコいい。」
シズールは成長して、さらに格が上がった時のことを見越して名前を付けた。すでにお気づきの事とは思うが補足として説明すると、この世界では高い霊格の者は名前がフー・フー・ロー様のような長音になる。逆に神や精霊であっても、長音でないものは、格に比例せぬ霊格だという事だ。女神マルティスや災いの神ドゥルゲットがそれにあたる。ちなみにこの場合は、強さだけが評価されるわけでないことも付け加えて説明しておく。
ミレーヌもシズールもいい名前を付けた。そして、続いて、何故かガーン・ガーン・ラーが発表する。
「俺も名前を考えてやったぞっ!!
ラシーンは、どうだ!? かつてこの大陸にいた残虐非道な龍王の名前だっ!!」
まだ小さな少女が威厳を醸し出そうと胸を張って発表する姿は可愛らしいのだが、センスが壊滅的だ。そもそも、そんな悪い奴の名前を僕達が許すわけがないだろうに・・・。あ、師匠にゲンコツされて泣いてるし・・・・・。しかもミュー・ミュー・レイが抱きしめて慰めてやってるし・・・・。意外といいコンビだな。奴隷同士、気が合うのだろうか? それとも、さっき下の世話をしてやったことでミュー・ミュー・レイに母性が芽生えたのか、それともガーン・ガーン・ラーの方がミュー・ミュー・レイに母性を見ているのか、甘える幼児のようにミュー・ミュー・レイに抱き着いて泣くガーン・ガーン・ラーであった。
しかし、絶世の美女の豊満な体に包まれる美少女とは眼福眼福・・・・・。いやぁ、今日はいい日だなぁ・・・。
と、思ったのもつかの間。最後にオリヴィアがとんでもないことを言い出した。
「この子の名前を決めたわっ!!
悪ガキだから、ゴンタローのゴンちゃんはどうかしら?」
いや・・・。君。それは、犬猫に名前を付けるときのセンスだよ。仮にもこの子は人間並みの自我があるんだし・・・・それはちょっと・・・。
しかも、ゴンタローって日本語じゃん。前世の記憶で話しても、現世の人たちには意味が解らないし・・・・。あ、龍の子供が救いを求めるかのような涙目で僕を見つめて首を左右に振ってるし・・・・。そうだよなぁ・・・・。これはないわ・・・。
ごめんね、皆さん。この娘、バカなんです。
「それはちょっとないよね~・・・。」なんて、オブラートに包んだ表現で僕が却下しようとしている最中に女子たちが騒ぎ出した。
「いや~~んっ!! それ、かわいいいいい~~~っ!!」
ミュー・ミュー・レイには、ゴンタローのゴンちゃんが大ハマりらしく、体をくねらせて大賛成する。
・・・・え?
「俺も、俺もその名前、良いと思うっ!! 意味は分からねぇが、可愛すぎるぞっ!! ゴンタロー!!」
ガーン・ガーン・ラーも目をキラキラさせながら、大喜びでピョンピョン跳ねている・・・・。チクショ―、お前の方がよっぽど可愛いじゃねえか、この2000歳のロリBBAめがっ!!
ちょ、ちょっと、まって。君たち正気ですか?
だが、他の女子たちもそれに賛同するのだった。
「ゴンタロー・・・・いい名前。ゴンちゃんはもっとくぁいい・・・・。」
「ほんとうっ!! 意味は解らないけど、ゴンちゃんと言う響きはとても良いと思います!!」
シズールは蕩けるように喜び、ミレーヌも大賛成らしい・・・・。
わからない・・・。この世界の女子のセンスはわからない・・・・・。
「私も良いと思うぞ。ジュリアンよ、この名前で決まりでいいのではないかな?」
師匠まで言い出した・・・・。訂正しよう。この世界の人たちのセンス、わからない・・・・。
僕がすまさなそうに龍の子供を見ると、絶望の涙を瞳に湛えながら、それでも僕に救いを求めるように小さく首を左右に振ってイヤイヤをする・・・・。
すまないっ!! 本当にすまないっ!!
「・・・・・では、この子の名前をゴンちゃんに・・・します・・・。」
拍手の中で龍の子供の名前は決定された。そして・・・・・
「きゃああああああああー-----っ!!」
という、龍の子供・・・・・もとい、ゴンちゃんがあげる信じられないほどの高音の悲鳴が宿屋にこだまするのであった・・・・・。




