内戦が始まるっ!!
僕達が師匠の部屋の窓から飛び込んで、師匠に再会した時、師匠は10歳くらいの見慣れぬ美少女を部屋に引き込んでいた。
しかも、その美少女は首輪とチェーンで師匠に繋がれていたのだった。
「ええっ!? こ、この娘。魔神ガーン・ガーン・ラーなんですかっ!?」
師匠から衝撃の事実を聞かされて、僕達は唖然とした。
だって、今のガーン・ガーン・ラーは10歳程度の美少女にしか見えなかったから・・・・。
師匠は、動揺する僕の言ったことを訂正した。
「正確に言うと、そいつはもう魔神ガーン・ガーン・ラーではない。
神性を失ったただのガーン・ガーン・ラーだ。今のこいつはシズールほどの魔術も使えん少女だ。
そして、今。奴の神性はすべて俺の中にある。」
そう言われて、僕は師匠がこれまでの存在とは大きく変わったことに気が付いた。
「師匠・・・・・。そういえば・・・・メチャクチャ神格が上がっていませんか?
ひょっとしたら、災いの神ドゥルゲットと並ぶ神におなりになられた?・・・・。」
「今頃気が付いたのかよ。」
師匠は笑いながら、これまであったことを話してくれた。
師匠は、最初から魔神ガーン・ガーン・ラーの神性狙いで罠を仕掛けて待っていた事。
魔神ガーン・ガーン・ラーを自分の作り出した異界に閉じ込める罠に嵌めることで、神格が上のガーン・ガーン・ラーを打ち破った事。
そして、恐怖に屈したガーン・ガーン・ラーが自身の神性の核を差し出し、隷属契約をしたのだと話した。
そして、話し終えた師匠に今度は僕が龍の子供を隷属させた経緯について殊更丁寧に説明した。
師匠の部屋についてから無事に意識を回復したミレーヌも、自分が気絶した後に起こったことをハラハラした様子で聞いていた。
そして、なによりも僕の今の姿を見て、師匠に問いただした。
「神よ。ジュリアン様は大丈夫なのですか? もとの麗しいお姿に戻せませんか?」
・・・・すいません。今は、麗しの君ではないみたいな言い方、やめてもらっていいですか?
普通に傷つくんだ・・・。
「なに、その姿は精霊球の制御をジュリアンが覚えるか、精霊球が完全にジュリアンの体に取りこまれるのを待てばよい。人の姿とその姿とを自在に使い分けられるようになろう。
そこは神性を失って、あの美しい姿を維持できずに子供になってしまったガーン・ガーン・ラーを見れば、そういった核が持つ力がわかるであろう。」
そう言って、師匠は只の少女になってしまったガーン・ガーン・ラーを指差した。
ああ・・・そうか。神性を失ったことであの姿を維持できなくなったガーン・ガーン・ラーは、10歳の少女の姿になって悔し涙を流しながら、師匠に酒を注いでいるのか・・・・。
「つまり、この小さな女の子があの恐ろしい魔神ガーン・ガーン・ラーの正体だったってことですか?
・・・・でも・・・・こんな小さな女の子に首輪をして繋ぐなんて・・・酷いです。」
オリヴィアがガーン・ガーン・ラーをかばう様に抱きしめながら師匠を睨むと、ガーン・ガーン・ラーは、オリヴィアを自分の味方だと認識したようで、抱きしめられたまま、オリヴィアと一緒に師匠を睨むのだった。
そんな二人の様子を見ながら師匠は鼻で笑う。
「何を甘いことを言っているんだ。戦いで負けるという事はこういうことだ。
だから、お前たちもガーン・ガーン・ラーの姿をよく見て覚えておけ。これが敗者の姿だ。
戦に善も悪ない。理性も常識もない。勝者がすべてを得て、敗者は全てを失って隷属する。それが世の中だ。いやなら、隷属ではなく死を選べ。誰も文句は言わんよ。
そして、綺麗ごとが言いたいなら平和な世の中で勝手に言ってろ。だが、戦争が終わらぬこの世界においては、そんな綺麗ごとは人を殺す毒になりこそ、人を生かす薬にはならん。
その事をよく覚えておくんだな。」
師匠はそう言って酒の入ったグラスを一気に飲むと、ガーン・ガーン・ラーに向けて差し出した。それを見てガーン・ガーン・ラーは「はわわっ!!」と、声を上げながら慌ててグラスに酒を注ぐのだった。
その怯える姿にはさすがに僕も可哀想に思って「師匠、いくらなんでもこんな小さな子に・・・。」と苦言をていした。そしたら、速攻で「じゃあ。その龍の子供は何だ?」と聞き返されてしまうのだった。
いや、これは師匠のそれとは事情が違いますよ。この子は放ったらかしにしたら、世の害悪になります。と、反論する。するとやっぱり師匠に「世に害悪をもたらすのはこいつも同じことだ。こいつは元は疫病神だぞ?」と言い返されてしまった。
「それに・・・だ。こいつは10歳くらいの少女に見えるかもしれんが、2000年は生きている元・神だぞ。お前たちが気にするようなことはない。」
え? 2,2000歳って・・・。
「ふっ・・・・・・2000歳の処女ってキツくないですかww?」
ミュー・ミュー・レイが思わず失笑する。それを聞いてガーン・ガーン・ラーは「貴様っ! よくもこの俺に向かってそんな口を叩いたなっ!! 俺はお前のようなアバズレと違って男に媚びるような真似はせんのだっ!!」と、大声を上げて反論する。
ミュー・ミュー・レイは、そんなガーン・ガーン・ラーの頭をガシッと鷲掴みすると「あら、可愛い子ね。身の程知らずなところがとっても可愛いわ・・・・。」と言って笑顔ですごむ。その迫力にガーン・ガーン・ラーは恐怖のあまりに「ひっ!!」と声を上げてから失禁してしまうのだった。そして、失禁してしまったことを自覚すると、しばし、身を震わせたあとで、恥ずかしさのあまりに天井に向かって「うわあああああああー-------っ!!!」と声を上げて泣きだした。その様子をミュー・ミュー・レイは「あらあら、困った子ね」と言いながら、その頭をナデナデしつつニコニコ笑って見下している。それが悔しくてガーン・ガーン・ラーは、なお一層大きな声を上げて泣いた。・・・・ここは地獄か。
「こら・・・。奴隷同士、仲良くせんか・・・。」
師匠もガーン・ガーン・ラーの失禁にはさすがに閉口してしまい、ミュー・ミュー・レイに下の後片付けを命令する。(※閉口とは困ってしまう様子のこと。)
オリヴィアとミレーヌは、二人きりにするのが心配だといって、ミュー・ミュー・レイからガーン・ガーン・ラーを守るかのように抱きしめてあげながらお風呂場へと連れて行くのだった。
「全く、小便臭くてかなわんな。
まぁ、あの箱入り娘にはいい勉強になるだろうさ。
あの男勝りな態度は父神に付与された神格に胡坐をかいたもので、あの気位だけ高い臆病な姿こそがあの小娘の正体よ。これからは、せいぜい、身の程をわきまえて淑女としての教養を身につけてもらうさ。」
そう言って師匠が手酌酒をしようとするので、慌てて僕が酒瓶を取って酒を注ぐ。
師匠は、僕をマジマジとみてから、満足そうに頷くと、また美味しそうに酒を飲まれるのでした。
それからしばらくは、師匠ととりとめのない話をしていたのだけど、フト、師匠が龍の子供を見つめながら
「うむ。しかし・・・・。その龍の子供。名前を付けてやらねばならんな。」
と、何気なく呟いた。
いけませんよ、師匠。それは戦争になります。ペットの名前づけは家族で戦争になるのです。あれは前世の僕が小学生の時でした。それは可愛い可愛い白猫を父親がもらってきて、家族で名前を決めるときに大げんかになったんです。これは、動物を飼う時のあるあるなのです。
特にオリヴィアは絶対に譲らないと思います。僕も譲りませんけどね。
「ふうむ。しかし、そうはいってもなぁ。
いつまでも ”小僧” やら ”龍の子供 ” などと呼んではおれまい。
近日中に決めよ。それから、その小僧にこの首輪を新たに付けておけ。主人のお前の仕事である。」
これは一大事ですよ。大問題です・・・・。
こうして、僕達一行の内戦が勃発するのでした。




