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ちょっ、師匠っ!! なにしてるんすかっ!!

ジュリアンが龍と対峙たいじしているその頃、魔神ガーン・ガーン・ラーは、氷に囲まれた異界を歩いていた。

何処どこだ、ココは・・・・」

ガーン・ガーン・ラーのセリフからさっする通り、彼女は自分からこの異界に入ったわけではない。彼女自身、どこか分からぬところにいつの間にかまよい込んでいるのだった。

「クソっ。寒いなっ!!」

氷の大地の中に薄着うすぎの彼女は、そう愚痴ぐちこぼしながらが歩いていると、やがて魔神フー・フー・ローがガーン・ガーン・ラーのくてをはばむかのように仁王立ちで待ち構えていた。その手には神聖武器である上等な槍がたずさえられていた。つまり臨戦態勢りんせんたいせいと言うわけだ。

ガーン・ガーン・ラーは、その姿にため息をつくと

「やはりお前の仕業か。おたずねの者のクソ野郎が。

 こんな訳の分からん世界に()を飛ばしやがって」と、あきれたように言った。

フー・フー・ローは、ジュリアンたちの前では見せなかったその悪態あくたいこそがこの女神の本性と見抜いていたのか、言葉遣いに若干の違いがあるのを見てニヤリと笑うと

「あの龍がジュリアンをおびすためのお前のわなであることは明白めいはくだ。ならば、ジュリアンが龍を討伐とうばつにするときにお前が来るであろうと予測して罠を仕掛けたわけだ。」と言い放ち、手にした槍の穂先ほさきをガーン・ガーン・ラーに向ける。(※槍の穂先とは槍の刃物部分の事を言う)

そう、魔神フー・フー・ローはすべてを見越みこして準備をしていたのだった。それゆえにジュリアンには監督役としてミュー・ミュー・レイを付けるだけにして、自分はジュリアンを殺しに来る魔神ガーン・ガーン・ラーを罠にめて迎え撃ちに来たのだった。

魔神ガーン・ガーン・ラーは、そんなフー・フー・ローに首をかしげるのだった。


「フー・フー・ロー。

 お前は、どうしてそこまでして()()()()を守ろうとする?

 おたずね者のお前は、これまでかたくなに自分の存在を隠しきってきたのに、最近になって急に姿を見せるようになった。

 それが危険なことと知りつつも。

 その上、神格がお前より上の俺と()()()()の戦いに首をはさむのは勘定かんじょうわぬことと思うがな?」

フー・フー・ローは、そんなガーン・ガーン・ラーの言い分を鼻で笑い飛ばすのだった。

「はっ!!

 神格が上だというだけで、もう勝ったつもりか?

 闘神とうしんの私がお前程度の厄病神やくびょうがみを恐れると何故、思ったのかね?

 お前の方こそ、命乞いのちごいをするなら今のうちだぞ。

 お前のような男女おとこおんなでも私は、可愛がってやる度量どりょうはあるつもりだ。」

フー・フー・ローに挑発されて、魔神ガーン・ガーン・ラーは怒りに顔を真っ赤にする。

「貴様っ! 俺を貴様の愛妾あいしょうあつかいするつもりかっ!

 女と思ってあなどりやがってっ!!

 貴様ごと仮初かりそめの神が俺と対等に戦えるなどと思い上がりにも程があるわっ!!」

ガーン・ガーン・ラーは、怒鳴り声を上げながら、掌の中から斧槍ハルバードを引き出す。体内に隠すには大きすぎるその斧槍は、きっと異次元から取り寄せたものだろう。

その斧槍は長さ3メートルはあるもので、槍と斧を足して出来たその切っ先は、重量感にちていた。斧の部分は、30センチはあるし、槍の部分も同様の長さがある大身槍おおみやりであった。石突いしづきまされたナイフ状の刃物がついている独自の工夫がされた異形いぎょうの武器であった。(※石突とは、槍の刃物部分の反対側の端の事)

しかも斧と槍、ナイフの刀身にはそれぞれ神文しんもんきざまれております、何やら魔法によるバフがけられているようだった。

フー・フー・ローが自身の持つ槍と見比べてから、「その槍もほしいな。」とつぶやいてしまうほど、その斧槍は高級な神造兵器であった。

「神としての格の違いを見せつけてやるっ!!」

ガーン・ガーン・ラーは、そう言いながら、斧槍を頭上でグルグル回して威嚇いかくすると、「ヤァーッ!!」という掛け声と共にフー・フー・ローに切りかかる。

目にも留まらぬその速さはジュリアンが戦ってきた精霊騎士等とは比べ物にならないまさに神速しんそく突込つきこみだった。

あまりの速さに突こんだあとに、遅れて烈風れっぷうが巻き上がるほどである。おおよそ人間に視認しにんできる速度をえており、音速を超えたときに起こるソニックウェーブと呼ばれる破裂音はれつおんが聞こえるほどだった。

魔神ガーン・ガーン・ラーの渾身こんしんのその一撃は確実に魔神フー・フー・ローを死にいたらしめるためのものであり、ガーン・ガーン・ラーにとってフー・フー・ローに神格の違いを見せつけることを目的とした一撃でもあった。

にもかかわらず、フー・フー・ローは、アッサリとその突きを槍の石突きで払いのけるのであった。

払いのけられたガーン・ガーン・ラーは踏み込んだ勢いをそのまま利用されて体勢を前方に引きり出されるようにくずされて、前転する。

勿論もちろん、ガーン・ガーン・ラーも神であるので、この程度の危機に動じることなく、前転する勢いを利用して回転しながらフー・フー・ローに横薙よこなぎの一撃をくれる。

ガーン・ガーン・ラーの高速の一撃を槍で受け止めたフー・フー・ローは、その膂力りょりょくに顔をしかめながら、5メートル以上も弾き飛ばされる。


「ふっ・・・・。奇襲は失敗したが、力の差は見せつけられたようだな。」

攻撃を打ち込んだ反作用はんさようの力を利用してガーン・ガーン・ラーは、華麗かれいに着地すると勝ち誇ったように言う。そしてフー・フー・ローに十分な威力いりょくを見せつける手ごたえを感じたガーン・ガーン・ラーは満足感を覚えて歌うように笑った。

「ふふふんっ。

 所詮しょせん仮初かりそめの神でしかないお前程度の魔力では、俺の一撃を止めることはできぬと分かったか?

 フー・フー・ロー。お前を殺せば俺が異界の王から褒美ほうびをもらえる。無駄な抵抗をしなければ、痛い思いをせぬように正確に急所を攻撃して殺してやるんだがな?」

ガーン・ガーン・ラーは、要するに降伏勧告こうふくかんこくをしているのだ。どうせ勝ち目のない相手なのだから無駄むだな抵抗はやめて大人しく死ねという、メチャクチャな勧告だった。当然、フー・フー・ローは、そんな勧告には応じない。それどころか鼻でせせら笑うのだった。


「私を吹き飛ばしたと思って陽気になるとは、所詮、男勝おとこまさりを気取ってみたところでお前は()()()()()()()()()だな。

 お前が私を吹き飛ばしたのではない。私がお前の攻撃の威力を無効化するために飛んだのだ。それがわからぬことこそが、お前はバカぢからだけで戦闘と言うものを理解していないお嬢様である証拠だ。」

今度はフー・フー・ローが勝ち誇ったように言う。槍の穂先をガーン・ガーン・ラーに向けて言うのだった。

「お前は確かに私よりも高位こういの神だが、所詮は、疫病神やくびょうがみだ。如何いか膨大ぼうだいな魔力を持っていても闘神である私の敵ではない。

 お前は私の命を狙っていると言ったが、それはこちらも同じこと。

 もう一度だけ言う。命乞のちごいをするのならば私の愛妾あいしょうとして生かしておいてやるぞ?」

格下の神だというのにフー・フー・ローは、どこまでも傲岸不遜ごうがんふそん物言ものいいをするのだった。そして、再び出た「愛妾」という言葉は魔神ガーン・ガーン・ラーの逆鱗げきりんれた。

「があああああっ!!」

と、叫び声を上げたかと思うと、その美しい瞳から光が放たれて、9つの首を持つ大蛇と3つ首の巨人が召喚された。

「囲めっ! 奴の逃げ場をふさぎ、俺との一騎打ちに邪魔者を入れぬようにしろっ!!」

ガーン・ガーン・ラーがそう言うと、召喚された2体の魔物はガーン・ガーン・ラーを頂点とする3角形を作るかのように回り込んでフー・フー・ローを囲む。

その様子をフー・フー・ローは愉快そうに見つめていた。その時のふてぶてしい表情がまた、ガーン・ガーン・ラーの怒りを生んだ。

「そのニヤついたツラをぶち壊してくれるっ!!」

その声と同時にフー・フー・ローの眼前がんぜんに炎が巻き上がって爆発する。これまた人間には何が起こったのかは視認できない速度の爆発だったが、フー・フー・ローはこれを氷の壁で防御せしめた。だが、そのくらいのことはガーン・ガーン・ラーも予測済みだった。爆発で殺すのではなく、爆発はあくまでも目眩めくらましが目的らしく、炎と同時に高く飛びフー・フー・ローの頭上から斧槍を振り落とす強襲に出る。フー・フー・ローは、それを視認したのか、はたまた本能なのか・・・・身を沈めて紙一重に斧槍をかわすと、体を起こす勢いに任せてガーン・ガーン・ラーの頭部を蹴り飛ばすのだった。


おろかな娘だ。ガーン・ガーン・ラー。

 命乞いのちごいのタイミングを自らの増長ぞうちょういっしたことを最後の瞬間の時に後悔こうかいするがよい。」


フー・フー・ローは、静かにそう言い放つのだった。

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