作戦会議をしようよっ!!
災いの神ドゥルゲットの予言通りに戦争が始まってしまった。
北の方にある小国同士の戦争らしいのだが、詳しい話は聞いていない。そもそも、今回の戦争は、我が国は関わっていないので詳しい情報がまだ届いていない。
父上は、今、情報収集と星見の予言待ちの状態だと、僕に告げる。
「ただ、災いの神ドゥルゲットの予言通りの場合は、お前たちは外には出せない。」
父上にしても、現時点で言えることはそれだけらしい。
とりあえず、僕とクリスとミレーヌの3人は、お城の中でも特に厳重に閉ざされた要塞のような区画の中で暮らすことになった。
そうは言っても、災いの神ドゥルゲットの予言通りならば、期間は3か月だけだ。
その間、僕達3人だけの時間がたっぷりあるというのは、嬉しい限りだ。
そして、僕は今後の方針について、新たに与えられた自室にて語る。
黒板に似せた画板に大きく「本日の議題」と書くと、対面の椅子に座る二人に語り掛ける。
「聞いてくれ、クリス。ミレーヌ。
僕達は最高で3か月、この建物の中で寝食を共にするわけだが・・・まず、決めておかないといけないことがある。」
椅子にチョコンと座るクリスは挙手するかのように、小さな右掌を僕に見せるようにしながら頷く。
「うん、お風呂の順番。」
ちがうっ!!!
「はい!ジュリアン様」
垂直に掲げられた右手が美しい。さすがミレーヌ。
「はい。ミレーヌ君。どうぞ。」
ミレーヌは、僕を見据えたまま若干、紅潮した頬で答えた。
「夜伽の順番ですね。」
・・・
・・・・・・え・・
ええええええええええええええっ!!!!
「・・・・・サイテー・・・・男子サイテー・・・・」
クリスがドン引きした顔をしながら、両手をミレーヌの前に差し出し、僕からかばう様な姿勢をとる。
誤解だっ!!
なんだよっ!クリスっ!!
僕が何をしたって言うんだよっ!
なんで、そんなに汚いものを見るような目で見る?
「私のオッパイ触ったじゃないっ!! 同じようにラッキースケベを装って、ミレーヌにもっ!!」
「しないしないっ!!」
「大丈夫です。私はジュリアン様の忠実な奴隷。いつでも覚悟はできています。
・・・・でも、あの・・・・・初めてなので、優しくしてくださいねっ・・・・・」
ミレーヌ!!なに、自分の世界を作って頬を赤らめてるのっ!
二人とも違うから、きいてよっ!!!!
「そ、そうじゃなくってっ!! 事が起きた時の避難経路と作戦だよっ!!!?」
「っ!!」
「っ!!!!!」
僕の言葉にミレーヌとクリスは顔を真っ赤に染め上げる。
特に盛大な誤爆をしたミレーヌは深刻だ。涙ながらに身を震わせて言う。
「わたし・・・・・わたし・・・・・・死にます。」
やめろおぉおおおおおおっ!!
そこまで思いつめるような事じゃないでしょ?
「だって・・・・・・だって・・・私、恥ずかしい。」
いいから。いいから。
僕達、聞かなかったことにするから。
「と、とにかくだ。」
僕はわざとらしく咳ばらいをすると本題に入る。
「この区画は本来は籠城戦の時の王侯貴族が住む場所なんだ。
まぁ、僕は王族だし、クリスも転生者だから、僕と同じ扱いを受けられる。ミレーヌは、扱いでは僕の端女だから、ここにいることを許されている。ここは、それくらい厳重で非常時に使用される区画だ。
当然! 敵は容易にここに入ってこられないし、僕達も容易に外へ出られない。
勿論、外へは容易に出られないと言っても、抜け道はあるんだ。一方通行のね。全ての隠し扉は、逃走経路に使われた場合、敵は、壁を破壊しながらでないと追いかけられないので、逃げることに関して言えば、こちらが有利なんだ。」
クリスはその説明を聞いても意味が解っていなかったが、理解したミレーヌは言う。
「完全一方通行で逃げることに関しては有利。ただし・・・・一度逃げたら、もう味方の助勢を外に出るまで受けられないという事ですね。」
僕は頷く。
「つまり、どういうことかわかるかな?クリス君っ!?」
「ひゃ・・・ひゃいっ!!・・・・・・わ、わかりませんっ!!」
「きりーつっ!!」
僕から「起立」と一喝を受けたクリスは椅子から降りてまっすぐに立つ。
「足は肩幅に開いてっ!」
「ひゃいっ!!」
「両腕は後ろ腰に組むっ!」
「ひゃいっ!!」
「顎を上げて・・・・歯ぁ食いしばれっ!!」
「ふにゅうううううっ!!」
「そのまま、10分我慢っ!!」
「いやああああああ~~~~~っ!!!」
「体罰反対っ!!こんなのだめ~~~っ!!」
クリスの猛抗議を腹を抱えて笑いながらも、僕は話を進めなければいけない。
「とにかくだ。僕達は、逃走経路に入ったら、あとは自分たちの力だけで戦わなければならないという事だ。
そこでっ!
本日はっ!!
我々の護衛をしてくれている精鋭騎士団から、逃走任務の護衛をしてくれるものを10名選抜したいと思うっ!」
僕はそう言うと、鈴を鳴らしながら「入ってくれっ!!」と声をかける。
僕の部屋に順繰り順繰り数名の騎士が入っては自己紹介をしては、出て行って、また別の騎士が部屋に入ってきては自己紹介をして、出て行った。
総勢30名の紹介が終わり、僕達は、それぞれ誰がいいのか言い合った。
「・・・・・あのさ。二人とも。」
「嫌!!」
「ダメです。ジュリアン様・・・・。」
いや、二人ともさ。護衛に女騎士を絶対に入れたくないのは、まぁ、わかるけどさ。
火炎魔法を駆使する10人長クラスの騎士マリア・ガーンまで排除するのはおかしくないか?
僕も初めて見る顔だけど、実績を見るとすごい騎士だぞ。彼女は。
「あのさ。二人とも。マリアは魔法騎士だ。僕達の戦力に魔法が使えるものが必要なことくらいわかるよね?」
「うそっ!! 知ってるもん。オッパイばっかり見てたっ!!」
「うぐっ・・・・そ、それは違うぞっ!!」
「見てました。わかりますよ? 殿方は好きですもんね?。
彼女のような豊満すぎるオッパイがっ!!」
ミレーヌとクリスが唇を尖らせてマリアを拒絶する。
しかし、そうはいっても魔法騎士の戦力は貴重だ。外せはしない。
「ううっ!! で、ででででも、僕は王子だっ!! 僕に決める権利があるからねっ!!」
僕が伝家の宝刀を出して、二人を黙らせると、魔法騎士マリア・ガーンは長い黒髪を跳ね上げながら「はぁっ」と、大きなため息をついて
「やれやれ、色ボケしたガキの面倒を見ないといけないとはね・・・・。」などとのたまった。
・・・・・・
・・・・・・・・・・あ?
おい、ちょっとまてよBBA。誰に向かってモノを言ってるのさ。
僕がちょっと切れそうになっているのを見た騎士団長が慌てて制止する。
「許してやってください。あいつは今日、結婚する予定だったんです。それが今回のようなことになって・・・・。」
・・・OH・・・・・・・・・
そうか、そういう事なら、仕方ないな。
「なわけねーだろ。俺のこの言葉遣いは生まれつきだ。バーカっ」
・・・・・
・・・・・・君、よく今まで命あったね?
いや、今すぐ亡くなるんだから、それもどうでもいいけどね。
「お、おおおお、落ち着いてください。殿下。すいません、あいつは元々、流れの冒険者。腕が立つので騎士団に入れたのですが、どうも気品が足りなくて・・・・。・・・・・・でも、腕は確かなんです。いや、マジでっ!!」
落ち着け騎士団長。
君もなんかおかしくなっているから。
「しかし・・・・だ。流れ者の下品な騎士とは知らなかった。そういうものは信用できない。すぐにこの護衛から外せ。」
騎士団長は、困り果てた顔をしながら「いえ・・・お父上の・・・その・・・・お手つきでして・・・・・。」
「っ!!!」
ち、父上っ!!
あの人の巨乳好きだけは困ったものだ。まさか、こんな冒険者崩れのアバズレに手を出すなんて・・・・
「では、いたしかたない。・・・・・・マリア。お前にはミレーヌの護衛についてもらう。いいなっ!」
僕が一喝すると、マリアはニヤリと笑って、仰々しく騎士の礼をする。
くそっ! 腹が立つ女だ。
27~8才だろうか? 年上じゃなかったら、もっとギッタンギッタンに文句言ってやるのに。
僕が苦虫を噛み潰したような顔をしていると、ミレーヌが尋ねてきた。
「あの・・・・・どうして、私なんですか? 転生者のクリスの護衛についてもらった方がいいのでは?」
ミレーヌの疑問は納得だ。
だが、それではいけないんだよ。
「クリスは、神業レベルの回復魔法の使い手だ。だから、僕達の中で最も安全な場所で匿い、ケガ人が出た場合は助けてもらう必要がある。クリスには壁が一枚だけでは問題があるんだ。わかるね?」
「つまり、クリスに対しては騎士団全員がガードにあたるという認識ですか?」
「そうだ。異存はあるか?」
僕が自分の作戦を伝えると、ミレーヌはそれ以上、説明を求めなかった。
僕は選ばれた騎士10名を部屋に残すと逃走経路の説明とその際の作戦。陣形の説明も合わせて行う。
全員が集中して聴いてくれていた。
もちろん、この作戦が使用されるかどうかは、わからない。
それでも、この会議は、とても必要なことだ。
そうやって、作戦の摺り込みが終わると、僕は解散を告げる。
部屋に残されたのは、僕達3人。
そうなってから、クリスが言うのだった。
「じゃぁ。一番大事な議題について話し合わないとね・・・・・。」
え?一番大事な・・・・って?
クリスは、腕組して胸を張って言うのだった。
「お風呂の順番よっ!」
・・・・・僕は、クリスが可愛すぎて大笑いが止められなかった・・・・・・・・・・・。




