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君なら言わなくてもやってくれるさっ!!

「ここにいれば死ぬぞっ!!」

そのおどし文句にこの場に居合いあわせた男たち全員が言葉を同じにして返答した。

「へっ! 殺してみろっ!!」

・・・・・チクショーどもめ・・・・・。

やってやるさっ!! 死んでも文句言うなよっ!!


「聞いた通りだ。そこの爬虫類はちゅうるいっ!!

 我々は貴様と戦うっ!! 殺せるものなら殺して見せろっ!!」


僕はそう言ってタンカを切るのだけれども・・・・。正直言って分が悪すぎる。

先ほど倒したメス龍とはわけが違う。

まず体の大きさが違う。それだけ力強く、頑丈がんじょうで、生命力がある。

次にオスと言う生物的な優位性ゆういせいだ。ほとんど生き物はオスの方が強い。そして龍もそれに当てはまる。単純な肉体の強さだけでなく、戦闘本能がオスとメスでは段違いだ。

そして最終的に決定的に違うのは霊位れいいだ。あのメス龍も初めて城壁じょうへきの上から見たときは、なんと立派な龍だと感じたのに、今、このオス龍と見比べてしまうと、あのメス龍はまだまだ進化の過程の途中だとわかる。このオス龍は、それほどに立派な龍だったのだ。ほとばしるほどの魔力を感じる。多くの精霊騎士と手合わせしてきた僕達にはわかる。この龍が精霊騎士並みに強い事を。立ち姿からそう感じさせるのだった・・・・。

だが・・・・。攻撃は効いている。

不意打ちとはいえ、ビクター達が投げた手槍てやりは、肉の部分には刺さりもせずに弾かれたようだが、羽には突き刺さり、龍に手傷てきずを負わせた。そして、僕の魔法で地面に凍り付かせることにも成功した。つまり、精霊騎士以上の能力を感じさせる龍だが、実は僕達にも全く手が無いわけではないという事だ。

だったら、いちばちかの勝負に出る価値はあるという事だ。


僕はその勝負に出ることにした。痛みをともなきだ。確実に誰かが死んで最悪、数人しか生き残らないかもしれないけだ。しかし、それでも誰かが生き残る可能性があるならば、僕は戦って生き残る可能性に賭けて勝負しなければいけない。僕達はこの世界を救う転生者なのだから・・・・。

そう決心した僕は瞬時に作戦を組み立てる。脳内に状況をすべて整理して書き込み、計算を行う。

・僕達転生者の戦闘力。

・ミレーヌの能力。

・ビクター達冒険者の化け物狩りの経験と能力。

・王国直轄の騎士団所属の兵士たちの統率力と精神力。

これらをまとめて、オス龍を目測して割り出した戦闘能力値 (すなわち、体力、魔力、戦闘本能)とを測りにかけるようにして差し引きし、どの作戦で戦えばより優位な部分で勝負できるか、逆に龍にとって不利な勝負にもっていけるかをみちびき出すのだ。

圧倒的強者と戦う時は、強者の強い部分と向き合ってはいけない。その強い部分を引きださせないようにしながら、自分の強い部分を敵の弱い部分にぶつけて倒す。これが鉄則てっそくだ。

だから、僕はお互いの能力値をできる範囲で客観的に測定して、龍の弱みに自分たちの強みをぶつける作戦を思いつくのだった。


そして、なんの偶然ぐうぜんか。僕が作戦を立て終わったのと同時に龍が自分の足を凍り付かせた氷魔法を魔力によって打ち破り始めたのだ。

もう時間的猶予ゆうよはない。今、この時、敵を打ち破らねば僕らに勝ち目なんかないんだ!!

そう心の中で決意を固めて、僕はビクターに叫んだ!!

「ここで戦うのは不利だっ!! 龍の子供を連れ去る!!

 ビクター!! 君は東に駈けだせっ!! 移動しながら優位な場所で攻撃を仕掛けるぞっ!!」

人語を話す龍は僕の作戦を理解して、僕の命令を受けたビクターが走り出すのを後ろを振り向いて目で確認している。

そして僕は僕で言うが早いか、僕は龍の子供を再び抱えて駆け出す。その時に、わずかな目くばせでミレーヌに合図を送った。声には出さずに目くばせだけだけど、ミレーヌは確実に僕がミレーヌに何を求めているか気が付いてくれるはずだ。

さらに僕はオリヴィアには指で方向を指し示しながら大声で怒鳴どなる。

「ボクに並走へいそうするようにしながら、北西に向かえっ!!」

「はいっ!!」

村娘としてクリスティーナの中で生まれ育ったオリヴィアだが、戦闘中の判断は鍛え上げられているので、返事と共に速やかに僕の指示通りにかけだすのだった。これも師匠魔神フー・フー・ロー様による訓練の賜物たまものだ。


ビクターは東に。僕は北に向かう。そしてオリヴィアは北西に。

龍は自分の足を凍らせた氷魔法を破壊しながら、3方向へ動いた僕らに混乱した。

「小僧ッ!! どこへ行くっ!! 勝負すると言っておいて、バラバラになって逃げるつもりかっ!!

 この腰抜けどもめがっ!!」

怒声どせいを上げながらも、龍は冷静に物事を観察している。それは強者きょうしゃを知る僕には、簡単に察することが出来る。強者ほど戦闘中は嘘つきなのだ。絶対に簡単に自分の心中しんちゅう察知さっちできないようにふるまう。龍は僕達にいかにも怒り心頭で冷静さを失ったように見せかけながら、僕達をよく観察して、何処から倒すべきか思案しあんしているはずだ。僕が龍の立場なら必ずそうする。そうして、それをやってのけるであろう強者の匂いを龍から僕は感じていた。だからこそ、僕には龍の本心ほんしんが読めるし、それを逆手さかてに取ることも出来るんだ。

この時、龍が次にとる行動には二つの可能性があった。

一つは、僕達の中で最も戦力が低く、攻撃しやすいビクター達を先に襲って全滅ぜんめつさせる作戦。

もう一つは、龍の子供を連れ去る僕をおそう作戦。なんだかんだ言っても、子供を取り返せるなら取り返そうとする作戦。

何故、この二つの可能性かと言えば、つま復讐ふくしゅうをせんと考える龍が逃げる可能性はゼロだし、見るからにか弱くて可愛い美少女だが、僕から近い距離を走るオリヴィアを追う可能性は限りなく低かったからだ。だって、その場合、僕に挟み撃ちにされちゃうからね。


やがて龍を注意深く観察しながら龍の子供を連れ去る僕の目に、龍が、一番の弱者であるビクター達を狙って飛び立つ姿が映った。

この作戦は正しい。まずは敵の弱い部分を叩くという戦闘の鉄則にあった作戦だ。やはりこの龍は只者ただものではない。兵法へいほうの本質を理解した強敵だ。

だが・・・・おろかだった。

この作戦は片方を追うという状況を作り出すので、もう片方に対しては最大の弱点である背後をさらすという危険行動なのだ。龍は魔力を足に込めて走り出した僕とオリヴィアが思いの外、足が速くて、あっという間に遠くへ移ったことを考慮こうりょして、自分の戦力ならば、ビクターを殲滅せんめつしてしまうわずかな間に僕が、龍の背中を攻撃できる距離に戻ることは不可能と判断したんだ。だから、こういう攻撃にでたんだろうが・・・・愚かだ。

彼は忘れている。僕達にもう一人、戦力があったことを。

いや、忘れただけではない。見えなかったのだ。

生き物は高速で動くものを見たとき、危険や獲物えものをより確実に察知さっちできるように、動くものを見るように出来ている。つまり、身動き一つせず、その場にせて身動き一つしなかったミレーヌを龍の目には見えなかったのだ。見えなかったから、戦力から忘れ去ってしまっていた。

暗殺者集団に育てられたミレーヌだからこそ、瞬間的に察知できた奇襲きしゅう作戦だった。

そして、ビクターを瞬殺しゅんさつせしめんと意気込む龍には、しばし、感じられなかった。己の背後で爆発するミレーヌの魔力を。


「氷に閉ざされた氷と泥の国に住まわれし狩人ルー・バー・バーよっ!! 我が怨敵おんてきを氷の矢にて、その命を貫き通すご助力をっ!!

 ミレーヌがかしこみ畏み願いたてまつそうろう。」


ミレーヌはちょうのように軽やかに舞い踊り、呪文じゅもん詠唱えいしょうすると次元の壁を切り裂いて、氷と泥の国の狩人にして名射手のルー・バー・バーが現れたかと思うと、氷の炎をまとった弓に数本の矢をつがえて、一気に射出しゃしゅつする。

その矢は一度に射出されたというのに、正確に龍の片翼の根元を射抜いぬいたのだ。狩人のルー・バー・バーにとって龍は只の獲物えものだ。そんな狩人の攻撃を受けたのだから、龍の翼は肩甲骨の付け根から根こそぎもぎ取られるのだった。

「ぎゃあああああああっ!!」

と、龍は悲鳴を上げながら、再び落下する。

自分の攻撃が命中したことを確認するとルー・バー・バーは愛想あいそうもなく、再び次元の壁を切り裂いて去って行ってしまった。

きっと、もうここまでやったのだから、あとは十分だろうと判断したのだろう。

それはその通りだと僕は思う。龍が一番強い部分は実は、その強靭きょうじんな肉体や魔力ではない。はるか上空から、爆撃ばくげきするかのように一方的に攻撃できる点だ。ルー・バー・バーは、龍の最大の強みを打ち砕いたのだった。

この機会を逃す手はない。

僕は、オリヴィアにきびすを返して戻る様に指揮すると叫んだ。 (※踵とは、足のかかとの事。踵を返すとは、引き返すという意味。)


総員そういんかかれっ!!

 今、この時。今この場で地に落ちた龍を殺せねば、勝ち目はないと思えっ!!」




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