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退治したよっ!!

いよいよ、龍が僕達に向かってやってきたのだった。

卵を抱えた騎馬兵きばへい血相変けっそうかえて一目散いちもくさん廃城はいじょうに突っ込んでくる。

「早く来いっ!! 広場の中央へ卵を置けっ!!」

僕は大声を上げて騎馬兵を誘導ゆうどうする。冷静さを欠いた兵士は何をするかわからない。彼らに平常心へいじょうしんを思い出させるために必要なものは単純明快たんじゅんめいかいな命令だ。複雑な言葉は余計な混乱を生む。考える必要もない命令こそが今、彼には必要だったのだ。

何故なら、彼は恐怖のっただ中にいるからだ。推定すいてい体長10メートル、体高5メートルの巨大な爬虫類はちゅうるいが宙を飛んで騎士を追いかけているからだ。馬の速度は推定時速40キロと言ったところか。龍の飛行速度はそれよりも若干、遅いとはいえ、魔法やブレスといった騎士まで届く遠隔えんかく攻撃をしてくる可能性がある。騎士が恐怖で錯乱さくらんするのは仕方が無いのだ。こんな状態の騎士に冷静さをたもてと言うのは、かなり過酷かこくだ。

しかし、騎士は。騎士の心の奥底に宿る騎士道精神でどうにかこうにか冷静さを維持いじして、僕の指示通り、廃城の中庭跡地なかにわあとちの広場まで、やってきた。

「ジュリー―っ!!」

騎士は、僕の仮名を叫んで卵を高くかかげて僕に見せつけると、龍が魔法で作った炎の槍に身を貫かれて絶命ぜつめいした。その炎の槍は誰が見ても、一撃で即死そくしさせられると理解できるサイズだった。

炎の槍に上下に分断された騎士の上半身は、下半身とは別の方向へ落馬して、ゴロゴロと広場を転がるのだった。

「くそっ!! やったなっ!!」

心の奥底から龍への怒りがき上がり、僕はさけんだ。そして、勇士の遺体いたいを守るかのように広場に飛び出すと、龍を挑発ちょうはつする。

「さぁ、降りて来いっ!! 間抜まぬけなトカゲめっ!!

 ここがお前の墓場だっ!!」

人語を話す龍には、僕の言葉がわかるだろう。そして、自分の卵に手が届く忌々いまいましい人間が、卵を人質に取って脅迫きょうはくしていることも理解できているようだった。くやしそうにたけびを上げながら、バサバサと広場に降り立つのだった。

そして、僕をにらみつけると大声で怒鳴った。

「こましゃくれた人間の小僧が、私の坊やを盾にとって脅迫するつもりかっ!

 お前は考え違いをおかしているぞ。私は確かに坊やは可愛いが、それでも生まれ出る前の命と私の命を天秤てんびんにかけた場合、私は自分の命を守る。何故なら卵はまた産めばいいからだ。」

ビリビリと空気が波打つ感覚がするほどの大声だった。この声に()()()上ったら最後。僕は龍に命をられてしまうだろう。

でも、僕は冷静だった。冷静であらねばならなかった。それは龍を倒すために必要な事でもなく、僕が生き残るために必要な事でもなかった。

それは、例え命を落としても任務を全うした騎士の執念しゅうねんむくいなければいけないからだ。

そう、なんといっても彼は・・・命絶いのちたえたその体であるにもかかわらず・・・・・。


「この勇敢ゆうかんな騎士は死して地に伏しても、龍の卵を手放さなかった!!

 彼の勇気がここに光り輝く限り、お前は敗れ、我々は勝つのだっ!!」


そう、彼の両腕は死しても決して卵を手放てばなさなかったのだ。光の消えた瞳だが、ほほに刻まれた深いしわは、未だにゆるむことが無い。まるでその魂の力で顔に覚悟の形をり込んだかのように、雄々おおしい表情のまま彼は死んでいたのだった。

何と言う勇敢でたくましく意志の強い男だろうか? 

名も知らぬ彼だが、かなうものならば僕の配下になってほしかった逸材いつざいだった。

そして、そんな勇者の死を僕らは無に帰すわけにはいかない。僕は覚悟をもって龍を倒さなくてはならないのだった。

そして、龍の恫喝どうかつひるまぬ姿勢を見せて、騎士の勇敢さをたたえるたけびを僕が上げると、地下塹壕ちかざんごう潜伏せんぷくしていた兵士たちや冒険者たちが感極かんきわまって潜伏していないといけないことも忘れて塹壕ざんごうから走り出て来て槍で地面を叩きながら、たけびを上げるのだった。

その様子に大声を上げて僕を威圧いあつしようとした龍が逆におどろいた。上空を飛んでいた時に、これほどの数の兵士が潜伏していたことに気が付かなかったのだ。潜伏方法は実に簡単だった。緑の布を木々の間に張りめぐらし、その下に兵士は身を潜めただけ。ただ、それだけの幼稚ようちな手口に龍はまんまとひっかっかった。

その理由は二つ。一つは卵を盗まれて逆上して冷静さを失ったこと。もう一つは、兵士たちは塹壕ざんごうに隠れ、上空を飛ぶ龍からは見えていなかったからだ。以上二つの理由で龍は、まんまと僕のわなに引っかかったのだ。


「おのれっ!! これほどの兵を隠していたとは!!」

気が付かぬうちに兵団に囲まれていたことに気が付いた龍は翼を広げて飛び立とうとする。

しかし、そんな真似はさせない。おめおめ空中に逃がすのなら、誰が最初から地に降ろさせるか。

僕は背骨に刻まれた神文しんもんの力を使って、氷魔法を発動させる。龍の尾と、右後ろ脚が地面に氷漬けられて、一瞬、飛び立つことが出来なくなった。

「アタック!!」

僕が右手を振りながら大声を上げると、広場を囲む擁壁ようへきの上に立ち、四方八方しほうはっぽうから龍に向けて手槍てやりが投げつけられる。

「ぎゃああああああー--っ!!」

何十本もの槍の投擲とうてきを受けた龍が悲鳴ひめいを上げると、第2投目の槍を構える後列の兵士が構え、僕の号令に合わせて再び槍のあめあられをお見舞いする。

こうして、何投もの列が投擲とうてきし、何百本もの槍が龍をつらぬいたとき、氷魔法で身動きを封じられた龍は悲しそうな吐息をらしながら、息絶いきたえるのだった。


「・・・・やった・・・・。

 やったぞっ!! あの龍を俺たちが殺したんだっ!!」

「やった!!」「やったぞっ!!」

龍が身動きをやめて、死んだことを確認した時、冒険者も兵士たちも手に手を取って勝利を喜ぶのだった。僕も正直、喜んでいる。卵を人質に取って龍をわなめて一気にたたみみかけての勝利。人語を話すほどの龍も罠にめられては本来の実力を発揮はっきすることも出来ずに倒すことが出来るのだ。

勿論、この作戦には多くの人手がいる。それを可能にしたのは兵団と冒険者の一致団結だ。そして、勝利を喜び合って無事をたたえあう彼らは確実に友情を確認しあうことが出来た。それは同時に冒険者の存在価値を知らしめる僕の作戦の成功を示していた・・・・。


だが、戦いはこれで終りではなかった・・・・。

僕達が勝利に酔いしれているその時、龍の卵はひび割れ・・・・中から美しい少年が姿を現したのだった。その事に僕達はすぐには気が付かなかった。勝利にいしれて浮かれていた僕達が、一人の美少年が唐突とうとつに出現するという異変が起きても気が付くはずがなかったのだ。

僕がその事に気が付いたのは、オリヴィアと抱き合って勝利を喜んでいたその最中だった。

卵から出てきた美少年がとてつもない高音の雄たけびを発したのだ。

「きいいいいいいいいいいいいいいい~~~~~~っ!!」

甲高い声は超音波のような振動を産み出して、廃城を取り囲む千を超す兵士たちを膠着こうちゃくさせた。

「なんだっ!! なんのつもりだっ!!」

僕は危険を察知さっちして自分の獲物えものに手をかけて、卵から出てきた美少年を切り捨てようとした瞬間、およそ聞いたことが無いような羽ばたき音を上げて、先ほど倒した龍の2倍はありそうなサイズの龍が上空に現れるのだった・・・・。


「オスだっ!! あれは、龍のオスに違いないっ!!

 メス龍と小龍の一大事を悟った龍のオスが姿を見せたんだっ!!」

誰かがそう叫んだ。

そして、それは真実なのだろう・・・・。誰もが、新たに現れた絶望するほど大きな龍の姿を見てそう悟るのだった・・・・。


 


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