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暗号で話すぞっ!!

冒険者の地位向上が確約されたので、兵団と冒険者はココに一致団結して戦うことをちかう。

ラグーン伯爵はくしゃくは、龍が卵を持っているという情報を元に龍を長期にわたって放置することの危険さを悟り、一刻いっこく猶予ゆうよもならぬと短期決戦を計画するのだった。

「まずは、冒険者の代表と作戦をる。すぐさま呼んで来い。」と言われ、僕は王都から20キロほど離れた廃城跡はいじょうあと潜伏せんぷくしている冒険者たちの元へ戻り、ラグーン伯爵の呼び出しを伝える。

冒険者の頭のビクターは数人の部下を連れて僕と共にラグーン伯爵のもとを訪れて挨拶あいさつをする。

「これは伯爵様。このたびはどうも・・・・・。」

ビクターは、帽子を取って軽く会釈えしゃくすると、少し落ち着かない様子で挨拶した。

何が ”どうも・・・・” なのかわからないが、まともな教育を受けていない40歳前のベテラン冒険者が貴族に対する礼儀をわきまえているはずもない。冒険者が直接口を利ける相手は、せいぜい、下っ端したっぱや新人の騎士までだ。その教養きょうようの無さにあきれ返ったラグーン伯爵はビクターの方を見向きもせずに僕に向かって話し出した。

「今回の龍討伐に参加すること、まことに殊勝しゅしょうである。

 早速本題に移りたいのだが、冒険者どもはどこまで龍の情報を掴んでおるのか?」

ラグーン伯爵のその態度に僕は顔をしかめる。ここはやはり、冒険者の代表の顔を立てる配慮はいりょこそ上に立つ立場の者には必要だと思ったからだ。ラグーン伯爵の態度は僕には、いささか思いやりが足りないのではないか?

「その件でしたら、お話は代表としてください。」

僕がラグーン伯爵にそう断りを入れると同時にビクターは「冒険者の代表はお前だ。」とさえぎった。

「冒険者の代表はお前だ。違うか?」

ビクターは僕をじっと見つめて問う。

「いいか。お前が提案し、お前が冒険者をまとめ、お前が具体的な作戦を立て、お前が伯爵と交渉こうしょうし、お前が龍の情報を集めた。

 お前が冒険者の代表だ。」

ビクターがそう言うと、ビクターが連れてきた数人の部下たちも「そうだ! お前がすべてを取り仕切った。お前が頭だ。俺たちの地位向上のためにここまでやってくれたお前に俺たちは地獄の底までお前に付き合う。」と声を上げる。

ラグーン伯爵はその様子を見て納得するように頷くと僕に名前を問うた。

「では、小僧。いや、小僧はいかんか。

 冒険者の頭目とうもくであるお前の名を言え。そうしなければ話が進めにくくてかなわん!!」

僕はとりあえず仮の名前「ジュリー」を名乗り、龍について知っていることを話して伝え、同時にすでに僕が考えた独自の作戦を伝えた。


独自の作戦。それは従来の騎士団と冒険者が行う合同作戦とは全く違うものだった。

通常、こういった巨大生物の討伐とうばつには冒険者が生物の巣の前でにぎやかしておびき出し、兵団が生物を挟み撃ちにして倒す。今回は飛ぶ龍であるから投網とあみと魔法の連携れんけいによる捕縛ほばくが必要となるが、おおむねねそう言った作戦となる。

だが、今回、僕が考えた作戦は違う。

囮になるなら機動力があるものが良い。騎乗に熟達じゅくたつした騎士たちにおとりとして動いてもらう。鈍足どんそくな冒険者の被害をできるだけなくすためにもそうする方が良い。

そして、龍がおとりを追うと同時に別動隊が卵を取って廃城跡へ連れ込む。龍は半狂乱となって廃城に突っ込んでくるはずだ。そして卵を取り返すために廃城跡に着地した龍を隠れた兵士と冒険者たち全員で一斉攻撃を仕掛けて始末する。

これが作戦だった。

そして、この作戦には一つ利点がある。それはダンジョンの戦いになれた冒険者たちがいかに戦力になる貴重な存在であるか国に知らしめる効果があるからだ。通常の戦争ならば、兵士の方が絶対に強い。だが、ダンジョンでの怪物退治にれた冒険者たちならば一日の長がある。だから、廃城跡には前列に冒険者を配備してくださいと伯爵に進言した。


「・・・・・・・・・。」

伯爵は僕の作戦を聞き終えた後、しばらく黙って考え込んでいたが、やがてビクターの方を見て「お前たちはそれでよいのか?」と、尋ねた。

”それでよいのか?” というのは、この作戦では前列に集中している冒険者の被害が甚大じんだいになるからだ。しかし、ビクターとその部下の表情を見て、ラグーン伯爵は返事を待たずして、この作戦を了承した。

誰一人として、覚悟に満ちた顔をしていたからだ。誰もが、この作戦の意味を解っていた。賤民せんみんゆえに消耗品のように使われる者たちが交渉上手に、その地位を手に入れても先が長くないと思っていた。

武功と名誉と犠牲ぎせいによって国を救い、尊敬を勝ち取らねばならぬ事・・・・。皆、理解していたから、ラグーン伯爵は、それ以上何も言わなかったのだ。


そして、ラグーン伯爵とビクターの指揮の下、討伐準備が進められた。廃城跡には、冒険者が身を隠せるために擁壁ようへきが補強され、兵士たちが隠れられる地下塹壕ざんごうが掘られ、龍を迎え撃つ準備が整えられた。

その間に、僕は師匠の下へ行き、出陣前の挨拶を済ませる。

「それでは、僕達は行って参ります。

 師匠、もし僕達に何かありましたらシズールをお願いします。」

シズールは僕の言葉を聞くと、涙をこぼしながら僕達に防御魔法をかけてくれる。その容姿から作戦に参加できぬ無念むねんさからくる涙だった。

「シズールの魔法は僕達に勇気をくれる。君は今、僕達と共に戦ってくれているんだよ!!」

僕達はそう言って抱き合ってシズールを慰めるのだった。オリヴィアもミレーヌも誰もがシズールを大事に思っているから、涙なんか流してほしくないし、彼女の魔法に何よりも勇気をもらっている。僕達は仲間だっ!!

師匠は僕達の様子を目を細めてごらんになっていたが、一段落が付くと、「俺も野暮用やぼようがあって、しばらく町をける。シズールをローガンに預けるゆえに、龍討伐が終われば、町の外へ引き取りに行け。」と、命令する。

これは珍しいことだ。だって、師匠は誰よりも僕が大切なはずだ。転生者の僕から目を離すとは、本当に異例いれいなことだ。きっとよほどの事情なのだろう。僕は気をかしてそれ以上は何も尋ねなかった。

ただ、出発前に師匠は、龍討伐には氷魔法を基本に戦うようにとだけ、アドバイスをくれた。理由は簡単だ。僕の持つ魔法の中で氷魔法が一番強力だからだ。師匠と出会ったことでいつの間にか、そうなっていたんだ。

そう考えると感慨深かんがいぶかいものがある。僕は師匠のアドバイスを有難ありがたく頂戴して、オリヴィアとミレーヌを連れて龍討伐軍の下へと向かった。


そして僕達を迎えた討伐軍。兵団も冒険者もそして、ラグーン伯爵も僕達の見事な装備に言葉を失ってしまった。僕らの装備品は神より下賜かしされた特別なもの。王家の宝物庫に大切に保管されているべき貴重品だった。特にラグーン伯爵は高貴な自分が見たこともないような装備品にしばらく言葉をなくしていたが、やがて、「作戦が終わった後にお前には聞きたいことがある」と神妙しんみょうな顔で言うのだった。

う~ん。これは本格的に敵国のスパイと疑われたかなぁ?

まぁ、伯爵がおどろくほどの装備品を持つ行商人ぎょうしょうにんなんておかしいもんね。ただ、疑われても僕達にはこの装備品を脱ぐことは出来ない。・・・・今回の龍はそれほどの敵だったからだ。

2階建ての一軒家ほどもあるサイズの龍が空を飛び、人語を話す。つまり魔法も使えるのだろう。そして、何よりも恐ろしいのが・・・・僕達の指揮の号令を龍は理解してしまうという事だった。

これに対処するには僕達は攻撃の号令を暗号化しなくてはいけなかったのだ。それについてはすでにラグーン伯爵に作戦を説明したときにお話しして、伯爵とビクターから各位かくいに伝達してもらっている。しかし、それでもお互い初めて実戦で使用する暗号だ。不安が残っていた。

だから、作戦開始前、僕は兵士や冒険者に向かって改めて説明する。


「いいかっ!? 敵は人の言葉を理解し、話す龍だ!! 

 だから、号令は暗号化する。その話は既に上司より聞き及んでいる事と思う。これより、作戦実行前の確認を行う。いいかっ!?

 ”前進”” の合図は ”ゴー” だっ!!

 ”撤退てったい” の合図は ”バック” だっ!!

 ”かかれ” の合図は ”アタック” だっ!! 

 進行方向は左右の手旗信号てばたしんごうおこなえ! わかったな。

 以上、これより合図があるまで、各位、隊列ごとに何度も練習して間違いを犯すな!」

雑兵ぞうひょうたちへの命令は基本シンプルでないといけない。複雑な命令は混乱を招くだけだ。行け、下がれ、攻撃しろ。だけでいい。しかも、僕はこれを前世の英語に置き換えただけと言う単純な策に出た。前世の言葉は龍には理解できないし、何よりも日本語よりもシンプルで聞き取りやすい。ちょっと悔しいけど、やはり日本語は海外よりも複雑なのだ・・・・。

まぁ、僕の暗号化が幼稚なのはともかくとして、単純で理解されやすかった。


そして、面白いことに僕の命令を聞いた兵団は思わず、敬礼けいれい姿勢しせいを取ってしまった。きっと命令を出すときに王子時代の風格ふうかくが出てしまったのだろう。誰もが僕の命令を緊張した面持ちで聞き、その様子を見ていた冒険者たちは、「あの兵団が尊敬の念をもって、頭目を見ている」と、感じり、ますます僕を尊敬したような目で僕を見つめていた。

そうやって、作戦が始まるまでの間、誰もが緊張した面持ちで作戦の確認をして時間を過ごした・・・・。


そして、物見ものみの兵が遠く地平線から立ち上る狼煙のろしを見て避けんだ。

「テキ、ウゴケリっ!! テキ、ウゴケリっ!!」

いよいよ、龍が僕達に向かってやってきたのだった。

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