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覚悟はいいかいっ!!

「トンデモねぇことを考えるガキだな・・・・。」

口々に驚きの声を上げるが、やがて店の店主が「だが、やる価値はあるぞっ!!」と口をはさむ。彼は元冒険者だ。稼いだ金でこの飲み屋を開いた成功者で冒険者たちの憧れの存在でもあった。その彼が乗る話なんだから・・・・。と言うわけで冒険者たちは、僕と行動を共にしてくれると誓ってくれたのだった。


そして、翌日。

エネーレス王国から、冒険者は一人もいなくなってしまったのだった・・・・・。

異変には庶民に先に気が付いた。酒を飲んで喧嘩けんかしたり、娼婦しょうふや美少年を連れ歩き町の風紀ふうきを乱すならず者たちが一夜にして消えてしまった。かんの良いものは一日で気が付き、普通の者は5日で気がついた。

そして、やがて町の役場の者たちも気が付いて・・・・国中が大騒ぎになった。

この国では大半が産業に従事じゅうじしているが、一部の者。賤民せんみんと呼ばれるカースト底辺の者たちは定住の土地を持たず差別される。彼らは冒険者になるしかない。そして、外国に出稼ぎしては帰ってくる彼らは一部の者たちと言えども総数で2000人を超える。その大勢の人たちが一夜にして消えたのだ。問題にならないわけが無い。しかも、現在は王都エネーレス近郊の街道近くに龍が住み着いている。兵団はあせった。何故なら、兵団から見ても、あの龍の討伐には冒険者の力が必要だったからだ。少なからず当てにしていた戦力が消えるのは、痛恨つうこんの一大事。焦らぬわけがなかった。

しかも、この異変に町の者たちがおびえ、「冒険者たちが一堂いちどうかいして軍勢となり、クーデターを狙っている」と言ったような噂話うわさばなしが飛びうようになってしまった。

国の為政者いせいしゃがこの事態を重く見ないわけがなく、エネーレス王国内は騒然そうぜんとなった。

国のトップがあせれば軍が動くのは当然の話で、とうとう消えた冒険者たちの捜索そうさくが開始されることになった。


この混乱こそが、僕の狙いだった。

僕はオリヴィアとミレーヌを引き連れて、役場に姿を見せる。そこには、情報収集のために兵団の偉いさんが来ることが分かり切っていたからだ。そして、運が良いことに僕達が役場に来た時、立派な装備からそれなりの身分の騎士と分かる女性が商工会の代表に聞き取り調査をしているところだった。

入り口の大広間で立ったまま聞き取り調査をしている騎士の近くまで歩き、周りにも聞こえるように大きな声で話しかけるのだった。

「やぁ、騎士様。冒険者たちをお探しとお聞きしましたが?」

僕の言葉に騎士はギョッとした表情で僕に振り向く。立派な身なりをしているので、恐らくは中隊長クラスであろう。

そして、まだ子供の僕の姿を見て、多少いぶかしがりながらもたずね返す。

「その通りよ。異国の坊や。

 何かご存じなのかしら?」

騎士は、僕の話し言葉のアクセントから異国の者と気が付いたのだろうが、それにしても僕も随分ずいぶんとこの国の言語がうまくなったな。僕は自分の上達ぶりを自画自賛しながら質問に答える。

「怪しいものではありません。僕は、この王都の宿場町に泊り、この町で商売をさせていただいております行商人ぎょうしょうにんでございます。

 えんあって冒険者の代表の方から、伝言を預かってまいりました。」

僕の話し方を聞いた騎士は、思わず「えっ!!」と、声を上げて驚く。

きっと、彼女は、貴族の出なのだろう。片言の言葉を話す少年から感じられる気品から、僕の正体を見極められずにあせっているのだった。

しばらく、値踏ねぶみみするように僕をジロジロと見たが、やがて僕の正体を探ることをあきらめたのか、小さなため息をついてから返事を返す。

「私はこの王都の警備隊中隊長を務めるキャミ―です。

 怪しいものではないと君は言ったけれども、その気品あふれる物腰を見ればただ者でないことはわかっていますよ。

 それで? 冒険者から何を言われて来たというのかしら?」

キャミ―中隊長は、その身なりに相応しい、騎士でありながら女性としても魅力を一切失わない色気に満ちた声で僕を誘惑ゆうわくするかのように尋ねた。

年の頃は24,5といったところか。普通だったら行き遅れと言われる年齢だが、彼女の美貌びぼうを見てそんなことを言うものはいまい。誰もが「彼女は騎士道に人生を捧げているんだ」と思うだろう。

僕はそんな彼女に敬意けいいを示して、面倒なやりとりははぶいて要点を説明する。

「彼らは冒険者の地位改善を交渉材料として、龍討伐りゅうとうばつに参加すると言っていました。」

その言葉はキャミ―中隊長にとって予想もしていなかった事らしく、彼女は驚いたりあわてたりするよりも ”理解の範疇はんちゅうを超える” とでも言いたげな表情で小首こくびをかしげるのだった。

「・・・・冒険者の・・・・地位改善・・・?

 何を‥言っているの?」

随分ずいぶんさっしの悪い・・・・。やれやれ、これだから世俗せぞくうといお嬢様は・・・。

僕は心の中で悪態あくたいをつきながら説明するのだった。

「僕にはわかりますよ。キャミ―中隊長。

 だって、この国に来た時に龍討伐の報奨金ほうしょうきんを見たときに、わが目を疑いましたもの。

 キャミ―中隊長。国が冒険者に支払う報奨金はお礼の金額ではありません。この国が考える冒険者の命の値段なのです。

 この国は、多くの冒険者を他国へ送り出す、世界的に見ても珍しい国です。そして、彼らが出稼ぎで持って帰る金が少なからずこの国をうるおしているというのに、彼らは土地を持つことも許されぬ身分。

 これでは彼らが地位の改善を訴えても仕方ないのでは?」

子供の僕にそう説教され、キャミ―中隊長は感情的になって反論する。

「貴方のような子供にそんなことを言われるまでもありません。

 いいですか? そもそも最初の報奨金など形式上の物でしかありません。

 その後に我が国の兵士と合同で討伐隊が編成される流れになっているのです。彼らもそれを見越して時を待っていたではありませんか。

 大体、地位向上と言いますが、冒険者たちが他国へ出稼ぎに行ってもどうしてスパイと疑われて拘束されるようなことが無く無事かわかりますか? それは彼らにも我が国の後ろ盾があっての事。彼らが自由に振舞えるのは我が国のおかげと感謝するべきなのです。」

僕は反論する。

「冒険者には仕事を選ぶ権利があり、それ相応の報酬の仕事を選ぶ権利があります。他国に出た冒険者たちはそうやって仕事をするのです、身分卑みぶんいやしい彼らは、報奨金が大きい仕事を手にするために様々な雑用ざつようを押し付けられたり、侮辱ぶじょくされたりしてもジッと耐えて文句も言いません。彼らは耐えることにれているからです。お金さえいただけるのなら、なんでもする。それが彼らです。

 しかし、本当はそうではない。何でもしないと生きていけないのです。だからつらくても耐えられる。 でもこの国は、そんなあわれな冒険者たちにさえ、危険な仕事にあえて安い報奨金をかけて、最終的に安価な仕事を強制的にやらせている。土地さえ与えない。たしかに後ろ盾と言う保証を彼らは受けてはいますが、それでも悲惨ひさんな立場にあることは間違いありません。そんな彼らが自分たちの地位改善をうったえるのは当然でしょう。」

一気にまくしたてられたキャミ―中隊長は、何も言い返せずに涙目で僕をにらみつける。・・・これ以上は危険だ。

僕は、これ以上一方的に言い負かして彼女を刺激すれば、ヒステリーを起こして僕達を逮捕するかもしれない。その後にはさらにどんな目に合うかわからないので、必要な情報だけを渡して役場を出るのだった。

「僕は彼らとの伝達人メッセンジャーです。もし、交渉したいことがあれば、僕にご連絡ください。

 ただし、連絡に数日要しますので、お早めにお願いします。」

深々と頭を下げてからその場を離れる僕の背中にキャミ―中隊長の泣き声が聞こえてきた。少し可哀想かわいそうな事をしてしまったようだ。子供に言い負かされたのがよほど悔しかったんだろうな。


僕達は尾行びこうもついていないようなので、役場から寄り道せずにまっすぐに宿に戻ると、時を待った。お役所仕事であるし、返事に時間がかかることはわかり切っていたからだ。そして、待っている間にシズールを師匠に預ける。兵団がトチ狂って僕達の宿に突撃してくるときのことを考えてだった。もちろん、事が済むまでミュー・ミュー・レイとの肉体関係はお預けにしてくださいとお願いした。


そして、二日後。兵団は意外なほど紳士的な対応で僕達の宿へ伝令を伝えて来た。きっととるに足らぬ存在と甘く見たのだろう。そして彼らの伝言は単純明快たんじゅんめいかい「取引などありえない。」だった。

では、是非ぜひもない。僕達もその晩のうちに王都から姿を消し、王都から20キロ離れた場所にある廃城跡はいじょうあとに潜伏した冒険者たちと合流する。

廃城に潜む冒険者の頭は僕達を歓迎かんげいし、同時に「作戦が読み通りになった」と、喜んだ。

そう、要するに僕達は最初から国が要求を突っぱねることを予想してこの作戦を立てたのだ。

「さぁ、いよいよ事態が急転するよっ!!

 皆、覚悟はいいかいっ!?」

僕の問いかけに、頼もしいことに冒険者全員がニヤリと笑って応えるのだった・・・・。

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