妙案が思いついたよっ!!
やってやるさ!! 僕が戦争を止める!!
その為にも僕は力をつけなくちゃいけないっ! 龍退治なんかにいつまでも時間をかけていられるものかっ!!
僕が決意を新たにしたとき、師匠が「あ、そうだ・・・・。龍の事なんだがな・・・。」と、話を切り替えてきた。
「あれをお前たちが討伐するだけでは冒険者たちの現状を打破できないというのは正しい。
だが、アレは、大勢で戦わねばならぬ必要がある。そのために国は兵団だけでなく冒険者たちも雇うだろうな。
逆にいえば・・・・それだけ必要だという事だ。」
宿に戻ると僕は師匠に言われたことを含めてオリヴィア達に話して聞かせた。オリヴィア達も僕に試し焼きしたお菓子を出してくれた。
そして、皆でお菓子を食べながら今後について話し合った。
「師匠が言う ”逆に言えば、必要だという事だ” とは、どういう意味だろう?」
僕は3人の意見を聞いてみた。
「結局、皆で倒した方が良いって意味かなぁ?」
オリヴィアはお菓子をリスみたいに頬張りながら、答える。その様子がとにかく可愛い。僕でなくても一日中眺めていたいと思うはずだ。
「私達が冒険者を雇うって意味?」
シズールにしては、中々、鋭いことを言う。要するに僕達が国の代わりに冒険者たちを雇ってしまって討伐せしめて、国に彼らの偉大さをアピールして地位の改善を図るという事が言いたいんだと思う。これは中々、積極的な意見で、僕達はシズールの意見を聞いて感心する。
「いい意見だ。
しかし、それからどうすればいいかな? 僕達が冒険者を雇って龍を倒すことは、流れの冒険者が倒したこととなんの代わりもない。
いい意見だけど、龍を退治した後に僕達はどうやって冒険者たちの地位の改善のアピールをするか。その案を見つけないといけないなぁ。」
僕は腕組しながら首をひねって妙案が出ないか考える。シズールはというと、自分が良いことを言ったと褒められたので、ヨシヨシしてもらおうと僕の前に頭を出す。うーん。何この可愛い生き物。
「よーし。いい子ちゃんだねー。」
「えへへ。」
僕にヨシヨシされるシズールの姿を他の二人は恨めしそうに見ていた。
オリヴィアもミレーヌも「私もっ!!」とねだる。て、いうか。本来はナデナデされるよりも僕に認めてほしい、褒めてほしいだけなんだろうけと、完全に目的と願望がすり替わっている。ナデナデは目的じゃなかったろうに・・・・・。
・・・・・
・・・・・・・!!
僕はそこで大事なことに気がついた。
「そうか。ナデナデは目的じゃなかったんだ!」
僕はそう言って、立ち上がるとシズールが「いや~ん! ジュリアン様。もっと褒めて!褒めて!」とねだる。
「それだよ! シズール!!」
僕が突然、声を上げたので三人娘は「はいっ?。」とキョトンとした顔をした。
「ギブアンドテイクだよっ!!
シズールは妙案を出した報酬として、褒めてもらう。逆に僕は妙案を出してくれたシズールにご褒美をあげるっ!! この両者のやり取りに加わりたいならオリヴィアとミレーヌは妙案を出さないといけない。これは一つの交渉事なんだよ。
以前、アーリーが僕に言ったんだ!!
”交渉事をする時には、相手に対して見返りを用意しておかないと交渉事にはなりませんよ?” ってね! (※79話参照)
冒険者たちの地位改善を国に訴える場合、僕達は国と交渉することになる。その時、僕達は国が冒険者たちへの見返りとして地位の改善を約束させるように仕向ければいいんだよっ!!」
僕の意見を聞いて3人娘は目を輝かせる。
「もちろん!! そのための作戦も、今、思いついたよっ!!」
僕は、3人に作戦を話して聞かすのだった。
そして、行動を起こす前に師匠の下へ、この作戦を実行する許可を貰いに向かう。ちなみに3人はまだ夕食前だったので、食事をするように僕が指示すると、シズールが唇を突き出して言う。
「交渉!! 私、ちゃんと言いつけ守る。
ジュリアン様。私にご褒美のキスするっ!!」
熱い目線で僕にキスをねだるシズールはとても可愛らしくて、僕は思わずドキッとしてしまう。その心境を見抜かれたのか、他の二人も同様に上目づかいで僕を見つめてくるのだった・・・。
ちょっ・・。勘弁してくださいよっ!! 思春期の男の子はケダモノですよっ!! こんなに誘惑されたら、辛抱溜まらなくなっちゃうんだからねっ!! キスで終わるわけないんだからねっ!! オリヴィアっ!! 前世が男の子だった君ならわかるでしょっ!! あ、わからないか。今はもう君は、可愛い女の子なんだから・・・・・。
3人娘を部屋に残して僕が師匠のいる宿に着くと、師匠の部屋を訪ねて勢いよくドアを開ける。
「師匠っ!! お話がありますっ!!」
師匠は顔をしかめて「またかよ。」と、苦笑いするのだった。
部屋に入る許可をもらった僕は師匠の対面に座り、話の流れから作戦内容まで師匠に事細かく説明した。師匠は、僕の作戦を聞くと「流石はジュリアンッ! よくぞそんなバカげた作戦を思いつくものだっ!!」と愉快痛快とばかりに声を上げてお笑いになられた。
それから、作戦の許可を出してくださった。
ただ、今回の話はそれで終わりではない。師匠はシズールのことについて話を切り出したのだった。
「ジュリアンよ。それでお前は結局、シズールにキスをしてあげたのかね?」
師匠は茶化すわけでもなく、真面目な表情でそう聞いてきた。その様子から僕はここから先の会話がただの恋バナでないと悟り、大真面目に返答する。
「いいえっ。キスはやりすぎです。それに僕にはオリヴィアが・・・・・。」
”僕には、オリヴィアが・・・・” と言いかけて、僕は言葉を失う。今の僕にそれを言う資格があるのだろうか、と気が付いたからだ。
師匠は、そんな僕の態度を見抜いてさらに尋ねる。
「では、アーリーはどうかね? 恐らくはお前を ”男” にしてくれたあのホムンクルスは、どんな交渉材料をお前に出してきたのかね?
言わなくてもいい。わかっている。
大方、「今生の別れになるやもしれぬ夜に抱いてもらえないなら命を絶ちます」と迫られてのだろう? 違うか?」
師匠の推測は紛れもない事実だった。僕はただ、観念したように首を縦に振る。
「まぁ、そうであろうな。
あれはホムンクルスであるが、深い情けを持っている。お前への愛を絶たれたら死ぬというのは本心であろう。その迫力にお前は屈したのだろうが、その判断は正しい。アーリーにとってお前は、地獄から解き放ってくれた救い主であり、王子様であり、彼女の全てだ。断られたら、本当にその場で命を絶ったであろう。」
僕はその時のことを想像するだけで、ゾッとしてしまう。そう、アーリーは確かにそれをやり遂げるだろう。そして、そうしなかった自分を褒めてやりたい。
ただ・・・。あの夜。甘く激しいあの夜の思い出は今も僕の体を昂らせる。女性の体を見るたびに、僕の心の奥底で欲望が滾ってくる。あの思い出はまるで僕の体に付いた癒えない火傷のようだ。ズキズキといつまでも熱く体を刺激してくるのだった。
師匠は、そんな僕のことを理解してくれていた。
「彼女に責はない。だれが、彼女を責められようか?
そして、お前も恥ずかしがることはない。
お前があの夜以降に感じている欲求は誰にも責められない。思春期の体はそういう風にできている。
それは別に異常な事ではない。男なら誰でも経験する火傷なのだ。」
そういって慰めてくださった。僕は、自分が情けなくなって涙がこぼれそうになる。しかし、師匠の前で早々涙を溢せない。じっと耐える。耐えるんだぞっ!! 僕の涙腺よっ!!
しかし、師匠の話はここからが本題だ。
「では、シズールの事はどうするのかね?
あれは、お前なしでは生きていけぬ体よ。お前もそれは知っているだろう?
どこに行っても鬼族の外見を持つあの娘は差別される。そんなシズールが唯一心を許す他人がお前だ。ならば、この先どうするのかね?
あの娘にはお前しかしないんだ。
本当にわかっているのかね? お前はあの娘を自分の手元に置いたときから、あの娘に対する責任が生まれていることを。
お前は与えなくてはいけない。愛を。甘い恋心を叶えてやらねばならん。女としての歓びを全うさせてやれ。
でなければ、シズールは一生、生き地獄を味わうことになるのだ・・・・。」
師匠の言葉はとても重く、そして、僕をどこまでも責めているのだった・・・・。




