復讐しちゃうぞっ!!
一話目は、設定の説明もありちょっと長く1万字近くありますが、次回からは3000~8000文字以内に収めるので、お付き合いいただければ、幸いです。
あの日僕は走って逃げ出した。
もう殴られたり、お金をせびられたりするのが嫌だったんだ。
だから、死を覚悟して路上に飛び出した。
楽になりたかったのさ。ただ、それだけ・・・。
そして、僕の目の前に大型トラックが凄く大きなクラクションを鳴らして近づいてくるのが見えた・・・・・・。
それが僕の前世での最後の記憶だった。
それから何年か後の事だと思うけど、僕は異世界の傭兵王国「ドラゴニオン」の第一王子として産声を上げていた。
生まれたばかりの僕は前世の記憶なんか、これっぽっちも残ってはいなかったのだけれども、3歳の時に父上と母上に連れてこられた大聖堂で王家の洗礼の儀式を受けたときに、僕は目覚めた。
僕は見たんだ。この世界の奇跡を。
僕以外の人間は目撃していなかったのだけれども、僕は見た。大聖堂の天井から翼を生やした高貴な存在、天の御使いと呼ばれる存在が僕の目の前に降り立つのを。天の御使いは、「お目覚めなさい。この世の預言者よ。」と言って、僕の額に手を触れた。
その時、僕は前世の記憶に目覚めたのでした。今でこそドラゴニオンの第一王子だけれども、前世の僕はいじめられっ子の情けない中学生だった。一年生の時は地域で一、二を争うような成績優秀な子供だったのだけれども、それが仇となって上級生の先輩に目を付けられていじめが始まった。先輩の指示でいじめに加わっていた同級生にもいじめられた。何もしていないのに廊下でいきなり後ろから背中を殴られたり、蹴られたりした。彼らは、僕の学生服についた靴跡がどれだけ綺麗なのかを競い合っていたようで、一日に何度蹴飛ばされたのかわからない。
そして、その内、お金をせびられるようになった。お金を出さないとさらに先輩たちから殴られたから、僕はお母さんの財布からお金を抜き取った。そんな日が毎日のように続いた。
「いじめられたら逃げだしたらいいんだよ」テレビで脳なしの上に無責任なタレントのおじさんが、なんの意味もない言葉を得意気に喋っているのを見ると腹が立って仕方がなかった。
だって「逃げろ」って、どこに逃げ出せばいいのさ!! まだ中学生の子供の僕にどこに逃げ出せって言うのさ!?
誰も助けてくれない。誰も匿ってくれない。いじめについて両親に相談したけど、高校受験に失敗したら人生を立て直せないことを両親は気にしていた。だから、学校の先生に苦情を言うのが関の山だった。
学校の先生に苦情を言っていじめが簡単に収まった例を親も社会の大人も見たことがあるのかい?
あるんだったら、あの日本という狂った国にいじめなんかが蔓延ったりするものか!!
そうでしょ? 学校の先生は弱体化されて、いじめの実態を隠すのが精一杯の情けない大人の集まりだ。
世間は教師から子供を強引にでも助けだせる権力を剥奪した。その結果としていじめられる子供たちだけが人生を犠牲にすることを強いられる・・・・。
・・・・どうして誰も彼もいじめられた子に「逃げろ」って言うのに、どうして誰も彼もいじめられた子に「逃げ出せる場所」を作ってくれなかったんだろう・・・・。
あの国の大人は脳なしで無責任な連中ほど、正論を喋っているように見せかける。そして、その発言に対して責任を取れるような具体的な活動を何もしない。子供だけが世間の綺麗ごとに侮辱されながら何人も死ぬ。
見覚えがあるだろう? 「死ぬぐらいなら逃げ出せばよかったのに・・・・」って切り捨てられる子供の姿を。
僕は逆に言いたいよ。
「逃げ出せって何年も言い続けて効果がないのに打開策を打ってこなかったアンタたち、権力があるくせに無能な大人たちのおかげでいじめられっ子は死んだんだよ。」ってね・・・・。
そして・・・・・僕もその一人だったのさ・・・・・・。
とにかく、僕はそんな理不尽な世界から脱却してこの世界に転生した。
そして、僕はそのことを3歳の時に天の御使いの手によって知らされて、覚醒した。
前世の記憶がよみがえったんだ。
それからの僕は、神童として扱われることになっていく。
僕はまだ幼子だったのに、魂も知識も現代日本の中学生だった。見た目は完全に幼子なのに複雑な計算や言語を理解し、そしてこの世界の知識層も知らない科学を知っていたから、その事情を知らない周りの大人は驚愕するしかなかった。僕の化学知識は、化学が未発達のこの世界においては、魔法のようだったからだ。いや、その表現は正確ではないね。だって、この世界には現実に魔法がある。そして、化学の代わりになる便利な魔法があるからこそ、化学は発展しなかった。
だから、なおの事、僕が大人たちに話して聞かせる科学知識は、この世界では神秘的な知識として解釈された。
ある時、神殿長が僕に尋ねた。
「王子よ。お前はどうしてそんなにも賢いのだ?」と。
僕は周りの大人たちが僕のことをチヤホヤしてくれるので自分が特別な存在だと理解していた。だから、得意になって天の御使いによって前世の記憶が与えられたことを話した。神殿長は驚愕して僕のことを奇跡の子と呼び、預言者認定をするのでした。
しかも僕には魔法の才能もあった。それは意外なことに科学知識が役に立ったからなんだけどね。
この世界において魔法は基本的に精霊からもたらされる神秘の知識であった。人々はシャーマンが交霊に成功した精霊から教わる形で魔法を手にしていた。精霊は魔法に必要な呪文と動作を人間に伝授する。例えば、火の魔法は、火の魔神に魔力による助力を願い奉る言上を唱えながら、その火の魔神に捧げる舞を踊るのだけれども、人々は授けられた魔法を手順通りの作業をそのまま丸暗記する形で習得する。だから魔法に上手下手はあっても、変化や進化はしなかったのである。人々は精霊たちが授けるいくつかの魔法の中にほんの僅かしか違いがない魔法がいくつかあっても、それらが何故、僅かに異なるのかについては一切分析は行わず、そのまま伝承していた。
でも、僕はそこに疑問を感じたんだ。だって、そうでしょ? 万物には法則というものがある。科学にも魔法にも法則はあるはずだとおもったんだ。
だから、僕は、先ず本当に似ているのだけれども、厳密にいえば異なる魔法に分類される魔法を集めて解析していった。何が原因で異なる効果が生まれているのかを発見できれば、自分自身の手で魔法を変化、進化させることが出来るはずだと考えたんだ。そして、もちろん。新しい魔法を精霊に頼らずとも創作できるはずだとも考えていた。
そして、僕はまだまだ研究段階ではあるものの一定の法則を見つけ出し、魔法の原理を組み合わせることで新たな魔法を捜索することに成功さえした。
秘訣は化学式だった。僕は化学式のように魔法を構築する元素に元素記号ならぬ「魔素記号」を付けて情報処理をしやすくしたのだ。結果として魔法世界を理解する糸口を見つけるという革命的な実績を残したのだ。
まぁ、僕は前世では元々は成績優秀な子供だったし、あの頃、まじめに勉強してきたことが今に生きてるんだなぁ・・・・。
そんなこんなで預言者としてだけでなく、魔法を創作出来ると僕の株は更に上がって僕はまだ大した事は何も成しえてなかったのに14歳になるころには国の英雄のような扱いになっていった。
ところがある日の事、僕の耳に辺境に「神童」と呼ばれる僕と同い年の村娘の少女がいるという話が届いた。
何でも彼女は、僕と同じような科学知識を有して色々と「奇跡」を起こして話題になっている上に「前世の記憶」を天の御使いから授かったと言っているらしい!!
それを聞いて僕は興奮した。きっと、彼女も僕と同じく「転生者」であると思ったからだ。
父上も僕と同じ考えのようで「王都に呼びつけて、特別に王子と同じ学校に通わせよう。王子にも同等の能力を持つ学友が必要だ」と言って、大至急、その少女を王都へ呼びつけた。
そして、彼女と初めての対面の日。僕はいつになく興奮していた。だって、同じ転生者の仲間が出来たんだもの!
彼女の待っている神殿の大聖堂に行く途中に父上から「廊下を走ってはだめだ」と注意されながらも、気持ちを押さえられず、ダッシュで向かう。
僕が大聖堂の扉を開けた時、一人の少女がびっくりしたような目で僕を見ていた。
彼女は村人らしいみすぼらしい貫頭衣のドレスを着ていた。そのみすぼらしさが少女に幸薄そうな印象を与え僕の保護欲を目覚めさせる。守ってあげたくなるくらい可愛い姿だ。
腰元まで伸びた赤い髪は、手入れが行き届いていないのか、毛先が跳ね上がっていて、それが庶民的で愛らしい。
僕を見てビックリしたように大きく見開かれた赤い瞳は猫の目のようにまん丸でとても愛らしい。
小さな鼻と薄いピンクの唇が実年齢よりも幼く見える印象を与えていて本当に愛らしい。
栄養が足りていないのか痩せた小さなその体は、逆に妙な色気を男に感じさせて愛らしい。
つまり、彼女は全部が愛らしい美少女だったのだ!!!
そう・・・・・僕は、一目ぼれしたみたいに彼女の愛らしさに固まってしまった。
お互い、じっと見つめあって10秒以上。やがて、高貴な服装から僕のことをこの国の第一王子だと気が付いた彼女が慌てて、頭を深々と下げる。角度にして110度。いや、下げ過ぎだから。転んじゃうから。
可愛らしい子だなぁ・・・・。
僕は出来るだけ彼女を怯えさせないように、彼女の前に跪いて右手を出して、その左手を手に取ってキスをする。レディに対する作法だ。
「はじめまして。僕は、この国の第一王子ジュリアン。君と同じ転生者なんだよ!!これから、僕たちは同じ学校に通う学友になるんだ。よろしくね!!」
僕がそう言いながら精一杯、さわやかな笑顔を見せると、彼女は顔を真っ赤にしながら、首を何度も縦に振って頷いた。きっと、レディに対する挨拶なんか生まれ育った村ではされたことが無いから、緊張するやら恥ずかしいやら、お姫様みたいな扱いされて嬉しいやら、色んな感情が入り乱れて混乱しているんだろうね。もう、無我夢中で僕の挨拶に反応してるだけって感じだ。
おいおい、そんなブンブン音がするほど首を振ったら、倒れちゃうから。
僕は彼女の手を優しく握りながら立ち上がると、彼女の肩に手を置きながら尋ねた。
「僕と同じ歳の可愛い君。君の名前を教えてはくれないかい? でないと、僕はこれから可愛い君のことを何て呼べばいいのかわからなくて困ってしまうよ。」
なんてキザなセリフをいう。
それを聞いて彼女は緊張のためか慌ててビックリするような大きな声を上げて自己紹介した。
「わ、わわわわわわわわ、わたくしはっ!! ナザレ村のクリスティーナっ!! みんな、クリスって呼んでますわっ!! ジュリアン殿下っ!!!!!」
・・・・・・・可愛い。
ちょっとジーンときた。
見た目だけじゃなくて内面的にも滅茶苦茶可愛いぞ、彼女!!
こんな美少女とこれから6年間の学園生活を共にできるなんて考えたら、僕は嬉しくて思わずニヤニヤしてしまうのでした。
「こら!鼻の下が伸びておるぞジュリアン。なんというはしたないことだ。」
僕が浮かれていると遅れて部屋に入ってきた父上が、だらしない顔をしている僕を見て冗談交じりにお叱りになられた。
そして、先ほど大声を上げて自己紹介をしていたクリスティーナを見て「なんと元気のよい娘だ。」とお笑いになられた。
それから僕の頭を撫でながら「私はこの娘の両親と話をしてくる。この場はお前とこの娘の二人だけにしてやろう。転生者同士、話し合いたいことが山ほどあるだろう。ゆっくりと話し合いなさい。」と仰っると、神殿御付きの神官に案内されながら供の者を従えて大聖堂の奥の部屋に入ってゆかれるのだった。
こうして、広い大聖堂には、僕とクリスティーナだけが残された。
クリスティーナは同じ年頃の少年と二人っきりになったのが恥ずかしいのか、真っ赤になってうつむいてしまった。
ああ、ヤバい。この娘、やっぱり滅茶苦茶可愛いぞ!!
今すぐ抱きしめてキスしたいくらいだよっ!!
胸は痩せこけた体に合わせて薄いのだけれども、腰のラインなんかは立派に女性らしさを保っているし、なによりも顔が可愛い!! 声も可愛い!! 仕草も可愛い!!
・・・ああ。いけないいけない。何を初対面の女性に破廉恥なことばかり考えているんだ僕は!!男って本当にバカなんだから・・・・・。
僕は、コホンとわざとらしい咳払いをすると、クリスティーナに「座ったら?」と大聖堂にある礼拝用の黙祷机に備え付けてある椅子に座るように促した。折角、父上が僕たちのために時間を設けてくれたんだから、時間を有効利用しないとね。僕たちは互いの情報を交換し合って、今後に生かさないといけないしね。
クリスティーナは僕の指示を理解して緊張した面持ちで何度もコクコクと頷くと、僕が指図した椅子にチョコンと座るのだった。・・・・やっぱり可愛い。
僕は、緊張した面持ちのクリスティーナが委縮しないように、出来るだけ優しく自分の前世の記憶を語って聞かせた。
自分が地球という世界にある日本の中学生で、どんな人間であったのか。もちろん、かっこ悪いからいじめられていたことは話さないよ? 話さないけど、別に前世の自分を立派に見せるような脚色はしなかった。ちょっと地区で一二を争うような成績優秀な生徒ではあったけど、内面的には僕は平凡だった。そこは正直に話したんだ。
前世の僕は、もう死んじゃってるから嘘を言って着飾ったって仕方ないもの。
そして、僕がすべてを語り終えた時、クリスティーナが狼狽えた素振りで立ち上がって
「お、おまえ・・・・・・山上 明か・・・?」と呟いた・・・・・。
僕は髪が逆立つかと思うほど驚愕した。だって・・・・・だって・・・・・
だって、それはまだ誰にも話したことがない僕の前世の名前だったから・・・・。
「ど、どうしてクリスティーナが僕の前世の名前を知っているんだ? もしかして・・・僕の前世の知り合いなのかいっ!?」
僕が立ち上がって驚くのと同時にクリスティーナは僕の胸倉をつかむのだった。
「お前のせいで俺は死んじまったんだぞっ!・・・・あの日、お前が路上に飛び出したりするからっ!!」
クリスティーナは、無念の涙をこぼしながら、人が変わったように男言葉を話して怒鳴りつける。
その言葉遣いと雰囲気・・・・・僕は知っている。
僕は覚えている・・・・あの頃の恐怖が僕の精神に残っていたからだ・・・・・
嫌な汗が僕の背筋を伝う。僕は前世の記憶に恐怖しながら、聞き返した。
「もしかして・・・・・高坂 徹・・・・・君?」
高坂徹は、前世の僕「山上 明」をいじめていた不良グループの一人。彼は僕の同級生だったけど、いつの間にか先輩たちに従うようになって、先輩たちと一緒に「山上 明」をいじめていたのだった・・・・。
でも、それが・・・なぜ、その彼が僕と一緒に、この時代の同じ場所に転生したんだ?
その答えは彼の発言の中にあった。
察するにあの日、あの時。自殺覚悟で路上に飛び出した僕を追って、彼も路上に飛び出して・・・・大型トラックにはねられて死んでしまったんだ…‥。
そういえば記憶の片隅に誰かがトラックにはねられる直前の僕の肩を抱きよせようとしていた映像があった気がする・・・。
「・・・・・徹君。あれは君の手だったんだね・・・!! でも・・・君は・・・・どうして僕を助けようとしたんだ? そんなことをするくらいなら、どうして僕をいじめたんだよっ!!」
僕は前世の記憶を思い出すと堪えられないような怒りを覚えて、つい怒鳴ってしまった。
その勢いにクリスティーナは、怯えた表情で後ずさりする・・・・・。
「そ、そんなこと知るかっ!! 先輩の命令に従って始めたいじめだったけど、お前があんまりにも惨めったらしいから、・・・・腹が立って、余計にいじめたくなっただけだっ!!」
言葉だけなら威勢のいいように聞こえるが、クリスティーナは、明らかに僕に怯えていたし、その声は震えているようだった。
その矛盾に違和感を覚えた僕は、クリスティーナの細く小さい体を見て理由を悟る。幼いころから傭兵王国の次期当主として徹底的に武術や魔術を鍛えこまれた僕と、ただの村娘でしかないクリスティーナとの肉体的な差を。
そして、僕とクリスティーナとの圧倒的な社会的立場の差に・・・・・僕は気が付いてしまったんだ。
「・・・・・誰に向かって口をきいているんだ。・・・・・”クリスティーナ”」
その言葉にクリスティーナは明らかに体をビクッと震わせていた。彼女は気が付いていたんだ。かつて自分がいじめていた相手と立場が完全に逆転してしまったことに・・・・・。
怯え切ったクリスティーナの表情を見て、僕は優越感と共に心の奥底から沸々と湧き上がる加虐的な攻撃性に高揚していった。
「・・・・お前は自分の立場が分かっているのか? 僕はこの国の第一王子。ただの村娘のお前なんかどうにでもできる。いや、場合によっては、お前の家族も村人たちも・・・・・・。」
その時の僕は、どれだけ嫌な表情を浮かべながらこのセリフを吐いたのだろう。考えると自分でも自己嫌悪するくらい残忍な微笑みを浮かべていたに違いない。
その微笑みからクリスティーナは、僕の怒りが本物で、僕が本当にそれをやりかねないことを直感的に悟った。
「おいっ!! 俺がお前に仕返しされるのは仕方ないにしてもッ!! 村人や家族は関係ねぇだろっ!!」
「ひ、卑怯だぞっ!! やめろっ!」
「おいっ!! 聞いてんのかよてめぇっ!!またいじめられたいのかよっ!!」
蟷螂之斧とはこのことだ。瘦せっぽちの村娘がどんなに勢いよく言葉ぎたなく威圧しても、僕が怯えて引き下がるわけがない。
僕はクリスティーナに言いたい放題言わせてやるが、冷ややかな瞳で威圧してやる。僕は知っている。いじめられっ子がどれだけ視線で恐怖を感じるのかを。
今度は僕がお前をいじめる番だっ!! さぁ、怯えるがいいっ!!
ただ、僕は加減を知らなかった。クリスティーナは家族を守るために僕に暴言を吐いている。その覚悟を僕は甘く見ていたんだ。だから、まさかクリスティーナがなりふり構わず僕に対して決して言ってはいけないセリフまで駆使して威嚇してくるなんて思わなかったんだ・・・。
「いい加減にいう事聞けっ!! このっ・・・・クソ上のくせにっ!!」
クソ上。それはいじめられっ子たちが僕につけた侮辱の称号。前世の僕は彼らにお腹を蹴られ過ぎて漏らしてしまったことに由来する、僕が決して思い出したくない前世の記憶。
クリスティーナは、その言葉を吐いてしまったんだ。
僕は容赦しない。たとえ、現世で高坂が少女になってしまったとしても、僕には、この拳をその顔面に叩きつける権利があるっ!!
「ふざけるなよっ!! クリスティーナっ!! 今、お前に自分の立場を思い知らせてやるっ!!」
僕は勢いよく右手を上げると、左手でクリスティーナの胸倉をつかみにかかった。
・・・・ぷにっ
と、僕の左手にクリスティーナの小さいが確かに膨らんだ柔らかいオッパイの感触が伝わってきた・・・・。
「・・・・あれ?」
僕は、思わず自分の手元を見ると、クリスティーナが怯えて身じろぎして体を捻じったせいで、僕の左手は目標を外れてクリスティーナのオッパイに触れてしまったのだ。
・・・・ぷにっ・・・・ぷにっ・・・・・・
や、柔らかい・・・・・。ナニコレ・・・・マシュマロなの?
僕が左手の感触を確かめてからクリスティーナの顔を見ると、クリスティーナの顔が恐怖から、羞恥心で真っ赤に変化していく様が確認できた。
「きゃあああああああー------っ!!!」
クリスティーナは、大きな悲鳴を上げながら僕にビンタを振るってきた。
幼いころから格闘術を叩き込まれて来た僕にとって少女のビンタなど余裕でかわせるはずなのだが、残念ながら、僕は左手にある至福の感触を手放せなかったので身動き一つできずにまともにクリスティーナのビンタを受ける。
「いったああああいっ!!」
クリスティーナは、自分よりもはるかに強力な存在にビンタした衝撃に自分の手のひらが傷ついてさらに悲鳴を上げた。
その悲鳴に我に返った僕は、幼いころから叩きこまれた女性を守れという騎士道精神が発動して、怪我をしたかもしれないクリスティーナに近づいた。
「だ・・・大丈夫かい? クリスティーナ!! 手は大丈夫かい? 僕の頭は固かったろうに。」
僕が心配して近づいたというのに、クリスティーナは更にオッパイを触られるのかと誤解して大声を上げる。
「いやー--っ!! 近づかないでっ!! エッチ!! 変態っ!!!」
「これが目的だったのねっ!! 最初からずっと私の体を・・・・・オッパイやお尻をいやらしい目で見てたの知ってるんだからぁッ!!」
取り乱したクリスティーナは、完全に女の子だった。
そう、そうなんだ。僕は知っている。僕自身の精神が前世と現世では大きく異なっていることを。僕は屈強な騎士道精神を叩き込まれた傭兵王国の第一王子の精神を持った男子になっている・・・・・。前世のような情けない中学生の男の子じゃないんだ。
同様にクリスティーナもその魂に前世の記憶が刻まれていようとも、前世がどんな人物だったとしても現世では、一人の庶民の村娘になってしまっている。
僕は、その事を理解してしまい、動揺するクリスティーナの姿を見ながら呆然と立ち尽くしてしまった。
(今、彼女に前世の復讐を果たして・・・・・僕に正義はあるのか?)
そんな考えが僕の頭をよぎった。
その時、「一体、何事だっ!」とクリスティーナの悲鳴を聞いた父上が奥の部屋から飛び出してきたのだった。
その後が大変だった。僕が父上にちょっと成り行きでクリスティーナのオッパイを触ってしまった話をしたら、父上は僕に
思いっきり、レバーブローをした。
皆さん。レバーブローをされたことがありますか? どれぐらいきついか知ってますか?
屈強なキックボクサーたちは鼻をへし折られようが、顔面を骨折させられようが、肘打ちで額を何十針も縫うような切り傷を負わされようとも決して闘争心を失わない。そんなキックボクサーでも試合中に貰った、たった一発のレバーブローで悶絶してしまい、試合そっちのけでうめき声を上げながらリングの上をのたうち回るんですよ? どれだけ苦しいか想像できますか?
そうですね。一言で言うとですね。
あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!
て、感じなんですよ。わかりますね?
僕は地面をのたうち回りながら、こんな目に合う原因を作ったクリスティーナに復讐を誓う。
(やっぱり、復讐してやるっ!!)と、心の中で叫んだ!!
・・・・・・・同時に生まれて初めて触れた女の子のオッパイの感触と、羞恥心で顔を真っ赤にするクリスティーナの可憐さに胸がドキドキしていた。
ああ・・・・男の子って、本当、バカ・・・・。