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モルガナイトのペンダント②

「そうだったんですか……」

モルガさんがペンダントを置いて帰った後、マダムから事情を聞いた私は唸り声をあげてしまった。


 この世界にはアクセサリーを修理するという発想がなかった。

一度、宝飾合成で創られたアクセサリーを材料にして再度宝飾合成するということができないからだ。

さらに言えば、同じ材料を使っても同じアクセサリーができるとは限らない、というか、同じものはまずできないそうだ。

なので、壊れてしまえばそれっきり、まさに一点モノ、という訳だ。


「植物を材料にしたアクセサリーはどうしても華奢なものが多くてね。壊れちまうことも多いんだけど、こればっかりはねぇ」

そう言ってマダムはモルガさんのペンダントを眺めるが、アジャスター近くのチェーンが切れているだけ。

「これを直せないのはもったいないですねぇ。モルガさんも気に入ってみたいだし」


「まぁ、思い出の品だしね。ゴシェがいないくてもこのペンダントがあれば一緒にいる気がするって、よく言っていたしねぇ」

さらりと告げられるマダムの言葉にギョッとする。

「噓でしょ。すごい大切なものじゃないですか!」

「とはいっても、アクセサリーを材料に宝飾合成はできないからねぇ。まぁ、材料にした花は残っていたはずだから、それでもう一度宝飾合成してみるかね。同じものはできないけど、せめてペンダントになるようにやってみるよ」

そう言ってガラス瓶を探し始めるマダムを慌てて止める。

いやいや、そういう問題じゃないでしょ。形見ってやつでしょ。コレ。

そんな簡単に諦めちゃダメだって。


「直します! 直してみせますから、ちょっと待って!」

ガラス瓶に手を伸ばしたままの姿勢でマダムは私に目を向ける。

……あっ、眉間に皺よってる。絶対、怒ってるよ。これ。

「ホタル、できもしないことを言って、ぬか喜びさせるのは酷だよ」

ですよねぇ。

アクセサリー作れるとか言った割に宝飾合成ができなかったという前科のある私だ。信用ないんだろうなぁ。

でも、これは道具さえあれば簡単に直せるんだから諦めたくない。


「……えっ? ないんですか? ヤットコ」

「なんだい? それは?」

直せる! と意気込んだものの、マダムの返事に目が点になってしまった。

ヤットコがないだって?


「え~っと、こんな感じでワイヤーとかを曲げるものなんですが……」

近くにあったメモ用紙にヤットコの絵を描いて説明するが、マダムはピンと来ない様子。

「なんだいそりゃ? ハサミ? ペンチかい? ワイヤーって?」

あぁ、そうか。宝飾合成でアクセサリーを創るこの世界にヤットコは必要ないか。


「う~ん、ペンチかぁ。このチェーン、メッキじゃなさそうだし、いけるかな……」

切れたチェーンを見つめてぶつぶつ言いだした私をマダムは呆れた目で見つめる。


「ホタル、うちは宝飾屋だよ。大工や金物屋じゃないんだ。ペンチなんてないよ」

「げっ、ペンチもないんですか?」

マダムの言葉に私はギョッとする。

本当に何もないのね。


「……近くに道具屋があるから、行ってごらん。ペンチなら置いてあるはずだ」

「ありがとうございます! あっ、でもお金……それにお店も……」

マダムの言葉に一度喜んだものの、自分が無一文なことをすっかり忘れていた。

無一文っていうか、着の身着のまま状態。

今着ている服だって、マダムのお古をお借りしている状態だ。


「モルガのペンダントが直るなら構わないよ。店も私が見ておくから行っておいで。店が終わってからじゃ、道具屋も閉まっちまうよ」

「ありがとうございます! 道具のお金はちゃんと働いて返しますから!」

マダムの言葉にお礼を言い、私は道具屋さんに行くことにした。

できればヤットコがあるといいんだけどなぁ。

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