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今更、ここでかい!

 どれくらいそうしていただろう。

落ち着いてきたら、物凄く恥ずかしくなってきた。


「あの、えっと、ホタルさん、とりあえず座りましょうか?」

「えっ、あっ、うん。そうだね」

どうやら恥ずかしかったのは相手も同じだったみたいで、おずおずと離れてその顔を見た瞬間、思わず吹き出してしまった。


「えっ? なんで笑うんすか?」

「だって、リシア君、顔真っ赤だよ」

私の言葉にリシア君が更に顔を赤くする。


「リシア君なんだね」

目の前のリシア君は記憶の中より少し背が高くなっていて、顔を見ようとすると少し見上げる格好になる。


「はい」

でも、元気に返事をするその笑顔は記憶の中のリシア君のままだった。


「ごめんね。お茶しかなくって」

リシア君の前に麦茶を置くと私も腰をおろす。


「ありがとうございます。……って、そんなに見つめられると飲みずらいっす」

まだ目の前にリシア君がいることが信じられなくて、おもわずじっと見てしまっていたら、麦茶に手を伸ばしかけたリシア君に苦笑されてしまった。


「ごめん。信じられなくって」

謝る私にリシア君もうなずく。


「俺もまだちょっと信じられないっす。でも、ほら、ちゃんといるっすよ」

そう言って私の手を握るリシア君に思わず赤くなる。


「って、すみません」

慌てて手を離すリシア君に私も苦笑する。


「ところでどうやってこっちの世界にきたの? というか、一体どうなっているの?」

赤い顔を見られないように顔を逸らしながら、たずねるとリシア君はこれまでのことを話始めた。


 マダムの店でお祝いをしてもらった次の日、いつまでたっても起きてこない私を起こしにきたマダムは部屋に私がいないことに驚いて、まず、セレスタとジェードに連絡をとった。

さらにマダムはモルガとゴシェさん、ランにリシア君、セレスタとジェードがレナとノームさんに、ノームさんは精霊の力を使ってパパラにまで。

そうやって私を知る人全てに連絡をとったけれど、私はどこにもみつからなかった。


 途方に暮れたその時、セレスタが言ったそうだ。

私が元の世界に戻ったのではないか、と。


「さすがセレスタ。そういう所は勘がいいわよね」

感心する私にリシア君もうなずく。


「俺もさすがって思ったんす。でも、ホタルさんが何も言わずにいなくなるわけないって、マダムが反対したんす」

リシア君の言葉に私は思わずうなだれる。

マダム、すごく心配しただろうな。マダムだけじゃない、きっとみんなも。


「で、みんな、それもそうだって。そこでセレスタさんがまた言ったんす。ホタルさんはこっちの世界に来た時と同じように、自分の意思とは関係なく元の世界に戻されたんじゃないかって」

「セレスタ、すごい!」

ほとんど手がかりのない状況でよくそこまで思いつくものだ。

なんだかんだ言って優秀なのよね。いろいろ残念な子だけれど。


「そこで俺の出番っす!」

「えっ?」

急に胸を張るリシア君に私は首を傾げる。

なんでそこでリシア君の出番なの?


「ホタルさん、忘れてませんか? 俺は町一番の道具屋。そして、ホタルさんの欲しいものなら、なんでも作るって言ったでしょ?」

あっ、うん。

確かにリシア君は腕のいい道具屋だし、セレスタの言葉を借りるなら町一番どころか、王国イチの腕だそうだ。

私の拙いメモを見て、どんな道具でも作ると豪語してくれたのも覚えているけれど。


「自分の意思とは関係なく戻ってしまったなら、きっとこっちの世界に戻ってくる道具も欲しいだろうなって」

「えっ?」

「えっ? 欲しかったっすよね?」

いや、欲しかったよ。すごく。もう一度だけでもいいから帰りたいって思っていた。

でも、それだけで作れるものではなくない?

ヤットコやタガネとは違うんだよ。世界をまたいで移動する道具だよ。


「あれ? 欲しくなかったっすか? あっ、時間かかりすぎとかっすか? そうっすよね」

黙り込んだ私を見てリシア君が不安そうな顔をする。


「……ない」

「えっ?」

良く聞こえなかったのか、リシア君が私の顔をのぞき込む。


「そんなことない! すごい! すごいよ、リシア君!」

「……ですよね! よかったっす!」

私の言葉にリシア君が嬉しそうにうなずく。


「さぁ、帰りましょう。マダムたちもずっと心配していたんすよ」

笑顔で続けるリシア君の言葉に私はハッとする。


「ごめん。一緒には行けないんだ」

「えっ、なんで?」

予想外だったんだろう。私の言葉にリシア君が驚いた顔をする。

うん。私もできれば一緒に帰りたい。

マダムたちにも謝りたい。

そして、また、宝飾師として修理屋として、タキの町で暮らしたい。

でも……


「もう両親にこれ以上、心配をかけるわけにはいかないから」

この二年間、忘れたことはない。私が目覚めた時のやつれた両親の姿を。

あんな思い、もう両親にはさせられない。


 はじめは毎日二回していた連絡が、一日一回になり、週二回になり、今は週に一度になった。

ここまでくるのに二年かかった。やっと両親も安心できるようになってきたのだ。

また失踪するなんて真似、もうできない。


「これ、よければ貰ってくれないかな」

私はリシア君にガーネットのイヤーカフとバングルを差し出す。


「これって」

二つのアクセサリーを見て目を丸くするリシア君に私はうなずく。


「うん。あの日、宝飾合成で創ったイヤーカフ。あの時ね、もし宝飾合成に成功したらリシア君に渡そうって決めていたんだ」

「ホタルさん……」


「私のイヤーカフとそっくりなものが出来ちゃって、あの時はびっくりしたし、さすがにお揃いは厳しいよねって思って渡せなかったんだけどさ」

私は帰れないから、お揃いだってわかるのは、あの時、あの場所にいた人たちだけだ。

そして、マダムたちはきっとお揃いだって気づいても、リシア君に嫌な思いをさせることはないだろう。


「模様はね、こっちの世界で彫金を勉強し直して、彫ったんだよ」

模様はね、カリンなんだけれど、意味は気づかないといいな。


「バングルはね。イヤーカフだけじゃ寂しいと思って、こっちの世界で創ったの。こっちの世界では宝飾合成って存在しなくて、宝石は土から掘って手に入れるんだよ。あっ、私が掘った訳じゃなくて、宝石はお店で買ったんだけど、イヤーカフに似た石を探すの大変だったんだよ」

この石はガーネットっていうんだ。

ご両親もおじいさんも亡くして、でも一人でも明るく頑張っているリシア君にぴったりの石なんだよ。


「バングルの模様も私が彫ったんだよ。手作業だから、ちまちまとね」

ちょうど完成した今日、リシア君に会えたのはすごい偶然だよね。

実はバングルもお揃いなんだよ。って言ったら、こんなオバサンと一緒なんて嫌がるかな。


「マダムたちには、ごめんなさい、って、すごく感謝してるって、伝えてくれるかな」

せめて最後の挨拶くらい、直接伝えたかったけれど、仕方ないよね。


「……嫌っす」

そこまで黙って私の話を聞いていたリシア君がそう言って私を見つめる。


「えっ……」

予想しなかった返事に私も思わずリシア君を見つめてしまう。


「ホタルさん、俺の話、聞いていたっすか? 俺はホタルさんの欲しいものなら何でも作ってみせるっす」

「リシア君?」

リシア君の言葉の意味がわからなくて、私はキョトンとした顔をしてしまう。


「むこうの世界に行ったら戻ってこれないなんて誰が言ったんすか?」

「えっ?」

嘘でしょ? だってご都合主義は物語の中だけの話でしょ。

神様は私にすごい能力なんて一つもくれなかったじゃん。

むしろ魔力ゼロのポンコツ状態で異世界に放り込んだじゃん。


「そんな中途半端なもの俺が作るわけないでしょ。もちろん、行き来は自由っす!」

……人は本当に驚いた時には声がでないのだ。

私はこの短期間でそれを実感した。

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