サンストーンのティアラ
「準備オッケーっす」
魔鉱石の取り換え作業をしていたリシア君がそう言って石板から離れる。
その言葉にうなずき、入れ替わるように私が石板の前に立つ。
「それじゃ、いきます。離れてください」
ノウゼンカズラの花を石板に置き、一度大きく深呼吸をする。
みんなが離れたことを確認して、私はそっと石板に手をかざした。
フワッ
ガーネットのイヤーカフの時と同じように柔らかい光がノウゼンカズラを包むが、今度はバラ色ではなく白色の光が立ち上がる。
光の色が違うことに驚くが、そのまま手をかざし続けると光が強くなり、やがて花が見えないくらいに輝く。
そして、さっきと同じようにだんだん光が静まり……
「「おぉ」」
石板の上に現れたアクセサリーにみんながどよめく。
出来上がったのはキラキラと輝くサンストーンのティアラだ。
まるでおとぎ話のお姫様がするような金色の華奢な細工のティアラにオレンジ色のサンストーンが揺れている。
「綺麗っす」
リシア君が、ほぅ、とため息をつきながら呟く。
「なんか、これをしている小さなレナ様が思い浮かぶな」
ポツリと呟いたジェードの言葉にセレスタがうなずく。
「うん、間違いなく生意気だよね」
その言葉にみんなが思わず吹き出し、緊張した雰囲気が一気にほぐれていく。
「よかったじゃないか、ホタル」
マダムの言葉に私はうなずく。
イヤーカフしか創れないわけではなくて本当によかった。
「なんでイヤーカフが二つできたんだろうね。珍しいんでしょ?」
「光も今回とは違ったが、そんなに色々かわるものなのか?」
セレスタとジェードの疑問に私もうなずく。
同じアクセサリーができたのもそうだけれど、ガーネットのイヤーカフの時だけ宝飾合成の光がバラ色だった。
「はい! 光についてはわかったかもしれないっす」
まるで学校の授業のように手をあげたリシア君にみんなの目が集まる。
「ほら、石の色じゃないっすかね」
確かにイヤーカフについているガーネットはバラ色と言えなくもないけれど。
「これはオレンジだけど、光は白かったよ」
ティアラについたサンストーンを指さしてつっこむセレスタに私とジェードがうなずく。
「う~ん、だめっすね」
そう言ってリシア君は唸り声をあげる。
「マダム、宝飾合成の時の光の色って変わるものなんですか?」
たずねる私にマダムは首を振る。
「光の色が変わるなんて話はきいたことないね。少なくとも私は経験したことはないよ」
「同じアクセサリーができるのは? 結構あることなの?」
続くセレスタの言葉に今度はマダムがまた首を振る。
「いや、それこそ聞いたことがないよ。宝飾師が創るアクセサリーは一点モノ、同じものができることはないはずさ」
「じゃあ、なんで?」
ジェードの言葉にマダムがまた首を振る。
「わからないよ。ただ、前回は状況が特殊だったからね。例外もあるのかもしれない。まぁ、石は違うからねぇ」
「う~ん、ホタルさんがよっぽどお揃いが欲しかったとか?」
「えっ?」
セレスタの何気ない言葉にギョッとする。
それって、私がリシア君とお揃いが欲しかった……ってこと?
「ホタル、どうした? 気分でも悪いのか?」
心配そうに覗き込むジェードに慌てて首を振る。
まさかね。いい歳してお揃いって……
「まぁ、気分で付け替えられるからよかったじゃん」
「えっ?」
「全く、お前は本当にお気楽だね」
続けられたセレスタの言葉にマダムがやれやれと肩をすくめる。
「そんなことよりホタルさん、大丈夫っすか? いきなり二回も宝飾合成したけど、おかしなところとか?」
「うん、それは大丈夫」
心配するリシア君にうなずいてみせると、みんなも安心した顔をする。
「まぁ、謎は残るけど、とりあえず大成功ってことだよね」
セレスタの言葉にみんながうなずく。
そうだ。まずはそこを喜ぼう。
「みんな、ありがとうございました」
私は深々とみんなに頭を下げた。
まさか、魔力のない私が宝飾合成ができるようになるなんて。
本当にみんなのお陰だ。
「さぁ、今日は宴会だ~。おばさんもこれでいつお迎えがきても……って、フゴッ」
「今日はとっとと休むんだよ! 馬鹿甥が!」
歓声をあげたセレスタが一瞬で河原の向こうに飛んでいく。
屋外だとぶつかるところがないから、よく飛ぶねぇ。
「そうだな。今日は疲れただろ。ゆっくり休んだ方がいい」
「ホタル、よく頑張ったな」
あぁ、ノームさんも見慣れているのね。
ジェードはもちろん、ノームさんも何事もなかったかのように会話を続けていく。
「ホタルさん、お祝いは日を改めて必ずやりましょうね」
リシア君の言葉にうなずく。
「よくやったよ。今日はゆっくり休みな」
マダムの言葉に目の奥がジンとしてくる。
「はい、ありがとうございます」
あらためてみんなに深々と頭を下げて、ノームさんを除くみんなと領主様のお庭を後にした。
セレスタは……まぁ、大丈夫でしょ。
サンストーンのティアラはせっかくなのでレナにあげようという話も出たのだけれど、結局ノームさんが大切に保管してくれることになった。
確かに綺麗だけれど、今のレナがするには少し可愛らしすぎるしね。
ガーネットのイヤーカフは、話の流れで私が使うことになり、そのまま持ち帰ることになった。
こちらもさすがにリシア君には渡せないしね。
その日の夜、自分の部屋のベッドに寝ころんで、両手に二つのイヤーカフを一つずつ持って月明りにかざしてみた。
見れば見るほど、そっくり。というか、石しか違いはない。
デザイン自体はシンプルなものだから、リシア君がしてもおかしくはないけれど、ここまでそっくりだと渡しにくい。
ガーネットはリシア君にぴったりだとは思うけれど、仕方ない。
「まぁ、男の子にアクセサリーもないか」
私の場合、もう一度、日を改めて宝飾合成をやってみるわけにもいかない。
素材に制限があるから、ホイホイと宝飾合成ができるわけでもないし、これからは基本的に渡す相手が決まった状態で宝飾合成をすることになるだろうしね。
「お揃いかぁ……」
セレスタの言葉を思い出して二つのイヤーカフをしみじみと見つめる。
この歳でお揃いもどうかと思う。思うのだけれど……
「早く寝よう」
向こうは前途有望。優秀な道具屋だ。見た目だって悪くないし、性格はもっと悪くない。
引き換えこちらときたら、一回りも上のおばさん。見た目だって……
いや、止めておこう。
これ以上、考えたところで良いことはない。こういう時は早く寝るに限る。
二つのイヤーカフを机に置き、私は布団を頭から被った。
眠れないかもしれないと思ったのだけれど、やっぱり疲れていたみたいで、知らぬ間に眠りについていた。




