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透明な石板②

「これがホタルさんの石板っすか。綺麗っすね」

最初は恐る恐る触っていたリシア君も興味が勝ったのか、石板をくるくると色々な角度から眺めて声を上げた。

私の素材が想いであることも伝えると、ジェードと同じように、私らしくていい、と笑ってくれた。


 翌日、私はお店の昼休みに石板をもってリシア君の道具屋に向かった。

マダムは今日はお休みにして構わないと言ってくれたのだけれど、パパラの製作所に行くのにすでにかなりお休みをもらってしまっているので、それは断った。

それにリシア君もお仕事があるしね。

もう早朝や夜にたずねるような失敗はしないのだ。


「う~ん、綺麗なんすけど……」

石板をまだ眺めていたリシア君が眉を顰める。

「どうしたの?」

声を掛けた私の顔を見て、一瞬戸惑うような顔をした後でリシア君が口を開く。


「ちょっと言いずらいんすけど、これ、白い石板より脆くないっすか?」

そう言って石板をそっと机に置いたリシア君に私は思わず声を上げた。

「すごい! よくわかるね。私はマダムに言われるまで分からなかったよ」

「まぁ、道具屋っすからね。ってか、どうっすっかな」

私の言葉に少し得意気な顔をした後で、リシア君は石板を見ながら難しい顔をする。


「という訳で、お預かりしているものがもう一つあります」

そんなリシア君に私はもう一通のパパラからの手紙を差し出す。

「なんすか? これ?」

首を傾げるリシア君にパパラからの手紙であることを伝えると早速読み始めた。


「え~っと、コレ、ちょっと作業場行って読んできてもいいっすか?」

と思ったら、読み始めてすぐにリシア君が私を見てそう言った。

なんだか心なし顔が赤い気がするんだけれど……って、まさかパパラ、余計なこと書いてないよね?


「えっ、ちょっと待って! その手紙、ちょっと見せて!」

慌てて手紙を確認しようと手を伸ばす私をリシア君が華麗にかわす。

「駄目っす! これはパパラさんと俺の秘密っす!」

「何それ! 私の石板なんだから、手紙を見る権利もあるはずよ!」

なんとか手紙を取り上げようとするが、リシア君の方が素早くて全然捕まらない。


「とりあえず読んできますんで、ホタルさんは大人しく待っているっす!」

私の努力も空しく、リシア君は手紙を持ったまま作業場にひっこんでしまった。

なんてこと。このまま帰ってしまおうかしら。


「すぐ読むっすから、帰っちゃ駄目っすよ!」

作業場からリシア君の声が響く。

しまった。先に釘を刺されてしまった。

「……はい」

私は一人項垂れてリシア君を待つことにした。

パパラに今度、文句の手紙を書いてやろうと心に誓いながら。


「お待たせしたっす」

本人の言うとおり、数分で戻ってきたリシア君の手に手紙はない。

残念。隙を見て取り返そうと思ったのに。

私の狙いに気付いたのか、リシア君がにやりと笑う。

あぁ、リシア君が悪い子になってしまったよ……


「さて、おふざけはいい加減にして、石板のことっす」

真面目な顔になったリシア君に私も姿勢を正す。

「俺が作ったのは前に説明したとおり、魔力を補充する装置っす。でも、ホタルさんに魔力を受け入れる器がないとなると改良が必要っす」

「できるの? そんなこと?」

予想外にさらりと言ってのけるリシア君にびっくりしてたずねる。


「魔力を石板に直接流す形にすればいけそうな気がするっす。ただ……」

「ただ?」

難しい顔をするリシア君に私が先をうながす。


「やっぱり強度が心配っすね。まぁ、成功したら新しい石板を用意してくれるって手紙に書いてあったんで、そこは安心っすけど、試せる回数は限られそうっす」

「パパラのやつ、やっぱりわざと強度が弱い石板を作ったのね」

リシア君の言葉に私は自分の予想があたっていたことを知り、ここにはいないパパラに文句を言う。

とはいえ、それがなければ手紙も渡さなかっただろうから、若干、自業自得ではあるんだけれどね。


「まぁ、俺への挑戦らしいっすから、何とかしてやりますよ」

「へぇ?」

そう言ってガッツポーズをするリシア君に私は変な声をだす。


「壊れる前に成功できるか試してやるって、手紙に書いてあったっす」

「へっ、へぇ~」

あら、私が手紙を渡さなかった時のためじゃなかったのね。

疑って悪かったなぁ、と心の中でパパラに謝ったのも束の間。


「それと、保険とも書いてあったんすけど、なんすか? 保険って?」

やっぱりそうだったか、と再度文句を言う。


「ホタルさん? 相棒に隠し事はなしっすよね?」

心の中でパパラに文句を叫んでいた私をリシア君がじっと見つめる。

……真っすぐな目が痛いです。

多分、怒るだろうなぁ、できれば言いたくないなぁ、と思ったものの、どう考えても言うしかない状況に覚悟を決めて、私はマダムとのやり取りを白状した。


「……というわけでございます」

マダム級、いや、それ以上の大声で怒られることを覚悟して、私は首をすくめる。

緊張しすぎて語尾がおかしなことになっているのは勘弁して欲しい。


「もし石板の強度にマダムが気づかなかったら、俺への手紙も渡さないつもりだったの?」

予想外に落ち着いた声でたずねてくるリシア君を恐る恐る見る。


「そんで、何も知らない俺は、この石板に魔力を補充するだけの装置をつけて」

「あの? リシア君?」

俯いたままのリシア君は私の言葉なんて全く聞こえない様子で言葉を続ける。


「そんで、あんたは何食わぬ顔で宝飾合成して」

「えっと、ちょっと待って」

まずい。リシア君の様子がおかしい。


「成功したら、俺は喜ぶんだ。自分の作ったものが、あんたの命を削っていくことに気づきもしないで」

「ごめん! 悪かった! 大丈夫かな、って思っちゃったの」

慌てて謝りながら、私を見ないリシア君の肩を掴む。

掴んだリシア君の肩は細かく震えていた。


「あっ……」

俯いた顔を覗き込んで私は息をのむ。


「なんでっすか。相棒って言ったじゃないっすか。隠し事はなしだって」

リシア君の綺麗な深緑の目からポロポロと涙が零れていた。


「ごめん。ごめんね」

そんなリシア君を見て、私は自分のしたことの大きさに本当に後悔した。

俯いたまま涙をこぼすリシア君の肩を掴んだまま、私は何度も、ごめんね、と繰り返した。


 どのくらいそうしていただろう。

リシア君がようやく泣き止み、ごしごしと手で目元をこすりながら、やっと顔をあげてくれた。


「ごめんなさい。俺、格好悪いっすね。こんなんだから、ホタルさんも言えなかったんすよね」

「違う、違うよ。悪かったのは私だよ。ごめんね」

リシア君の言葉を慌てて否定する。

リシア君は何も悪くない。そこはわかって欲しかった。


「ホタルさんも泣いてる」

そう言って私の頬に手を伸ばすリシア君を見て、初めて自分も泣いていたことに気付いた。


「えっ? うわ、ごめん。私の方こそ格好悪い」

慌てて自分の顔をごしごしとこする。


「こすらないで。赤くなっちゃう」

そんな私の手を掴み、リシア君が私の目元を拭う。


「ホタルさん、俺、もっとしっかりする。だから……」

「リシア君?」

いつもと様子の違うリシア君に戸惑ってしまう。

そんな私の顔を見て、リシア君は一度俯いて顔を上げる。


「だから、もっといい装置を作って見せるっす。ホタルさんはどんなアクセサリーを創りたいか、ちゃんと考えておいてくださいね!」

「へっ? あっ、うん。ありがとう」

さっきまでのことがなかったかのように、いつも通りなリシア君に別の意味で戸惑いながら、私はうなずく。


 気づいたら昼休みはとっくに終わっていて、私は慌ててお店を後にした。

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