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再びテスラコイル

「それはテスラコイル……じゃなくて、真実の玉!」

「違うわよ。ってか、テスラコイルって何よ」


 何とか立ち直った私とジェードに椅子を勧め、部屋の奥に消えたパパラさんが戻ってきた時、その手にあったのは懐かしのテスラコイル風の玉。

てっきり真実の玉かと思ったけれど、どうやら違ったらしい。


「えっ? 違うんですか?」

「今更、敬語じゃなくていいわよ。私も使わないし。それにパパラでいいから」

「あっ、先ほどは……」

「いいわよ。私も悪かったっていったでしょ。でも、あれだけの啖呵を切っておいて、腰抜かすとは思わなかったわ」

そう言って笑うとパパラは手元の玉について説明を始めた。


「これは石板の玉。これで宝飾師が何を素材にしているかわかるの」

「へぇ」

と言ったものの、見た目だけでは真実の玉との違いが全くわからない。


「ホタル、あんた、本当に魔力ゼロなのよね?」

「はい。残念ながら」

パパラの言葉に私はうなずく。


「そっか。そうなると石板の玉が上手く反応するか、わからないな。まぁ、やってみますか」

そう言うと石板の玉をテーブルに置くと、私の右手をとる。

「んじゃ、ホタルは左手を石板の玉に乗せてね。後は私が読み取るから」

パパラの言葉に私は石板の玉に左手を乗せる。

それを見て、パパラが私と手を繋いだまま、空いている右手を同じように石板の玉に乗せて目を閉じる。


 ……と、石板の玉が眩しいくらいに白く輝きだす。

まるで宝飾合成のときのように。


「えっ?」

驚きの声を上げてパパラが石板の玉から手を離した瞬間、光があっという間に消える。


「……どうしたの?」

黙り込むパパラに恐る恐る声を掛ける。


「噓でしょ」

私の声なんて全く聞こえていない様子のパパラは何やらぶつぶつと呟きながら、そこらへんを歩き回り始めた。


「あの~、パパラ? どうしたの?」

恐る恐る声を掛けてみるけれど完全無視。

「お~い、パパラ~、聞いてる~?」

「ありゃあ、聞いちゃいねぇな」

私の呼びかけにパパラではなくジェードが呆れ顔で答える。


「あぁ、あれは駄目ですね」

「ひぇ!」

いきなり背後から聞こえた声に心臓が跳ね上がる。

振り返るとここに案内してくれた少年が立っていた。


「ああなってしまうと、しばらくはどうしようもなりません。よければお茶でもいかがですか? こちらにどうぞ」

「えっ、放っておいていいんですか?」

「構いません。というか、ここにいてもできることはありませんので」

ジェードと顔を見合わせて少し悩んだものの、確かにここにいても仕方がなさそうなので、少年の言葉に甘えて部屋を後にする。


「すみません、食堂なんかで。ここ、応接室とかないんですよ。パパラ所長がそんなもの作るくらいなら、作業場を広くしろっていう人なんで。あっ、どうぞ、森に咲く花のお茶です」

お礼を言って少年のだしてくれたお茶を受け取りつつ、確かにパパラなら言いそうだと苦笑いする。


「彼女が所長なのか?」

ジェードの言葉に少年がうなずく。

「はい。僕たちは石板職人の修行中の身なんです。白い石板の作成をしながら、所長から石板作りを教えてもらっているんです」


「若いのにすごいね。なのにさっきは酷いこと言っちゃったな」

少年の言葉に思わず呟くと少年が首を振る。

「いえ、部屋の外でうかがっていましたが、あれは所長が悪いです。あの人、ほとんど森の中にいて、僕らくらいしか話す相手いないから、コミュニケーション下手なんです。所長に代わってお詫びします。申し訳ありませんでした」

そう言って頭を下げる少年に私も慌てて手を振る。


 その後は、三人で世間話をして和やかに過ごした。

どのくらいそうしていただろう。


「あの、まだ時間かかりそうなら、出直しますが」

おずおずと言いだした私にジェードもうなずく。

「そろそろ出ないとケフェウスにつくのが深夜になってしまうので」

私たちの言葉に少年がハッとした顔をする。

「あっ、気付かなくてすみません。訪れた宝飾師の方のためのお部屋がありますので、どうぞそちらをお使いください。今からケフェウスに戻るとなると大変でしょうから」


「えっ、そんな申し訳ない」

慌てて遠慮する私に少年が笑う。

「皆さん、お使いになられるのでお気になさらず。一応ですが、着替えとか身の回りのものもご用意ありますので。お食事も食堂で私たちと一緒になってしまいますが、ご用意させていただきます。よろしければお部屋でお待ちになりますか?」


 少年の言葉にジェードの顔を見ると、私を見返してジェードがうなずく。

「ここは甘えさせてもらおう。いくら整備されているとはいえ、夜の森を歩くのは避けられるなら避けた方がいい」

その言葉に少年も大きくうなずく。

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」

そう言って私とジェードは少年に頭を下げた。


 案内された部屋はシンプルながらも清潔で木のぬくもりの感じられる居心地の良い部屋だった。

特にやることもないので、一人ベッドに寝ころびぼんやりとする。

食事の時間になると館内にチャイムがなるとのことだったので、とりあえずその時間までお互い部屋で休もうということになったのだ。


 トントントン

部屋の扉が控えめに叩かれる。

「はい?」

「お休みのところすみません。よろしいですか?」

扉の向こうからした少年の声に慌てて扉を開ける。

隣の部屋のジェードにも聞こえていたらしく、ジェードも部屋から顔をだしてきた。


「所長が石板のことについてお話したいそうです。お時間よろしいですか?」

「もちろん」

そう答えると私とジェードは部屋をでる。


「あっ、申し訳ありません。所長がお呼びなのはホタルさんだけなんです。二人で話したいと」

それを見て慌てて言う少年の言葉に私とジェードは顔を見合わせる。


「二人では駄目ですか?」

念のため聞いてみるが、少年は申し訳なさそうにうなずく。

そりゃそうよね。二人でいいなら言わないよね。


「そう言うものなのか? すまない、今回が初めてだから勝手がわからないのだが、石板を作るときは宝飾師一人が呼ばれるとか?」

ジェードの言葉に少年は少し困った顔をする。

「実は今回みたいなことは始めてなんです。石板の依頼が立て込んだときに順番をお待ちいただくことはよくあるのですが、そうでなければその場で作ってお渡しするので。今日はホタルさん以外の宝飾師の方はきていないのですが……」

予想外の答えに私とジェードは再び顔を見合わせてしまう。


「近くの部屋で待たせてもらうことはできないですか? あなた達がホタルに危害を加えるとは思っていないのだが、できればホタルが呼んだ時には、すぐに行ける距離にいたいのですが」

「わかりました。先ほど私が控えていた部屋で一緒にお待ちいただくのはどうでしょう?」

「ありがとうございます。……ホタル、それでどうだ?」

そう言って私の顔を見るジェードに私はうなずく。

「うん。ありがとう。……パパラのところに連れて行ってください」


「では、ご案内いたします」

少年はそう言うと先に歩き出した。

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