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石板職人と宝飾師

 ジェードは最後まで反対したものの、マダムの了解が得られたことで、私とリシア君はまた宝飾合成に挑戦することになった……のだけれど。


「えっ?」

続くマダムの言葉に私は首を傾げてしまった。

だって、いきなり旅に出てこいって言うんだもん。

何? 旅ってどういうこと?

私以外の三人も何のことかわからず、キョトンとした顔になってしまう。


「揃いも揃ってアホ面を晒しているんじゃないよ。ちゃんと説明してやるから、よくお聞き」

そう言うとマダムは石板について話始めた。


「ホタルに渡した白い石板だけど、うちにはもうないんだ。私の石板ならあるが、これを壊されたら商売できないからね」

「すみません」

マダムの言葉にリシア君がシュンとしてしまう。


「石板って、タキの町では手に入らないんですか?」

「白い石板でよければタキの町でも手に入るよ。でも白い石板は修行用なんだ」

マダムの話によると、私が使っていた白い石板は宝飾師の修行用の石板で、一人前になると自分専用の石板を作ってもらうものなんだそうだ。

確かに、マダムは緑の石板だし、アンダさんは空色の石板を使っていた。


「専用の石板は本人が石板職人に会って作ってもらわないといけないんだ」

「その石板職人の方って?」

「残念ながら、タキの町にはいないのさ」

なるほど。だから、旅に出ろ、だったのね。


「まだ実験段階っすから、とりあえず白い石板でも十分っすよ」

そう言うリシア君に私もうなずくが、マダムは首を振る。


「いや、白い石板は止めておいた方がいいだろうね」

「なんでですか? 白い石板でも宝飾合成はできるんですよね?」

首を傾げる私にマダムは私の右耳を指差す。


「宝飾合成は素材に関連のあるものができるんだ。シロツメクサからは大抵は乳白色や透明の石ができる。でも、見てごらん。ホタルのそれはどちらでもない」

マダムの言葉にみんなの視線が私のイヤーカフに集まる。

確かに私が創ったのは緑と紫のホタル石。シロツメクサと関連があるとは言いがたい色だ。


「もしかしたらホタルが素材にしたのはシロツメクサじゃなかったのかもしれない」

「えっ? でも、あのとき石板に載ってたのはシロツメクサだけでしたよ」

思わず言い返す私にマダムはうなずく。


「それは、私も隣で見ていたよ」

「だったら……」

「だから変なんだよ。私が見る限りでもそのイヤーカフはシロツメクサからできたように見えた。でも、私の経験上、シロツメクサからできるアクセサリーじゃないんだよ。だから、ちゃんと石板を作ってもらった方がいい」


「う~ん、シロツメクサから、そのイヤーカフ? ができたのがおかしいことはなんとなくわかったけど、それと石板と何の関係があるの?」

今まで黙って話を聞いていたセレスタが疑問を口にする。

その言葉にうんうんとうなずく私たちを見て、マダムが、端折りすぎたね、と詳しく説明してくれた。


 マダムの話をまとめると……

宝飾師は修行中はみんな同じ白い石板を使うそうだ。

初めて宝飾合成に成功したら、そのアクセサリーを持って石板職人のところへ行き、自分専用の石板を作ってもらう。

石板職人は特別な道具を使って、その宝飾師が何を素材にするのかを確認して、その人にあった石板を作ってくれるのだそうだ。

そして、石板職人というのはかなり特殊な職業で、シラーデン王国には現状一人しかいないそうだ。

その人、パパラさんというそうだ、の製作所があるのが、スピカの森というところらしい。


「スピカの森だって?」

マダムの話を聞いて今度はジェードが声を上げる。

「タキの町から三日はかかるぞ。そんな所、ホタル一人で行けるわけないだろう」

ジェードの話によると、そのパパラさんがいるというスピカの森は、最寄の村のケフェウスまで馬車で二日、その後に徒歩で一日はかかる場所にあるそうだ。


「俺が一緒に行くっす。石板のこととか聞きたいし」

手を上げてくれるリシア君を私が止める。

「嬉しいけど、道具屋はどうするの? 石板ができるのに何日かかるかわからないのに、そんなにお店を閉めさせるわけにはいかないよ」

「でも……」

「確かにリシアは店があるから難しいね。とは言え、俺たちも警備隊の仕事あるし……」

そう言って、セレスタも考え込んでしまう。

ここは、一人で行くしかないか。まぁ、言っても私も三十歳の大人だ。なんとかなるっしょ。


「私、一人で……」

「無理に決まっているだろ。俺が一緒にいく」

最後まで言い終わる前にジェードが私を睨みつける。

「ジェード、駄目だよ。仕事あるんでしょ?」

そんなジェードを慌てて止める。


「う~ん、大丈夫かも。ジェード、休まなすぎっていつも言われているし」

そんな私を見てセレスタが暢気な声で言ってのけた。

「それに、ジェードが行くとなれば、警備隊の馬車も使えるし。うん。いいかもね」

セレスタって、本当にメンタル強いよね。

警備隊の馬車ってそんな簡単に借りてしまっていいのかしら。


「それじゃ、ホタルのお供はジェードに決まりだね」

マダムの言葉にうなずきかけたのだけれど。


「俺も行くっす! 店なら大丈夫っすから!」

リシア君が勢い良く手を上げる。

確かに出来た石板をリシア君が加工するのだから、リシア君も来たいっていうのはわかるし、来てくれた方が私も安心なんだけれど、でもね。


「だめだ。リシアは店があるだろう。石板のことで気になることがあるなら手紙にしてくれれば、渡すぞ」

ジェードの言葉に私もうなずく。

リシア君の道具を必要としているのは何も私一人ではない。

気持ちは嬉しいけれど、私ばかりに時間を割いてもらうわけにはいかない。


「リシア、今回は諦めな。大丈夫、ホタルさんだし。それに……」

セレスタが何やらリシア君に耳打ちする。


「えっ? 何?」

私にはセレスタが何を言ったのか聞こえなくて、聞き返したものの、素知らぬ顔のセレスタは何も教えてくれない。

リシア君も私の声は全く無視で、何やら思案顔だ。


「セレスタさん、まじっすか?」

腕組みし、眉間に皺を寄せたままセレスタに確認するリシア君。

えっ? ちょっと、だから何なのよ。

そんなリシア君にセレスタはニヤリと笑うだけで何も言わない。

ちょっと、絶対悪い顔になってるって。


「わかったっす。ホタルさん、石板のことは手紙に書くんでよろしくお願いします」

何を納得したのか、リシア君はセレスタを見てうなずくと、私にそう言って頭を下げた。


「それはわかったけど、一体、セレスタに何を言われたの?」

「ホタルさん、いいから、いいから。それより旅の準備しなくていいの?」

なんだか無理矢理に話をはぐらかされてしまった。

ジェードも険しい顔しているけれど、何? 何か聞こえたの?


「ホタル、セレスタの言うとおりだ。早い方がいいんだろう? 俺はこれから警備隊に話をとおしてくる。出発は明日の朝でどうだ?」

ジェードの言葉に私はマダムを見つめる。


「うちは構やしないよ。さっさと片付けておいで」

マダムの言葉に私は頭を下げた。

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