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ホタル石のイヤーカフ

「この馬鹿野郎!」

「リシア、今回はやり過ぎだ!」

「本当にすみません!」


 うん? この声はジェードとセレスタ?

あれ? リシア君、何を謝っているの?

よくわからないけれど、そんなに怒らなくても……


「……どう……したの?」

目を覚ますと私は自分の部屋のベッドに寝かされていた。


「起きたのか!」

私の声に弾かれたようにジェードがこちらを向く。

「どうしたのじゃないよ。びっくりしたんだから」

ホッとした顔でセレスタが私を見る。


「一体何が……」

「やっと起きたね」

そう言うとマダムが何が起きたのかを教えてくれた。


 リシア君の言葉に従い私が宝飾合成を行うと、シロツメクサが光に包まれ、そのすぐあとに大爆音とともに石板が砕け散った。

結局は私が覚えている以上のことは起きていなかったそうで、その衝撃で私は気を失い、丁度マダムの店に顔を出したセレスタとジェードが私をベッドまで運んでくれたらしい。

気を失っていたのも一時間程度だったそうだ。とはいえ、みんなには相当心配をかけてしまったみたいだけれど。


「そうだったんですか」

「どこか変なところはないか? 頭痛がするとか?」

マダムの話にうなずく私にジェードが心配そうにたずねる。

「うん。大丈夫」


「ホタルさん、自分の名前言える?」

セレスタも心配そうに聞いてくれるけれど、名前言っちゃってるよ。

「ホタルです。ここはマダムの店の私の部屋、そしてあなたはセレスタ」

そんな私を見て、みんながホッとした顔をする。


「リシア君、大丈夫。そんな顔しないで」

私が目覚めてから一言も発しないで、部屋の隅に立ち尽くしているリシア君に私は声をかける。


「あっ、俺、あの、本当に」

「大丈夫。大したことないし、嬉しかったよ。宝飾合成、失敗しちゃってごめんね」

そう言うとリシア君は堰を切ったように涙をポロポロとこぼして、ベッドに駆け寄ってきた。


「そんな、ホタルさんは謝らないで! ごめんなさい! 俺のせいで危険な目に会わせて」

「だから謝らなくていいよ~」

そんなリシア君を慰めるように、黄緑色のふわふわの頭をポンポンとする。


「いや、反省しろ! この程度で済んだからよかったようなものの」

「ジェード、止めとけって。リシアも反省してるよね」

セレスタの言葉にリシア君はベッドに顔をうずめたまま、うんうんと何度もうなずく。


「どうやら失敗でもなかったようだよ」

「えっ?」

そんな私たちはマダムの言葉を聞いて、思わずマダムを見つめた。


「ほら」

そう言うマダムの手には何か小さなものが摘ままれていた。


「それは?」

よく見ようと身を乗り出す私にマダムがそれを差し出す。


「なんだそれ?」

「宝石だよね。ここについているの」

「まじっすか?」

みんなが私の手の平をのぞき込む。

小さな銀色に輝くそれは、チェーンの先にこれまた小さな緑と紫のツートンカラーのシズク型の石が一つついている。

これってもしかして……


「イヤーカフ?」

「イヤーカフ? なんだいそれは?」

マダムを始め怪訝な顔をするみんなに見えるように右側の髪を耳にかけ、その小さなアクセサリーを耳につける。


「なにそれ、可愛いじゃん」

セレスタが声を上げる。


「なるほどそうやって使うのかい」

マダムが珍しそうに私の右耳を見つめる。


「もしかして、それって、アクセサリーってことか?」

ジェードの言葉に私はハッとして、リシア君を見つめる。

私の右耳を凝視していたリシア君もジェードの言葉に私を見つめる。


「まじっすか?」

「うん、本当だよ」

「噓でしょ」

「ちゃんとあるって」

「ちょっ、ちょっと触っても」

「うん、いいよ」

リシア君の手が恐る恐る私の右耳に触れ、イヤーカフに触れる。


「まじだ」

「できちゃった」

「うん」

「失敗じゃなかったよ」

「うん」

「リシア君、うん、しか言ってないよ」

「うん」

「「……」」

「「やった~!」」

私とリシア君は思いっきり大声で叫んでしまい、二人してマダムに、煩い、と頭を叩かれてしまった。


「それにしてもホタル石とはね」

「本当だな」

マダムに怒られて落ち着いた私に、セレスタとジェードが呟く。


「どういうこと?」

二人の言葉に首を傾げる私にマダムが説明してくれる。

「宝飾師はね。最初に合成した宝石の名前を通り名にするんだよ。私の場合はほら、これさ」

そう言って、自分の耳を飾るオパールのイヤリングを指し示す。


「えっ? マダムの名前って本名じゃなかなったんですか?」

驚きの声を上げる私にマダムが笑う。

「オパールの石言葉を知っているかい? 不幸さ。そんな名前を付ける親はいないよ」

マダムの答えに何と言っていいのかわからず、言葉に詰まる私を見て。

「そんな顔するんじゃないよ。他にも幸運なんて意味もあるらしいし、意外と気に入っているんだ。何より綺麗だろ? 見る角度で色がこんなに変わる石は他にないんだよ」

そう言ってマダムはカラカラと笑った。


「ホタルさん、偽名のつもりが本当になっちゃったね」

「いいんじゃないか。もうホタルで定着しているんだし」

セレスタとジェードの言葉にハッとする。

そうか、ホタル石ができたってことは、私の通り名はホタルになるってことなのか。

ジェードの言うとおり、みんなに別の世界からきたことを話した後も、今更名前を変えるのも説明が面倒だということでホタルのままできてしまったから、違和感はない。

でも、なんか不思議な感じだ。


「ホタルさん!」

急に大きな声でリシア君に呼ばれて、ビクッとしてしまう。

いや、こんな近くにいるんだから、そんな大きな声ださなくても……


「無理を承知でお願いします! 魔力の量とか調整し直すから、もう一度、俺の機械で宝飾合成をしてみて欲しいんす!」

「えっ?」

「今度こそ成功させるから、チャンスをください!」

そう言って、リシア君がガバッとベッドに埋もれそうなくらいに頭を下げる。


「馬鹿な事言うな! リシア、お前、自分がホタルをどれだけ危険にさらしたか、わかってるのか!」

私が答える前にジェードがリシア君に掴みかかる。

ジェードに胸ぐらを掴まれたリシア君は何も言えずに俯く。


「リシア、悪いけどジェードの言うとおりだよ。今回は大したことなく済んだけど、次どうなるかなんてわからないでしょ? そんな危険なこと、ホタルさんにはさせられないよ」

セレスタはジェードにリシア君を離すように言いつつ、でもそう言ってリシア君を見つめる。

ジェードから解放されたリシア君は俯いたまま、悔しそうに呟いた。

「でも、ホタルさんは宝飾師になりたいんす。宝飾合成、できるかもしれないんす」


 その言葉を聞いて、私は決心した。

「ありがとう、リシア君。うん、やろう!」

「ホタル! 馬鹿なことを言うな!」

「ホタルさん、無茶だよ」

私の言葉にジェードとセレスタが口々に反対する。


「二人ともありがとう。でも、私、宝飾合成できるようになりたいんだ」

二人にそう言った後に、私はマダムに頭を下げる。

「マダム、お願いします。作業場はもう使いません。外とか迷惑にならないところでやりますから」


「本気なんだね? 冗談ではなく、次はこの程度じゃ、済まないかもしれないよ」

マダムが私を見つめて、たずねる。

「はい」

私もマダムを真っすぐに見つめ返す。


「一度しか言わないよ。……私はあんたを気に入っているんだ。無茶はさせたくない。修理屋も十分素晴らしい仕事だと本当に思うよ」

マダムの口から告げられた意外な言葉に私は目を見開く。

「私がやめとけと言ってもやるのかい?」

「……はい」

マダムから目を逸らさずに答える私に、マダムは、はぁ、と溜め息をついた後、苦笑いして続けた。

「仕方ない。やるからには中途半端は許さないよ」

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